創星のレクイエム

有永 ナギサ

文字の大きさ
36 / 114
1章 第3部 運命の出会い

36話 リルの問い

しおりを挟む
「なんだ急に?」
「少し聞いてみたくなっちゃって。この世界はジンくんが知っての通り、すでに取り返しのつかないところまで狂っている。なんたって世界を動かす歯車そのものが、ズレてしまってるんだもん。もう誰にも止められず、世界は混沌こんとんに浸食されるしかない」

 リルはどこまでも広がる空へと手を伸ばしながら、どこか重々しい口調でかたる。

「ははは、どうもこうも、ただ単に面白いとしか言いようがないな。普通の人間には迷惑きわまりない話だろうが、オレのようなまともじゃない人間からしてみれば、なかなか退屈しないいい世界だと思うぞ」
「ふふっ、ジンくんらしい答えだね」
「じゃあ、逆に聞くが、リルにはどう映ってるんだ?」

 ほほえましそうに笑うリルに、先程の質問をたずね返してみた。
 彼女がただ者でないのはわかっている。なのでなにかすごい答えを持っている気がしたのだ。

「わたし? そうだねー。正直に言うとよくわからない……、かな……。こうなることを望んでいたはずだけど、実際目にしてみるとなんというか……。うん、今さらながらすごく複雑な気分だよ。本当にこんなものを望んでいたのかなってね」

 ほおにポンポン指を当てながら、首をかしげだすリル。そしてなにやら遠い目をして、物思いにふけ始めた。

「なんだそれ?」
「さあ、なんだろうねー? こればっかりは本人に聞いてみないと……」

 陣のツッコミに、リルは意味のわからないことを口にする。
 そのことについて聞こうとするが、彼女は話を逸らそうとしているのか話題を再び陣の方へ。

「でも、そっかー。ジンくんはやっぱりこの世界を肯定しちゃうんだね」
「世界がどれだけ狂っていようと、オレはオレのやりたことをつらぬくまでだ。星詠ほしよみの求道をな」
「星詠みの求道ね。でもその求めたものを手に入れた結果、ジンくんは取り返しのつかないことになるかもしれないんだよ? 星詠みとはそういうもの。人智じんちを超えた力ゆえに、いづれは耐え切れなくなってしまう」

 リルは陣の上着をぎゅっとにぎりしめながら、身を案じるように告げてくる。

「それがどうした。壊れたなら、オレがその程度だっただけのこと。禁忌の力に手を伸ばそうとしてるんだから、そのぐらいの覚悟はとうにできてるさ。すべては前に進むため。力を持て余してるこの停滞した時間から、抜け出したいんだからな」

 陣は自身の想いをかたりながら天に手を伸ばし、なにかをつかみ取るかのようこぶしをにぎった。
 それから再びリルに向き直り、四条しじょう陣の力へのかわきを告白する。

「なんたってガキのころからもう、魔法やそこらの星詠みといった表側の世界の景色を見透かしちまってるんだ。読み解いてしまったがゆえに面白みがなく、新鮮味が感じられない。そう、この渇きを満たすには、もっとケタ違いの劇薬が必要だ。オレの力でどうすることもできないぐらいの難解に出会うことで始めて、この空虚な生から脱することができる……。ははは、ようは未知を求めて、生を実感したいってわけだな」
「ジンくんはあの子と同類だけど、違う選択を選んだんだね。あの子はその果てに絶望を。キミはその果てに希望を見出した。それは実におろかで間違った答えだけど、わたしにとっては狂おしいほどいとおしい」

 するとリルはすべてを見透かしたような瞳で陣を見つめ、一人で納得を。

「ふふっ、やっぱりこれがわたしの嵯峨さがなんだね。ジンくんが行き着く果てを知りたくてたまらない。キミとどこまでも堕ちていって、壊れたいだなんて……。――ねえ、ジンくんは幸か不幸か女神に、はたまた悪魔に魅入られてしまったようだよ。だから引き返すなら早い方がいい。でないと狂い狂った運命はキミの手をとらえ、離してくれなくなっちゃうから」

 リルは数歩下がり、陣へ心の底からいつくしむようなまなざしを向ける。そしていのるように手を組み、意味ありげにウィンクしながら忠告してきた。

「ははは、上等だ。そんな面白そうなこと、オレからつかみにいってやるよ。たとえその果てに、滅びしか待ってなくてもな」

 だが陣はリルの不吉な予言を、歓迎だと笑い飛ばした。
 おそらく彼女の言葉はまぎれもない真実なのだろう。陣自身、ここで引かなければ取り返しのつかないことになる予感がしているのだ。そう、これ以上リルに近づけば危険だと、人としての本能が叫んでいるのだから。しかしその程度で引く陣ではなかった。みずからの力の渇きをうるおせるなら、たとえ地獄の片道切符であろうと喜んで突き進む。それが四条陣なのだ。

「ふふっ、あぁ、それでこそわたしの……」

 リルは満足げにほほえみ、いとおしそうに手を差し出してくる。そして万感の想いを込めてなにかをつぶやこうと。
 だがその言葉はつむがれることはなかった。なぜなら別の第三者の声が割り込んできたのだから。

「陣くんだー! やっほー、奇遇きぐうだねー」

 後ろを振り向くと、灯里が元気いっぱいに走ってくる姿が。

「一人でなにしてるの?」
「一人?」

 灯里はおかしなことを口にする。
 ここには陣とリルがいるので、一人という言葉はありえない。なので疑問を抱きながら、再びリルの方へ視線を。するとさっきまで彼女がいた場所には、驚くことに誰もいなかったのだ。

「どうしたの? きつねに化かされたような顔して」

 灯里はほおに指を当て、首をかしげてくる。

「――いや、別になんでも……」
「あ、そうそう、実は陣くんに、手伝ってもらいたいことがあるの!」

 灯里は内心混乱している陣をよそに、手を合わせ勢いよく頼みごとをしてくるのであった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

合成師

あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...