82 / 106
第82話 魔王様、乾杯の時間です
しおりを挟む妖精樹の果実で酒造りをすることに決めた俺たちは、さっそく収穫して村に持ち帰った。
といっても酒の造り方なんて誰も知らないので迷っていると、たまたま村に来ていたクリムが「おっ、今度は酒造りを始めるのか?」と反応を示した。
「ならナバーナ村にピッタリな人材が居るぞ。昔、酒造で働いていた職人だ」
「マジか!? それは助かるよ!」
大工や農家に養鶏、挙句の果てには酒職人かよ。なんであの村にはベテランの職人ばかり居るんだ? こうなったら全員、プルア村に引っ越してくれないかな。
「ハハハッ、それは貴様が相手でもお断りだ。あの村は国の功労者たちに、ゆっくりと余生を過ごしてもらおうと思って俺が作ったんだからな!」
「そのためにわざわざ、自分の財産と労力を使って? お前もよくやるよな……」
「そういうストラも、ある意味では俺と同じではないか! ……まぁプルア村の温泉には村人を通わせてもらうから、技術交流はそのついでで勘弁してくれ」
「ははは、分かったよ。ありがとう」
このクリムって男の凄いところは、自分が高位な貴族の生まれながら他人を決して見下さないところだ。キチンとその人の本質を見て判断する。
まぁそれぐらいの度量が無いと、クセの多い魔族軍の指揮は取れないんだろうけど。
そんなわけで、ナバーナ村から来てくれたジンさんという職人にやり方を習いつつ。幾つかの酒を造ってみた。
リンゴの酒だからシードルになるのかな? 妖精樹の果実を搾った汁を発酵させて作る、割とシンプルなお酒だ。
肥料づくりと一緒で、この村の裏の住人となっている“菌”に今回も協力を賜り……なんと2週間で完成してしまった。
本来なら2度発酵させた方が深みも出て美味しいらしいのだけど、みんなから「飲んでみたい!」という意見が続出。今日はその試作品を、村のみんなで試飲してみようという会を開くことになったのだが――。
「なぁ、ティターニア。アンタはいつまで俺の村に居るつもりなんだ……?」
会場となっている猫鍋亭に向かうと、そこには妖精女王のティターニアが。彼女はそこで、フシの作った川魚定食を堪能しているようだった。
「いいじゃないの。ちょっとだけ温泉で休暇を取っているだけよ」
そうはいっても、既にこの人は2週間もこの温泉宿でグータラしている。サラちゃんから妖精樹を譲ってもらったあの日からずっとだ。
おかげで獣人三姉妹や聖獣ミラ様ともすっかり打ち解けているし、まるでここの住人のように振舞っている。昨日なんて、アクアと同じ湯上がり姿で村を歩いていたし。わざわざ浴衣まで用意して、ちょっと馴染み過ぎじゃないか?
年齢がナン百歳といっていると、数週間なんて一瞬の感覚なのかもしれないけど……さすがに彼女の国が心配になってくる。
「なんならここに永住しちゃおうかしら?」
ティターニアのまさかの台詞に、俺は手に持っていたシードル入りのコップを落としそうになった。
「あのなぁ、仮にも妖精族の王なんだから……そんな無責任なことを口にするなよ」
「あら、でも取引先の状況を知っておくのも大切じゃない? そうだわ。せっかくだし、いつ来ても良いように私専用の家を建てちゃおうかしら」
「無茶言うなって……」
なんで一国の主が、そんな気軽に温泉宿へ遊びに来るんだよ。
「そんな怖い顔しないでちょうだいよ、ストラ。冗談に決まっているでしょう?」
「アンタが言うと、あんまり冗談に聞こえないんだが……」
「ふふっ。でも貴方には借りがあるし、何かあればいつでも飛んでくるからね」
そう言ってティターニアは悪戯っぽく微笑むと、俺から視線を外してコップを手に取った。
そんな何気ない仕草ですら絵になるのだから、美人ってズルいよな……。
「ストラ、全員にコップが行き渡ったわよ!」
「お、ありがとうアクア。それでは……プルア村の新たな特産品の誕生を祝して。乾杯!」
「「「かんぱーい!!」」」
グイッとシードルを喉に流し込むと、爽やかな味が鼻から抜ける。うん、なかなか美味しいじゃないか。
「悩みのタネだった金策も、これでどうにかなりそうですね」
「そうだな……」
少し赤ら顔になったリディカに、俺は微笑み返す。
まだ味が若々しいけれど、できたばかりのこの村に合っている気がする。なにより、みんなが幸せそうな顔なのがいい。
成熟はこれからのお楽しみってことで――。
0
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜
上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】
普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。
(しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます)
【キャラクター】
マヤ
・主人公(元は如月真也という名前の男)
・銀髪翠眼の少女
・魔物使い
マッシュ
・しゃべるうさぎ
・もふもふ
・高位の魔物らしい
オリガ
・ダークエルフ
・黒髪金眼で褐色肌
・魔力と魔法がすごい
【作者から】
毎日投稿を目指してがんばります。
わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも?
それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる