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   2章5部 ミルゼ教の儀式

vsクリスタルガーゴイル②

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「まさか遠距離攻撃もあるのかよ」
「それも厄介だけど、一番はあの翼よ。攻撃しようにも上空に行かれたら当たらないし、ガードに使われたら使われたでぜんぜんダメージが通らないもの」

 今まで戦った感じ、クリスタルガーゴイルの翼部分が一番強度が高く、いかなる攻撃もはじかれてしまう。あの翼をどうにかしない限り、機動力の面でも防御面でも圧倒的不利であった。

「そもそもなんで硬い強度をほこって、あんなに素早く飛べてるんだよ。クリスタルで、重さもやばいだろ」
「かぜのまほうとか利用してるのかもー」
「反則だな、ほんと。って言ってるそばからくるぞ、イオ! 盾を!」

 攻撃察知によりクリスタルガーゴイルが、風の魔法で先ほどみせた暴れ狂う風を起こしてくるのを見抜く。

「わかったー」

 シンヤの指示に、イオは魔法の準備を。
 そして次の瞬間、クリスタルガーゴイルが翼を激しく羽ばたかせ、暴風でシンヤたちをなぎ払おうとしてくる。

「たてよ、まもれー」

 イオは前方にマナで生成した大きな盾を展開。
 シンヤたちはすぐさま彼女の盾の後ろへ、身を隠した。
 風の強烈な衝撃波が襲ってくるが、大盾が見事受け止め防いでくれる。

「――ふう、とりあえずイオがいれば、あの全体攻撃はしのげるか」
「でもそうなんども張れないからー」

 イオは展開した大盾を戻しながら、少し疲れた様子で告げてくる。

「でかい分、けっこうマナ使ってそうだもんな。早めにきめないと」
「――うぅ……、でもどうやって……?」

 トワが不安そうに聞いてくる。

「そうだな。とにかくあの翼をどうにかしないと、オレたちに勝ち目はない」
「でも硬すぎてわたしたちじゃどうにも……」
「やるしかないだろ。完全復活を阻止できたおかげで、やつはあちこちにヒビがある。翼部分にもたしかあったはずだ。そのもろい部分をピンポイントかつ、最大火力をぶち込めば砕けるかもしれない」

 完全復活を阻止したことで残っている、ヒビの部分。そして先ほど与えたダメージ分もあって、より砕きやすくなっているはずだ。片翼だけでもなんとかできれば、敵はもう飛べずシンヤたちが一気に有利になるだろう。

「それかなり難しいけどね。あいつ翼でガードするのは一瞬で、すぐに上空に逃げていっちゃうから。その短い間にピンポイントで狙いをさだめないといけないし、大技を繰り出す分こちらはためとかも必要になってくる。うまくタイミングを合わせられるかどうか」
「敵の動きを封じないとキツそうだよな。でもどうやってやれば」

 頭を悩ませていると、声が。

「きゃはは、どうやらミリーたちの出番のようだね!」
「オレたちがその役を買おう」
「ミリー!? ゼノ!? どうしてここに?」

 現れたのは冒険者のミリーとゼノである。

「なんかやばいのが暴れまわってるから、ミリーたちが加勢にきてあげたの。ありがたく思ってよね!」
「ローザさんの指示で来た」
「そうか。でも行けるか? 二人とも。アイツ、かなり厄介な相手だぞ」
「きゃはは、上等よ、センパイにまかせなさい! コウハイ!」

 ミリーはポンとむねをたたき、不敵に笑った。

「俺たちがなんとしてでも動きを封じる。その隙にみなは全力の一撃をたたきこんでくれ」
「一つ言っておくけど、ミリーたちもさっきまでの戦闘でかなり消耗してる。だからチャンスを作れるのは、一度っきり。あと敵の動きを封じるのに残りの余力全部使うから、そこから戦闘に参加できないと思って」
「わかった。ミリーたちが作ってくれたチャンス、絶対にものにしてみせる」
「レティシアセンパイも、しっかりミリーたちの勇姿を見といてね!」

 ミリーはレティシアにウィンクしながら、アピールを。

「ええ、お願いね! ミリー! ゼノ!」
「来い! クリスタルガーゴイル! 俺が相手だ」

 そしてゼノが単身で前に出て、かかって来いと手招きしながら挑発する。
 その間にシンヤは弾丸にマナをそそいでいく。レティシアはカタナをさやに入れ、意識を集中しだす。イオやトワも各々の必殺の準備を。

「ガァァーッ!」

 クリスタルガーゴイルが、人間の分際でなまいきだといいたげにゼノをにらみつける。それから彼目掛けて、上空からダイブしてきた。
 対して真っ向から迎え撃つゼノ。前方へ跳躍ちょうやくしながら剣を振りかざし突撃する。彼の剣は高出力のマナが流し込まれており、必殺の一撃なのが見て取れた。

「アークブレイド!」

 そして豪腕から繰り出されるクローと、マナで威力を大幅に上げた斬撃が激突。両者パワー重視の渾身の一撃ゆえ、激しく火花を散らしている。このまま力比べと思いきや。

「そこだ!」
「ガァーッ!?」」

 ゼノは途中敵の攻撃を地面方向へと、見事受け流してみせた。
 それによりクリスタルガーゴイルはバランスを崩し、勢いあまって前のめりに地面に倒れていく。

「ミリー、今だ!」
「さっすがゼノくん! ここからはミリーの出番! 華麗に決めちゃうんだから! 氷の束縛よ!」

 ミリーは両手に氷のナイフ計八本を生成し、クリスタルガーゴイルへ一斉投射。狙いは敵本体ではなく、クリスタルガーゴイルが倒れた地面にだ。
 飛翔ひしょうしていく八本のナイフは、地面に突き刺さったと同時にはじけた。瞬間、その周囲が急速に凍結していく。これにより立ち上がろうとしているクリスタルガーゴイルの足に氷が張り付いていき、動きを束縛していった。

「よし! あとはちゃっちゃっと片づけちゃってよね!」

「二人とも、よくやってくれた! あとはオレたちで!」
「行くよ、みんな!」

 レティシアとシンヤは、動きを封じられたクリスタルガ―ゴイルへと突撃していく。
 シンヤ自体は銃ゆえ近づく必要はないが、ゼロ距離で撃つことで威力を上げる算段だ。
 クリスタルガーゴイルは攻撃が来ると察知し、翼で身をつつみガードを。

(電気?)

 二人でクリスタルガーゴイルへ飛びかかりながら、ふと彼女の方を見る。
 レティシアのカタナをにぎる手との部分から、紫電が漏れ出していたという。

(いや、気を取られている場合じゃない。オレはオレでやるべきことをやらないと!)

 いま手にあるのはアインバレットの弾丸。もちろんこの弾丸だけでも威力は相当なもの。だがシンヤはさらにそこへマナをそそぎ、今できる限界まで圧縮していく。もはやここまで圧縮したとなると、少しでも気を抜けば止どめきれず四散していきそうだ。
 こうして生成されていく、必殺の魔弾。マナの消費量、精神的疲労もかなりのもの。だがその分、威力はお墨付きだ。

「魔弾装填(まだんそうてん)」

 リボルバーに限界まで強化した弾丸を装填。銃口を敵の翼の一番ヒビが入りもろそうな場所へ。
 レティシアも間合いに入り、抜刀の態勢に。
 そして二人はほぼ同時にとっておきの必殺技を繰り出す。

「ツヴァイバレット!」

 リボルバーの引き金を引いた瞬間、両ウデに強烈な反動が襲い、思わずのけぞってしまう。だが射撃は完璧だ。放たれた魔弾は目標へ一直線に飛翔する。圧縮されまくったマナが徐々に膨れ上がっていき、膨大な破壊力を有したまま光弾へと。大気を切り裂きうなりをあげながら、得物を食い破ろうと突き進む。その威力、貫通力はすさまじく、多少の防壁なら軽くぶち抜いていくほどの代物だ。

雷刃一閃らいばいっせん!」 

 レティシアのサヤから抜き放たれる刃は、ほとばしる高圧電流をまとっていた。紫電で焼き切りながら斬り裂くことで、斬撃の威力を極限まで高めているのだろう。そして抜刀されくり出される絶技。彼女の技量もありその剣速、精確無慈悲さはずば抜けている。もはや目で追い切れないほどの紫電の一閃。軌道上にほとばしる雷光の軌跡を残しながら、標的を斬り裂いていく。ひとたびその雷剣の間合いに入ってしまったら、一刀のもとに両断される未来しかないだろう。
 そして魔弾と超斬撃が炸裂。その絶大な威力を持って、クリスタルガーゴイルの翼部分に大きな亀裂を与えていく。

