異世界ヴァローナ美食の旅

七星北斗

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2 蛇神様

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「どうしよう……」

 少年がドアの前で途方に暮れていると、両親の罵倒が聞こえてくる。

「さっさと消えろ、この穀潰しが」

 この時だけは空腹を忘れ、少年は泣いていた。この家にはもう僕の居場所はない。どうして僕は、裕福な家庭に生まれなかったのか。少年はしばらく放心すると、あることに気がついた。このままこの場所にいてもしょうがない、近くの山へ行こう。山なら食べ物には困らないはず。少年は今まで住んでいた自宅に頭を下げ、北東にある房火根山ふさびねやまに向かって歩きだした。

 歩いても歩いても、山に近づいてる気配がない。少年は料理をするのと食べること、学校に行く以外を除けば体を動かさない生活をしていた。腕や足は細く、その身に秘めた食欲とは裏腹に痩せている。

 両親に言われ、山菜を何度か取りに行ったとは言え。房火根山には怖い言い伝えがある。

「ぴょんぴょんと騒がしく、二匹の蛙が飛んでいる。赤い橋と青い橋。赤い橋と青い橋の蛙さん、大きな大蛇に食べられた。五月蝿い奴は必ず食べられる。みんなみんなお腹の中。蛇神様は見ているよ」

 僕の住んでいた村では蛇神様信仰が盛んで、蛇神様の好物である卵を毎年百個お供えとして祭壇に捧げられている。しかし、お供えされている供物は卵だけではなく若く清い少女が捧げられている。

 そんなもの迷信だと少年は高を括っている。しかし、供物は翌朝になると消えている。どうせ卵は大人達で食べて、少女は金持ちに買われたのだと少年は見越していた。

「どうせ迷信だろ。そんなの信じるとか意味わからん。時代錯誤過ぎる。供物に人を捧げるとか絶対頭おかしい。まあ、僕は旨いご飯さえ食べれれば別に良いけど」

 それから、少年は二時間ほど歩いた。次第に日もだいぶ傾き、何とか房火根山の麓にたどり着いた頃には日が暮れてしまった。

「ヤバい、何も見えない。そういえば、確かこの近くに古びたお寺があったはず?とりあえず、そこで一夜を明かそう」

 少年は暗がりの中、明るければ十分で見つかるお寺を探すのに一時間もかかってしまった。お寺を見つけた少年は安堵するとともに疲労でぐったりと蛇神様の銅像を背に座り込む。

「お腹空いた。超人生ウルトラハードモード。朝になったら山に入って食えるものを探さないと」

 少年のお腹の虫が鳴く。寝ようにもお腹が空いて眠れない。空腹を誤魔化すために食べ物のことを考えないように羊の数を数えていたら、ラム肉で頭の中がいっぱいになった。

「肉ーー、特製のタレとレタスで包んで食べたい」

 少年はそれでも空腹を我慢して眠りについた。 
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