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第74話 魔王様、花を咲かせる
しおりを挟む「どうする、ストラ!? あの木人間たち、ちっとも聞く耳を持たないわよ!?」
全く相手にされず、プリプリと怒るアクア。
「参ったなぁ、もう」
俺はポリポリと頭をかいた。目の前には巨大な氷の門がある。
氷と言っても妖精女王が作り出した、すべてを拒絶する特別製の壁だ。氷の城壁は驚くほど透明で、向こう側には妖精族の王都であるルシードが見える。この中に妖精女王が居るはずなのだが……。
「そもそも戦争はもう終わったのよ!? それなのに正式な使者まで断るなんて横暴すぎるわよ!」
「正式……俺たちは正式な使者なのか?」
「魔族の四天王と人族の勇者よ? 実質上のトップじゃない! もうっ、こっち来なさいストラ! 種族の違う私たちが仲良しであることをアピールすれば、通してくれるかもしれないわ!」
「あっ、おい!? くっつくな!」
豊満な胸が俺の腕にぐいぐいと押し付けられていく。しかもアクアが着ているのは踊り子の服なので、露出が多い。肌が密着してヒンヤリとした感触が……って何を考えてるんだ俺は。アクアは昔からこんな感じだし、気にしたら負けだ。それよりも問題は――。
「ちょっと、ストラ?」
「い、いや違うんだリディカ……これはアクアが勝手に……」
ギロリと鋭い視線を向けるリディカに、俺は冷や汗をかきながら弁解をした。
ていうかまとっているオーラが怖い。どんな魔物よりも恐ろしい! 思わずすくみ上っていると、今度は彼女の目がアクアに向いた。
「ふぅん……アクアさんは、ストラにくっつくのが好きみたいですね?」
「な、なにを言ってるのよリディカちゃん!? そんなわけないでしょう!?」
いや俺もそう思うけど。
「では離れたらどうですか? くっついてる必要なんてありませんよね?」
ニッコリと、だが有無を言わさぬ圧力で迫るリディカ姫。あの温厚な彼女がここまで言うということは、相当怒っているということだ。そう……彼女は俺に好意を寄せてくれているので、他の女と仲良くしていると嫉妬してしまうのだ……。
「ほら、さっさと離れてください!」
リディカはアクアの袖を掴んで、力ずくで俺から引き離した。そしてそのままポイっと放り捨ててしまう。
「あぁん! もうストラぁ……」
捨てられた子犬みたいな瞳で俺を見上げるアクア。そんな目で助けを求められても困るぞ……。
「さて、どうするか。ここで騒ぐのも迷惑だろうしな……」
俺たちの茶番も、トレントたちは一切の興味を示さない。しかもこのトレント、門番を任されているだけあってただならぬ気配を放っている。
前に出入りしていた時は見掛けなかったはずだが、あの曲者な妖精女王のことだ。ここを守れるだけの実力者を置いたに違いない。つまり、強行突破は現実的じゃないってことだ。
「通りたければ妖精女王様の許可を得るか、通行証を提示するがよい」
「だからその妖精女王に会えないっていうのに……ねぇ、どうするの? このままじゃ埒が明かないわよ」
すっかり肩を落としてしまったアクアが、ぼやきながら俺を見上げる。
「仕方ない……なら通行証を出すしかないか」
コレを出せば、俺の正体が妖精女王にバレるのは確実だ。
「まぁ、あの人のことだ。どうせ俺の中身もすぐに気付くだろう」
「え? ちょっとストラ、どうするつもりなの?」
俺はトレントの前に出ると、手のひらを空に向けた。
「攻撃とみなした瞬間、全力で排除する」
「そんな物騒な真似はしないよ……フロレゾン」
魔法の発動を告げた瞬間。俺の手の平からニョキニョキと緑色の芽が出た。そしてあっという間に10センチほのばしどの茎をのばし、大きな蕾をつける。
「な……なにこれ?」
呆然とするアクアたちの前で、その植物は透明な薔薇の花を咲かせた。
「そんなまさか……その花はもしや」
気付いたトレントが駆け寄ってきて、花の根元を確かめると恭しく跪いた。心なしか彼の声は震えている。
俺は得意げに胸を張って答えた。
「あぁ、そうさ。お察しの通り、これは氷結樹だ。妖精女王と会うには十分な資格だろ?」
「し、しかしどうして人族が……これは魔王か、妖精女王様たちしか咲かせぬはずでは……」
信じられないといった様子でトレントは何度も確認してくる。
いやまぁ、疑いたくなる気持ちは分かるけど。このままじゃうしろにいるアクアが騒ぎだしそうなんで、早く門を開けてくれないかな。
だがその心配は杞憂だった。
目の前にあったはずの氷の門が、スーッと解けるように消えていく。そしてその先には、ガラスの王冠を乗せた一人の女性が立っていた。
「その者たちを通してください。――歓迎しますよ、真なる勇者よ」
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