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第81話 魔王様、禁断の果実です
しおりを挟む「おい!? なんで泣いているんだ!?」
「美味しいです……こんなに美味しい果物は、生まれて初めてです!!」
涙声のまま彼女は続けてシャクシャクと青のリンゴを食べていく。齧った中身まで真っ青なのだが、見た目に反して甘そうだ。
「はぅ~美味しいです……」
すっかり泣き止んだリディカが、幸せそうな表情を浮かべてリンゴを貪る。
よほど気に入ったのか、気付けばもう5個も平らげていた。
サラちゃんも調子に乗って腕いっぱいにリンゴを抱えているし、その後ろには順番待ちのリザードマンがゾロゾロと列で並んでいる始末。いや、さすがにはそんなに食べられないだろ……。
「――ん? こうして見ているかぎりだと、採っても食べても、木から実が無くならないように見えるんだが」
「たしかに……なんだか不思議ですね」
最初見たときは、木に20個ほどしかなかったはずの果実が、いまや50個ほどになっている。まるでリディカに食べてもらうために、出現させたみたいだ。
「まるで生きているみたいだな……」
これは果たして普通の木なのか?
とにかく分からないことだらけだ。
「――あら、珍しい。それは妖精樹よ」
「あれ、ティターニアか?」
後ろから声を掛けられて振り返ると、そこには妖精の国にいるはずのティターニアが居た。
「さすがに気になったから、私も様子を見に来たわよ。急に現れたかと思いきや、リディカさんを連れてまた消えちゃうんだもの。何かあったのかと心配に思うでしょう」
「あー、さっきは急に転移して済まなかった」
サラマンドラの治療のためにリディカを迎えに行ったんだが、急いでいたからなぁ。ティターニアにとっては、何が起きたのか訳が分からなかっただろうな。
「ふふっ。まぁそこまで心配はしていなかったけどね。案の定、面白いことになっているみたいだし?」
そう言ってティターニアは、サラちゃんに向き直った。
彼女たちは魔物だが、こちらに敵対する意思がないのは見ての通りだ。であれば、ティターニアとしてもここで争うつもりはないらしい。
「それで、その妖精樹っていうのはなんなんだ?」
「あら。ストラなら知っていると思っていたんだけど」
ティターニアいわく、『妖精樹』とは空気中の魔素を取り込み成長する、特殊な魔法生物らしい。
例えば“魔素の少ない地域”や“土地が枯れた”ところに植えることで、周囲の魔素不足を補う役目を果たすのだとか。逆に魔素が濃くなる場所では中和する効果もあるそうで、あらゆる環境にも適応して育つようだ。
ティターニアによると、こういった不思議な木や植物は他にもあるらしい。
元々は普通の木だったものが、長い年月を経て成長し、魔法生物のような存在に変化するんだとか。
「そんな便利な樹があったのか……でも俺は聞いたことが無かったぞ?」
「かつては、妖精の国の至る所で生えていたんだけど……。そういえば火龍の活動が活発になってきた頃から、あまり見かけなくなってしまったわね」
この果実は火龍が好む味だそうで、ブゥード火山にあった妖精樹は食べ尽くされて枯れてしまったらしい。
そして奇跡的に残ったのは、狭い坑道の中にあったこの一本だったと。
「……昔は妹と一緒にもぎ取ってはオヤツにして、食べ過ぎだってお母様に怒られていたわ」
頬に手を当てて、昔を懐かしむかのようにティターニアは語る。
「ねぇ、ストラ。ティターニアって何歳ぐらいなの?」
「俺に聞くなアクア。年齢の話をしたら殺される……」
ティターニアは妖精の国を守護する、妖精族の王。寿命は遥か長く、エルフ族と並ぶとされている。
先代の魔王が子供のころから女王の座に居るって言っていたし、古い時代から生きているはずだ。200歳や300歳と言われても、全くおかしくはない。なのに見た目は20代のままだからなぁ……。
「それで貴方たちは、この妖精樹をどうするつもりなの?」
「うーん、そうだなぁ」
果実そのもの美味しいし、木も増やしてプルア領に植えてみたい。いろいろと使い道はありそうだ。
頭の中で色々と考えていると、ティターニアが俺をジッと見つめていた。
「できれば私たちにも融通してほしいなー、なんて」
いや、まぁ元は妖精族の国にあったものだし。彼女たちにも流通させるのは当たり前だとして。
……あ、そうだ。
「これでお酒を造ってみたら、美味しいんじゃないか?」
「なんですって!?」
その言葉を口にした途端、その場にいた全員の目が一斉に俺へ向いた。
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