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   2章2部 冒険者

歓迎会

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 夜になりシンヤとトワがいるのは、冒険者ギルド本部の建物。ただ初めておとずれたときと違い、ガヤガヤにぎわっているといっていい。建物内にはミリーやランドたちだけでなく、ほかの戻ってきた冒険者たちの姿も。さらにテーブルにはサンドイッチや揚げ物などの軽食。ジュースやお酒、ハムやチーズなどのおつまみ系まで。というのも現在シンヤとトワのために、レティシアたちが歓迎会を開いてくれているのだ。なんでも新人が入ったら歓迎会を開いて交友を深めるのが、昔からのならわしとか。パーティー形式のためみんな立ちながら、食べたり飲んだりして楽しいひと時を過ごしていた。

「まさかこんなにも盛大に、歓迎会をしてくれるなんてな」
「うん! もうちょっとしたパーティーみたいだよね! わたしこういうのに参加するの初めてだから、すごくわくわくするよ!」

 トワは歓迎会の光景に対し、どこかまぶしそうに目を細めはしゃぎだす。

「――あはは……、でもこんなふうにみんなでワイワイするのに慣れてないから、少し落ち着かないかも……」
「そんなに気負わず、気軽に楽しめばいいんだよ。なんたって今回、オレたちが主役なんだし、ちょっとぐらい羽目(はめ)を外しても大目に見てもらえるさ」

 困った笑みを浮かべるトワの背中を、ポンとたたき笑いかける。

「その主役の部分が注目をびて、より緊張しちゃうんだよー!」

 すると彼女は腕をブンブン振りながら、うったえてくる。

「ははは、そういえば歓迎会でのあいさつをするとき、トワてんぱりまくって面白いことになってたな」
「もう、笑わないでよー。あれでもすごくがんばったほうなんだからー」
「どう、シンヤ、トワ、楽しんでる?」

 トワをからかっていると、レティシアとサクリがやってきた。

「ああ、おかげさまでな」
「あはは……、楽しいけど、ちょっと落ち着かないのが本音かな」
「あー、ごめんね。大人組はみんなお酒飲んでパーっとやるのが好きだから、いつもあんな感じに盛り上がってるのよねー」

 レティシアはやれやれと肩をすくめ、ランドやローザたちに視線を移す。
 大人組はお酒が入ってさらにテンションが上がっているらしく、みんなはっちゃけていたという。

「――はぁ……、明日、二日酔いでダウンしなかったらいいけど」

 サクリは頭を抱えながらため息を。

「飲みたくなるのはしかたないさ。オレもちょっともらって来ようかな」

 一応お酒に関しては軽くたしなむ程度で、たまに飲んでいたという。なのでこちらの世界のお酒には、少し興味があった。

「シンヤ、あたしと同じまだ17才なんでしょ。ならお酒はダメ。いくら気になるからといって、飲むのは二十才を超えてからよ」

 お酒をもらいに行こうとすると、レティシアに肩をつかまれ止められてしまう。
 実はレティシアに年齢を聞かれたとき、彼女と同い年で答えていたのだ。実際シンヤの身体はそれぐらいであり、レティシアとも仲良くなりやすいだろうという考えであった。

「なっ!? まさかこの世界も、そんな決まりがあるのかよ!?」
(くっ……、とっさにレティシアと同い年って言ってしまったけど、もう少し上げとくべきだったか……)

 交流関係を踏まえての設定だったが、ここであだになるとは。少し後悔せずにはいられない。

「ということでこっちはこっちで楽しみましょう! ほら、食べて! 食べて! この軽食は、サクリが作ったものなんだから!」

 レティシアがテーブルに置かれた料理に手を向け、ウキウキですすめてきた。

「え? これサクリちゃんが作ったの!?」
「時間があまりなかったから、手の込んだものを用意できなかったけどね」

 サクリは髪をかき上げ、さらりと答える。

「いや、それでもすごくうまいぞ。もう、お店で売ってるレベルだ」
「うん! うん! こんなのが作れるなんて、すごくあこがれるよ!」
「でしょ! でしょ! サクリの料理のウデはピカイチなの! もちろんったものも、お手のものなんだから!」

