73 / 106
第73話 魔王様、妖精の国へ
しおりを挟む妖精の国へ向かうことになった俺たちは、険しい山中を歩いていた。
俺自身は妖精女王のいる幻想都市ルシードへ行ったことがあるんで、本来なら転移の条件は揃っている。だが直接転移しようとしても、妖精女王が張った特殊な結界に弾かれてしまうのだ。なので今回も近くまで転移してから、自分の足で向かっているのだが――。
「それで? どうしてアクアまで俺たちについて来たんだ?」
「なんでよ、私が居たら邪魔だって言いたいわけ?」
青い髪をかき上げながら、アクアが不機嫌そうに頬を膨らませる。
「いや、そういうわけじゃないんだが……」
このタイミングで彼女が同行するというのは少々想定外だ。てっきりアクアは魔族領での仕事が多忙だから、さっさと帰るのかと思っていたんだが。
そんな俺の考えに気が付いたのか、アクアはフフンと笑って胸を張った。
「当然よ! 妖精女王と謁見できるこのチャンスを、この私が逃すわけないじゃない!」
なるほどそういうことか……って納得するか!
「ウチの村の赤字回復に協力してくれる、って話じゃなかったのかよ!?」
「それはそれ、これはこれよ! というより、私だって魔族の外交担当者という立場があるんだもの!」」
いやまぁ確かにそうか。
人族との戦争のせいで、国交が断絶してしまっていた影響はかなり大きい。
魔道具の動力源として使われている魔法宝石の多くは、妖精の国で産出されている。
魔法が得意な魔族はその技術を生かして開発した魔道具を、大きな産業のひとつとしているわけで。国内の財政管理に関わっている彼女が、国交再開のために妖精女王と会いたがるのは当たり前だった。
「ていうかアクアお前、まさか最初からそれを狙っていたんじゃ……」
俺がそう指摘すると、アクアは誤魔化すように目を逸らして口笛を吹き始めた。
「べ、別に私が同行しても良いわよね、リディカちゃん!?」
「私ですか?」
突然名前を呼ばれたリディカが、足元から顔を上げた。
村での生活で体力がついてきたとはいえ、慣れない山歩きで表情に疲労の色が見える。それでも文句ひとつ言わずについてきてくれたのだが……アクアの態度に呆れたのか、リディカは小さくため息をつく。
「……はぁ。仕方がありませんね」
そして彼女は、俺に視線を向けてからゆっくりと頷いた。
「ストラ、別に構わないんじゃないですか?」
「いいのか?」
「はい。それに利害は一致していますし……今回の交渉が上手くいったら、きっと私たちにとって大きなプラスになると思うんです」
そう言ってリディカは嬉しそうに笑った。
確かに妖精族との国交が再開すれば、魔法宝石を融通してもらえるようになるはずだ。それに今回の件をきっかけに、人族との交流も広がるだろう。
「分かった。それじゃあアクア、女王との交渉はしっかり頼んだぞ」
「えぇ! この私の手腕で、ばっちり友好条約を結んでみせるわ!」
そんなやり取りを交わした後、俺たちはルシードに向けて歩き始めた。
道中では魔物が出てきたものの、俺とアクアがあっさりと蹴散らしていく。四天王の中では頭脳担当とはいえ、彼女の水魔法は一級品だ。
「ふふん、やるわね!」
そんなアクアとの共闘は、随分と久しぶりだ。どれだけ年月が経っても、どれだけ立場が変わっても。お互いに遠慮のないやり取りが出来る関係は特別で、心地いいものだった。
それからも俺たちは順調に旅を続けた。
といっても元々近くまで来ていたので、おおよそ数時間という短い冒険だ。おかげでリディカ姫を危険な目に遭わせることなく、目的地に到着した。
そこで俺たちを出迎えてくれたのは、巨大な氷の城壁に囲まれた湖畔の都と、門番の木人間だった。
「ちょっと、話だけでも聞きなさいよ!」
「駄目だ駄目だ。妖精女王様から、何人たりともここを通すなと言われておる!」
あれ? さっそく前途多難じゃない?
0
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜
上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】
普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。
(しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます)
【キャラクター】
マヤ
・主人公(元は如月真也という名前の男)
・銀髪翠眼の少女
・魔物使い
マッシュ
・しゃべるうさぎ
・もふもふ
・高位の魔物らしい
オリガ
・ダークエルフ
・黒髪金眼で褐色肌
・魔力と魔法がすごい
【作者から】
毎日投稿を目指してがんばります。
わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも?
それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる