『最弱で最悪』な能力を持った能力者は、全ての悲鳴を切り裂く!

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第3話

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約1時間ほど整備された道を早足で歩いた二人を迎えたのは、この周辺の木を伐採して作られた門。
門の上部にはこれもまた木で作られた看板があり、『ベースキャンプ5』とカタカナで記されている。

「有馬くんと相原さんじゃないか!遅かったから何かあったんじゃないかとヒヤヒヤしてたよ。」

声をかけてきたのは今日の警戒担当である本郷ほんごうさんだ。
攻略者では珍しく今年で40になるらしいが、全くそれを感じさせないハツラツさである。
ギリギリ170センチに届くか届かないかくらいの俺と比べると10センチ以上身長が高く、少し見上げる形だ。
きれいに整えられた顎髭は、もうすぐ中学生になる娘さんからは不評らしい。

魔物の襲撃を警戒して全てのベースキャンプには簡易的な柵と堀が作られており、さながら戦国時代の砦である。
原始的といえば原始的だが、資材は基本的に現地調達のため仕方がないだろう。

北と南に2ヶ所ある門には必ず警戒担当が配備され、持ち回りで担当することになっている。

「少し遠くまで行き過ぎたみたいです。途中で皐月さんと合流できたので魔物の心配はありませんでしたけど。」
「…それは良かった。」

本郷さんは微笑まし気な笑みを浮かべて言った。

蒼汰は少し不服そうな表情になる。
蒼汰の言ったことは紛れもない事実だが、本郷さんに蒼汰と皐月さんの関係性を勘違いされたと思ったからだ。
慌てて訂正しようとも思ったが、言い訳にしか聞こえないだろうことを想像し、放っておくことにした。

「本郷さん、お勤めご苦労さまです!」

先を行っていた皐月さんに促され、蒼汰は話を切り上げ慌てて門をくぐり、ベースキャンプの中へと入る。

本郷さんの言った通り太陽はほとんど沈みかけており、もう少し遅かったら暗闇の中を歩く羽目になっただろう。
日をまたいでの探索を想定していなかった蒼汰は、灯りになるものを何も持っていなかった。
道は整備されているとはいえ街灯などという便利なものは設置されておらず、夜の探索の危険度は跳ね上がる。

蒼汰と皐月さんはベースキャンプの中心にあるダンジョン協会の出張所、通称攻略者ギルドに素材を提出しに向かう。

ベースキャンプ内の建物は全て木で作られており、装飾よりも実用性重視の建物ばかりである。
ベースキャンプ5という番号の若さが示す通り、ダンジョンが発生してから1年あまりで作られた比較的古い拠点であり、武器屋や防具屋から、ポーション屋や服屋まで一通りの店が整えられている。
その店で売られている商品は、どれもダンジョン産で魔物からのドロップ品や採取された植物などから作られたものである。

二人は5分ほど歩き、攻略者ギルドへと着いた。
他の建物には使われていない黒みがかった巨木が柱として使われており、3階建てのベースキャンプの目印ともいえる建物だ。

幾何学文様で装飾された開けっ放しの分厚い扉のある入り口から中に入る。

「相変わらず混んでるねぇ。」

蒼汰の隣りにいる皐月さんが思わずという感じでつぶやく。

入って左手にはクエストボード。
クエストボードとはいいつつも、現在出されているクエストだけでなく、警戒すべき魔物の位置情報や前線の探索状況まで、様々なことが記された紙が所狭しと貼り付けられている。

正面には受付カウンター。
窓口は全部で5つあり、ここでクエスト受注などの基本的な対応が行われている。

右手には素材取引所。
クエストやノルマ達成の報告やそれに伴う素材やドロップ品の換金と取引をここで行う。

そして受付カウンターの両端にある通路を奥に進むと、地上へとダンジョンの出口がある。
出口を出た先は都心のど真ん中である。
それがこのベースキャンプが人の多い一番の理由だろう。

まず蒼汰と皐月さんは自然な感じで左手のクエストボードへと足を向ける。
スマホを持ち込めないダンジョン内では情報を得られる手段が少ない。
命を落とす確率を減らすためにはクエストボードの情報を常に確認し、頭の中に叩き込んでおくことが必要だった。

