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第102話 魔王様、ご提案です
しおりを挟む――グオォオオオオッ!!
シャルンが釣り上げ、マグマの海から飛び出してきたマグマワーム。
赤いボディの電車を6車両ほど束ねたぐらいの太さがある、巨大なミミズの魔物だ。
「うわー……」
それが目の前で宙を舞っている。そんな光景に生理的嫌悪を覚えて、俺は思わず鳥肌が立った。
シャルンが持つ釣竿の先から、釣り糸代わりの金属チェーンが頭部まで伸びているんだが、その口元まぁ気持ちが悪い。ギザギザの白い歯が無数に生えていて、ウネウネとした蠕動運動に合わせて蠢いている。プルア村で見たワームと同じ特徴ではあるが……。
「昔っからこういうウニョウニョ系の虫とか魔物が苦手なんだよなー。シャルンが戦ってくれて助かったかも」
これでアイツの体にキッショイ毛でも生えていたら、マジで視界にも入れたくなかったところだ。
そんな俺を他所に、シャルンは一人ワームとの戦いに終止符を打つべく動いていた。
「陸に上がってしまえばコッチのモンよ! マグマの高熱を超えるアタシの業火を、とくと味わいなさい!」
そう言って彼女は竿を握っていた手を離し、両手を空から落下中の敵に向けて突き出した。その掌が煌々と輝き、赤い炎が現れる。
「【魔焔弾】!!」
シャルンの詠唱と共に膨れ上がった炎の大砲玉がワームに着弾し、巨体が大きく燃え上がった。
最初こそ避けもせず、シャルンもろとも食い殺さんと突っ込んできていたがワームだったが、予想外の威力に地面の上を苦しそうに転げまわっている。
「へっへーん! 折角だから、魔王であるアタシの最大火力も見せちゃうわよっ!」
得意気に笑ったシャルンがワームの正面で仁王立ちのポーズをとると、大きく口を開けた。
「お、おいシャルン! まさかお前こんな地下空間でブレスなんて撃つ気じゃ――」
「いくわよっ! 魔王龍の咆哮ッ!!」
「このバカヤロー!?」
俺の制止の声を無視し、シャルンが魔力の籠ったブレスを放った。
まるでビーム兵器のようなその一撃は、ワームの巨体を縦に一刀両断した後も勢いを止めなかった。洞窟の壁に激突したブレスは、そのまま大穴を開けながら果てしなく伸びていく。
「……なんていう威力だ」
俺は炎の余波が届かない距離で呆気にとられていた。シャルンがここまで強かったとは……。いや違うか、いつの間にか強くなっていたって言うべきなのか?
「ふふん! どうよ、参ったか!」
「このアホ! 洞穴の壁や天井が崩落したら俺たちまで生き埋めになるところだっただろうが!」
「あぅ……痛い痛い! ごめんなさいぃ~!」
得意気に腰に手を当てている義妹を叱りつけ、拳骨制裁をお見舞いする。涙目で謝るシャルンを見て溜飲が下がった俺は、改めて目の前のワームだった物を見てげんなりしてしまう。
「……しかしデカすぎだろ」
全長20メートル以上は余裕でありそうな長い巨体を見て、俺はドン引きする。ちなみにワームは完全に事切れたものの、その体はまだ元気よくビクンビクンと動いていた。
「それでバギンスさんや? コイツはどう処理すればいい?」
「処理とな? いや、ワームは儂らドワーフの食卓に出る日常的な素材じゃから、このまま持って帰るが」
「うえぇっ!? コイツって食えるのか?」
その言葉に思わずこのワームを食ったときの味が頭の中に浮かんでしまう。ゲテモノ食いだった魔王軍の宴会でも出てきたアレだ。軽く吐き気を催していると、バギンス王がさも当然のようにこう言った。
「通常のワームの肉は美味しいんじゃよ? マグマワームは儂も食べたことがないが、その肉質は極上らしい」
「……マジか」
じゃあ前に討伐したワームも食えたんだろうか。いや、アレは毒持ちだったしリディカの浄化があっても口にはしたくなかったな。
そんなことを考えながら俺が一人で唸っていると、バギンス王がニカッと笑った。
「だがしかし、さすがにこの大きさの肉は魔道船の中に収まりきらん。……そこでどうじゃ? お礼と言ってはなんだが、保冷の魔道具付きでマグマワームの肉を持って帰らんか?」
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