128 / 253
3章 第1部 姫のもとへ
123話 アポルオンの巫女の秘密
しおりを挟む
太陽が輝き青空が広がる空の下。ここはレイジが住んでいるマンション近くの、小さな公園。すべり台やブランコ、ジャングルジムといった遊具があるいたって普通の公園である。よく夕方になると、子供たちが集まり楽しそうに遊んでいた。
平日の朝なので利用者は二人だけ。レイジと執行機関のエージェントであるレーシスだ。どういう風の吹き回しか、レーシスがレイジの様子をうかがおうと
近くまで来てくれたのであった。
「よう、案外元気そうだねー。カノンにアイギスを追い出されて、もっと落ち込んでるかと思ったぜ」
待ち合わせ場所に到着すると、レーシスが手を上げ声をかけてくる。
「落ち込むのはすべての手を打ってからだ。せっかくここまでたどり着いたのに、おめおめ引き下がるわけにはいかないさ」
「ハハ、がんばるねー。もう、アイギスの件あきらめちまうってのも、一つの手じゃねーのか。行く当てがないなら親友のよしみで、俺の助手として使ってやらんこともないぜ。どうよ、裏方の仕事は?」
レーシスはレイジの肩に手を回し、軽い感じで問うてくる。
確かにそれだと気が楽になり、おまけにカノンの力になれるかもしれない。だがレイジとしてはあまり気乗りがしなかった。
なので肩をすくめ、断っておく。
「いや、絶対こき使われまくるのが目に見えてるだろ。アイギスでいた時でさえ、あれだけ呼び出されたんだ。本職にしたらどれだけ働かされるか、わかったもんじゃない」
「そんなこと言わず頼むぜ。仕事は全部優秀な部下に回して、俺は安全な場所で指示するポジにあこがれてるんだよ。裏方の仕事はハードだから、少しでも楽がしてーてな。ほら、給料ははずんでやっからよー」
「却下だ。それなら那由他に、裏で手引きしてもらう方を取るさ」
本音をおもむろに頼み込んでくるレーシスを引き離し、きっぱりと言い切った。
もしこの件を受けていたら、きっとレーシスが思い描いていた通り仕事三昧。やはり首を縦に振らなくて、正解だったみたいだ。
「ちっ、つれねーな。せっかく今が勧誘のチャンスとこのクソ忙しい中出向いてきたのに、無駄になっちまったぜ」
頭の後ろに両手をやりながら、軽くぼやいてあっさりあきらめるレーシス。
アイギスを追い出されたレイジへの心配する気持ちもあったかもしれないが、本当の狙いはそっちだったようだ。だが本人があまりがっかりしていないところをみると、断られるのはわかっていたのだろう。
「忙しいって、今のアポルオンの状況はどうなってるんだ? やっぱりアビスエリアの件でか?」
「いーや、アビスエリアの方は情報操作しまくって、だいぶ収集ができたね。世界を導く財閥たちのために、セフィロトが特別用意してくれた場所ってことで無理やり通した感じだ。世間からみても上位財閥の立場は特別だから、案外納得しちまうもんだろ」
もともと世界の中核をなす財閥たちは、セフィロトのプラン上とても重要な立ち位置にいるのだ。世界を円滑に回す立役者ゆえ、ほかとは違う特別な恩恵があっても不思議ではないだろう。そこをうまく使い後は世界を支配しているがゆえにできる情報操作の数々で、人々の波風を立たせないようにしたというわけだ。
「なるほど。財閥側がセフィロトを使って世界を支配してると思われない限り、アポルオンの存在にはたどり着かないってわけか。じゃあ、問題になってるのは?」
「アポルオンの巫女の制御権が破壊された話だよ。革新派側が保守派側の勢いをくじくために、その情報をばらまいたんだ。もうこれまで通り序列二位は、アポルオンの巫女を縛っておけないってね。そのせいで各アポルオンメンバーは今、彼女がどう動くのか注目してんだぜ」
「カノンが自由になったことが、そんなにも大事なのか?」
実際レイジはアポルオンの巫女について、くわしいことは知らない。彼女が自由になったことで、一体どんな影響を与えるのだろうか。
「ハハ、アポルオンの今後をくつがえすかもしれねーぐれーの一大時だよ。カノンの理想のこは聞いたことがあるだろ。制御権が破壊され自由になった今、ある条件を満たせればカノンはその理想を実現することが可能なんだ。これまでのアポルオンの支配する世界の在り方を大きく変え、革命を起こせるぐらいにな」
「おいおい、まじか。どうやって今のアポルオンを変えるのか不思議に思ってたけど、そんな裏技を持ってたのかよ」
