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2章5部 ミルゼ教の儀式
打ち上げパーティー
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アルスタリア前線基地跡地での戦いから一夜明け、次の日。夜となりアルスタリアの冒険者ギルド本部では、昨日の打ち上げパーティーが開かれていた。シンヤたちの歓迎会同様建物内を貸し切り状態にし、テーブルにおいしそうな料理や飲み物を並べてみんなでわいわいしているという。
「えっと、これとこれと」
シンヤは並べられた料理をお皿に取っていく。
(このサクリのおつまみ料理、絶対お酒と合うよなー。はぁ、年齢をもう少し高めにしておけば今ごろ)
大人たちが楽しそうに酒を飲んでいる方を見て、後悔を。
転生前はたまにたしなむ程度だったので、そこまで執着はない。だがサクリの作ったおつまみ系は、お酒と絶対合うレベルの代物なのだ。ここで飲めたらどれほどうまいものか。
思わずうらやましげに、大人組を見つめてしまう。
「ガハハ、今回は大暴れしまくったな。やっぱり大仕事のあとの酒はうめー」
「ランド飲みすぎじゃない? そんなんだと明日、二日酔いで寝込むことになるかもしれないわ」
豪快に酒を飲むランドへ、ワイングラス片手に一緒に飲んでいたローザがたしなめていた。
「それぐらいの働きはしたんだし、大目に見てくれよ! な、アドルフ!」
「――ああ、そうだよね……」
ランドに背中をバシバシたたかれ、アドルフは気落ちした様子で答えた。彼もみなと一緒に酒を飲んでおり、だいぶ出来上がっている。ただ前シンヤにそうしたように、かなりめんどくさい感じになっているようだ。
ちなみに対人恐怖症のアドルフは、始めこの打ち上げパーティーに参加しないつもりでいたらしい。だがランドに無理やり連行され、酒を飲まされて今にいたるという。
「おいおい、なにそんなしけた感じで飲んでんだよ。もっとがばーっと飲んで楽しもうぜ! おまえが今回の勝利の立役者といってもいいんだからよ!」
「ええ、さすがはアドルフさん。一人であれだけの魔物を、バッサバッサと斬り捨ててみせるなんて。まさに剣聖のアドルフの名に偽りなしね」
「だよな。相変わらず、見惚れる剣さばきだったぜ!」
「――うぅ……、でもみんなが駆けつけてくれてからは、全然だったし……。最後らへんなんかあの魔人を抑えきれなくなって、加勢までしてもらって……。ふがいない……」
二人の賞賛の言葉に、アドルフは酒を飲みながらシュンとしてしまう。
シンヤたちがアルスタリア前線基地跡地に向かったあと、ガルディアスと戦っていたアドルフの戦果はいまいちだったらしい。対人恐怖症により本来の力がだせず、苦戦しまくったとか。とはいえそれでもベテラン冒険者と、同レベルぐらいの力は発揮できていたらしいので、そこまでひどい醜態はさらしていないとのこと。
「まあ、あそこから動きと剣の冴えが一段と落ちていったのは、確かだな。ソロのアドルフの片鱗を改めて味あわされたぜ」
「でもそれは今に始まったことじゃないでしょ。そうなることはみんな察してたし、なによりそれまでの戦果で十分すぎるぐらい活躍してた。誇っていいわよ。アドルフさん」
「――うぅ……、そうかな、ごくごく」
アドルフはめそめそしながら、酒をぐびぐび飲み干す。
「そうだ、飲め飲め! とことん付き合うぜ!」
「まあ、今日ぐらい、いいかしらね」
そんな彼をランドとローザがフォローして、一緒に飲んでいた。
ほかの大人組たちもわいわい楽しく飲んで食べて、盛り上がっている様子だ。
シンヤは料理を取り終え、子供組のほうへと戻る。
「よし、この分なら料理もお酒も足りそうね」
するとサクリが並べられている料理を見ながら、満足げにうなづいていた、
ちなみにこの打ち上げパーティーの準備は、すべてサクリがしてくれたらしい。料理と酒の注文、さらに彼女自信もおつまみや料理を作ってくれたのだ。もはやなにからなにまでやってくれていて、頭が上がらないほどであった。
「ははは、にしてもほんと豪勢だな、サクリ」
「無事にアルスタリアを守ったこと、クリスタルガーゴイルを討伐したことで、教会側からたんまり報酬をもらったからね。その分、料理やお酒をワンランク上げておいたの」
「だからこんなにも。ははは、ナイス采配だ」
「個人の報酬もけっこうな額になってるから、楽しみにしとくといいよ」
サクリがウィンクして、朗報を知らせてくれる。
シンヤたちはアルスタリアを守りたい一心で戦っていただけなのだが、終わってみるとそこにちゃんと報酬がついていたのだ。そこらへんも教会側と連携ついでに、交渉してくれていたらしいのだ。
「それはほんと助かる。しばらくは金を稼ぎまくって、冒険に向けての準備をしようと思ってたところだからな」
「ねー、サクリ先輩! ミリーとゼノくん、クリスタルガーゴイルの動きを封じて、瀕死に追い込む特大チャンスを作ったんだー! すごくがんばったでしょ! だから報酬少しはずんでよー!」
そこへミリーがやってきて、サクリにおねだりをし始めた。
「そんなことしたら、分配がややこしくなるんだけど」
「そこをなんとか! 実はほしいお洋服とアクセがあって!」
ミリーは手を合わせ、必死に頼み込む。
「――はぁ……、前も同じこと言ってなかった?」
「いいじゃん! おしゃれは女の子の命! よりかわいくなるために、努力はおしまないのがミリーのモットーなの!」
「ボーナスなら、教会との連携から報酬の交渉や分配、さらにクリスタルガーゴイルにとどめを刺したあたしが欲しいぐらいなんだけど」
ミリーの熱烈な主張に、サクリは頭を抱えながら肩をすくめた。
「――ぐっ、それを言われると……」
「サクリ先輩、俺の報酬を減らして、ミリーにその分上乗せしといてください。俺、あまり金使わないんで」
ミリーのおねだりが失敗に終わると思いきや、ゼノがやってきて進言を。
「――うぅ……、ゼノくん、ありがと! 大好きー!」
そのイケメン発言に、ミリーが感激しながらゼノに抱き着いた。
これにはまた頭を抱えるサクリ。
「あなた、またミリーを甘やかせて」
「とどめといえば、サクリの最後の怒涛の連撃はすごかったな」
サクリがみせた、クリスタルガーゴイルへの見事な体さばきからのカタナの絶技。さらにそこへ強烈な魔法まで行使していた。そのウデ前から、レティシアクラスの冒険者なのは間違いなかった。
「ふっ、まあね」
サクリは髪を優雅にはらう。
「レティシアは剣技一本のバトルスタイルみたいだったが、サクリは魔法も使うんだな」
「あたし器用だから、魔法の才能もあったの。だからお姉ちゃんと同じ父さん譲りの剣技プラス、魔法を駆使して戦う魔法剣士ってわけ」
「なんかそう聞くとすごいな」
レティシアと同じ剣技に、強力な魔法まで駆使して戦う。そのダブルスタイルは、かなり強いのでは。
「それなりに剣のウデには自信があるけど、お姉ちゃんと比べるとまだまだって感じね。だから総合戦力的にみたら、やっぱりお姉ちゃんに軍配があがると思う」
「へー」
「ガハハ、サクリ、もっと酒を持ってきてくれ!
「ハイハイ、ちょっと待ってて」
ランドの頼みに、サクリはやれやれと酒を持っていく。
なのでシンヤはトワたちの方へと戻った。
「わぁー、そんなに景色がいいんだ! アルマティナ、行ってみたいなー」
「うん、すごくおおすすめだから、今度遊びにきてねー」
するとトワとイオが仲よくおしゃべりしていた。
トワは人見知りしてる様子はなく、シンヤやリアと同じくらいの距離感で話せているようだ。イオはおっとりしているため、怖くなく話しやすいのだろう。
「トワたちも楽しんでるみたいだな」
「えへへ、始めはなかなか慣れなかったけど、こうやってみんなでおいしいもの食べながらワイワイするのはやっぱりいいね」
「いお的にはもう少し静かな方がいいけど、おいしいもの食べられるからまあいいかなーって感じー。もぐもぐ」
はしゃぐトワと、料理を堪能するイオ。
騒がしいところが好きそうでないイオもイオで、パーティーを満喫しているようだ。
「ははは、いっぱい食え食え、今日は大活躍だったからな。なんたってイオのおかげで、クリスタルガーゴイルを弱体化した状態に追い込むことが出来たんだ。これからも頼りにしてるぞ」
イオの髪をくしゃくしゃなでながら、激励の言葉を伝える。
「――うぅー、これからもー……」
するとイオが肩を落とし、どんよりしだした。
「どうしたんだ?」
「だってー、これから邪神の眷属攻略のため、いっぱい働かないといけないんでしょー。ほんとなら迷ってたみたいな感じで、あと十数日はぶらぶらしてる予定だったのにー」
「おいおい、そんなにサボる気だったのかよ!?」
「せっかく師匠の厳しい修行の日々から、抜け出せたんだよー。その分、休暇を満喫したかったんだもんー。――ううん、今からでもおそくないかもー。逃げるべきー?」
表情を暗くしていたイオであったが、なにやら妙案をひらめいた様子。
「ふふっ、イオ、逃がさないよ」
そこへレティシアが後ろからイオの両肩をつかみ、意味ありげにほほえんだ。
「リースさんには無事こっちに到着したって、報告しといた。もしここから逃げ出したら完全に故意と見なされ、言い逃れできなくならない?」
「うぅー」
「というわけで観念してね。リースさんには私の代わりにたっぷりこき使ってやってくれ、って言われてるからいろいろアテにさせてもらうよ!」
「――はーい……」
もう逃げることは叶わないと理解し、しぶしぶうなずくイオ。
「そうだ、改めてシンヤとトワにお礼を言わないとね。二人が敵の狙いを突き止め、一緒に戦ってくれてなかったら、今ごろアルスタリアは大変なことになってたかもしれない。だからありがとう!」
そしてレティシアはシンヤとトワへ、心からの礼を口に。
「ははは、こうして無事アルスタリアを守り切れたのも、みんなが力を貸してくれたおかげだ。な? トワ」
「うん、もちろんそうだよ」
「もう、謙遜しちゃって! やっぱりさすがは勇者さまね! トワがアタシたちの味方にいてくれるなんて、これほど心強いことはないよ!」
レティシアがトワへぎゅーっと抱き着きながら、絶賛する。
「――そ、そう? あはは……」
テレくさそうにするトワであったが、よく見るとその表情にはどこか陰りが。なにか彼女の中で思うところがあるようだ。
「ふふっ、それと一つ大事な話があったんだ。今後邪神の眷属攻略にあたり、アタシもあなたたちのパーティーに加えてもらおうと思うんだけどいい?」
「え? 攻略チームの代表であるレティシアが、直々に来てくれるのか?」
「ええ、おとなしくみんなの報告を待ってるなんて性に合わないし、攻略の最前線である勇者のパーティーに参加するのが一番いいかなって! 代表としての細かいことは、全部サクリに任せてね!」
「オレたちだけだと旅に不慣れすぎて、正直困ってたところなんだ。ベテラン冒険者のレティシアがパーティーに入ってくれるなんて、もう願ったり叶ったりだ。マジで助かるよ」
