告白

ナカムラ

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一年生

彼女の初めての告白

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 私と弓ちゃんが出会って数ヶ月経った。
数ヶ月して、わかったことがあった。
彼女が勉強ができることは、わかっていた。
でも、付き合っていくうちに運動神経も抜群によいことがわかった。

私は、唐突に訊いたことがあった。
「弓ちゃんてさ、習い事してた?」
「うん。5歳から剣道を習ってたよ。お父さんが礼儀とかにうるさくて。身に付くから習えって無理やりね」
「そうなんだ……」
私は、家でアニメ観まくってた……なんて言えなかった。
「そうそう、剣道の練習の時に、テレビが取材にきたよ」
弓ちゃんて只者じゃないな。
「すごいね。テレビで放映されたの?」
「うん。夕方のニュースに映ってたよ。少しだけどね」
「少しでも充分凄いよ……あれ? でも、弓ちゃんて陸上部に入ったんだよね? なんで?」
「あぁ、うちの高校て陸上部の強豪校でしょ。内申書に有利だと思って」
そんなこと全然気にしてなかった私は、帰宅部だった。

 私は、疑問に思った。
「でも、弓ちゃん毎日塾通ってるよね。部活には、出ないの?」
「うん。あくまで受験のためだからね。塾優先。でも、今度大会があって、200mと800mに参加しろって言われてる。あ、さっちゃんリボンがまた曲がってるよ」
「えっ! 本当だ。ありがとう」
私は、たまに弓ちゃんがお母さんのように思える時がある。

 彼女は、皆に優しくて、いくらでもお昼休みとかもっと大きなグループとお弁当食べれるのに、いつも、私と二人っきりで食べてくれる。
なんでだろう?

 それから、1カ月が経って、7月の彼女の試合の日、結果が気になって、彼女の家に電話した。
電話口からは、彼女のいつもの優しいお母さんの声が聞こえてきた。
「あぁ、さっちゃん。こんばんは。ちょっと呼んでくるから、待っててね。」
「はい。すみません」
「弓子ー! 弓子ー! さっちゃんからー早く来てー!」
「うん。今行くー!」
彼女が電話口に出た。
「こんばんは。お待たせ。ごめんね」
「こんばんは。ううん。疲れてるのにごめんね。結果気になっちゃって」
「うん。200mも800mも1位だったよ」
凄いな。さすが、弓ちゃんだ。
でも、彼女は、遅くまで残って試合の前は、練習してたもんな。
「やっぱり!! でも、凄すぎるね。さすが、弓ちゃんだ!!」
「ありがとう。でも、そんなことよりね……」
「どうしたの?」
「ううん。明日、話す……」
「えー。気になるー。今、教えてー」
「ダメダメ。じゃあ、明日ね。バイバイ」
「う、うん……バイバイ」
彼女は、明らかに動揺してた。
お母さんに聞かれちゃ困ることでもあるのかな。

 次の日の朝になって、彼女は、いつも通り、駅に私より早く着いて、私を見るなり、手を振って呼んだ。
「おはよう。さっちゃん!」
弓ちゃん、話したくてうずうずしてるみたい。
昨日は、話してくれなかったのに、と内心ツッコミを入れつつ、私は、早速訊いた。
「弓ちゃん。昨日の話って……」
食い気味に彼女が言った。
「あのね。大会でね。出会ってしまったの。私の運命の人!」
「へっ? なんて?」
「だから、私の好きなタイプ! カッコよくて、礼儀正しくて、優しい感じの人!!」
彼女は、一目惚れしたらしいんだけど、勉強しかしていない(失礼)弓ちゃんと今の話が私の頭の中で結びつかなかった。
「落ち着いて。落ち着いて。弓ちゃん。つまり、その人に片思いしてるってこと……それとも、もしや、両思い……キャーッ!」
「ハハッ! さっちゃんこそ、落ち着いて。私より興奮してるよ。フフッ!」
「だって、親友の恋愛なんて、そりゃ、一大事だよ。いつも、勉強ばかり……あ、ごめん」
「ううん。確かにね。私自身も信じられないよ。男の子に片思いなんて」
「そっか。まだ、片思いなんだね。こ……」
私がそう言いかけると、私の髪の毛を指差して彼女が言った。
「ほらほら、また、ここハネてるよ」
「えー。家でちゃんとチェックしたんだけどな」
「ちゃんと、学校に着いたら、水で濡らして直しなよ」
「うん。わかったよ。ありがと」
彼女は、こんな時まで本当に面倒見がいい。
私は、髪の毛を触ってハネている部分を確認した。

