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2章5部 ミルゼ教の儀式
vsクリスタルガーゴイル②
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「まさか遠距離攻撃もあるのかよ」
「それも厄介だけど、一番はあの翼よ。攻撃しようにも上空に行かれたら当たらないし、ガードに使われたら使われたでぜんぜんダメージが通らないもの」
今まで戦った感じ、クリスタルガーゴイルの翼部分が一番強度が高く、いかなる攻撃もはじかれてしまう。あの翼をどうにかしない限り、機動力の面でも防御面でも圧倒的不利であった。
「そもそもなんで硬い強度を誇って、あんなに素早く飛べてるんだよ。クリスタルで、重さもやばいだろ」
「かぜのまほうとか利用してるのかもー」
「反則だな、ほんと。って言ってるそばからくるぞ、イオ! 盾を!」
攻撃察知によりクリスタルガーゴイルが、風の魔法で先ほどみせた暴れ狂う風を起こしてくるのを見抜く。
「わかったー」
シンヤの指示に、イオは魔法の準備を。
そして次の瞬間、クリスタルガーゴイルが翼を激しく羽ばたかせ、暴風でシンヤたちをなぎ払おうとしてくる。
「たてよ、まもれー」
イオは前方にマナで生成した大きな盾を展開。
シンヤたちはすぐさま彼女の盾の後ろへ、身を隠した。
風の強烈な衝撃波が襲ってくるが、大盾が見事受け止め防いでくれる。
「――ふう、とりあえずイオがいれば、あの全体攻撃は凌げるか」
「でもそうなんども張れないからー」
イオは展開した大盾を戻しながら、少し疲れた様子で告げてくる。
「でかい分、けっこうマナ使ってそうだもんな。早めにきめないと」
「――うぅ……、でもどうやって……?」
トワが不安そうに聞いてくる。
「そうだな。とにかくあの翼をどうにかしないと、オレたちに勝ち目はない」
「でも硬すぎてわたしたちじゃどうにも……」
「やるしかないだろ。完全復活を阻止できたおかげで、やつはあちこちにヒビがある。翼部分にもたしかあったはずだ。その脆い部分をピンポイントかつ、最大火力をぶち込めば砕けるかもしれない」
完全復活を阻止したことで残っている、ヒビの部分。そして先ほど与えたダメージ分もあって、より砕きやすくなっているはずだ。片翼だけでもなんとかできれば、敵はもう飛べずシンヤたちが一気に有利になるだろう。
「それかなり難しいけどね。あいつ翼でガードするのは一瞬で、すぐに上空に逃げていっちゃうから。その短い間にピンポイントで狙いを定めないといけないし、大技を繰り出す分こちらはためとかも必要になってくる。うまくタイミングを合わせられるかどうか」
「敵の動きを封じないとキツそうだよな。でもどうやってやれば」
頭を悩ませていると、声が。
「きゃはは、どうやらミリーたちの出番のようだね!」
「オレたちがその役を買おう」
「ミリー!? ゼノ!? どうしてここに?」
現れたのは冒険者のミリーとゼノである。
「なんかやばいのが暴れまわってるから、ミリーたちが加勢にきてあげたの。ありがたく思ってよね!」
「ローザさんの指示で来た」
「そうか。でも行けるか? 二人とも。アイツ、かなり厄介な相手だぞ」
「きゃはは、上等よ、センパイにまかせなさい! コウハイ!」
ミリーはポンと胸をたたき、不敵に笑った。
「俺たちがなんとしてでも動きを封じる。その隙にみなは全力の一撃をたたきこんでくれ」
「一つ言っておくけど、ミリーたちもさっきまでの戦闘でかなり消耗してる。だからチャンスを作れるのは、一度っきり。あと敵の動きを封じるのに残りの余力全部使うから、そこから戦闘に参加できないと思って」
「わかった。ミリーたちが作ってくれたチャンス、絶対にものにしてみせる」
「レティシアセンパイも、しっかりミリーたちの勇姿を見といてね!」
ミリーはレティシアにウィンクしながら、アピールを。