「うん! レティシアさんなら、大歓迎だよ!」
彼女の提案に、喜ぶシンヤたち。
シンヤとトワはこの世界に来たばっかりで、冒険にまったく慣れていない。リアも封印の巫女としてずっとリザベルトの街にいたため、どちらかというとシンヤたちと同じ立場。よって今後フォルスティア大陸各地を回ることを考えると、旅に精通しており、冒険に役立つ知識や技術を持った者が、仲間に加わってくれるのは非常にありがたかったといっていい。
「ふふっ、ならちょうどよかった! これからもよろしくね! 邪神の眷属の攻略も大事だけど、冒険の方もいっぱい楽しみましょう!」
レティシアは胸に手を当て、ウキウキでウィンクしてくる。
「いってらっしゃーい。いおはおとなしくここでお留守番しながら、いろいろやっとくよー」
イオが手を振りながら、いかにもやる気がなさそうに伝えてくる。
「それなんだけどイオもアタシと一緒に、この勇者パーティーに加入してもらおうと思ってるんだ。シンヤはどう思う?」
「確かに魔法でいろいろ分析や干渉ができたりするイオがいてくれたら、大助かりだな」
アルスタリア前線基地跡地でみせた、魔人レネの術式への干渉技術。今後もミルゼ側と戦っていく中で、必要となってくる可能性は非常に高い。パーティーに入ってくれたら、どれだけ心強いことか。
「でしょ。この子の技術をここで待機させておくのは、さすがにもったいないよね!」」
「よし、イオにも来てもらうとするか」
「わー、イオちゃんも仲間になってくれるんだ!」
「むー、わかったよー。こうなったらその分、しんやにいっぱいお世話してもらうー」
もはや決定してしまった空気に、イオは肩をすくめながら了承を。そして目をキランとさせて、なにやら主張しだす。
「「お世話?」」
その言葉に、首をかしげるレティシアとトワ。
「あれ? もしかしてオレ、今墓穴を掘った可能性が……?」
これまでのイオとのやり取りが思い返される。そう、彼女はトワとはまた別ベクトルで世話が焼ける少女だったのだ。これにはイヤの予感が、こみあげてしかたがない。
ただイオの加入は冒険面で見ると、あまりにプラス。ゆえにここはおとなしく受け入れることに。
「まあ、今は心強い仲間が二人増えたことを喜ぶとするか。期待してるぜ、レティシア、イオ」
「ふふっ、まかせなさい!」
「まー、ほどほどにがんばるー」
胸をぽんっとたたき力強く応えるレティシアと、だらけながら軽く応えるイオ。
こうしてシンヤたちのパーティーに、頼もしい仲間が二人入ってくれるのであった。
「えっと、これとこれと」
シンヤは並べられた料理をお皿に取っていく。
(このサクリのおつまみ料理、絶対お酒と合うよなー。はぁ、年齢をもう少し高めにしておけば今ごろ)
大人たちが楽しそうに酒を飲んでいる方を見て、後悔を。
転生前はたまにたしなむ程度だったので、そこまで執着はない。だがサクリの作ったおつまみ系は、お酒と絶対合うレベルの代物なのだ。ここで飲めたらどれほどうまいものか。
思わずうらやましげに、大人組を見つめてしまう。
「ガハハ、今回は大暴れしまくったな。やっぱり大仕事のあとの酒はうめー」
「ランド飲みすぎじゃない? そんなんだと明日、二日酔いで寝込むことになるかもしれないわ」
豪快に酒を飲むランドへ、ワイングラス片手に一緒に飲んでいたローザがたしなめていた。
「それぐらいの働きはしたんだし、大目に見てくれよ! な、アドルフ!」
「――ああ、そうだよね……」
ランドに背中をバシバシたたかれ、アドルフは気落ちした様子で答えた。彼もみなと一緒に酒を飲んでおり、だいぶ出来上がっている。ただ前シンヤにそうしたように、かなりめんどくさい感じになっているようだ。
ちなみに対人恐怖症のアドルフは、始めこの打ち上げパーティーに参加しないつもりでいたらしい。だがランドに無理やり連行され、酒を飲まされて今にいたるという。