 私達は、話しながら学校へ向かった。
「さっきの続きなんだけど、告白しないの? どんな人? 優しくてカッコいいって言ってたけど」
「うん。もう、走った後、疲れきっちゃって体育座りして項垂れてたら、頭ポンポンてしてくれて、大丈夫? って声かけてくれて、その笑顔がものすごーく、爽やかで。いっぺんに好きになっちゃった!」
うーん。私は、出会ってすぐに頭ポンポンって軽い人かなって思ったけど、死んでも彼女にそんなこと言えなかった。
まぁ、私の知識もドラマや漫画からなんだけど。
「そ、そうなんだ。連絡先とか交換したの?」
そう言うと彼女には、珍しくクチャクチャになったノートの切れ端に書いてあるメモを見せてくれた。
「うん。交換したよ。ほら。でも、連絡できなくて」
「なんで? 緊張しちゃって?」
「うん。それもあるけど……台所に電話があるからお母さんが近くにいて、電話できなくて」
「そうだよね。うち来る? お母さん、夕方は、パートに出てるからいないよ。うちから電話する?」
「いいの? 嬉しい!! ありがとう。さっちゃん!!」
「ううん。どういたしまして。フフッ!」

 彼女は、今日、塾がなくて告白は、一緒に帰って私の家で早速することにした。
私のことでもないのに授業中、早く終われ早く終われって繰り返し思ってた。
彼女の顔を覗くと、やはり、いつもは、冷静な彼女も強張った表情をしていた。
終礼が終わると、私と彼女は、家路を急いだ。

 私の家は、古い家で駅に近い場所にあった。
彼女の家と同じで台所に電話がある。
一人っ子だから、いつもは、留守番をしてて好き勝手に学校の宿題が終わったら、おやつを食べたり、最近は、ドラマにはまってて観てたりした。

 私がジュースとお菓子を出すと、彼女は、私にお礼を言って、物凄い速さで、ジュースでお菓子を流し込んだ。
どうやら、彼女は、早く彼に電話したいらしい。
わかるな。上手くいくにしろ、いかないにしろ、告白の結果が知りたいんだな。

 彼女は、決死の表情で切り出した。
「告白する。さっちゃん。電話するね」
彼女は、緊張からか電話をかける時、小刻みに震えていた。
私は、心の中でガンバレ、ガンバレって唱えてた。
「もしもし?はじめまして。石野(いしの)さんのお宅ですか」
「そうですけど、どなたですか?」
私にも彼のお母さんらしき女性の声が聞き漏れてきた。
「私は、高里と申しまして、奏(かなた)さんいらっしゃいますか?」
「どういった?」
「あ、あの……友人です!」
「わかりました。少しお待ちを」
「はい。すみません」
私は、やりとりを聞きながら思っていた。
そういえば、相手の名前聞いてなかったんだ。
「奏ー! 奏ー!」
「誰からー?」
「高里さんって言う人、知り合い?」
「高里?……あぁ、代わるわ。もしもし?」
連絡先教えておいて、名前うる覚えって、私は、少し、また彼に不信感を覚えた。
弓ちゃんは、彼の声を聞くと更にカチコチになった。
「あ、あの……そ、その……」

 沈黙がしばらく続いた。

「どうしたの?何か?」
彼の言葉に私は、思わずイライラして、彼女から、受話器を奪い取った。
「あのねぇ。連絡先教えたんでしょ! 弓ちゃん、あなたのこと好きなの! 鈍感っていうかなんていうか! あっ……」
私は、恐る恐る彼女の方を見た。
彼女は、少し、頬を膨らませて受話器を渡すように手を私の方に差し出した。
私は、手でゴメンゴメンて合図して、急いで受話器を手渡した。
「ごめんね。本当ごめんなさい。今の友達で……」
「あのさー。付き合いたいってことだよね。こっちから、言うべきだったかな。弓ちゃん。付き合おう」
彼女は、その場で飛び跳ねた。
「えっ? いいの?」
「もちろん。よろしく」
「うん。うん。ありがとう。」
「じゃあ、今度、こっちから電話するよ」
「うん。お父さんいつも10時頃、帰ってくるからそれまででいいかな。うちのお父さん厳しくて」
「教えてくれて助かった。厳しいのは、ちょっとな……じゃあ、電話するから。じゃあね」
「うん。バイバイ。またね」

