創星のレクイエム

有永 ナギサ

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3章 第2部 学園生活の始まり

97話 取り巻き?

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 ホームルームが終わり陣たち新入生は放課後に。そして現在学園長の栞に用がある奈月の付き添いで、学園長室に向かっている最中だ。
 ちなみにこのあと灯里とカナメと一緒に遊びに行く約束をしており、二人には少し待ってもらっていた。
 そんな中廊下ろうかを歩いていると、中庭で知っている顔が。

「あれはリルとルシア?」
「あら、ほんとね」

 なんと学園にいたのは意外な二人。リルと中等部の学生服を着たルシアである。

「奈月、一人で行って来てくれるか?」
「しかたないわね。遊びに行くんだから、あとで合流すること。いいわね」
「ははは、わかってますよ、お姫さま」

 奈月に釘を刺されながら、リルたちの方へと向かう。

「よお、リル、ルシア、こんなところでなにをしてるんだ?」
「これは陣さん。さっきまでリルさんと一緒に、星海学園の敷地内をブラブラしてたところです」

 ルシアがうやうやしくお辞儀じぎし、状況を説明してくれる。

「そうなんだよ。学園近くでヒマしてたら、ルシアちゃんが声を掛けてくれてね。話し相手になってくれただけじゃなく、学園の敷地内にも入れてくれたんだ!」
「へー、そうだったのか」
「この学園すごいね! どこもかしくも手が込んでて、中庭や庭園とか本当に学園の中なのかってぐらいのクオリティなんだよ!」

 リルが興奮したように辺りを見回し、目をキラキラさせる。

「クロノスと星魔教が、惜しみなく金を使ってるらしいからな。設備もすごいし、学生としては快適極まりないよ」
「いいなー、いいなー、わたしも通ってみたいんだよ!」
「その子供のなりじゃ、まずムリだろな。もっと大きくならないと」

 ぴょんぴょん跳びはねあこがれているリルの頭を、ポンポンしながら現実を突きつけてやった。

「――ぐぬぬ……、元の身体で出てこれてたら、余裕なのにー。そしたらマスターに先輩風ふかしまくって、お姉さんの魅力でメロメロにしてあげたのになー」

 こぶしをワナワナ震わせるリル。

「ははは、そんなちんちくりんな姿で言われても、にわかに信じがたいな」
「むー」

 肩をすくめからかう陣に対し、リルはとてもくやしそうであった。

(とはいえあっちでリルお姉ちゃんの姿を見てるから、あながち誇張でもなんでもないんだよな、これ)

 陣はポリポリとほおをかく。
 謎の空間で会ったリル・フォルトナーの姿を思い出す。彼女は外見的にも、一つ歳上の少女。どこかはかなげで大人びた雰囲気をしていたため、ミステリアスなお姉さんという言葉がすごくしっくりくる美少女だったのだ。そのため完全に笑い飛ばすことは出来なかったという。

「ルシア、リルのおりをしてくれてありがとな。大変だったんじゃないか?」
「マスター!? わたしは普通の小さな子供みたいに、世話のかかる子じゃないんだよ!?」
「いえいえ、リルさんはとてもいい子で、楽しいひとときを過ごさせてもらいましたよ」
「ほらね!」
「そうかい。でもリルを学園に入れていいのか? さすがに子供すぎて、ごまかすのとかも大変じゃ」

 両腰に手を当て得意げに主張するリルの頭へ雑に手を置き、ルシアへたずねた。
 
「そこはご安心を。名家のご令嬢の社会見学という形にしてます。教頭のカーティス神父も快く了承してくれました」
「学園で融通が利くのって、ほんと便利だよな。ルシアも見学という形で学園に?」
「いえ、ワタシは4月から編入という形で、正式に星海学園の学生になりました。レイヴァースの当主、クレハさんが入学したことにより、星海学園で星葬機構や断罪者がらみで様々ないざこざが起こるとのカーティス神父の見解です。なので学園内でいつでも動けるよう、しばらくは学生という身分で過ごす形になったんです」
「なるほどな」
「それに学生なら、学園内でも自由に陣さんのお力になれますしね!」

