創星のレクイエム

有永 ナギサ

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2章 第1部 水無瀬灯里

59話 灯里との約束

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「――あれ……、――ここは……」
「おっ、やっと起きたか、灯里あかり

 きれいな月夜の空をながめ物思いにふけっていると、灯里が目を覚ます。
 今陣たちがいるのはとある十二階建てのビルの屋上。周りには誰もおらず、月の淡い光が周囲をやさしく包み込んでくれていた。
 先程の戦いのあと、学園にいた星魔教関係者がもうすぐ星葬機構が来ると知らせに来てくれたのだ。そのため気絶した灯里をお姫様だっこし、風の魔法を利用してこの場所まで避難してきたのであった。ちなみに灯里との戦いの中、星魔教の信者たちが裏でサポートしてくれていたらしい。彼らは魔道を求める者たちに対し、非常に協力的。ゆえに魔法で競いあいたい相手がいるという灯里の要請ようせいを快く聞き入れ、戦闘音の遮断や見張りをやってくれていたとのこと。

「そっか、私、負けちゃったんだ……」

 灯里はよろよろと立ち上がり、むねをぎゅっと押さえながら目をふせる。
 そう、先程の戦いで勝利したのは陣。灯里は最後の一撃同士の余波で、気絶してしまったのだ。

「ははは、こっちは荒事のプロだぞ? 素人しろうと相手に負けてられないさ」
「むー、でも惜しいところまではいったと思うんだけどなー」
「ははは、そんなことよりもだ、せいっ」

 悔しがる灯里の頭を、軽くチョップする。

「うっ、痛いよー、陣くん……」

 涙目で頭を押さえる灯里。

「おしおきだ。よくもまあ、あれだけ好き放題にやってくれたな。下手したら、けがどころの話じゃなかったんだぞ?」
「――あはは……、それはほら……、私たちぐらいになると、マナの防御ぼうぎょもお手のものでしょ? だから少しばかり無茶しても大丈夫かなーと思いまして……、あはは……」

 灯里は目をそらしながら、バツがわるそうに笑う。
 彼女の言う通り、魔法を使える者はマナによる防御ができるのだ。これはマナを放出して、一時的な壁。例えるならよろいを作るといっていい。マナはいわば無色の力の塊ゆえ、収束することで魔法をはじく盾になりうる。そのため通常大ケガをしかねない炎や雷なども、マナをクッションにすることでかなり軽傷にできるのであった。
 この防御方法はマナを集め放出するだけ。ゆえに魔法のように属性や形を指定せずに済み、そこまで精密な操作を必要としない。慣れれば無意識でも可能。実際陣も灯里も先程の戦闘中、なんども使ってダメージを抑え続けていた。ちなみにマナの壁による防御力は、そのマナの放出力で決まる。そして簡単なのだがマナを一気にかき集め放出するため、それなりに疲労が大きいという点も。あと相手が星詠ほしよみの場合、徐々に塗り潰されてしまうため魔法の時よりも効果が薄かった。

「――たく、まあ、その件は今ので不問にするとして」
「ほんと! やったー! 陣くん、やっさしー!」

 灯里は陣の腕を揺さぶりながら、笑顔で感謝の意を。

「代わりにリルの件に戻るぞ」
「うわー、そうなるのー。あーあ、これってどうせオレが勝ったから、リルを手放せって流れよねー。負けたからあまり強く言えないし、どうしよー……」

 喜ぶ灯里であったが、分がわるいリルの話になりがっくりうなだれる。

「――まあ、なんだ。あまり時間もないし、話を要約するとだな」
「要約すると?」
「リルのことはあきらめる。あいつのことはこれからも灯里が、面倒見てやってくれ」

 彼女の肩にぽんっと手を置き、陣の答えを告げた。

「え? それってどういうこと!?」
「言葉通りの意味だ。灯里のリルを想う気持ちもわからんでもないし、それを踏みにじってまで手に入れるのは、後味がわるすぎる。だからリルとの取り引きもおしまいだ。手を引くことにするさ」