「はんまーよ、くだけー」

 シンヤたちのあとに、イオが飛び込んでくる。
 彼女は手を大きくかかげており、その頭上には四メートルほどのマナで生成した淡い緑色のハンマーが。イオはその鈍器を空中で思いっきり振りかぶり、ぶん投げるように手を振るった。次の瞬間、ハンマーがすごい勢いでフルスイング。その圧倒的質量と暴力の塊が、クリスタルガーゴイルの大きくひび割れた翼にもろに入っていく。結果、けたましいクリスタルの砕ける音がひびき渡った。

「ガァ~~~~~ッ!?」

 そう、ハンマーがクリスタルの翼を容赦なく粉砕していったのだ。これによりクリスタルガーゴイルは右翼を破壊しつくされていく。さらにその衝撃の勢いは止まらず、もう片翼も半分近くまで砕かれていった。
 そのザマではもう飛ぶこと叶わず、翼でのガードもままならないだろう。

「これでとどめだよ!」

 そこへトワがためにためた高出力の極光を剣にまとわせ、クリスタルガーゴイルへ飛びかかっていった。
 敵は空中に逃げれず、足は張り付いた氷により身動きが取れないまま。とどめをさすのに絶好の機会である。
 トワが剣を振り下ろし、攻撃しようとしたまさに刹那。

「ガァーーッ!?」

 クリスタルガーゴイルは極光の斬撃に、強烈な身の危険を感じたのだろう。死に物狂いで足を拘束している氷を砕き自由に。トワの剣の間合いから逃れようと後ずさり、ギリギリのところで緊急回避しだした。
 これではせっかくのトワの渾身の一撃が、空振りに終わってしまうと思いきや。

「ムダだよ! これはわたしの新必殺技! オーロラルエッジ!」

 トワが必殺技を叫びながら、剣を振るう。
 本来ならギリギリのところでかわされた一撃であったが。

「あれはあのときの!?」

 なんとトワが剣を全力で振るった瞬間、極光の斬撃が飛翔したのだ。
 それはかつてミリーやゼノと戦ったとき、勝負を決めたであろう一撃。しかもあのときより出力、斬撃の鋭さが上がっている。どうやらいつの間にか、完全にモノにしていたらしい。
 飛翔する極光の刃はその邪を払うまばゆい輝きをきらめかせ、標的へと吸い込まれていく。さすがに後ずさっている状況で回避は不可能であり、たちまちクリスタルガーゴイルの胴体に斬撃が深々と入った。そして極光がクリスタルガーゴイルを呑み込んでいき、切り裂いていく。

「ガァ~~~~~~ッ!?」

 クリスタルガーゴイルはけたましい悲鳴を上げた。
 魔に対し効果抜群の極光ゆえ、そのダメージは致命傷レベル。まるで毒のように敵をむしばみ、滅していくのだ。
 そしてクリスタルガーゴイルはひざをつき、うずくまる。オーロラルエッジにより、胴体に深々と入った傷。そこからどんどん亀裂が入っていっており、もはや瀕死ひんしに近い状態。戦闘続行は不可能だろう。あとはとどめをさすだけだ。

「やった! 決まった! みんなわたしやったよ!」

 必殺技が華麗に決まり、トワがぴょんぴょん跳びはねながら大喜びしだす。
 
「ああ、トワ、よくやった。でも喜ぶのはあとだ。先にとどめを」
「はっ、そうだった!? 少しかわいそうだけど、これで!」

 トワは剣に極光をまとわせとどめの一撃を放つため、近づこうと。
 しかしその瞬間。

「ガァッ!」

 クリスタルガーゴイルは傷口を押さえながら、死にもの狂いで逃走を開始。背を向け、全速力で駆けていく。以外に地上でも俊敏に動けるらしい。

「あっ!? にげちゃった!?」
「マズイ、せっかくあそこまで追いこんだのに、逃げられ回復でもされたらたまったもんじゃないぞ! レティシア!」
「ああ、もう! 逃がすか! 待ちなさい!」

 レティシアは慌てて追いかけようと。
 このメンバーの中で一番俊敏な彼女に、任せるしかない。
 邪神側には、離れた場所へ一気に移動できる手段がある。もしそれを使われ転移でもされたら、手が出せなくなってしまうのだ。早くとどめをささないと、大変なことに。

