創星のレクイエム

有永 ナギサ

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2章 第2部 陽だまりへの誘い

60話 幼馴染との密会

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「まったく……、このタイミングで呼び出すなんて。じん灯里あかりと同じ重要参考人なのよ。だというのにノコノコ姿を現して……。またつかまえてほしいの?」

 クレハが頭を抱えながら、心底あきれたまなざしを向けてくる。
 時刻は早朝。陣たちがいるのは工場地帯のすぐ近くにある、海沿いの道。辺りは人っ子一人見当たらず、波の音と海鳥の声が響いているだけ。もともとこの場所はほとんど人通りがなく、さらに今は朝の早い時間滞。もはやこっそり密会するには、もってこいの場所といってよかった。

「ははは、それは勘弁かんべんだな。星葬機構側につかまりでもしたら、灯里のお小言を毎日聞かされそうだし」
「フフフ、そうなったらお望み通り、耳にタコができるぐらいやってあげる。ついでに公正も、朝昼晩ワタシ手ずから付きっきりでね」

 クレハは陣にぐいっと詰め寄り、怖い笑みを浮かべ恐ろしいことを口にする。
 彼女は星葬機構のトップ。レイヴァース当主。ゆえにその舞台を作るなど、造作ぞうさもないはず。
 これには思わずあとずさりして、笑うしかない。

「うわー、想像するだけでもぞっとする話だ。意地でもつかまるわけにはいかないぜ」
「あー、もー! 本来ならレイヴァース当主として、責務を果たさないといけないのにー!」

 すると髪をくしゃくしゃしながら、あまりのもどかしさにうなるクレハ。

「へー、クレハも案外ワルだな」
「あんたが言うな! 誰のせいで、目をつぶるはめになってると思うの! 幼馴染のよしみがなければ、今ごろ陣は包囲網の中なんだから! 感謝しなさいよ!」

 クレハは陣に指を突き付けながら、猛抗議を。そしてふふんと胸を張ってくる。

「ははは、まさに幼馴染さまさまだな。おかげで本来実現しない密会の場を、なんなくもうけられる」

 陣はクロノス側の人間であり、クレハは星葬機構側の人間。ゆえに敵同士の関係なのだ。なので星葬機構のトップである彼女と密会するなど、本来ありえない。今すぐにでも包囲され、つかまるのが落ちだっただろう。このことに関しては、陣にとって幸運としかいいようがなかった。

「で、話しがあるってなによ。敵であるあんたとあまり馴れ馴れしくするのはよくないんだから、手早く済ませて」

 クレハは腕を組みながら、そっぽを向き問うてくる。

「ああ、実はレイヴァース当主であるクレハに、頼みがあるんだ」
「――はぁ……あのね、陣、幼馴染内での頼みなら、まだ聞いてあげなくもない。でもさすがにレイヴァース当主としては無理よ。ワタシにも立場があるもの」

 クレハは言い聞かせるように、きっぱり断ってくる。
 まじめな彼女がうなずいてくれないのは承知の上。だがそれでも引くわけにはいかないので、なんとか頼み込む。

「そこをなんとか。この件に関してはクレハの協力が必要なんだ」
「陣がそこまで必死になるなんてめずらしい。まあ、話しを聞くだけならしてあげる」
「助かる。灯里が追われてるの、あれどうにかしてくれないか? 今回の件、あいつはただ手伝ってくれてるだけなんだ。だから重要参考人としてつかまえるなら、オレだけにしてくれ」
「――そうね……、見た感じ灯里は巻き込まれただけみたいだし、そういうことにしといてあげてもいいかもね」

 クレハは思考をめぐらせたあと、しぶしぶうなずいてくれた。
 彼女にとって灯里は友達みたいな存在。ゆえに無下にはできないようだ。陣が罪をかぶってくれるなら、それも可能だと。

「頼む」
「――わかった。じゃあ、戻って指示をださないとね。アタシが灯里に会って、ただ巻き込まれただけと聞いたことにしておく。擬似恒星を持って逃げたという件も、厳重注意ということで穏便に済ませてね」
「あー、それとその擬似恒星のことなんだが。あれ、実は灯里の所有物なんだ」

 ここまではだいたい予想通りの流れ。ここから一気にぶっこんでいく。

「はぁ? 灯里のって!?」

 クレハは衝撃的事実に目を丸くする。
 魔道に縁遠そうな灯里が、まさかの擬似恒星の所有者だったのだ。驚くのも無理はないだろう。

「――えっと、なんというか、そう、形見的な大事なやつらしい! だからこれからもあの擬似恒星を持ってること、黙認してくれないか? あいつ魔道にはまったく興味ないから、クレハが危惧きぐすることは起こらないはずだ」

 さすがにリルのことを説明するわけにはいかないため、適当にそれっぽいことで誤魔化す。
 今回クレハを呼び出した一番の理由は、この話をするため。この事態が収集したとしても、最後にリルの擬似恒星の問題が残ってしまうのだ。そうなってしまうと、いづれ灯里が持ち続けていることがばれる可能性大。ゆえに灯里がこれからもあの擬似恒星を所有し続けられるよう、クレハに協力してもらいたかったのである。

「確かに、あの子、魔道とかほとんど興味なさそうだったけど、さすがに……」
「オレも厄介ごとに巻き込まれる恐れがあるから、手離させようと試みたんだ。だがよほど大切なものらしく、首を縦に振らなくてな。もう、だんだん手放させるのがかわいそうになってきたから、こうしてクレハに相談を持ち掛けてるんだ。頼む、灯里のためにも、黙認という方向で」

 微妙な反応を見せるクレハに、手を合わせ頼み込む。

「そんなに大事なものなの? まあ、いわくつきのお守りとしてだけなら、考えなくもないけど」

 灯里のことを想ってか、迷いだすクレハ。

「ほら、灯里なら学園で何度も顔を合わせることになるし、経過観察もしやすいだろ」

 クレハは四月から、灯里と同じ学園に通うことになる。そうなれば今後も友達として、灯里と一緒にいる機会が多々あることに。そのため灯里の異変もいち早く気づけるはず。よってもし灯里が魔道に手を伸ばそうものなら、すぐにとりあげればいいのだ。

「――そうね……。わかった、陣の必死さにめんじて、見逃しといてあげる」

 そして陣の灯里に対する想いに心が動いたのか、最後にクレハは折れてくれた。

「よかった。これで灯里に言い報告ができるぜ」
「話しはこれでおしまいよね? じゃあ、さっさと別れましょう。誰かに目撃されたら、面倒だもの」
「そうだな。クレハ、今回の件、本当に助かったよ。ありがとう」

 去ろうとするクレハに、精一杯の感謝を。
 今回ばかりはかなり無茶なお願いゆえ、感謝しきっても足りないぐらいなのだ。

「ッ!? べ、別に陣のためじゃないんだからね!? す、すべて灯里のためなんだから! ふん!」

 するとクレハは顔を赤くしながら、指を突き付け激しく否定を。そして灯里のためだと念押し、テレくさそうにそっぽを向いて去っていくのであった。


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