電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

文字の大きさ
129 / 253
3章 第1部 姫のもとへ

124話 お別れの言葉

しおりを挟む
「で、オレになんのようなんだ?」
「くす、好きな人にただ会いたいからじゃ、ダメなのかな?」

 森羅しんらはレイジの顔をのぞき込み、ほおに指を当てながら小首をかしげてくる。

「――うっ、また反応に困ることを……」
「あはは、ごめんね! 困らせちゃって! レイジくんに会う時って、テンションがいつも最高頂になっちゃうから、なかなか自重できないんだ! このあふれんばかりの好きな想いに、ふたをできない的な!」

 胸を両手でぎゅっと押さえながら、ぱぁぁっと顔をほころばせる森羅。
 那由他もそうだが森羅みたいな美少女にせまられると、さすがにどぎまぎしてしまうのだ。

「頼むから自重してくれ。その手の話題はこっちの精神的にキツイ」
「うん、善処するよ! って、言いたいけど、こうやって押していくのはレイジくんを攻略するにあたり効果的みたいだからなー。ただでさえアピールする機会が少ないあたしからすれば、無理な相談かも!」

 レイジの主張に、森羅はにっこりと満面の笑顔で返してくる。
 もはや那由他のようにまったく聞く耳を持ってくれない彼女に、ツッコミをいれざるを得ない。

「おい」
「まあまあ、そう言わず! ここは恋する乙女心おとめごころんで我慢してね! ということで森羅ちゃんのターンはまだまだおわらない! ここからレイジくんを連れまわしてデートとしゃれこもう!」

 レイジの腕にぎゅーっと抱き着き、さっそくデートに行こうと引っ張ってきた。
 このことでたちが悪いのは、森羅が楽しくてしかたがないといったとびっきりの笑顔なのだ。どうやらレイジと一緒にいられることが、よほどうれしいみたいである。あと抱き着かれてる関係上、腕にむにっと柔らかいものが押し付けられる形に。これにより余計に判断が甘くなってしまっていた。

 「――あー、わるいが、却下だ。こっちはいろいろ立て込んでやることがあるから、森羅に付き合ってる暇はない」

 さすがにここまで期待に目を輝かされると、ことわるのが非常に心苦しい。だがさすがに森羅と付き合っている余裕がないため、ここは心を鬼にして断りを入れた。

「ぶー、ぶー、つれないなー。――わかったよ、レイジくんとのデートはまたの機会ということにしておいて、本題だけ伝えることにするね!」

 すると森羅はむくれながらも、素直に聞き分けてくれた。
 どうやらレイジの滅入めいっている心境を、感じ取ってくれたみたいだ。

「ああ、そうしてくれると助かるよ。それで用件は?」
「今日はね、しばしのお別れを言いにきたの。ここから先、革新派と保守派の戦いがさらに激化していくにあたって、あたしもいろいろ動かないといけなくなる。そうなればこれまでのように、レイジくんの味方になるのが難しくなってくるんだ。本当はもっと陰ながら力になるヒロインポジに、ついていたいんだけどね」

 森羅はレイジからそっと離れ、申しわけなさそうに目をふせる。

「あと、その関係上どうしても敵対関係になっちゃうの。今度は陰ながらの味方じゃなく、完全な敵として……。レイジくんの力になりたいのは山々なんだけど、あたしの悲願を達成するために革新派側の計画を押し進めないといけないから」

 そして森羅は信念のこもったまなざしを向け、宣言してきた。ゆずれない想いを胸に。
 革新派のこれまでの動きからみて、これからさらにアポルオン内部をかき乱し、レジスタンスや狩猟兵団を使い今の世界に争いを招くことになるだろう。そうなればエデン協会アイギスは、この先彼らの計画を阻止するために動くはず。よってアビスエリアの解放やアポルオンの巫女の件みたくぶつかることに。つまりは革新派側にいる森羅と、おのずと敵同士になってしまうのだ。

「でもこれだけは覚えておいて。確かにあたしは革新派側についてるけど、それは最後の舞台でレイジくんに勝利をとどけたいからなの。すべては愛するあなたのために……。あたしの心は常にレイジくんのことを想っている……。だからいくら敵対関係でぶつかることになっても、できればきらわないでほしいなぁ」

 森羅はレイジの胸板に手を当て、万感の思いをこめて告げる。これこそが柊森羅という少女のすべてだと。そして最後どこか悲しげにほほえんできた。

「安心しろ。森羅にはいろいろ世話になってるし、そうそう嫌いになんてなれないさ。第一、狩猟兵団で戦いが当たり前だったオレなんだ。やり合うなんてあいさつと変わらないぐらいだよ。だからいくら敵対してても、そっちが友好的なら邪険に扱ったりなんてするはずないさ」
「ありがとう! レイジくん! それだけがすごく気がかりだったの! つまりこれからはバンバンアピールしまくって、デートとかも誘い放題ってことだよね! やった! 敵対する以上、レイジくんと仲良くするのはしばらくお預けだと思ってたからすごくうれしい!」

 レイジのフォローの言葉に、森羅はその場でぴょんぴょん飛び跳ねてよろこびをあらわに。もはや今にも抱き着いてきそうなはしゃぎっぷりであった。

「――いや、オレとしては少し自重してくれたほうが……」
「くす、恋する乙女、森羅ちゃんはだれにも止められないのだよ! ――さてと、いい返事を得られたことだし、レイジくんの邪魔にならないうちに今日は帰るとしよっか!」

 森羅はかわいらしくウィンクしてから、くるりときびすを返す。
 それから 軽い足取りで去ろうとする彼女であったが、ふとレイジの方に振り返った。

「あ、そうだ! あたしがそばにいないからといって、那由他やアポルオンの巫女にあまりうつつを抜かさないでね! レイジくんのよめは、この森羅ちゃんなんだから! じゃあね! ばいばい!」

 にっこり人差し指を立てながら、くぎを刺してくる森羅。そして今度こそ彼女はこの場を去っていくのであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

after the rain

ノデミチ
青春
雨の日、彼女はウチに来た。 で、友達のライン、あっという間に超えた。 そんな、ボーイ ミーツ ガール の物語。 カクヨムで先行掲載した作品です、

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...