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2章4部 ミルゼ教
魔人レネ
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レネという魔人の女性に案内されたのは、廃坑内に作られた会議室のような場所。部屋の中心には、長テーブルと複数のイスが設置されている。周りには雰囲気を出すためか、それっぽい家具や装飾が施されていた。
そして現在、長テーブルの席にシンヤとトワ、レネが座っている状況だ。ちなみにトワはシンヤの背に隠れるようにして、ビクビクしっぱなしという。
「別に取って食おうとは思っておらんよ。そちらが手を出して来ないかぎりな。だから楽にするといい」
レネは足を組みながら、酒の入ったグラスを片手に伝えてくる。
彼女のテーブルの方には、いかにも高そうな酒のビンがいくつも置かれていた。
「この戦力。今ならオレたちをヤルのも難しくないはずだ。一体なにを企んでいるんだ?」
「なーに、興が乗っただけよ。まさか敵アジトのど真ん中に、二人だけで乗り込んでこようとは。大胆にもほどがあるだろ。くくく、実に愉快だ」
レネはおかしそうに笑いだす。
「それに今日はミルゼ教にとって、とても重要な祭典があってな。多少のことなど無礼講よ。せっかくの機会ゆえ、おぬしらも参加していくといい。さぞおもしろいものが見えるぞ」
「オレたちからしたら有益な情報が入りそうだし、ありがたい話だがほんとにいいのか、それ?」
「もちろんだとも。ワレらが怨敵である勇者がゲストとして来てくれているとならば、より舞台が盛り上がるというもの。こちらとしてもありがたい。ミルゼさまも気合が入ろう。くくく」
レネはシンヤたちへ手のひらを向け、愉快げに笑った。もはや今の状況を完全におもしろがっている様子。
(――くっ、ミルゼもその祭典とやらに、参加するということか……)
話の流れから察するに、邪神の眷属であるミルゼもこの廃坑に来るということ。戦力的にみると、絶望どころの話ではない。魔人のレネだけでもどうなるかわからないのに、そこへミルゼまで来たら、今のシンヤたちでは手も足もでないであろう。
「にしてもおぬしらを最初に見つけたのがワレで、本当によかったな。もしこれがガルディアス、ミルゼさまだったら、あの場で容赦なく消されていたかもしれないぞ? ワレが酔狂な魔人だったことに感謝せねばな」
もしあの場で戦うことになっていたら、確実に未来はなかっただろう。レネをなんとか切り抜けられたとしても、すぐにラスボスクラスのミルゼと戦うことになるのだ。彼女が客人としてあつかってくれていなければ、どうなっていたことやら。
「その件については確かに感謝してもしきれないな」
「ほう、ものわかりのいい小僧だな。気に入ったぞ」
素直に感謝の意を伝えると、レネが満足げにうなずく。
「ところでさっきからそこの勇者の小娘は、どうしたんだ? 小僧の背に隠れてビクビクしっぱなしだが?」
「――あ、あはは……」
レネにツッコミを入れられ、トワはごまかすように笑った。
彼女は今だずっとシンヤの背に隠れるようにしながら、レネの顔色をうかがっていたという。
「これはいつものことだから気にしないでくれ」
「そうなのか? なかなか変わり者の勇者なのだな。くくく、それにしても勇者を肴に飲む酒も、なかなか乙なものだな」
レネはトワを意味ありげに見つめ、酒の入ったグラスをゆらす。なにやらご満悦の様子だ。
「ねー、シンヤ、この人、話が通じそうな感じじゃない? うまく友好関係とか結べないかな?」
そこへトワがひそひそと耳元でたずねてきた。
「まあ、ダメ元でやってみる価値はあるか」
「変な期待を持たせて悪いが、ワレはおぬしたちと馴れ合うつもりはないぞ。ここで仕留めようとしないのは、たんにおもしろくないからだ。ワレらはこれから本格的に行動を開始しようとしているのに、その手前で退場されてしまっては拍子抜けもいいところだ。張り合いがない。ゆえにおぬしらと雌雄を決するのは、もっとあと。いづれふさわしい舞台を用意してやるから、楽しみに待っているがよいぞ」
すると聞こえていたのか、不敵な笑みを浮かべキッパリと断言してくるレネ。
「――うぅ……、やっぱりだめかー」
「とはいえすべてはミルゼさま次第。ワレらは彼女の意向に従うまでだからな」
「じゃあ、ミルゼちゃんをなんとか説得できればいいんだね!」
落ち込んでいたトワであったが、希望が見えてやる気をあらわに。
「レネ様、祭典の件で少しご相談が」
そうこうしていると信者が来て、レネに伝える。
「わかった、すぐに行く」
「はっ」
「というわけだ。ワレは祭典の準備で忙しくてな。そろそろ失礼させてもらうぞ」
レネは立ち上がり、この部屋から出ていこうとする。
「オレたちはどうしてたらいいんだ?」
「祭典が始まるまでここでくつろいでいてもいいし、廃坑内をブラブラしてきてもいい。好きにするがいい。くくく、そうだ」
レネはシンヤたちの方を振り返り、いいことを思いついたと愉快げに笑う。
「実はこの通路の奥の立ち入り禁止の場所に、人間にとってそれはそれは恐ろしい魔の存在。ワレらにとって唯一無二の至宝が眠っている。もし興味があるのならのぞいてみるといい。もしかするとおぬしらにとって、なにかしらの成果が得られるかもしれないぞ。くくく、まあ、命の保証はせんがな」