「おいおい、なにそんなしけた感じで飲んでんだよ。もっとがばーっと飲んで楽しもうぜ! おまえが今回の勝利の立役者といってもいいんだからよ!」
「ええ、さすがはアドルフさん。一人であれだけの魔物を、バッサバッサと斬り捨ててみせるなんて。まさに剣聖のアドルフの名に偽りなしね」
「だよな。相変わらず、見惚れる剣さばきだったぜ!」
「――うぅ……、でもみんなが駆けつけてくれてからは、全然だったし……。最後らへんなんかあの魔人を抑えきれなくなって、加勢までしてもらって……。ふがいない……」
二人の賞賛の言葉に、アドルフは酒を飲みながらシュンとしてしまう。
シンヤたちがアルスタリア前線基地跡地に向かったあと、ガルディアスと戦っていたアドルフの戦果はいまいちだったらしい。対人恐怖症により本来の力がだせず、苦戦しまくったとか。とはいえそれでもベテラン冒険者と、同レベルぐらいの力は発揮できていたらしいので、そこまでひどい醜態はさらしていないとのこと。
「まあ、あそこから動きと剣の冴えが一段と落ちていったのは、確かだな。ソロのアドルフの片鱗を改めて味あわされたぜ」
「でもそれは今に始まったことじゃないでしょ。そうなることはみんな察してたし、なによりそれまでの戦果で十分すぎるぐらい活躍してた。誇っていいわよ。アドルフさん」
「――うぅ……、そうかな、ごくごく」
アドルフはめそめそしながら、酒をぐびぐび飲み干す。
「そうだ、飲め飲め! とことん付き合うぜ!」
「まあ、今日ぐらい、いいかしらね」
そんな彼をランドとローザがフォローして、一緒に飲んでいた。
ほかの大人組たちもわいわい楽しく飲んで食べて、盛り上がっている様子だ。
シンヤは料理を取り終え、子供組のほうへと戻る。
「よし、この分なら料理もお酒も足りそうね」
するとサクリが並べられている料理を見ながら、満足げにうなづいていた、
ちなみにこの打ち上げパーティーの準備は、すべてサクリがしてくれたらしい。料理と酒の注文、さらに彼女自信もおつまみや料理を作ってくれたのだ。もはやなにからなにまでやってくれていて、頭が上がらないほどであった。
「ははは、にしてもほんと豪勢だな、サクリ」
「無事にアルスタリアを守ったこと、クリスタルガーゴイルを討伐したことで、教会側からたんまり報酬をもらったからね。その分、料理やお酒をワンランク上げておいたの」
「だからこんなにも。ははは、ナイス采配だ」
「個人の報酬もけっこうな額になってるから、楽しみにしとくといいよ」
サクリがウィンクして、朗報を知らせてくれる。
シンヤたちはアルスタリアを守りたい一心で戦っていただけなのだが、終わってみるとそこにちゃんと報酬がついていたのだ。そこらへんも教会側と連携ついでに、交渉してくれていたらしいのだ。
「それはほんと助かる。しばらくは金を稼ぎまくって、冒険に向けての準備をしようと思ってたところだからな」
「ねー、サクリ先輩! ミリーとゼノくん、クリスタルガーゴイルの動きを封じて、瀕死に追い込む特大チャンスを作ったんだー! すごくがんばったでしょ! だから報酬少しはずんでよー!」
そこへミリーがやってきて、サクリにおねだりをし始めた。
「そんなことしたら、分配がややこしくなるんだけど」
「そこをなんとか! 実はほしいお洋服とアクセがあって!」
ミリーは手を合わせ、必死に頼み込む。
「――はぁ……、前も同じこと言ってなかった?」
「いいじゃん! おしゃれは女の子の命! よりかわいくなるために、努力はおしまないのがミリーのモットーなの!」
「ボーナスなら、教会との連携から報酬の交渉や分配、さらにクリスタルガーゴイルにとどめを刺したあたしが欲しいぐらいなんだけど」
ミリーの熱烈な主張に、サクリは頭を抱えながら肩をすくめた。
「――ぐっ、それを言われると……」
「サクリ先輩、俺の報酬を減らして、ミリーにその分上乗せしといてください。俺、あまり金使わないんで」