「あれ?このベースキャンプの南の方に新しく立ち入り制限エリアができたみたいですね。」
「ほんとだ。」

クエストボードの中心の一番目立つ場所には、他の情報が記された紙よりも一回り大きいものを使い、立ち入り制限エリア設定を知らせる紙が貼られていた。

蒼汰は自分の心臓の鼓動が少し早くなるのを感じる。
蒼汰が今日魔物を討伐したエリアは、立ち入り制限エリアから非常に近い場所だった。
掲示された時間は蒼汰が出発した2時間後。
リアルタイムで情報を受け取れないというのは、このようなラグを容易に発生させてしまう。

「蒼汰くん、大丈夫?」
「…はい、大丈夫です。」

気付くと不安げな表情で皐月さんが蒼汰の方を見上げていた。
帰り際に会った皐月さんは、今日蒼汰がいたエリアや能力で悲鳴を聞いたことを知っている。

かえでさんは…奥の受付担当みたい。素直に素材取引所に行こうか。ほら、蒼汰くん行くよ?」

無理やり話題を変えるような口調の皐月さん。
蒼汰が奥の受付を見ると、確かに楓さんが攻略者の受付対応をしている後ろ姿があった。
奥側の受付は、こちら側とは逆側にカウンターが設置されておりダンジョン入口から入ってきた攻略者の対応をそこで行っている。

楓さんはダンジョン協会の職員さんで、ここベースキャンプ5の専属。
普段から話を聞いてもらったりアドバイスをもらったりして、とてもお世話になっている綺麗で元気なお姉さんだ。
ちなみに彼女の口癖は「彼氏募集中!」である。

回れ右して素材取引所に向かった蒼汰と皐月さんは順番に素材を提出し、今週分のノルマ達成を報告し終えた。

「蒼汰くんはどうする?」
「教授の研究室に顔を出そうと思います。今週のノルマは達成しましたし、明日以降の予定も聞いておきたいので。」
「じゃあ私も一緒に行こうかな。」

ここに用がなくなった蒼汰と皐月さんは、このままベースキャンプ内にある教授の研究室に一緒に行くことになった。
研究室といってもダンジョン協会から与えられた普通の部屋にそれっぽいものをいくつか置いただけの簡素なものだ。

正直夕方から夜へと変わりつつあるこの時間だから、研究室に誰かがいるとは限らないと蒼汰は考えていた。
地上に比べると明かりが少なく、夜に活動する人は稀で、早寝早起きが基本である。
それでもつい数時間前に聞いた悲鳴と皐月さんの話を聞いたことで何となくもやもやしており、何か動かずにはいられない気分だった。

研究棟と呼ばれる色々な大学やダンジョン協会の研究室が入った建物は、攻略者ギルドのすぐ隣である。
こちらも開かれたままの扉から研究棟に入り、さっそくこの廊下の突きあたりにある教授の研究室へと向かう。

ベースキャンプの建物はほとんど全てが木で出来ているわけだが、この研究棟に関しては扉の感じといい廊下の感じといい、さながら昭和以前の学校の雰囲気を漂わせるものがあった。

「あれ、誰もいないね。」

研究室にはやはりというか、誰もいなかった。
しかし机に広げられた書類といい、出しっぱなしの黒板代わりの板といい、さっきまで誰かがいたような雰囲気である。

「教授はまだ帰ってなさそうですね。黒板に貼られているはこの周辺の地図、でしょうか?」
「確かにそうみたいだね。」

教授は綺麗好きとまではいかないが、帰るときには研究室の中を来たときと同じ整った状態にしないと気が済まないタイプだ。
蒼汰と皐月さんは、机にある魔物などに関する様々な資料や色々と書き込みされた黒板の地図を確認する。

蒼汰の予想通り、地図はここベースキャンプ5を中心とした広域な周辺地図であった。
南方には赤く大きな円で強調されたエリアがあり、恐らく立ち入り制限エリアと関連があるのだろうと二人は自然と想像することができた。

「二人とも来ていたか。ちょうど良いタイミングだ。」

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