電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

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4章 第2部 それぞれの想い

173話 同盟の条件

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「エデン財団上層部の情報を、手に入れてきてもらいましょうか!」

 冬華はしばらくためたあと、やっとのことで条件を告げてくれる。

「エデン財団上層部のだと?」
「はい、レイジさんたちも知っての通り、あそこは今保守派と組んでよからぬことをたくらんでるそうではありませんか! その計画にワタシ、興味深々なんですよね! だからレイジさんたちに、調べてきてもらおうかと思いまして!」
「案外まともな条件だな。冬華のことだから、もっとえげつない要求がくるかと思っていたが」

 冬華といったらサディストな性格はもちろん、他者をかき回すのが大好きな少女。なのでろくでもないことにつき合わされると思っていたが、普通に真面目な話でおどろいてしまう。

「うふふふ、もっとワタシの趣向にあった条件にしてもよかったのですが、カノンさんがいますしさすがに自重しました! でもレイジさんたち的にはそちらの方が、よかったかもしれませんね!」

 クスクスと笑いながら、ウィンクしてくる冬華。

「ははは、確かに。エデン財団上層部の情報なんて、難しいどころの話じゃない。一国の機密データを奪うレベルの話だ。それをただでさえ人数が少ないアイギスに、やらせようなんて……」

 これには肩をすくめて笑うしかない。
 研究機関にとって、情報ろうえいはもはや死活問題といっていい。それもそのはず研究データを奪われ先に完成されでもしたら、今までの苦労が水の泡になってしまうのだ。それゆえデータの管理には、非常に力が入れられているのであった。なので中、下位クラスでもデータを奪うのは至難のわざ。それがエデン財団トップである上層部となると、難易度がさらに跳ね上がることだろう。

「でもちょうどいい機会でしょ? エデン財団と保守派の計画は、カノンさんたちにとって避けて通れない道。ワタシの件を差し置いてでも、やる価値は十分ある! すべてうまくいけば東條とうじょうの同盟だけでなく、向こうの情報も手に入れられて一石二鳥じゃないですか!」
「――それはそうだが……」

 そう、保守派の計画を知るのは、彼らを倒す上で必需ひつじゅ。いくら彼らを止めようにも、なにをしでかそうかわからなければ手の打ちようがないというもの。ゆえに冬華に言われるまでもなく、突き止めなければならない案件。彼女の言い分はもっともである。

「そうそう! 言い忘れていました! この件に関しては那由他さん、レーシスさんはお留守番るすばんという方向で!」

 あまりの難易度に頭を痛めていると、冬華がさらに厳しい条件をノリノリで口に。

「待て! どうしてそうなる!?」
「だってあの二人、優秀ですから! 特に那由他さんはいろいろチートじみていますし、案外あっさりクリアされちゃいそうでしょ? それではまったく面白くありません! ワタシはレイジさんたちが、足掻あがく姿を見たいんですからね!  」

 胸を張って、なにやら得意げに宣言してくる冬華。

「おいおい、一番の頼みのつなの、那由他が使えないなんて……」
「そうだね。さすがに痛すぎるんだよ」

 内心那由多に期待していた分、二人で頭を抱えるしかない。
 先程までは那由多さえいれば、なんとかなるかもという希望があった。彼女は非常に優秀なエージェント。いつもチートじみた手腕しゅわんで無理難題を解決していく、頼りになりすぎる存在だ。ゆえに今回も那由他の力を借りればと思っていたのだが、禁止されるとは。

「うふふふ、これはいわば、カノンさんたちの試練しれん! ですので二人の力をぜひ見せていただきたい! このワタシ東條冬華と、同盟を結ぶにふさわしいのかをね!」

 冬華は東条家次期当主の並々ならぬ風格を出しながら、レイジたちを試すもの言いを。ただその表情にはこのことで心底楽しんでいるといった、少し悪趣味な笑みが。

「くっ、それらしいこと言ってるが、絶対楽しんでるだけだろ」
「うふふふ、もちろん! では、吉報きっぽうをお待ちしてますね! レイジさん! カノンさん! ご武運ぶうんを!」

 冬華はまったくわるびれず満面の笑みで返し、応援してくるのであった。


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