電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ

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4章 第4部 それぞれの想い

195話 乱入者

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 レイジとカノンは風に乗りながら、とおるたちのいる湖のきしへと降りる。
 すると透がよろめきながらも立ち上がり、ルナもそれに続く。そして先程いた屋上のように、両者緊迫きんぱくした空気の中相対する形に。

「ルナ、もう気が済んだかな? それじゃあ、もう、戦いはおわりにして」
「カノン、二人にはまだ用があるんだ。ここで透とルナさんを倒し、冬華ふゆかの条件をクリアしないと」

 停戦を提案するカノンに、レイジが割って入った。
 向こうの戦う理由はなくなったかもしれないが、レイジたちにはまだ用があるのだ。そう、冬華の条件を達成するため、透たちを倒さなければ。

「え? それってどういうことなのかな?」
「おうおう、なかなかもり上がってるみたいじゃねーか。俺もぜてくれや」

 カノンが疑問は、新たな乱入者によってかき消されてしまう。
 現れたのは一人の青年。ただその姿には見覚えがあった。

「なっ!? お前はたしかブラックゾーンであった!?」
「久しいなガキ、俺の名前はバイロンっていうんだ。よろしくな」

 バイロンと名乗る、血に飢えている雰囲気をかもし出す青年。
 彼とはブラックゾーンへ偶然入ってしまった時、戦ったのだ。

「って、そんなことはどうでもいいか。さっさとこのだるい仕事を終わらせて、帰らねーとな」

 バイロンは頭をかきながら、めんどくさそうに告げてくる。

「バイロンさん、仕事とはなんのことですか?」

 ルナたちも知らない相手みたいで、警戒しながらも彼に問うた。

「ハッ、サージェンフォードの姫さん、そう殺気をとばさなくていいぜ。オレは味方だ。エデン財団上層部のエージェントっていえばわかるか?」
「上層部のですか?」

(あの男、上層部のエージェントだったのか!?)

 まさかバイロンの素性すじょうがエデン財団上層部側の人間だったとは。この場にいた全員驚きを隠せなかった。

「ああ、ヴィクターのやろうが様子を見て来いってな。ついでにアポルオンの巫女みこの件、やれるならやってこいとかなんとか。まあ、そういうことで助太刀すけだちしてやるよ。あんたらは下がってろ」

 バイロンはアイテムストレージから武器を取り出し、前へ出る。
 彼が装備したのは、禍々まがまがしい鋼鉄のガンレット。ガンレットとは本来防具として扱われるものだが、彼のは違う。なんと指の部分すべてが鋭利な爪なのだ。あれはまさしく標的を引き裂くためのものといっていい。

「ッ!? カノン、こいつはマジでヤバイぞ!? 一度戦ったけど、そこらのデュエルアバター使いとはわけが違う。今のオレたちじゃ、太刀打たちうちできるかどうか」
「そんなにすごい相手なのかな!? どうしよう、あの人こっちを完全にやるきだよ!?」

 まさかの展開にたじろぐレイジたち。

「さあ、てめぇら、覚悟しろ! ズタズタに引き裂いてやるからよ!」
「くっ!? ここまできて……」

 腕を横に振りかざしながら殺気立つバイロンを前にし、絶望感が襲ってくる。
 彼の戦闘力はあまりに脅威的。以前はアーネストが加勢してくれたおかげでなんとかなったが、レイジたちだけで太刀打ちできるかどうか。なにより今のレイジは虫の息。透戦ですべてを出し切ってしまったため、到底戦える状態ではなかった。
 そんな絶対絶命のピンチだったが、またもや乱入者が。

「そこまでですよ! 上層部のエージェント!」
「冬華!?」
「冬華さん!?」

 レイジたちの後ろから優雅ゆうがに歩いてくるのは、東條とうじょう家次期当主の冬華。彼女は先程ガーディアンを操っていたので、近くにいるのはわかっていた。だがまさか助けに来てくれるとは。

「まったく、せっかく盛り上がってたのに、台無しになってしまったじゃないですか! あなたのような狂犬、今お呼びじゃないんですー」

 冬華はバイロンに一切物怖じせず、指を突きつけ不満をぶつけだす。

「あん? 誰だてめぇ?」
「ワタシはアポルオン序列四位東條家次期当主、東條冬華です!」

 冬華はドレスのすそを持ち上げ、優雅にお辞儀しながら名乗りだす。

「へぇ、なかなかの大物じゃねーか。それで東條の次期当主様がなんのようだ?」
「うふふふ、そんなの決まってるじゃないですか! しつけのなってない狂犬に、少しばかり礼儀というものを教えてあげようと思いまして!」

 冬華はレイジたちの前に。そして手のひらをバイロンに向け、不敵な笑みを浮かべ挑発を。

「ハッ、いってくれるな! なら、その礼儀とやらを教えてもらおうか!」

 するとバイロンは彼女の挑発に乗ったのか、ガンレットをかまえ咆哮ほうこうを上げた。

「うふふ、この気迫きふく、さすがは上層部最強のエージェントと名高い、バイロンさんですね! では、ワタシも少しばかり本気をだしましょう! 我が甘いとろけるような毒を、存分にご堪能たんのうください!」