「ええ、お願いね! ミリー! ゼノ!」
「来い! クリスタルガーゴイル! 俺が相手だ」
そしてゼノが単身で前に出て、かかって来いと手招きしながら挑発する。
その間にシンヤは弾丸にマナをそそいでいく。レティシアはカタナをさやに入れ、意識を集中しだす。イオやトワも各々の必殺の準備を。
「ガァァーッ!」
クリスタルガーゴイルが、人間の分際でなまいきだといいたげにゼノをにらみつける。それから彼目掛けて、上空からダイブしてきた。
対して真っ向から迎え撃つゼノ。前方へ跳躍しながら剣を振りかざし突撃する。彼の剣は高出力のマナが流し込まれており、必殺の一撃なのが見て取れた。
「アークブレイド!」
そして豪腕から繰り出されるクローと、マナで威力を大幅に上げた斬撃が激突。両者パワー重視の渾身の一撃ゆえ、激しく火花を散らしている。このまま力比べと思いきや。
「そこだ!」
「ガァーッ!?」」
ゼノは途中敵の攻撃を地面方向へと、見事受け流してみせた。
それによりクリスタルガーゴイルはバランスを崩し、勢いあまって前のめりに地面に倒れていく。
「ミリー、今だ!」
「さっすがゼノくん! ここからはミリーの出番! 華麗に決めちゃうんだから! 氷の束縛よ!」
ミリーは両手に氷のナイフ計八本を生成し、クリスタルガーゴイルへ一斉投射。狙いは敵本体ではなく、クリスタルガーゴイルが倒れた地面にだ。
飛翔していく八本のナイフは、地面に突き刺さったと同時にはじけた。瞬間、その周囲が急速に凍結していく。これにより立ち上がろうとしているクリスタルガーゴイルの足に氷が張り付いていき、動きを束縛していった。
「よし! あとはちゃっちゃっと片づけちゃってよね!」
「二人とも、よくやってくれた! あとはオレたちで!」
「行くよ、みんな!」
レティシアとシンヤは、動きを封じられたクリスタルガ―ゴイルへと突撃していく。
シンヤ自体は銃ゆえ近づく必要はないが、ゼロ距離で撃つことで威力を上げる算段だ。
クリスタルガーゴイルは攻撃が来ると察知し、翼で身をつつみガードを。
(電気?)
二人でクリスタルガーゴイルへ飛びかかりながら、ふと彼女の方を見る。
レティシアのカタナをにぎる手と柄の部分から、紫電が漏れ出していたという。
(いや、気を取られている場合じゃない。オレはオレでやるべきことをやらないと!)
いま手にあるのはアインバレットの弾丸。もちろんこの弾丸だけでも威力は相当なもの。だがシンヤはさらにそこへマナをそそぎ、今できる限界まで圧縮していく。もはやここまで圧縮したとなると、少しでも気を抜けば止どめきれず四散していきそうだ。
こうして生成されていく、必殺の魔弾。マナの消費量、精神的疲労もかなりのもの。だがその分、威力はお墨付きだ。
「魔弾装填(まだんそうてん)」
リボルバーに限界まで強化した弾丸を装填。銃口を敵の翼の一番ヒビが入り脆そうな場所へ。
レティシアも間合いに入り、抜刀の態勢に。
そして二人はほぼ同時にとっておきの必殺技を繰り出す。
「ツヴァイバレット!」
リボルバーの引き金を引いた瞬間、両ウデに強烈な反動が襲い、思わずのけぞってしまう。だが射撃は完璧だ。放たれた魔弾は目標へ一直線に飛翔する。圧縮されまくったマナが徐々に膨れ上がっていき、膨大な破壊力を有したまま光弾へと。大気を切り裂きうなりをあげながら、得物を食い破ろうと突き進む。その威力、貫通力はすさまじく、多少の防壁なら軽くぶち抜いていくほどの代物だ。
「雷刃一閃!」
レティシアのサヤから抜き放たれる刃は、ほとばしる高圧電流をまとっていた。紫電で焼き切りながら斬り裂くことで、斬撃の威力を極限まで高めているのだろう。そして抜刀されくり出される絶技。彼女の技量もありその剣速、精確無慈悲さはずば抜けている。もはや目で追い切れないほどの紫電の一閃。軌道上にほとばしる雷光の軌跡を残しながら、標的を斬り裂いていく。ひとたびその雷剣の間合いに入ってしまったら、一刀のもとに両断される未来しかないだろう。