レーシスの愉快げにかたる事実に、衝撃をおぼえずにはいられない。
これまでのアポルオンのことを踏まえると、カノンの理想を実現するのは非常に難しいと思っていた。すでにアポルオンの思い描いた秩序の世界は、セフィロトによって完成間近にせまっている。そんな中今さら一人の考えで、これまで進めてきた計画を変更するのはさすがに無理があるだろう。
「それがアポルオンの巫女の由縁だ。ただその条件てーのが、困難きわまりないんだけどねー」
どうやら叶える算段はあるようだ。おそらくこれまでのエデン協会アイギスの働きも、それに関係しているに違いない。
「それならなんとしてでも、カノンの力になってやらないといけないな。レーシス、どうにかしてカノンに連絡を取れるようにしてくれないか?」
「力になってやりてーのはやまやまだが、無理そうだねー。とうの姫様が頑なに拒んでるみてーだし。もちろん連れていくのも無理だぜ。どこにいるか調べるなんて、そんな命を捨てるまねできねーよ」
レーシスは肩をすくめながら、首を横に振る。
カノンへの説得は那由他がしてもダメだったので、レーシスがやっても結果は同じ。
ならば現実で直接といいたいがそれも無理。カノンの居場所は序列二位が秘密裏に管理しているため、見つけられないだろう。アポルオンの巫女の立ち位置上その情報は厳重であり、下手に手を出せばつかまる可能性も。
「――ハハ、それにしてもレイジは俺に、似てるのかもしれねーな。力になってやりたい奴に、どこまでもついて行こうとしてんだからよ……」
どうするかと思考をめぐらせていると、レーシスが感慨深そうにかたりだした。
「うん?」
「まっ、そういうわけで頑張れよ、少年。同類として応援してやっからよ。あと、そっちの女神様の件も、きばっていけ」
レーシスはレイジの背中をパンとたたく。そして意味ありげな言葉を残し、この場を去っていってしまう。
「――行ったか……。というか女神様って、なんのことだ?」
「あたしが来たから空気を呼んだんでしょ、彼」
新たな声に振り返ると、そこには災禍の魔女の異名をもつ柊森羅の姿が。
「うわっ!? 森羅!?」
「うん! レイジくんの森羅ちゃんだよ!」
森羅は胸に手を当て、かわいらしくウィンクしてくるのであった。
平日の朝なので利用者は二人だけ。レイジと執行機関のエージェントであるレーシスだ。どういう風の吹き回しか、レーシスがレイジの様子をうかがおうと
近くまで来てくれたのであった。
「よう、案外元気そうだねー。カノンにアイギスを追い出されて、もっと落ち込んでるかと思ったぜ」
待ち合わせ場所に到着すると、レーシスが手を上げ声をかけてくる。
「落ち込むのはすべての手を打ってからだ。せっかくここまでたどり着いたのに、おめおめ引き下がるわけにはいかないさ」
「ハハ、がんばるねー。もう、アイギスの件あきらめちまうってのも、一つの手じゃねーのか。行く当てがないなら親友のよしみで、俺の助手として使ってやらんこともないぜ。どうよ、裏方の仕事は?」
レーシスはレイジの肩に手を回し、軽い感じで問うてくる。
確かにそれだと気が楽になり、おまけにカノンの力になれるかもしれない。だがレイジとしてはあまり気乗りがしなかった。
なので肩をすくめ、断っておく。
「いや、絶対こき使われまくるのが目に見えてるだろ。アイギスでいた時でさえ、あれだけ呼び出されたんだ。本職にしたらどれだけ働かされるか、わかったもんじゃない」
「そんなこと言わず頼むぜ。仕事は全部優秀な部下に回して、俺は安全な場所で指示するポジにあこがれてるんだよ。裏方の仕事はハードだから、少しでも楽がしてーてな。ほら、給料ははずんでやっからよー」
「却下だ。それなら那由他に、裏で手引きしてもらう方を取るさ」
本音をおもむろに頼み込んでくるレーシスを引き離し、きっぱりと言い切った。
もしこの件を受けていたら、きっとレーシスが思い描いていた通り仕事三昧。やはり首を縦に振らなくて、正解だったみたいだ。
「ちっ、つれねーな。せっかく今が勧誘のチャンスとこのクソ忙しい中出向いてきたのに、無駄になっちまったぜ」
頭の後ろに両手をやりながら、軽くぼやいてあっさりあきらめるレーシス。
アイギスを追い出されたレイジへの心配する気持ちもあったかもしれないが、本当の狙いはそっちだったようだ。だが本人があまりがっかりしていないところをみると、断られるのはわかっていたのだろう。
