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第101話 魔王様、義妹にビックリ

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 ドワーフたちがガラガラと台車に乗せて運んできたのは、巨大な金属製の筒だった。

「はっはっは! たしかに大砲に見えたのも、あながち間違いではないのぅ!」

 開発したアイテムが満足の出来だったのか、バギンス王は満足顔で台車に積まれたブツをポンポンと叩いた。

「えっと……じゃあこれが兵器ってワケではないのか?」
「まぁ似たようなもんじゃな。シャルンの嬢ちゃんがオーダーしたのは、マグマワームを取っ捕まえられるアイテムじゃし」

 マグマワームを捕まえる? コイツで?

 不安を感じながら、隣にいるシャルンへ視線を移す。

「それでコレはいったいどうやって使うんだ?」
「えへん! これから実演するから、兄様はそこで見ていて!」

 シャルンはそう言うと、台車に積まれた筒へトコトコと歩き出した。

「え~っと。たしかこの横にあるハンドルとスイッチが……」
「お、おい。本当に大丈夫なんだろうな」
「うん、イケそうね! ――よいしょっ」
「……え?」

 なにやらブツブツと呟いていたと思いきや、シャルンはなんとその巨大な金属筒をヒョイと持ち上げてしまった。

「おぉ、なんと剛力な」
「我らドワーフでも、数人がかりで持ち上げるのが精一杯だというのに」

 台車を運んできた他のドワーフたちも、口をあんぐりと開けて驚いている。たぶん俺も同じような顔をしていると思う。コイツ、こんなこともできたのかよ。


「よーっし、それじゃさっそくいくわよ!」

 義妹の予想外な成長(?)をした姿に複雑な思いを抱いている内に、シャルンは洞窟内を広がるマグマの海に向かっていく。

 そして筒の表面に取り付けられていたレバーをグルグル回し始めた。するとカチッと機械音が響き渡り、筒の前方から何やらシューっという音が聞こえてきた。

「お爺ちゃん! これでいいかしら!?」
「おうよ! ばっちりじゃ!!」

 そう言ってバギンス王は満足気にうなずいた。
 いったい何をしようとしているのかサッパリ分からない俺は、ただシャルンの後ろに立って彼女の様子を見守るしかできない。するとシューシュー音が止まったかと思った瞬間、ドカンという爆発音が洞窟内をこだました。

「うわっ!?」

 爆発音に驚いた俺は、反射的に腕で顔を覆ってしまった。
 おいおいおい、まさか実験に失敗したんじゃ……。

「おいシャルン! 大丈夫か!?」
「射出成功だわっ!」

 俺が心配になって駆け寄ろうとすると、シャルンは巨大筒を両手に抱えたまま、嬉しそうな声を上げる。よく見れば、筒の先端から長い鎖がマグマの海に向かって伸びていた。

「……鎖? あぁ、そうかなるほどな」

 船のアンカーに繋がっている金属鎖のように、ちょっとやそっとじゃ千切れそうにない頑丈なチェーンだ。つまりこれは大砲じゃなく、マグマワームを釣り上げるための竿だったワケだな?


「って、随分と大掛かりで無茶苦茶なことを……しかもこの鎖なんて、筒のどこに収納されているんだ?」

 今も伸び続けている鎖は、どう見たって筒の中に収まりきっているとは思えない。おそらくは魔道具的な要素で生み出しているんだろうけど……。

「生成した鎖じゃ強度が不安じゃったからの! 簡易転移装置で、艦内から現物を飛ばしとるんじゃ!」
「釣竿に神具レベルの機能を付けてるんじゃねぇ!」

 現存する転移装置なんて、この世界に数個しかない国宝級のアーティファクトだ。そんな希少なものをこんなことに……って、待てよ?

「もしかして、ティターニアがウチの村に置いていった転移装置って……」
「おぉ、そういえばアヤツにも渡しておったな。有効活用しておるようで何よりじゃ」
「有効活用って……」

 くそっ、やはりこの爺さんが元凶だったか。余計なことをしやがって……!


「ん? 来たわっ、本命よ!!」
「こっちはこっちで、マジで釣れてるし」

 やりたい放題のジジイと義妹に頭を抱えたくなっていると、シャルンが歓喜の声を上げた。

 視線を前方に戻してみると、グイグイと海へ引っ張られる竿と格闘するシャルンの姿が目に飛び込んできた。

「くっ。このバケモノ芋虫、中々やるわね!」

 どうやらマグマワームが相当に踏ん張っているのか、シャルンが苦しそうに顔をしかめていた。

 いや、そんな重たい竿に加えて巨大な魔物とやり合えている時点で、お前も相当にバケモノだよ。


「よしっ、儂らも手伝うぞ!」

 そんな中、ドワーフたちが手伝いを申し出た。さすがにずっと一人では無理があると思ったんだろう。
 
 だがシャルンはチラリとこちらを見た後、バギンス王にこう告げた。

「アタシ一人で大丈夫! これから一気に引き上げるから!!」

 そう言い切った彼女は、筒の横にあるハンドルを再度回し始めた。どうやらアレがリールの役目を兼ねているらしい。シャルンの「オラアアアア!!」という少女の姿に似つかわしくない掛け声に合わせて、今度は一気に鎖がジャラジャラと筒の中へと引き戻されていく。

「……なんかもう、シャルンが楽しそうだからいっか」

 考えるのも疲れてきた。何かあれば、俺が魔法で助ければいいしな……。


 そうしてしばらくの間、シャルンとワームの格闘が続いたあと。

 ついにマグマワームが、灼熱の海からその姿を現した。
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