そして魔弾と超斬撃が炸裂。その絶大な威力を持って、クリスタルガーゴイルの翼部分に大きな亀裂を与えていく。
「はんまーよ、くだけー」
シンヤたちのあとに、イオが飛び込んでくる。
彼女は手を大きく掲げており、その頭上には四メートルほどのマナで生成した淡い緑色のハンマーが。イオはその鈍器を空中で思いっきり振りかぶり、ぶん投げるように手を振るった。次の瞬間、ハンマーがすごい勢いでフルスイング。その圧倒的質量と暴力の塊が、クリスタルガーゴイルの大きくひび割れた翼にもろに入っていく。結果、けたましいクリスタルの砕ける音が響き渡った。
「ガァ~~~~~ッ!?」
そう、ハンマーがクリスタルの翼を容赦なく粉砕していったのだ。これによりクリスタルガーゴイルは右翼を破壊しつくされていく。さらにその衝撃の勢いは止まらず、もう片翼も半分近くまで砕かれていった。
そのザマではもう飛ぶこと叶わず、翼でのガードもままならないだろう。
「これでとどめだよ!」
そこへトワがためにためた高出力の極光を剣にまとわせ、クリスタルガーゴイルへ飛びかかっていった。
敵は空中に逃げれず、足は張り付いた氷により身動きが取れないまま。とどめをさすのに絶好の機会である。
トワが剣を振り下ろし、攻撃しようとしたまさに刹那。
「ガァーーッ!?」
クリスタルガーゴイルは極光の斬撃に、強烈な身の危険を感じたのだろう。死に物狂いで足を拘束している氷を砕き自由に。トワの剣の間合いから逃れようと後ずさり、ギリギリのところで緊急回避しだした。
これではせっかくのトワの渾身の一撃が、空振りに終わってしまうと思いきや。
「ムダだよ! これはわたしの新必殺技! オーロラルエッジ!」
トワが必殺技を叫びながら、剣を振るう。
本来ならギリギリのところで躱された一撃であったが。
「あれはあのときの!?」
なんとトワが剣を全力で振るった瞬間、極光の斬撃が飛翔したのだ。
それはかつてミリーやゼノと戦ったとき、勝負を決めたであろう一撃。しかもあのときより出力、斬撃の鋭さが上がっている。どうやらいつの間にか、完全にモノにしていたらしい。
飛翔する極光の刃はその邪を払うまばゆい輝きをきらめかせ、標的へと吸い込まれていく。さすがに後ずさっている状況で回避は不可能であり、たちまちクリスタルガーゴイルの胴体に斬撃が深々と入った。そして極光がクリスタルガーゴイルを呑み込んでいき、切り裂いていく。
「ガァ~~~~~~ッ!?」
クリスタルガーゴイルはけたましい悲鳴を上げた。
魔に対し効果抜群の極光ゆえ、そのダメージは致命傷レベル。まるで毒のように敵を蝕み、滅していくのだ。
そしてクリスタルガーゴイルは膝をつき、うずくまる。オーロラルエッジにより、胴体に深々と入った傷。そこからどんどん亀裂が入っていっており、もはや瀕死に近い状態。戦闘続行は不可能だろう。あとはとどめをさすだけだ。
「やった! 決まった! みんなわたしやったよ!」
必殺技が華麗に決まり、トワがぴょんぴょん跳びはねながら大喜びしだす。
「ああ、トワ、よくやった。でも喜ぶのはあとだ。先にとどめを」
「はっ、そうだった!? 少しかわいそうだけど、これで!」
トワは剣に極光をまとわせとどめの一撃を放つため、近づこうと。
しかしその瞬間。
「ガァッ!」
クリスタルガーゴイルは傷口を押さえながら、死にもの狂いで逃走を開始。背を向け、全速力で駆けていく。以外に地上でも俊敏に動けるらしい。
「あっ!? にげちゃった!?」
「マズイ、せっかくあそこまで追いこんだのに、逃げられ回復でもされたらたまったもんじゃないぞ! レティシア!」
「ああ、もう! 逃がすか! 待ちなさい!」
レティシアは慌てて追いかけようと。
このメンバーの中で一番俊敏な彼女に、任せるしかない。
邪神側には、離れた場所へ一気に移動できる手段がある。もしそれを使われ転移でもされたら、手が出せなくなってしまうのだ。早くとどめをささないと、大変なことに。