 ルシアが陣の顔を下からのぞき込み、意味ありげにウィンクを。

「ただ残念なことにワタシは中等部3年で、陣さんとは学年が違うんですよね。同じクラスであれば、常におそばに入れたのですが……、――はぁ……」

 そしてほおに手を当て、大きくため息をつく。

「そこまで気にかけないで大丈夫だぞ。ルシアも学園生活で忙しいだろうし、力になってもらいたいときは連絡するしさ」

 陣はどちらかというと一匹狼気質。なので自分の下に人をつけるのは性に合わず、ずっとそばでいられても正直困るのであった。

「未来の陣さんの従者じゅうしゃとして、そうはいきません! こうなれば後輩という立ち位置を最大限利用しましょうか。あこがれの先輩の追いかけ。いえ、いっそのこと通り巻きになって、金魚のフンみたいにずっと着いていこうと思います!」
「いや、そんな時間あったら自分の時間を大切にしろよ。せっかくの学園生活なんだし、ルシアも謳歌おうかしてきたらどうだ?」
「そこはお気になさらず! 従者としては、主のそばにいられることが至福の喜びなんですから」

 陣のツッコミに、ルシアはうやうやしくお辞儀しほほえんできた。

「るしあ、じんお兄ちゃんの取り巻きになるのー? いいなぁ! せなもやるー!」

 すると話が聞こえていたのか、幼なじみであり妹分の蓮杖れんじょうセナが元気よく駆け寄り、手を上げ立候補してくる。

「――セナまで……。取り巻きってそんないいものじゃなくないか?」
「取り巻きってあれでしょー。じんお兄ちゃんになにかあったとき、ここはわたしがって前に出て華麗にことを解決するんでしょー! かっこいいー!」

 取り巻きに対するあこがれを、目を輝かせてかたっていくセナ。

「それは少し別のが混ざってる気が」
「あと相手によってはいろいろいい思いができるって聞いたよぉ! おいしいもの食べれたり、どこかに連れて行ってもらったりー!」
「ははは、そこは素直でよろしい」
「えへへー、なにより取り巻きになったらじんお兄ちゃんと、少しでも長くいられるからぁ!」

 そしてセナはがばっと陣に抱き着き、ほおずりしてきた。

「おい、この流れでそれは反則だろ」

 彼女はどこまでも純真であり、計算などできる人間ではない。なのでこれは完全に素の反応だろう。そのいじらしさに、思わず心を打たれそうになってしまう。
 
「うふふ、やりますね、セナさん」
「――はぁ……陣兄さんがまたかわいい女の子をはべらせようとしてる。妹としては少し、将来が心配です」

 そこへさっきまでセナと一緒に行動していたであろう、陣の妹である四条いろはがうれいながらやってきた。

「いろは、オレは取り巻きなんていらないぞ。こいつらが勝手になろうとしてるだけだ」
「ふむ、自分は悪くないと? 確かに陣兄さんは男性としてもすごく魅力的ですからね。妹的には自慢の兄でうれしいのですが、それでほかの女の子が寄ってきてしまうので少し複雑な気分です」
「いや、魅力的って、どうせ妹びいきのやつだろ」
「そんなことありません。その証拠に陣兄さんは学園の女の子たちから、けっこう人気なんですよ。ワイルドでかっこいいって」

 いろはは陣の人気っぷりをやけにうれしそうに報告してくれる。

「オレが? そんな心当たりないぞ」
「奈月さんが圧を掛けてますからね。陣兄さんは私のだからと。それで表立ってアプローチできず、みんな裏で推してるみたいな感じです」

 今の世の中、神代の人間というだけで、みなから畏怖いふされるもの。しかも奈月はその圧倒的カリスマ性と容姿から、男子だけでなく女子まで絶大な人気を誇っているのだ。そんな彼女のお気に入りである陣ゆえ、気おくれして遠慮してしまうのもムリはないのかもしれない。

「あとカナメさんとよくいるためでしょうか。学園の乙女界隈かいわいでは今、お二人がすごく熱いらしいですよ」

 いろはがほおを少し赤くし、クスクスと意味ありげにほほえんでくる。
 ただ意味がわからず首をひねるしかない。

「熱い? オレとカナメが?」
「ちなみにカナメさんはよく陣兄さんとのエピソードを意味深くかたって、女の子をキャー、キャー言わせてました」
「なんかよくわからんが、一回あいつをしめといたほうがよさそうだな」
「いろはー、話がよくわからないんだけどぉ」

 陣同様セナもピンときていないようで、手を上げながら説明を求めた。

「うーん、セナはわからなくていい世界かも」

 するといろはが少し困った様子で、ごまかすように笑う。

「くす、乙女のたしなみというやつですね」
「えー、二人ともずるいー」

 わかっているいろはとルシアに、セナはほおを膨らませた。
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