 バイロンの放つ重圧にこたえるかのように、冬華も臨戦態勢へ。そしてみずからのアビリティを起動し、冷酷なほほえみを向ける。

「ヒュー、おもしれー、これは退屈たいくつせずにすみそうだぜ! なあ、東條冬華、倒す前に一つ聞かせろや。てめぇら中立の東條が、なんでアポルオンの巫女に加担かたんするのかを」
「ふむ、ここらあたりで宣言しとくのもわるくはないですね。――では心して聞きなさい!」

 バイロンの問いに、冬華はなにやら考え事を。そして普段からは想像もできないほどの威厳さをまとい、宣言し始めた。

「これよりアポルオン序列四位東條は、アポルオンの巫女側につかせてもらいます! そして我ら巫女派は、保守派、革新派に宣戦布告します! カノン・アルスレインの名のもとに、人々の平穏をおびやかすあなたたちの好きにはさせないと!」

 冬華は手をバッと前に突き出し、声高らかにかたった。

「へぇ、これはすげー場面にでくわしたな……」
「東條がアポルオンの巫女側に……? そして私たちにも宣戦布告を……?」

 バイロンもルナも今の宣言に、あぜんとするしかないようだ。
 それも無理はないだろう。今まで中立をつらぬいていたアポルオン序列四位の東條家が、突然動きだしたのだ。しかもアポルオンの象徴しょうちょうである巫女と手を組み、宣戦布告までしたのだから。もはや革新派が表舞台に姿を現したレベルの、ビッグニュースといっても過言ではないはず。

「――冬華、それって……」
「うふふふ、レイジさんたちの激闘には、大変胸を踊らさせていただきましたからね! 大サービスです!」

 冬華はレイジたちの方を振り返り、ウィンクしてくる。
 これについてはレイジたちも驚くしかなかった。まだ冬華のよこした条件を達成していないのにもかかわらず、こちらの同盟の要求に応えてくれたのだ。これにより東條家はカノンの後ろ盾になってくれたということ。おかげでカノンは外の世界で自由を勝ち取り、さらに理想実現の大きな一歩を踏み出せたといっていい。

「ハッ、盛り上がってきたところで、さっさと始めようぜ!」
「冬華、あぶない!?」

 レイジと冬華が話していると、バイロンが地を蹴りものすごい勢いで突撃を。
 しかしバイロンの進行方向に燃えさかる火球と、荘厳そうごんよろいをまとった人型のガーディアンの剣撃が。

「ッ!? 新手あらてか!?」

 バイロンはとっさにガンレットで防御ぼうぎょし、攻撃をはじき飛ばす。
 そして現れるは二人の少女。

「美月たちを忘れては困りますよ」
「――なんでアタシまで……、巫女派とかじゃないのに……」
「まあまあ、リネット。せっかくなのでここは状況に身を任せ、楽しみましょうよ」

 美月はノリノリで、リネットはがっくりうなだれながらの登場である。
 冬華に続き、彼女たちも助けに来てくれたようだ。

「美月! それにリネットまで!?」
「うふふふ、ナイスタイミングですね!」
「ハッ、また、ぞろぞろ出やがったな。いいぜまとめてかかってこい!」

 バイロンは両腕を横に広げ、どんとこいと威勢を。
 これで五対一の戦力差に。だがバイロンはとくに気にした様子もなく、戦闘を続行しようとする。おそらくこの人数で挑まれても勝てる自信があるのだろう。むしろ大歓迎だといわんばかりだ。

「いえ、バイロンさんここは引きましょう。」
「なんだと?」

 そんなやる気満々のバイロンであったが、ルナに止められてしまう。

「ヴィクター博士を逃がす時間稼ぎがおわった今、これ以上カノンと戦うわけにはいきません。相手は恐れ多くもアポルオンの巫女。正当な理由もなく、牙を向けるわけにはいきませんよ。それより東條がアポルオンの巫女側についた事実を、一刻も早くお父様に伝えないと」

 ルナは重々しい口調でバイロンをさとす。
 これ以上の戦いは、サージェンフォード家次期当主として見過ごせないと。

「透、いきましょう、」
「ああ、そうだね、ルナ」

 そしてルナは透を連れ、この場を去っていった。
 ただ彼女は去り際に、カノンへアイコンタクトを。

「チッ、そういうことならしかたねー。命拾いしたな小娘ども」

 バイロンの方も、興がそがれたと捨て台詞を吐いて去っていく。

「――助かったのか……」
「あはは、そうみたいだね。最後はルナに助けられたんだよ」

 レイジとカノンは無事だったことに、安堵あんどの息をつき笑い合う。
 こうしてここでの戦いは幕を下ろすのであった。


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