「忙しいって、今のアポルオンの状況はどうなってるんだ? やっぱりアビスエリアの件でか?」
「いーや、アビスエリアの方は情報操作しまくって、だいぶ収集ができたね。世界を導く財閥たちのために、セフィロトが特別用意してくれた場所ってことで無理やり通した感じだ。世間からみても上位財閥の立場は特別だから、案外納得しちまうもんだろ」
もともと世界の中核をなす財閥たちは、セフィロトのプラン上とても重要な立ち位置にいるのだ。世界を円滑に回す立役者ゆえ、ほかとは違う特別な恩恵があっても不思議ではないだろう。そこをうまく使い後は世界を支配しているがゆえにできる情報操作の数々で、人々の波風を立たせないようにしたというわけだ。
「なるほど。財閥側がセフィロトを使って世界を支配してると思われない限り、アポルオンの存在にはたどり着かないってわけか。じゃあ、問題になってるのは?」
「アポルオンの巫女の制御権が破壊された話だよ。革新派側が保守派側の勢いをくじくために、その情報をばらまいたんだ。もうこれまで通り序列二位は、アポルオンの巫女を縛っておけないってね。そのせいで各アポルオンメンバーは今、彼女がどう動くのか注目してんだぜ」
「カノンが自由になったことが、そんなにも大事なのか?」
実際レイジはアポルオンの巫女について、くわしいことは知らない。彼女が自由になったことで、一体どんな影響を与えるのだろうか。
「ハハ、アポルオンの今後をくつがえすかもしれねーぐれーの一大時だよ。カノンの理想のこは聞いたことがあるだろ。制御権が破壊され自由になった今、ある条件を満たせればカノンはその理想を実現することが可能なんだ。これまでのアポルオンの支配する世界の在り方を大きく変え、革命を起こせるぐらいにな」
「おいおい、まじか。どうやって今のアポルオンを変えるのか不思議に思ってたけど、そんな裏技を持ってたのかよ」
レーシスの愉快げにかたる事実に、衝撃をおぼえずにはいられない。
これまでのアポルオンのことを踏まえると、カノンの理想を実現するのは非常に難しいと思っていた。すでにアポルオンの思い描いた秩序の世界は、セフィロトによって完成間近にせまっている。そんな中今さら一人の考えで、これまで進めてきた計画を変更するのはさすがに無理があるだろう。
「それがアポルオンの巫女の由縁だ。ただその条件てーのが、困難きわまりないんだけどねー」
どうやら叶える算段はあるようだ。おそらくこれまでのエデン協会アイギスの働きも、それに関係しているに違いない。
「それならなんとしてでも、カノンの力になってやらないといけないな。レーシス、どうにかしてカノンに連絡を取れるようにしてくれないか?」
「力になってやりてーのはやまやまだが、無理そうだねー。とうの姫様が頑なに拒んでるみてーだし。もちろん連れていくのも無理だぜ。どこにいるか調べるなんて、そんな命を捨てるまねできねーよ」
レーシスは肩をすくめながら、首を横に振る。
カノンへの説得は那由他がしてもダメだったので、レーシスがやっても結果は同じ。
ならば現実で直接といいたいがそれも無理。カノンの居場所は序列二位が秘密裏に管理しているため、見つけられないだろう。アポルオンの巫女の立ち位置上その情報は厳重であり、下手に手を出せばつかまる可能性も。
「――ハハ、それにしてもレイジは俺に、似てるのかもしれねーな。力になってやりたい奴に、どこまでもついて行こうとしてんだからよ……」
どうするかと思考をめぐらせていると、レーシスが感慨深そうにかたりだした。
「うん?」
「まっ、そういうわけで頑張れよ、少年。同類として応援してやっからよ。あと、そっちの女神様の件も、きばっていけ」
レーシスはレイジの背中をパンとたたく。そして意味ありげな言葉を残し、この場を去っていってしまう。
「――行ったか……。というか女神様って、なんのことだ?」
「あたしが来たから空気を呼んだんでしょ、彼」
新たな声に振り返ると、そこには災禍の魔女の異名をもつ柊森羅の姿が。
「うわっ!? 森羅!?」
「うん! レイジくんの森羅ちゃんだよ!」
森羅は胸に手を当て、かわいらしくウィンクしてくるのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる