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第91話 魔王様、シスコンです
しおりを挟む「兄さまも魔眼の力を知っているでしょ? この人が本心で言っていることは、最初から分かっていたわよ」
シャルンは腰に両手を当て、仕方ないといったように眉を下げた。
彼女たち竜族の持つ魔眼は、単にソイツが持っている魔力の高さを示すものではない。魔眼の階位が高ければ高いほど、視た相手の持つ魔力について、詳細に知ることができる。そしてその魔力の質は、感情や思考によって容易に変化するんだとか。
シャルンの父は魔王時代にその力を使って部下の心情を掌握したが、彼女の魔眼は父親を超える。強大な力を持つ妖精女王の妹が母親、という理由もあるかもしれない。彼女の魔眼は生まれつき、他の竜族とは一線を画していた。
つまりシャルンは相手が嘘をついているかどうかなんて、ひと目見ただけで簡単に見抜けてしまうのだ。
「この人……リディカ姉さまは、本気でウィル兄さまを愛しているわ」
「――うっ。第三者の口からそう言われると、なんだか俺も照れるな」
「もちろん、今後この人がウィル兄さまを裏切る可能性だって十分にあるけどね? まぁそんなことをしたら、アタシのドラゴンブレスでぶっ飛ばしてあげるけど!!」
ちょっとだけ頬を染めて、チラチラと俺たちの顔を交互に見るシャルン。
俺はそんな可愛い義妹に苦笑したが……リディカはまだ納得がいっていないらしく、不安げな表情を浮かべている。
「ね、ねぇウィル? 今あの子、私のことを姉さまって……」
「あぁ、大丈夫。ちょっと素直じゃないけど、認めたってのは本当だと思うよ。アイツは身内認定すると、態度がめっちゃ甘くなるから……」
あれはたしか、10年近く前。魔族の国がまだ平和だった頃。魔王城を抜け出したシャルンが、城下街で出遭った同年代の悪ガキに揶揄われたことがあった。
『やーい! 頭に角の生えたチビ! 体も鱗だらけで変なのー!』
『な、なんですってー!?』
「そんな感じで、その時は殴り合いのケンカになったらしいんだが。コイツを探しに来た俺が見たときにはもう、街の屋台で串焼き肉を一緒に仲良く食べ合っていたっていうエピソードがあってな」
「まぁ……」
「ちょ、ちょっと兄さま!? そんな昔の話をしないでよ!」
アワアワと慌てた様子でシャルンが俺たちの間に割って入ってくる。
「この可愛い義妹を、リディカにも自慢したいんだよ」
「えへへ。もうっ! ウィル兄さまったらしょうがないんだからぁ……」
俺が頭を撫でてあげると、先ほどまでの不機嫌はどこへやら。蕩けるような笑みを浮かべると嬉しそうに抱き着いてきた。
「うーん、やっぱりウィル兄さまの匂いがする! 勇者に殺されたって聞いた時はどうしようかと思ったけど……またこうして会えるなんて!」
「……ごめんな、シャルン。お前を一人にしたばっかりか、魔王なんて面倒な役回りを任せちまって」
「ううん、大丈夫。魔族のみんなも、アタシに優しくしてくれたから」
頬を俺の足に擦り付けながら、スリスリと甘えてくるシャルン。再会するのは不安だったけれど、こうしてまた仲良くできて良かった。
そんな俺たちの様子を、リディカが羨ましそうに見つめていて……ああ、これはまずいぞ?
「そういえばお二人って、直接的な血は繋がってないって言っていましたよね……」
「い、いや。シャルンのことは本当に妹としか思っていないって!」
義妹に手を出すとかありえないから!
それにシャルンも、兄だから甘えているだけであって……。
「そうそう、アタシのモットーは“推しは全力で推す”だから。二人の邪魔なんてしないわよ」
「え? え??」
「それにウィル兄さまのことは、家族としては激ラブだけど……ぶっちゃけ異性としては、アタシのタイプじゃ全然ないし?」
シャルンからの援護射撃に、虚を突かれたリディカはポカンと呆けた表情を浮かべる。
――そうなんだよなぁ。
俺たち兄妹の仲の良さを知っている四天王や部下からも、「魔王様、シャルン様とご結婚はされないのですか?」と言われたことがたまにあった。だけどそれは大きな勘違い。シャルンの好きな異性は、思わず守ってあげたくなるような可愛い系の男の子なのだ。
「昔からシャルンは父親に似て、無駄に漢気溢れているよなぁ」
「えへへ。お父さまや兄さまのカッコイイ背中を見て育ったからじゃない?」
無邪気にそう語る義妹の頭を撫でながら、俺はリディカに視線を向ける。
「リディカ。シャルンは一見こんなだが、優しくていい子なんだ」
「ええ、分かりました。最初は驚きましたが……ふふっ。こうして姉様呼びしてもらえると、なんだか私にも妹ができたみたいで嬉しいです」
リディカも納得したように、優しげな笑みを浮かべる。
良かった。俺たちはただ、シスコンとブラコンなだけだから安心(?)してくれ。
「ねぇ、リディカ姉さま! 兄さまとの馴れ初めを教えてよ、馴れ初め!」
「え? わ、私がですか?」
リディカは助けを求めるように俺の顔を見た。
仕方ない。これ以上彼女を困らせたくないし、助け舟を出すか……。
「それよりも本来の用事を先に済ませろよ。建前上は魔王としてここへ来たんだろう? アクアから視察が目的って聞いているぞ」
昨日、怪我をしてまでアクアが急いで伝えに来てくれたんだ。
気を利かせてくれた彼女のためにも、キチンと視察をして役目を果たしてもらわないと。
「えぇ~? でもせっかく兄さまと会えたのに――」
「あれ? もしかしてそこにいるのは、シャルンちゃん?」
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