電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

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4章 第4部 それぞれの想い

188話 戦う理由

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「はぁぁぁっ!」
「フッ!」

 廃墟と化したビルの屋上では、刃物がぶつかる音が鳴り止まずにひびき渡る。それもそのはず刀とダガーが幾度となくぶつかり合い、火花を散らしているのだ。もはや息つくひまもない、斬撃の応酬劇おうしゅうげき。透とレイジは両者凄ウデのデュエルアバター使いのため、一歩も引きはしない。いつ決着がついてもおかしくない、死闘がくり広げられていた。

(――ルナ……)

 そんな中とおるは、ヴィクター博士たちと別れた後の出来事を振り返っていた。

 


「――透、一つ私のわがままに、付き合ってもらってもいいですか?」

 ルナはしばらく考えた後、瞳を閉じ胸をぎゅっと押さえながらたずねてきた。

「わがままだって?」
「ハイ、私はこれからカノンと戦い、自分が目指すべきものを見さだめようと思います」

 意を決したように目を見開き、告げてくるルナ。

「カノンさんと?」
「彼女の強い信念にふれられることができれば、進みたいビジョンが見えてくる気がするんです。だから足止めという大義名分がある今に、全力でぶつかりたい。私が目指すべきカノン・アルスレインという少女に、少しでも近づくためにも」

 ルナは前を見すえ、みずからのむねの内を明かしてくる。
 今だ彼女には迷いがあるようだ。それをち切るにも自分の目指すべき壁にぶつかり、納得できる答えをみつけたいのだろう。

「ですがカノンと戦おうとすれば、レイジさんがだまっていないでしょう。なので透には私の気が済むまで、彼の足止めをお願いしたいのです」

 そう、ルナの気が済むまでカノンと戦うには、どうしてもレイジが邪魔。ゆえにルナたちの決着が着くまで、誰かが足止めしなければならないのだ。

「わかった。ヴィクター博士たちが離脱した後も、レイジくんを押さえておけばいいんだね。彼のことはボクに任せて、ルナは好きなだけカノンさんとぶつかればいいよ」

 そんなルナの頼みを快く引き受ける。
 これは彼女の新たな一歩にとって、非常に重要なこと。ならば全力でこたえるまでである。

「――透……、ありがとうございます!」
 

(ルナのためになんとしてでも、レイジくんをこの先に進ますわけにはいかない!)

 透は負けられない理由をむねきざみ、レイジとの激戦に身を投じ続ける。






「ッ! 透の奴、やっぱり手強い!?」

 レイジは一端距離をとり、息を整える。
 もはや何度撃ちあっただろうか。現状透は極限一式きょくげんいっしきの状態。その一段階上がったスペックに、ギリギリ反応し戦っている真っ最中。両者なかなか決定打が決まらない、膠着こうちゃく状態が続いていた。

「ここまでねばるということは、よほど上層部の人間を逃がしたいらしいな」

 透の気迫は、一歩たりとも先に進ませないというほど。
 おそらく彼ら保守派にとって、よほど大事なデータだったのだろう。

「はは、実を言うと、彼らはあんまり関係ないんだけどね」
「なんだと?」

 予想外の答えに拍子抜けしてしまう。
 ではなぜ透たちは、レイジたちの足止めをしてくるのだろうか。

「ボクたちにはボクたちの理由があるというわけさ。だからレイジくんには、もうしばらく付き合ってもらうよ」

 透はダガーをかまえ宣言を。

「クッ、こっちには時間がないんだがな」
「わるいけど諦めてくれ。ここはルナのために、意地でも通しはしない」

(どうする? これ以上を時間をくうと、完全に見失ってしまう!? なにか手は……)

 ここまで時間を稼がれたとなると、上層部の人間たちに追いつくのは難しいはず。今すぐにでも追いかけなければ、こちらに勝機はない。打開策を探していると、突然本物そっくりの黒ネコのガーディアンがレイジの横に。

「うん? ガーディアン?」
「レイジさん! なかなか面白いことになってるようですね!」
「その声は冬華ふゆか!? でも、どうして!?」

 ガーディアンから東條とうじょう冬華の声が聞こえてくる。どうやら近くで、このガーディアンを操っているらしい。

「うふふふ、幻惑げんわくの人形師さんの方から連絡をいただき、面白そうなので来ちゃいました! 今は近くで、高みの見物をしてるところですよ!」

 そして冬華は黒猫のガーディアンを通してさぞ楽しそうに、今の状況を説明してくる。
 おそらく美月の指示だろう。リネットがシティーゾーンにいたのは、目的地を冬華に伝えるためだったみたいだ。

「そんなことしてる場合じゃないだろ! 近くに上層部の人間がいるんだが!」
「あー、彼らなら、もうとっくに離脱しちゃいましたよ! そもそもこんな面白そうな場面を、見過ごすわけにはいきませんし!」
「ッ!? 逃げられただと!? クッ、ここまで来て……」

 非常な現実に絶望するしかない。
 逃げられたということは、これまでの苦労が水の泡。振り出しに戻ったことにほかならない。今後これほどのチャンスが、再びふってくるかどうか。

「まあまあ、そう落ち込まず! せっかくここまで来たご褒美ほうびに、カノンさんとの取引内容を変更してあげますよ!」

 落ち込んでいると、冬華が起死回生とも言うべき案を投げかけてきた。
 今のレイジたちにとって、これほどのチャンスはない。ゆえにすぐさまくいつく。

「なに!? その内容はなんだ!?」
「ズバリ! ルナ・サージェンフォード、如月きさらぎ透をこの場で倒し、あなた方の力を示してください! それが新たなオーダーです!」

 冬華は声高らかに宣言してくる。

「ルナさんと透を倒すだと?」
「うふふふ、この場を盛り上げるのに、最高のチョイスでしょう!」

 冬華は愉悦ゆえつじみた笑みで主張を。
 こんなにも容易く内容を変更するということは、彼女にとって上層部のデータはあまり重要ではないのだろう。冬華が欲しているのは、レイジたちが足掻あがく姿。この舞台を少しでも盛り上げ、面白くすることがご所望なのだ。

「盛り上げるためね。少し悪趣味な気もするが、今回ばかりはありがたいか。冬華、そのオーダー受けさせてもらう」
「決まりですね! ただカノンさんがどういうかは、わかりませんが」
「気は進まないだろうな。まあ、最悪、オレがすべての非を受けるさ」

 心の優しいカノンでは、透たちを倒すことに反対するかもしれない。
 だがこれはカノンを完全に自由にする、またもない好機。難易度的にもまだ非常に楽な方であるため、冬華の気が変わらないうちに成し遂げなければ。たとえカノンの意思に反してもだ。

「うふふふ、がんばってくださいね!」

 そして冬華の操る黒猫のガーディアンは、この場を後に。
 ただガーディアンごしの会話だったため、透にも聞こえてしまったようで。

「レイジくん、今の通信内容……」
「わるいな、透。事情が変わったから、これからお前たちを倒させてもらう」
「キミはそんな提案を受け入れるのかい?」
「カノンを外の世界に連れ出すのは、ずっと夢見てたことの一つだからな。それが叶うなら、手段なんて選んでる場合じゃないんだ。たとえカノンの意にそむいてでも、オレは……」

 刀をにぎる手に力を入れ、みずからの覚悟を告げる。
 今のレイジは透だけでなく、ルナも斬り伏せる気でいるのだ。カノンを外の世界に連れ出せるなら、たとえいくら外道になろうとかまわないと。

「――レイジくん……」
「そういわけだから全力で行かせてもらうぞ!」

 気合いを入れ、あらためて透を標的に。
 これまでは上層部の人間たちのことで頭が一杯だったため、戦闘に集中できていなかった。だが透たちを倒すオーダーに変わったとなれば、ほかの心配をする必要はない。ただ全力で斬りせるのみ。

「キミがルナにがいをなそうとするなら、だまって見過ごすわけにはいかないね。彼女の騎士として、ここで排除させてもらう!」

 透からしてみれば、このままだとルナの身に危険が。ゆえに透の方も全力で迎撃するしかない。よってこれより本気の死闘がくり広げられることに。

「やってみろ!」

 そして負けられない二人の戦いの火ぶたが、切って落とされた。

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