ミリーのおねだりが失敗に終わると思いきや、ゼノがやってきて進言を。
「――うぅ……、ゼノくん、ありがと! 大好きー!」
そのイケメン発言に、ミリーが感激しながらゼノに抱き着いた。
これにはまた頭を抱えるサクリ。
「あなた、またミリーを甘やかせて」
「とどめといえば、サクリの最後の怒涛の連撃はすごかったな」
サクリがみせた、クリスタルガーゴイルへの見事な体さばきからのカタナの絶技。さらにそこへ強烈な魔法まで行使していた。そのウデ前から、レティシアクラスの冒険者なのは間違いなかった。
「ふっ、まあね」
サクリは髪を優雅にはらう。
「レティシアは剣技一本のバトルスタイルみたいだったが、サクリは魔法も使うんだな」
「あたし器用だから、魔法の才能もあったの。だからお姉ちゃんと同じ父さん譲りの剣技プラス、魔法を駆使して戦う魔法剣士ってわけ」
「なんかそう聞くとすごいな」
レティシアと同じ剣技に、強力な魔法まで駆使して戦う。そのダブルスタイルは、かなり強いのでは。
「それなりに剣のウデには自信があるけど、お姉ちゃんと比べるとまだまだって感じね。だから総合戦力的にみたら、やっぱりお姉ちゃんに軍配があがると思う」
「へー」
「ガハハ、サクリ、もっと酒を持ってきてくれ!
「ハイハイ、ちょっと待ってて」
ランドの頼みに、サクリはやれやれと酒を持っていく。
なのでシンヤはトワたちの方へと戻った。
「わぁー、そんなに景色がいいんだ! アルマティナ、行ってみたいなー」
「うん、すごくおおすすめだから、今度遊びにきてねー」
するとトワとイオが仲よくおしゃべりしていた。
トワは人見知りしてる様子はなく、シンヤやリアと同じくらいの距離感で話せているようだ。イオはおっとりしているため、怖くなく話しやすいのだろう。
「トワたちも楽しんでるみたいだな」
「えへへ、始めはなかなか慣れなかったけど、こうやってみんなでおいしいもの食べながらワイワイするのはやっぱりいいね」
「いお的にはもう少し静かな方がいいけど、おいしいもの食べられるからまあいいかなーって感じー。もぐもぐ」
はしゃぐトワと、料理を堪能するイオ。
騒がしいところが好きそうでないイオもイオで、パーティーを満喫しているようだ。
「ははは、いっぱい食え食え、今日は大活躍だったからな。なんたってイオのおかげで、クリスタルガーゴイルを弱体化した状態に追い込むことが出来たんだ。これからも頼りにしてるぞ」
イオの髪をくしゃくしゃなでながら、激励の言葉を伝える。
「――うぅー、これからもー……」
するとイオが肩を落とし、どんよりしだした。
「どうしたんだ?」
「だってー、これから邪神の眷属攻略のため、いっぱい働かないといけないんでしょー。ほんとなら迷ってたみたいな感じで、あと十数日はぶらぶらしてる予定だったのにー」
「おいおい、そんなにサボる気だったのかよ!?」
「せっかく師匠の厳しい修行の日々から、抜け出せたんだよー。その分、休暇を満喫したかったんだもんー。――ううん、今からでもおそくないかもー。逃げるべきー?」
表情を暗くしていたイオであったが、なにやら妙案をひらめいた様子。
「ふふっ、イオ、逃がさないよ」
そこへレティシアが後ろからイオの両肩をつかみ、意味ありげにほほえんだ。
「リースさんには無事こっちに到着したって、報告しといた。もしここから逃げ出したら完全に故意と見なされ、言い逃れできなくならない?」
「うぅー」
「というわけで観念してね。リースさんには私の代わりにたっぷりこき使ってやってくれ、って言われてるからいろいろアテにさせてもらうよ!」
「――はーい……」
もう逃げることは叶わないと理解し、しぶしぶうなずくイオ。
「そうだ、改めてシンヤとトワにお礼を言わないとね。二人が敵の狙いを突き止め、一緒に戦ってくれてなかったら、今ごろアルスタリアは大変なことになってたかもしれない。だからありがとう!」