 肩をすくめながら、灯里に笑いかけた。
 これは彼女との戦いの後、改めて出した答えである。灯里の価値観やリルに対する想い、それらを受け折れることにしたのだ。もはや灯里とリルの間に、四条陣が割り込むのは無粋ぶすい。二人はこれまで通りの関係で、陽だまりの日常を過ごすべきだと。

「――陣くん……」
「ははは、考えてみたら、お子さまのおりをするなんて、ごめんだしな。それならほかにもっと使い勝手のいい擬似恒星があるはずだ」
「あはは、リルが聞いてたら今ごろ、怒ってくる場面ですなー!」 

 陣の正直な感想に、灯里はおかしそうにツッコミを。

「となるとあとは灯里に降りかかる危険だが、そこはオレががんばるさ。二人の面倒はオレが見てやる。降りかかる火の粉があるものなら、振り払うまでだ」

 胸をどんっとたたき、宣言してやる。
 陣がリルをあきらめたとしても、問題はおわらない。灯里がリル・フォルトナーの擬似恒星を持ち続けるということは、今後多くの厄介事が降りかかることになってしまう。陣としてもこの事態を避けるために動いていたが、認めてしまった以上この件は回避できない。ならばどうすればいいか。答えは簡単。そう、陣が灯里の陽だまりの日々を守ればいい。そう、彼女を襲うであろう厄介事を、ことごとく解決していけばいいのだ。

「え?」
「お前らに関してはもう、他人事じゃないからな。一度乗り掛かった舟でもあるし、最後まで付きやってやるってことだよ。ほら、灯里が散々言ってただろ? 運命の出会い記念とかなんやらで、依頼料をタダにしろって。だからそういったもの全部まとめて、護衛の依頼を引き受けてやる。親友のよしみでな」
「――うぅ、ありがとう、陣くん……。そこまで私たちのことを想ってくれるなんて、あまりの感動に泣きそうになるよ……、ぐすん……」

 灯里は心を打たれたのか、涙ぐみながら感謝の言葉を伝えてくる。もはや感激のあまり泣き出してしまいそうな勢いでだ。

「――泣かれると調子が狂うんだが……。ほら、ここはいつもの灯里らしく、盛大にはしゃいどけ。タダでなんてバンザイとか、キャッ、キャッ、言いながら抱き付いてきたりとかさ」

 彼女の頭をやさしくなでてあげながら、笑いかける。

「――こんな時に、もー、陣くんのエッチ……」

 すると灯里は陣の上着をぎゅっとつかみながら、ジト目で抗議しだす。

「たとえだ、バカ」
「――あはは、でも、そうかも! しんみりは灯里さんに似合わないよね! うんうん、陣くんが男の子の気概きがいを見せてくれてることだし、精一杯甘えるとしよう! なんたってタダなんだし! よっ、陣くん、太っ腹! お財布事情の厳しい灯里さんにとって、神様のようですなー!」

 陣の努力の甲斐かいあってか、灯里はいつもの明るくさわがしい感じに戻ってくれた。

「ああ、それでいい」
「ふっふっふっ、面倒見てくれるんだから、存分に日々の雑務を押しつけ……、ごほん、困ったことを手伝ってもらえるよ! やったー!」
「おい、待て、なにを言ってるんだ?」
「護衛は面倒見てやるの、一つでしょー! だから陣くんには、私たちの日々応じる問題を解決する義務があるのだよ! あれだけ盛大にキメたんだもん! 男に二言はないよねー?」

 灯里は小悪魔みたいな笑みを浮かべ、意味ありげにウィンクを。
 いつもの彼女に戻ったのはいいのだが、その分曲者くせものの部分も復活してしまったらしい。

「クッ、まさか墓穴ぼけつを掘ってしまったというのか」
「あはは、期待してるよ! 陣くん!」

 肩を落としていると、陣の背中をバシバシたたいてにっこりほほえんでくる灯里。

「――たく、調子のいいことを……」
(まあ、とりあえずはこれでいいか。次は今一番の問題の、あの創星術師をどうにかしないとな……」

 はしゃぐ灯里を横目に、目前の問題に思いをはせる陣なのであった。
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