 レティシアはまるで自分のことかのように胸を張りながら、サクリをめたたいた。

「おまけに家事もできて、もうどこにお嫁に出してもはずかしくないね! いえ、こんなよくできた妹を、そこら辺の男にくれてやるわけにはいかない! アタシが守らないと!」

 そして彼女はこぶしをぐっとにぎりしめながら、使命感に燃え出す。

「お姉ちゃん! そんなこっぱずかしくなるようなこと、大声でいわないでよ!」

 これには顔を赤くし、抗議するサクリ。

「いやー、かわいい妹のことだからつい興奮しちゃってー」
「まったく、もう……。――それにしてもなんだか頼りなさそうな子が来たと思ってたら、それがまさか勇者だったなんて。人は見かけによらないね」

 頭をかくレティシアに、サクリはテレくさそうに視線をそらす。そして両腕を組みながら、トワの方を見てうんうんと意味ありげにうなづいた。

「――あはは……」
「もう、失礼しちゃうよね。サクリだってトワの戦う勇姿をみたら、きっと考えを改めるよ」

 レティシアがトワに後ろから抱き着き、フォローを。

「そんなに?」
「守ってあげたくなるような可憐かれんな女の子が剣を持ち、不器用ながらも一生懸命戦う姿。そのギャップも相まって、こう、ぐっとくるのよねー。もういとおしさを感じちゃってた!」

 トワを後ろからぎゅーとするレティシア。

「ふーん、トワ、よかったね。なんかお姉ちゃんにすごく気に入られたみたいよ」
「え? そうなの?」
「ふふっ、トワ、なにか困ったことがあったら、いつでも言ってね! お姉さんが力になってあげるから!」
「えへへ、ありがとう」
「もうトワにあまあま。でも勇者が使う極光きょっこうの力か。それは一度見てみたいかも。今度いっしょに、依頼を受けよ」

 トワをかわいがるレティシアに、サクリがほほえましい視線を。そしてアゴに手を当て、興味ありげに提案する。

「う、うん」
「トワ、シンヤ、一回勝ったからって、いい気にならないでよね! 今度は絶対負けないんだから!」

 そこへミリーがやってきて、トワへ指さし宣言しだす。

「ミリー、まだ言ってるのか」

 そんなメラメラ闘志を燃やす彼女に、ゼノがあきれながら会話に加わってきた。

「ゼノくんだって悔しかったでしょ!」
「俺はいい戦闘経験ができて、普通に満足しているが?」
「ふふっ、ミリーたら、対抗心バチバチね」
「だって期待の新星として、これからブイブイいわせていくつもりだったのにー! そこへまさかの勇者という超新星が入ってくるなんて! これじゃあ話題性も奪われ、みんなからのちやほやも減っちゃうじゃん! しかもちゃっかり、ミリーたちでさえ成し遂げられなかったデビュー戦に勝ち星をあげて、華々はなばなしいスタートダッシュを切ってるし! なまいきー!」

 きぃーと両腕をブンブン振り、悔しがるミリー。

「すまない。ミリーは前回の模擬戦に負けて、今度自分たちが新人の相手をするときは絶対打ち負かし、先輩風を吹かしまくるんだって張り切っていたんだ。だから今、よけいに悔しがってこんな感じになってるんだ」
「もう、ゼノくん、よけいなこと言わなくていいの! あとあの模擬戦の相手は、レティシア先輩とサクリ先輩だったんだから、負けてしかたなかったんだから!」

 ミリーはぷいっとそっぽを向き、ふてくされる。

「へー、ミリーたちのときはレティシアたちがやったのか」
「ええ、あのときは新人相手だし軽い気持ちで剣を抜いたんだけど、あの力量でしょ。かなり手を焼かされたんだから。サクリがいなかったら、きっと負けてた」
「アタシとお姉ちゃんにあそこまで食い下がれたんだから、ミリーたちは大したものよ」
「でも案外あっさり負けちゃったし」
「ふふっ、あたしとサクリは長いこと一緒に戦ってきたし、コンビネーションはもうお手のもの。さすがに組んだばかりの二人に、タッグ戦で負けられないってね!」