 彼女は、電話が終わって切った途端、私に抱きついてきた。
「ありがとう。さっちゃん。私達、付き合えるみたい。さっちゃんのおかげだよ」
良かったー、これで上手くいかなかったらと私は、胸を撫で下ろした。
でも、私は、すぐに心配になった。
「電話するって言ってたけど、弓ちゃん大丈夫なの? お母さんのこととか……」
「うん。告白成功したら、お母さんに話そうって覚悟してたの」
「そっか。良かった。それより、さっきは、ごめんね。なんか先走っちゃって」
「ううん。緊張しちゃって、私だけだったら、告白できなかったよ」
「とにかく、付き合えるんだね。友達として全力で応援するよ!」
「ありがとうーーー!!」
私と彼女は、抱き合って、また喜んだ。

 その日から彼女は、毎日のように彼と電話で話して、私に楽しそうに話した内容を教えてくれた。
私は、彼女が勉強漬けの毎日だったことを知っていたから、彼女が嬉しそうに話していることに幸せを感じた。

 彼女は、彼とデートするようになった。
デートの場所は、もっぱら図書館。
実に彼女らしい。
彼女の定期入れには、秘かに彼の写真があって、こっそり、私に見せてくれた。
確かに坊主頭だったけど顔は、爽やかな感じだった。
私は、一抹の不安を覚えた。
彼は、つまらなくないのかなぁ。大丈夫かなぁ。

 ある日、私は、よく行く商店街で買い物の途中、とんでもない現場を見かけてしまった。
弓ちゃんの彼、奏が見ず知らずの制服を着た女の子と楽しそうに話してた。

 私は、自分に言い聞かせたきっと彼女の妹とかだ。
でも、彼女から聞いてしまった。
彼には、弟が1人いるだけだってことを……。
私は、頭の中が混乱した。
あれは、親戚とか友人とかだ。
私の大切な親友を裏切ることなんて、彼女が選んだ人がよりによってあるはずない。

 数ヶ月、彼女と彼は、付き合った。
私は、相変わらず、彼女のノロケを聞いていたが、目撃したあの日から、普通には、聞けずにモヤモヤした気持ちでいた。

 とうとう、その日がきた。
学校で、彼と別れたと彼女から聞いた。
私は、彼と別れたことより、彼女の生気のない顔を見て、彼女のことを心配した。

 私は、彼女に気持ちを吐き出してもらおうと思って、今日は、ちょうど、彼女の塾がなかったから、私の家に来てもらうことにした。

 私がいつものように、ジュースとお菓子を出そうと彼女から離れようとした時、彼女は、私の腕を掴んで、私に抱きつきながら、子供のように泣きじゃくった。
そんな彼女の姿を見るのは、もちろん、初めてだ。

 彼女は、事の顛末を泣きながら、私に話してくれた。
「シクッ! シクッ! 彼のこと、歩いてたら、偶然見つけたの。声掛けようと思ったら、あとから、女の子が彼に駆け寄ってきて、楽しそうに話し始めたの。友達だって思いたかったんだけど、彼の方から彼女に恋人繋ぎして、二人寄り添って歩いてて、一番、傷ついたのは、その女の子の顔をよく見たら、彼と出会った大会で競った人だった。彼は、同じ日に私とその子に声掛けてたみたい……。しかも、彼女の方が本命だったみたいで……。シクッ! シクッ!」
「酷い! 酷い! 奏のヤツ!! 許せない!! 弓ちゃんのこと悲しませるなんて!! 最低なヤツ!!待ってて。弓ちゃん。ジュースとお菓子持ってくるから、そしたら、肩貸すからね。いっぱい泣いてね」
彼女は、泣きながら、やっとのことで軽く頷いた。

 私は、立って、少し歩くと何もない所で躓いた。
そういえば、最近、何もない所でたまに躓く。
そんなことより、彼女のためにジュースとお菓子持って彼女の元に行かないと。
 

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