そして意味深な言葉を残し、今度こそ部屋をあとにするレネなのであった。
そして現在、長テーブルの席にシンヤとトワ、レネが座っている状況だ。ちなみにトワはシンヤの背に隠れるようにして、ビクビクしっぱなしという。
「別に取って食おうとは思っておらんよ。そちらが手を出して来ないかぎりな。だから楽にするといい」
レネは足を組みながら、酒の入ったグラスを片手に伝えてくる。
彼女のテーブルの方には、いかにも高そうな酒のビンがいくつも置かれていた。
「この戦力。今ならオレたちをヤルのも難しくないはずだ。一体なにを企んでいるんだ?」
「なーに、興が乗っただけよ。まさか敵アジトのど真ん中に、二人だけで乗り込んでこようとは。大胆にもほどがあるだろ。くくく、実に愉快だ」
レネはおかしそうに笑いだす。
「それに今日はミルゼ教にとって、とても重要な祭典があってな。多少のことなど無礼講よ。せっかくの機会ゆえ、おぬしらも参加していくといい。さぞおもしろいものが見えるぞ」
「オレたちからしたら有益な情報が入りそうだし、ありがたい話だがほんとにいいのか、それ?」
「もちろんだとも。ワレらが怨敵である勇者がゲストとして来てくれているとならば、より舞台が盛り上がるというもの。こちらとしてもありがたい。ミルゼさまも気合が入ろう。くくく」
レネはシンヤたちへ手のひらを向け、愉快げに笑った。もはや今の状況を完全におもしろがっている様子。
(――くっ、ミルゼもその祭典とやらに、参加するということか……)
話の流れから察するに、邪神の眷属であるミルゼもこの廃坑に来るということ。戦力的にみると、絶望どころの話ではない。魔人のレネだけでもどうなるかわからないのに、そこへミルゼまで来たら、今のシンヤたちでは手も足もでないであろう。
「にしてもおぬしらを最初に見つけたのがワレで、本当によかったな。もしこれがガルディアス、ミルゼさまだったら、あの場で容赦なく消されていたかもしれないぞ? ワレが酔狂な魔人だったことに感謝せねばな」
もしあの場で戦うことになっていたら、確実に未来はなかっただろう。レネをなんとか切り抜けられたとしても、すぐにラスボスクラスのミルゼと戦うことになるのだ。彼女が客人としてあつかってくれていなければ、どうなっていたことやら。
「その件については確かに感謝してもしきれないな」
「ほう、ものわかりのいい小僧だな。気に入ったぞ」
素直に感謝の意を伝えると、レネが満足げにうなずく。
「ところでさっきからそこの勇者の小娘は、どうしたんだ? 小僧の背に隠れてビクビクしっぱなしだが?」
「――あ、あはは……」
レネにツッコミを入れられ、トワはごまかすように笑った。
彼女は今だずっとシンヤの背に隠れるようにしながら、レネの顔色をうかがっていたという。
「これはいつものことだから気にしないでくれ」
「そうなのか? なかなか変わり者の勇者なのだな。くくく、それにしても勇者を肴に飲む酒も、なかなか乙なものだな」
レネはトワを意味ありげに見つめ、酒の入ったグラスをゆらす。なにやらご満悦の様子だ。
「ねー、シンヤ、この人、話が通じそうな感じじゃない? うまく友好関係とか結べないかな?」
そこへトワがひそひそと耳元でたずねてきた。
「まあ、ダメ元でやってみる価値はあるか」
「変な期待を持たせて悪いが、ワレはおぬしたちと馴れ合うつもりはないぞ。ここで仕留めようとしないのは、たんにおもしろくないからだ。ワレらはこれから本格的に行動を開始しようとしているのに、その手前で退場されてしまっては拍子抜けもいいところだ。張り合いがない。ゆえにおぬしらと雌雄を決するのは、もっとあと。いづれふさわしい舞台を用意してやるから、楽しみに待っているがよいぞ」
すると聞こえていたのか、不敵な笑みを浮かべキッパリと断言してくるレネ。
「――うぅ……、やっぱりだめかー」
「とはいえすべてはミルゼさま次第。ワレらは彼女の意向に従うまでだからな」
「じゃあ、ミルゼちゃんをなんとか説得できればいいんだね!」
落ち込んでいたトワであったが、希望が見えてやる気をあらわに。
「レネ様、祭典の件で少しご相談が」
そうこうしていると信者が来て、レネに伝える。
「わかった、すぐに行く」
「はっ」
「というわけだ。ワレは祭典の準備で忙しくてな。そろそろ失礼させてもらうぞ」
レネは立ち上がり、この部屋から出ていこうとする。
「オレたちはどうしてたらいいんだ?」
「祭典が始まるまでここでくつろいでいてもいいし、廃坑内をブラブラしてきてもいい。好きにするがいい。くくく、そうだ」
レネはシンヤたちの方を振り返り、いいことを思いついたと愉快げに笑う。
「実はこの通路の奥の立ち入り禁止の場所に、人間にとってそれはそれは恐ろしい魔の存在。ワレらにとって唯一無二の至宝が眠っている。もし興味があるのならのぞいてみるといい。もしかするとおぬしらにとって、なにかしらの成果が得られるかもしれないぞ。くくく、まあ、命の保証はせんがな」
そして意味深な言葉を残し、今度こそ部屋をあとにするレネなのであった。
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