「やばい、逃げられるかも!?」
猛ダッシュするレティシアだが、予想外の逃走に少し出遅れたこと。さらに敵があの図体だというのに思いのほか速かったことから、追いつけるかはかなりギリギリといったところ。このままでは逃がしてしまう恐れが。
しかしそこへ突如、クリスタルガーゴイルの進行方向から、雷光のごとき閃光が襲い掛かり。
「ガァ~~ッ!?」
クリスタルガーゴイルの胸板に、紫電をまとったカタナが深々と突き立てられていく。
そこにはシンヤたちが知っている人物が。
「サクリ!?」
「サクリちゃん!?」
シンヤとトワは急な乱入者に驚きを隠せない。
今ごろフォルスティア教会側と連携をとっているであろう、冒険者のサクリの姿があったのだ。彼女はクリスタルガーゴイルの胸板にカタナを突き刺しており、そして。
「雷の楔よ」
左手をかかげ、雷の魔法を行使。
するとクリスタルガーゴイルの周囲に、ほとばしる雷で生成された一メートルほどの抗が七本出現。楔はたちまち標的へと降りそそぎ、クリスタルガーゴイルの身体に突き刺さっていく。しかもその直後、杭から雷があふれだし、クリスタルガーゴイルに高圧の電流が襲った。
「ガァ~~~~ッ!?」
断末魔を上げるクリスタルガーゴイル。そのクリスタルの身体がどんどん砕けていき。
そして最後は跡形もなく、砕け散っていった。
「――ふぅ」
サクリはカタナをサヤに納めながら、一息つく。
彼女の周りにはクリスタルの細かな破片がキラキラと漂っており、美人なサクリの容姿を一層に際立たせていた。
そんな彼女へみな駆けよる。
「サクリ、来てくれたのね!」
「うん、教会側との連携でやることはやってきたから、援軍にね。父さんたちの方はなんとかなってそうだったし、こっちに駆けつけたってわけ。そしたらなんか瀕死の敵が来たから、仕留めといた」
「さっすがサクリ! 頼りになる!」
レティシアがサクリにガバっと抱き着き、ほめたたえる。
「助かったよ、サクリ。危うく逃げ出されるところだったぜ」
「なんか悪いね。いいところもらっちゃって」
「ははは、逃げられるよりは全然ましさ」
「うんうん! サクリちゃん、最後かっこよかったよー!」
「ありがと」
強敵を倒した喜びを分かち合いながら、みんなでわいわいしていると。
「まさかクリスタルガーゴイルがやられるとはな」
「なっ!? ガルディアス!?」
「ひっ!?」
なんと魔人ガルディアスが姿を見せたのだ。
さっきまでアドルフたちとやり合っていたはず。このタイミングで来たということは、頃合いだと離脱してきたのだろうか。
ちなみにトワはシンヤの背に隠れていたという。
「せめて思念体だけでも回収できないかと思ったが、やはりだめか。完全に散らばってしまっている。これではまた相当の月日が必要のようだ」
「今度はオレたちとやる気か?」
リボルバーの銃口を向けながら問う。
「ふん、今日のところはこれで退いてやる。ただ次はそううまくいくと思うなよ。まだまだミルゼさまの進行は始まったばかり。ここからが本番なのだからな」
ガルディアスはシンヤたちを忌々しげににらんだあと、踵を返し去っていく。そして黒い霧に包まれ、消えていった。
「行ってくれたか」
「――こわかったー」
連戦になるとさすがに厳しいため、正直助かったといっていい。
「おまえらー、大丈夫かー!」
ランドとローザが、シンヤたちの方へと駆け寄ってくる。
どうやら向こうも戦闘が終わったみたいだ。
「ええ、なんとかね。ランドさんたちは?」
「無事よ。さすがに連戦続きで、みんなフラフラだけどね」
「そっか、よかった!」
「もうミリー疲れたー。早く帰って休みたいー」
「えへへー、わたしも。今日いろいろありすぎて、もう限界だよー」
「いおもー」
ぐったりするミリーと、眠そうに目をこするトワとイオ。
「ふふっ、みんなお疲れさま! アルスタリアを無事守れたことだし、帰りましょうか!」
レティシアはみなを代表してねぎらいの言葉を。