そしてレティシアはシンヤとトワへ、心からの礼を口に。
「ははは、こうして無事アルスタリアを守り切れたのも、みんなが力を貸してくれたおかげだ。な? トワ」
「うん、もちろんそうだよ」
「もう、謙遜しちゃって! やっぱりさすがは勇者さまね! トワがアタシたちの味方にいてくれるなんて、これほど心強いことはないよ!」
レティシアがトワへぎゅーっと抱き着きながら、絶賛する。
「――そ、そう? あはは……」
テレくさそうにするトワであったが、よく見るとその表情にはどこか陰りが。なにか彼女の中で思うところがあるようだ。
「ふふっ、それと一つ大事な話があったんだ。今後邪神の眷属攻略にあたり、アタシもあなたたちのパーティーに加えてもらおうと思うんだけどいい?」
「え? 攻略チームの代表であるレティシアが、直々に来てくれるのか?」
「ええ、おとなしくみんなの報告を待ってるなんて性に合わないし、攻略の最前線である勇者のパーティーに参加するのが一番いいかなって! 代表としての細かいことは、全部サクリに任せてね!」
「オレたちだけだと旅に不慣れすぎて、正直困ってたところなんだ。ベテラン冒険者のレティシアがパーティーに入ってくれるなんて、もう願ったり叶ったりだ。マジで助かるよ」
「うん! レティシアさんなら、大歓迎だよ!」
彼女の提案に、喜ぶシンヤたち。
シンヤとトワはこの世界に来たばっかりで、冒険にまったく慣れていない。リアも封印の巫女としてずっとリザベルトの街にいたため、どちらかというとシンヤたちと同じ立場。よって今後フォルスティア大陸各地を回ることを考えると、旅に精通しており、冒険に役立つ知識や技術を持った者が、仲間に加わってくれるのは非常にありがたかったといっていい。
「ふふっ、ならちょうどよかった! これからもよろしくね! 邪神の眷属の攻略も大事だけど、冒険の方もいっぱい楽しみましょう!」
レティシアは胸に手を当て、ウキウキでウィンクしてくる。
「いってらっしゃーい。いおはおとなしくここでお留守番しながら、いろいろやっとくよー」
イオが手を振りながら、いかにもやる気がなさそうに伝えてくる。
「それなんだけどイオもアタシと一緒に、この勇者パーティーに加入してもらおうと思ってるんだ。シンヤはどう思う?」
「確かに魔法でいろいろ分析や干渉ができたりするイオがいてくれたら、大助かりだな」
アルスタリア前線基地跡地でみせた、魔人レネの術式への干渉技術。今後もミルゼ側と戦っていく中で、必要となってくる可能性は非常に高い。パーティーに入ってくれたら、どれだけ心強いことか。
「でしょ。この子の技術をここで待機させておくのは、さすがにもったいないよね!」」
「よし、イオにも来てもらうとするか」
「わー、イオちゃんも仲間になってくれるんだ!」
「むー、わかったよー。こうなったらその分、しんやにいっぱいお世話してもらうー」
もはや決定してしまった空気に、イオは肩をすくめながら了承を。そして目をキランとさせて、なにやら主張しだす。
「「お世話?」」
その言葉に、首をかしげるレティシアとトワ。
「あれ? もしかしてオレ、今墓穴を掘った可能性が……?」
これまでのイオとのやり取りが思い返される。そう、彼女はトワとはまた別ベクトルで世話が焼ける少女だったのだ。これにはイヤの予感が、こみあげてしかたがない。
ただイオの加入は冒険面で見ると、あまりにプラス。ゆえにここはおとなしく受け入れることに。
「まあ、今は心強い仲間が二人増えたことを喜ぶとするか。期待してるぜ、レティシア、イオ」
「ふふっ、まかせなさい!」
「まー、ほどほどにがんばるー」
胸をぽんっとたたき力強く応えるレティシアと、だらけながら軽く応えるイオ。
こうしてシンヤたちのパーティーに、頼もしい仲間が二人入ってくれるのであった。
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