 レティシアがミリーへ得意げにウィンクを。

「ミリーとゼノはいつ冒険者になったんだ?」
「2か月前ぐらいよ」
「それはまだまだ新人だな」
「とはいえミリーたちは入る前から、けっこう戦いに身をおいてたけどね」
「そうだな。俺は小さいころから山奥で住んでいる師匠の元で剣術を学び、剣のウデをみがき続けてきた」
「ミリーは子供のころから、けっこう名の知れた傭兵グループでずっと戦ってきたからね。場数でいうとレティシア先輩たちぐらい踏んできて、それなりに自信もあったのに」
「ははは、なるほど、二人ともどおりで強いわけだ」
「ふん、これからもっと経験を積んで強くなるんだから、覚悟かくごしといてよね!」

 ミリーは再びシンヤたちへ指さし、宣言を。

「ははは、こっちも負けてられないな。トワ」

 不敵に笑いながらトワに目くばせする。
 すると彼女は少し気おくれしながらもうなづいた。

「う、うん」

「わぁ! これがライバル関係ってやつ! いやー、熱いねー」
「ガハハ、まったくだぜ!」

 レティシアがはやし立てていると、ランドがお酒片手にやってきた。

「ランドさん、かなり飲んでるみたいだけど大丈夫?」
「まだまだこれからだ! なんたってこれまで勧誘をことわられ続けてた勇者が、とうとう冒険者側に来てくれたんだぜ! こんなめでてー日に、飲まずにいられるかってーの!」

 ランドは豪快ごうかいに笑いながら、グビグビと酒を飲む。

「断られ続けた?」
「ああ、一騎当千の凄ウデ勇者二人を冒険者ギルドが、勧誘したそうだぜ。な、サクリ」
「東の大国ライズモンド帝国の最前線で、人々をみちびきながら魔物たちと戦い続けている勇者。そして北の大国アルマティナで一人さすらいながら、魔物を殲滅せんめつしている勇者。冒険者ギルドはその二人を勧誘したそうだけど、興味ないって振られたそうよ」

 この世界に来る前、女神がほかにも勇者がいるような口ぶりをしていたのを思い出す。どうやらその子たちはその子たちでがんばっているみたいだ。

「え!? わたし以外の勇者……」

 ほかの勇者の話を聞いて、シュンとしてしまうトワ。

「あれ? どうしたのトワ?」
「――え、えっと……」
「トワはまだ新米勇者だからな。先輩勇者たちの活躍を聞いて、ちょっと萎縮いしゅくしてしまったみたいだ」

 トワの頭にぽんっと手を乗せ、彼女の気持ちを代弁だいべんしてやる。

「――あはは……、うん、そんな感じ。わたしまだまだ未熟だから。その子たちみたいに、勇者としてうまくやっていけるのかって不安になって……。あとこの際正直に言わせてもらうと、わたしみんなが思っている以上に勇者の力を使いこなせてないんだ……。精一杯がんばるけど、たぶん期待を裏切ることになると思う」
「ふふっ、トワ、そんなに気をまなくても大丈夫よ! 今はまだ未熟でもこれから自分のペースで経験を積んで、立派な勇者になっていけばいいの! そしていざとなったら、先輩冒険者のあたしたちを頼ればいい。かわいい後輩のためなら、いくらでも力を貸すからね!」

 トワの告白に対し、レティシアは彼女の両肩に手を置きやさしくほほえんだ。

「ガハハ、レティシアのいう通りだぜ! トワには俺たち冒険者がついてるんだ。大船に乗った気でいればいいさ」

 ランドが胸板をドンっとたたき、豪快に笑う。
 するとその通りだと、みんなもうんうんと心強くうなづいてくれた。

「――みんな……」

 これには目を見開き、感きわまる様子のトワ。

「それにねトワ。冒険者になったからには、アタシたちとしては自由気ままな冒険の日々を楽しんでいってほしい。だから肩の力を抜いて、あせらず気楽にやっていけばいいからね!」
「うん、わかった!」

 トワは肩の荷が降りたように、心から笑った。

「よし、いい返事ね! さあ、歓迎会はまだまだ始まったばかり! どんどん盛り上がっていきましょう!」
「「「「「「「「「「「「「「おー----」」」」」」」」」」」」」」

 レティシアの掛け声に、みんなで盛大にこたえる。
 こうして楽しい夜の時間が過ぎていくのであった。




・お知らせ
 準備期間をとらせてもらいます。なので次の投稿は、だいたい1か月後ぐらいになります。

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