こうしてシンヤたちはお互いの健闘をたたえながら、アルスタリアへと戻るのであった。
「それも厄介だけど、一番はあの翼よ。攻撃しようにも上空に行かれたら当たらないし、ガードに使われたら使われたでぜんぜんダメージが通らないもの」
今まで戦った感じ、クリスタルガーゴイルの翼部分が一番強度が高く、いかなる攻撃もはじかれてしまう。あの翼をどうにかしない限り、機動力の面でも防御面でも圧倒的不利であった。
「そもそもなんで硬い強度を誇って、あんなに素早く飛べてるんだよ。クリスタルで、重さもやばいだろ」
「かぜのまほうとか利用してるのかもー」
「反則だな、ほんと。って言ってるそばからくるぞ、イオ! 盾を!」
攻撃察知によりクリスタルガーゴイルが、風の魔法で先ほどみせた暴れ狂う風を起こしてくるのを見抜く。
「わかったー」
シンヤの指示に、イオは魔法の準備を。
そして次の瞬間、クリスタルガーゴイルが翼を激しく羽ばたかせ、暴風でシンヤたちをなぎ払おうとしてくる。
「たてよ、まもれー」
イオは前方にマナで生成した大きな盾を展開。
シンヤたちはすぐさま彼女の盾の後ろへ、身を隠した。
風の強烈な衝撃波が襲ってくるが、大盾が見事受け止め防いでくれる。
「――ふう、とりあえずイオがいれば、あの全体攻撃は凌げるか」
「でもそうなんども張れないからー」
イオは展開した大盾を戻しながら、少し疲れた様子で告げてくる。
「でかい分、けっこうマナ使ってそうだもんな。早めにきめないと」
「――うぅ……、でもどうやって……?」
トワが不安そうに聞いてくる。
「そうだな。とにかくあの翼をどうにかしないと、オレたちに勝ち目はない」
「でも硬すぎてわたしたちじゃどうにも……」
「やるしかないだろ。完全復活を阻止できたおかげで、やつはあちこちにヒビがある。翼部分にもたしかあったはずだ。その脆い部分をピンポイントかつ、最大火力をぶち込めば砕けるかもしれない」
完全復活を阻止したことで残っている、ヒビの部分。そして先ほど与えたダメージ分もあって、より砕きやすくなっているはずだ。片翼だけでもなんとかできれば、敵はもう飛べずシンヤたちが一気に有利になるだろう。
「それかなり難しいけどね。あいつ翼でガードするのは一瞬で、すぐに上空に逃げていっちゃうから。その短い間にピンポイントで狙いを定めないといけないし、大技を繰り出す分こちらはためとかも必要になってくる。うまくタイミングを合わせられるかどうか」
「敵の動きを封じないとキツそうだよな。でもどうやってやれば」
頭を悩ませていると、声が。
「きゃはは、どうやらミリーたちの出番のようだね!」
「オレたちがその役を買おう」
「ミリー!? ゼノ!? どうしてここに?」
現れたのは冒険者のミリーとゼノである。
「なんかやばいのが暴れまわってるから、ミリーたちが加勢にきてあげたの。ありがたく思ってよね!」
「ローザさんの指示で来た」
「そうか。でも行けるか? 二人とも。アイツ、かなり厄介な相手だぞ」
「きゃはは、上等よ、センパイにまかせなさい! コウハイ!」
ミリーはポンと胸をたたき、不敵に笑った。
「俺たちがなんとしてでも動きを封じる。その隙にみなは全力の一撃をたたきこんでくれ」
「一つ言っておくけど、ミリーたちもさっきまでの戦闘でかなり消耗してる。だからチャンスを作れるのは、一度っきり。あと敵の動きを封じるのに残りの余力全部使うから、そこから戦闘に参加できないと思って」
「わかった。ミリーたちが作ってくれたチャンス、絶対にものにしてみせる」
「レティシアセンパイも、しっかりミリーたちの勇姿を見といてね!」
ミリーはレティシアにウィンクしながら、アピールを。
「ええ、お願いね! ミリー! ゼノ!」
「来い! クリスタルガーゴイル! 俺が相手だ」
そしてゼノが単身で前に出て、かかって来いと手招きしながら挑発する。