「やばい、逃げられるかも!?」

 猛ダッシュするレティシアだが、予想外の逃走に少し出遅れたこと。さらに敵があの図体だというのに思いのほか速かったことから、追いつけるかはかなりギリギリといったところ。このままでは逃がしてしまう恐れが。
 しかしそこへ突如とつじょ、クリスタルガーゴイルの進行方向から、雷光のごとき閃光が襲い掛かり。
 
「ガァ~~ッ!?」

 クリスタルガーゴイルの胸板に、紫電をまとったカタナが深々と突き立てられていく。
 そこにはシンヤたちが知っている人物が。

「サクリ!?」
「サクリちゃん!?」

 シンヤとトワは急な乱入者に驚きを隠せない。
 今ごろフォルスティア教会側と連携をとっているであろう、冒険者のサクリの姿があったのだ。彼女はクリスタルガーゴイルの胸板にカタナを突き刺しており、そして。

「雷のくさびよ」

 左手をかかげ、雷の魔法を行使。
 するとクリスタルガーゴイルの周囲に、ほとばしる雷で生成された一メートルほどのくいが七本出現。楔はたちまち標的へと降りそそぎ、クリスタルガーゴイルの身体に突き刺さっていく。しかもその直後、杭からいかずちがあふれだし、クリスタルガーゴイルに高圧の電流が襲った。

「ガァ~~~~ッ!?」

 断末魔を上げるクリスタルガーゴイル。そのクリスタルの身体がどんどん砕けていき。
 そして最後は跡形もなく、砕け散っていった。

「――ふぅ」

 サクリはカタナをサヤにおさめながら、一息つく。
 彼女の周りにはクリスタルの細かな破片がキラキラとただよっており、美人なサクリの容姿を一層に際立たせていた。
 そんな彼女へみな駆けよる。

「サクリ、来てくれたのね!」
「うん、教会側との連携でやることはやってきたから、援軍にね。父さんたちの方はなんとかなってそうだったし、こっちに駆けつけたってわけ。そしたらなんか瀕死の敵が来たから、仕留めといた」
「さっすがサクリ! 頼りになる!」

 レティシアがサクリにガバっと抱き着き、ほめたたえる。

「助かったよ、サクリ。危うく逃げ出されるところだったぜ」
「なんか悪いね。いいところもらっちゃって」
「ははは、逃げられるよりは全然ましさ」
「うんうん! サクリちゃん、最後かっこよかったよー!」
「ありがと」

 強敵を倒した喜びを分かち合いながら、みんなでわいわいしていると。

「まさかクリスタルガーゴイルがやられるとはな」
「なっ!? ガルディアス!?」
「ひっ!?」

 なんと魔人ガルディアスが姿を見せたのだ。
 さっきまでアドルフたちとやり合っていたはず。このタイミングで来たということは、頃合いだと離脱してきたのだろうか。
 ちなみにトワはシンヤの背に隠れていたという。

「せめて思念体だけでも回収できないかと思ったが、やはりだめか。完全に散らばってしまっている。これではまた相当の月日が必要のようだ」
「今度はオレたちとやる気か?」

 リボルバーの銃口を向けながら問う。

「ふん、今日のところはこれで退いてやる。ただ次はそううまくいくと思うなよ。まだまだミルゼさまの進行は始まったばかり。ここからが本番なのだからな」

 ガルディアスはシンヤたちを忌々いまいましげににらんだあと、きびすを返し去っていく。そして黒い霧に包まれ、消えていった。

「行ってくれたか」
「――こわかったー」

 連戦になるとさすがに厳しいため、正直助かったといっていい。

「おまえらー、大丈夫かー!」

 ランドとローザが、シンヤたちの方へと駆け寄ってくる。
 どうやら向こうも戦闘が終わったみたいだ。

「ええ、なんとかね。ランドさんたちは?」
「無事よ。さすがに連戦続きで、みんなフラフラだけどね」
「そっか、よかった!」
「もうミリー疲れたー。早く帰って休みたいー」
「えへへー、わたしも。今日いろいろありすぎて、もう限界だよー」
「いおもー」

 ぐったりするミリーと、眠そうに目をこするトワとイオ。

「ふふっ、みんなお疲れさま! アルスタリアを無事守れたことだし、帰りましょうか!」

 レティシアはみなを代表してねぎらいの言葉を。
 こうしてシンヤたちはお互いの健闘をたたえながら、アルスタリアへと戻るのであった。


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