その間にシンヤは弾丸にマナをそそいでいく。レティシアはカタナをさやに入れ、意識を集中しだす。イオやトワも各々の必殺の準備を。
「ガァァーッ!」
クリスタルガーゴイルが、人間の分際でなまいきだといいたげにゼノをにらみつける。それから彼目掛けて、上空からダイブしてきた。
対して真っ向から迎え撃つゼノ。前方へ跳躍しながら剣を振りかざし突撃する。彼の剣は高出力のマナが流し込まれており、必殺の一撃なのが見て取れた。
「アークブレイド!」
そして豪腕から繰り出されるクローと、マナで威力を大幅に上げた斬撃が激突。両者パワー重視の渾身の一撃ゆえ、激しく火花を散らしている。このまま力比べと思いきや。
「そこだ!」
「ガァーッ!?」」
ゼノは途中敵の攻撃を地面方向へと、見事受け流してみせた。
それによりクリスタルガーゴイルはバランスを崩し、勢いあまって前のめりに地面に倒れていく。
「ミリー、今だ!」
「さっすがゼノくん! ここからはミリーの出番! 華麗に決めちゃうんだから! 氷の束縛よ!」
ミリーは両手に氷のナイフ計八本を生成し、クリスタルガーゴイルへ一斉投射。狙いは敵本体ではなく、クリスタルガーゴイルが倒れた地面にだ。
飛翔していく八本のナイフは、地面に突き刺さったと同時にはじけた。瞬間、その周囲が急速に凍結していく。これにより立ち上がろうとしているクリスタルガーゴイルの足に氷が張り付いていき、動きを束縛していった。
「よし! あとはちゃっちゃっと片づけちゃってよね!」
「二人とも、よくやってくれた! あとはオレたちで!」
「行くよ、みんな!」
レティシアとシンヤは、動きを封じられたクリスタルガ―ゴイルへと突撃していく。
シンヤ自体は銃ゆえ近づく必要はないが、ゼロ距離で撃つことで威力を上げる算段だ。
クリスタルガーゴイルは攻撃が来ると察知し、翼で身をつつみガードを。
(電気?)
二人でクリスタルガーゴイルへ飛びかかりながら、ふと彼女の方を見る。
レティシアのカタナをにぎる手と柄の部分から、紫電が漏れ出していたという。
(いや、気を取られている場合じゃない。オレはオレでやるべきことをやらないと!)
いま手にあるのはアインバレットの弾丸。もちろんこの弾丸だけでも威力は相当なもの。だがシンヤはさらにそこへマナをそそぎ、今できる限界まで圧縮していく。もはやここまで圧縮したとなると、少しでも気を抜けば止どめきれず四散していきそうだ。
こうして生成されていく、必殺の魔弾。マナの消費量、精神的疲労もかなりのもの。だがその分、威力はお墨付きだ。
「魔弾装填(まだんそうてん)」
リボルバーに限界まで強化した弾丸を装填。銃口を敵の翼の一番ヒビが入り脆そうな場所へ。
レティシアも間合いに入り、抜刀の態勢に。
そして二人はほぼ同時にとっておきの必殺技を繰り出す。
「ツヴァイバレット!」
リボルバーの引き金を引いた瞬間、両ウデに強烈な反動が襲い、思わずのけぞってしまう。だが射撃は完璧だ。放たれた魔弾は目標へ一直線に飛翔する。圧縮されまくったマナが徐々に膨れ上がっていき、膨大な破壊力を有したまま光弾へと。大気を切り裂きうなりをあげながら、得物を食い破ろうと突き進む。その威力、貫通力はすさまじく、多少の防壁なら軽くぶち抜いていくほどの代物だ。
「雷刃一閃!」
レティシアのサヤから抜き放たれる刃は、ほとばしる高圧電流をまとっていた。紫電で焼き切りながら斬り裂くことで、斬撃の威力を極限まで高めているのだろう。そして抜刀されくり出される絶技。彼女の技量もありその剣速、精確無慈悲さはずば抜けている。もはや目で追い切れないほどの紫電の一閃。軌道上にほとばしる雷光の軌跡を残しながら、標的を斬り裂いていく。ひとたびその雷剣の間合いに入ってしまったら、一刀のもとに両断される未来しかないだろう。
そして魔弾と超斬撃が炸裂。その絶大な威力を持って、クリスタルガーゴイルの翼部分に大きな亀裂を与えていく。
「はんまーよ、くだけー」
シンヤたちのあとに、イオが飛び込んでくる。
彼女は手を大きく掲げており、その頭上には四メートルほどのマナで生成した淡い緑色のハンマーが。イオはその鈍器を空中で思いっきり振りかぶり、ぶん投げるように手を振るった。次の瞬間、ハンマーがすごい勢いでフルスイング。その圧倒的質量と暴力の塊が、クリスタルガーゴイルの大きくひび割れた翼にもろに入っていく。結果、けたましいクリスタルの砕ける音が響き渡った。
「ガァ~~~~~ッ!?」
そう、ハンマーがクリスタルの翼を容赦なく粉砕していったのだ。これによりクリスタルガーゴイルは右翼を破壊しつくされていく。さらにその衝撃の勢いは止まらず、もう片翼も半分近くまで砕かれていった。
そのザマではもう飛ぶこと叶わず、翼でのガードもままならないだろう。
「これでとどめだよ!」
そこへトワがためにためた高出力の極光を剣にまとわせ、クリスタルガーゴイルへ飛びかかっていった。
敵は空中に逃げれず、足は張り付いた氷により身動きが取れないまま。とどめをさすのに絶好の機会である。
トワが剣を振り下ろし、攻撃しようとしたまさに刹那。
「ガァーーッ!?」
クリスタルガーゴイルは極光の斬撃に、強烈な身の危険を感じたのだろう。死に物狂いで足を拘束している氷を砕き自由に。トワの剣の間合いから逃れようと後ずさり、ギリギリのところで緊急回避しだした。
これではせっかくのトワの渾身の一撃が、空振りに終わってしまうと思いきや。
「ムダだよ! これはわたしの新必殺技! オーロラルエッジ!」
トワが必殺技を叫びながら、剣を振るう。
本来ならギリギリのところで躱された一撃であったが。
「あれはあのときの!?」
なんとトワが剣を全力で振るった瞬間、極光の斬撃が飛翔したのだ。
それはかつてミリーやゼノと戦ったとき、勝負を決めたであろう一撃。しかもあのときより出力、斬撃の鋭さが上がっている。どうやらいつの間にか、完全にモノにしていたらしい。
飛翔する極光の刃はその邪を払うまばゆい輝きをきらめかせ、標的へと吸い込まれていく。さすがに後ずさっている状況で回避は不可能であり、たちまちクリスタルガーゴイルの胴体に斬撃が深々と入った。そして極光がクリスタルガーゴイルを呑み込んでいき、切り裂いていく。
「ガァ~~~~~~ッ!?」
クリスタルガーゴイルはけたましい悲鳴を上げた。
魔に対し効果抜群の極光ゆえ、そのダメージは致命傷レベル。まるで毒のように敵を蝕み、滅していくのだ。
そしてクリスタルガーゴイルは膝をつき、うずくまる。オーロラルエッジにより、胴体に深々と入った傷。そこからどんどん亀裂が入っていっており、もはや瀕死に近い状態。戦闘続行は不可能だろう。あとはとどめをさすだけだ。
「やった! 決まった! みんなわたしやったよ!」
必殺技が華麗に決まり、トワがぴょんぴょん跳びはねながら大喜びしだす。
「ああ、トワ、よくやった。でも喜ぶのはあとだ。先にとどめを」
「はっ、そうだった!? 少しかわいそうだけど、これで!」
トワは剣に極光をまとわせとどめの一撃を放つため、近づこうと。
しかしその瞬間。
「ガァッ!」
クリスタルガーゴイルは傷口を押さえながら、死にもの狂いで逃走を開始。背を向け、全速力で駆けていく。以外に地上でも俊敏に動けるらしい。
「あっ!? にげちゃった!?」
「マズイ、せっかくあそこまで追いこんだのに、逃げられ回復でもされたらたまったもんじゃないぞ! レティシア!」
「ああ、もう! 逃がすか! 待ちなさい!」
レティシアは慌てて追いかけようと。
このメンバーの中で一番俊敏な彼女に、任せるしかない。
邪神側には、離れた場所へ一気に移動できる手段がある。もしそれを使われ転移でもされたら、手が出せなくなってしまうのだ。早くとどめをささないと、大変なことに。
「やばい、逃げられるかも!?」
猛ダッシュするレティシアだが、予想外の逃走に少し出遅れたこと。さらに敵があの図体だというのに思いのほか速かったことから、追いつけるかはかなりギリギリといったところ。このままでは逃がしてしまう恐れが。
しかしそこへ突如、クリスタルガーゴイルの進行方向から、雷光のごとき閃光が襲い掛かり。
「ガァ~~ッ!?」
クリスタルガーゴイルの胸板に、紫電をまとったカタナが深々と突き立てられていく。
そこにはシンヤたちが知っている人物が。
「サクリ!?」
「サクリちゃん!?」
シンヤとトワは急な乱入者に驚きを隠せない。
今ごろフォルスティア教会側と連携をとっているであろう、冒険者のサクリの姿があったのだ。彼女はクリスタルガーゴイルの胸板にカタナを突き刺しており、そして。
「雷の楔よ」
左手をかかげ、雷の魔法を行使。
するとクリスタルガーゴイルの周囲に、ほとばしる雷で生成された一メートルほどの抗が七本出現。楔はたちまち標的へと降りそそぎ、クリスタルガーゴイルの身体に突き刺さっていく。しかもその直後、杭から雷があふれだし、クリスタルガーゴイルに高圧の電流が襲った。
「ガァ~~~~ッ!?」
断末魔を上げるクリスタルガーゴイル。そのクリスタルの身体がどんどん砕けていき。
そして最後は跡形もなく、砕け散っていった。
「――ふぅ」
サクリはカタナをサヤに納めながら、一息つく。
彼女の周りにはクリスタルの細かな破片がキラキラと漂っており、美人なサクリの容姿を一層に際立たせていた。
そんな彼女へみな駆けよる。
「サクリ、来てくれたのね!」
「うん、教会側との連携でやることはやってきたから、援軍にね。父さんたちの方はなんとかなってそうだったし、こっちに駆けつけたってわけ。そしたらなんか瀕死の敵が来たから、仕留めといた」
「さっすがサクリ! 頼りになる!」
レティシアがサクリにガバっと抱き着き、ほめたたえる。
「助かったよ、サクリ。危うく逃げ出されるところだったぜ」
「なんか悪いね。いいところもらっちゃって」
「ははは、逃げられるよりは全然ましさ」
「うんうん! サクリちゃん、最後かっこよかったよー!」
「ありがと」
強敵を倒した喜びを分かち合いながら、みんなでわいわいしていると。
「まさかクリスタルガーゴイルがやられるとはな」
「なっ!? ガルディアス!?」
「ひっ!?」
なんと魔人ガルディアスが姿を見せたのだ。
さっきまでアドルフたちとやり合っていたはず。このタイミングで来たということは、頃合いだと離脱してきたのだろうか。
ちなみにトワはシンヤの背に隠れていたという。
「せめて思念体だけでも回収できないかと思ったが、やはりだめか。完全に散らばってしまっている。これではまた相当の月日が必要のようだ」
「今度はオレたちとやる気か?」
リボルバーの銃口を向けながら問う。
「ふん、今日のところはこれで退いてやる。ただ次はそううまくいくと思うなよ。まだまだミルゼさまの進行は始まったばかり。ここからが本番なのだからな」
ガルディアスはシンヤたちを忌々しげににらんだあと、踵を返し去っていく。そして黒い霧に包まれ、消えていった。
「行ってくれたか」
「――こわかったー」
連戦になるとさすがに厳しいため、正直助かったといっていい。
「おまえらー、大丈夫かー!」
ランドとローザが、シンヤたちの方へと駆け寄ってくる。
どうやら向こうも戦闘が終わったみたいだ。
「ええ、なんとかね。ランドさんたちは?」
「無事よ。さすがに連戦続きで、みんなフラフラだけどね」
「そっか、よかった!」
「もうミリー疲れたー。早く帰って休みたいー」
「えへへー、わたしも。今日いろいろありすぎて、もう限界だよー」
「いおもー」
ぐったりするミリーと、眠そうに目をこするトワとイオ。
「ふふっ、みんなお疲れさま! アルスタリアを無事守れたことだし、帰りましょうか!」
レティシアはみなを代表してねぎらいの言葉を。
こうしてシンヤたちはお互いの健闘をたたえながら、アルスタリアへと戻るのであった。
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