転生者ジンの異世界冒険譚（旧作品名：七天冒険譚 異世界冒険者 ジン！）

第１章 転生

８話 テンプレ

　ギルドハウスのドアを出たジンがそのまま歩き始めようとすると、その前を三人の冒険者が立ち塞がった。
しかしその装備の貧弱さから誰が見ても低ランクであろうと思える3人であった。

「おい小僧、ちょっと顔をかしな。逃げようなんて気を起こすなよ。まあ、逃げようとしても逃さねえけどな」

　　（もしかして、テンプレ？）

そう思いながらジンは背中を押されて少し離れた路地裏へと連れて行かれる。

「小僧、おまえギルドに２級ポーションを売ったんだろ、随分景気のいい話じゃねーか。
兄貴達は二度とこの街に近寄りたくなくなる様にボコボコにしろって言ってたけど、俺たちは優しいから売った金と持ってる物を全部出せば痛い目を見ずに済ましてやる。全部出しな」

どうやらベルンハルトの声がラウンジにいた冒険者達にも聞こえていたらしい。
ギルドの会議室にしては防音がお粗末だなと思ったが、ベルンハルトが声を上げた時はまだドアが閉まりきっていなかった様な気もする。
ジンが奥の部屋に入った後、ドタバタと走り回るソフィーとベルンハルトがその部屋に入って行き大声で２級ポーションと言ったのが聞こえていれば、冒険者でないと言ったジンが大金を手にしたことは誰にでも分かるだろう。

　　（草原をあれほどのスピードで走る事が出来たのだから、身体能力もかなり上がっているはずだ。
　　　ならばこの世界に来る前に体得していた体術もキレが良くなっているに違いない。
　　　もしもの場合は走って逃げるけど、所作や足運びを見ても大した相手ではなさそうだ。
　　　こいつら三人ならなんとでもなるだろうから、ちょっと揶揄ってやるかな）

「なんで？」

「おめえみてーなガキが大金やお宝を持っていてもしょうがねえだろ、俺たちが有効に使ってやろうって言ってるんだ。怪我をしねーうちに全部出しな」

呆れ返って揶揄う気も失せたジンは相手を煽り始める。

「寝言は寝ていえ！　お前らアホじゃないか？　
そのでっかい頭の中に脳みそ入ってるのか？　神様が間違えて違う物入れたんだろ、そうに違いない。
おまえ頭振ったらカラカラ音がするだろ。いや、おまえの脳みそ小さすぎて音さえしないな。やーいバーカバーカ！」

そう言って先頭の男を指さした。

「はぁ？　何言ってやがるこのくそガキ」

「蚤程度の脳みそしかないお前らでも、馬鹿にされたのはわかるんだ。
下等生物に渡す物なんて持ってない。話すだけ無駄だから行かせてもらうぞ」

そう言って三人の間を通り抜けようとすると、頭に血が上った先頭の男が胸ぐらを掴んで殴りかかろうとする。

「このクソガキがっ！」

ジンは胸ぐらを掴んだ男の手首関節を極めて男を地面に転がすと、足首を思い切り踏みつけて骨を粉砕する。

バキッ！

「グアァァァーーー」

それを見て剣の柄を握った隣の男の懐にすかさず潜り込むと、その隣で剣を抜いた斬りかかろうとする男の方に一本背負いで投げ飛ばす。
投げ飛ばされた仲間に男が怯んだ隙に倒そうと思っていたのだが、投げ飛ばされた仲間を一歩下がって避けたためジンとの間に間合いができてしまった。

「チッ、うまく避けたか」

一歩後退してジンとの間をとった男は抜いた剣を振りかぶってジンに向かってくると躊躇なく斬りかかってきた。
しかしジンにはその動きがかなり緩慢に見えていた。

　（ん、なんだ？　ずいぶんゆっくり動いている様に感じるぞ）

相手の動きが遅く見えたのは与えられた能力であったのだがジンは未だそれを知らない。

　動きが遅く見える相手に接近して脛に思い切り下段蹴りをくらわすと、脛はあらぬ方向へ折れ曲がり男はその場で悶絶した。
背負い投げを食らった男はそれを横目に立ち上がり襲いかかってくる。

「この野郎ーー」

ドゴン！

「グボァッ」

その懐に潜り込んだジンは八極拳の猛虎硬爬山（中段突きから肘打ちの連続技）で男の右胸部を陥没させた。

　　（地球で覚えた体術はそのまま使えるみたいだけど、ずいぶんキレが良くなってるな）

「人を見た目で判断するから痛い目見るんだ、戦場だったら死んでるぞ。
生きているだけでも、運が良かったと思え！」

ジンは捨て台詞を吐くと、その場を後にして広場へと向かった。
宿屋を探すために広場の北側へ向かっていると前方から十数人の男たちがジンの横を走り抜けていった。

　（なんだよ騒々しいな、揉め事か？）

バタバタドタドタと前から通り過ぎて行った男たちはしばらくすると後から戻ってきた。
嫌な予感がしたジンは通路の影へと身を潜め様子を窺う。

「あの小僧いったいどこに行きやがったんだ」

「小僧だから簡単だって言うからやらせてみればこの有様だ、情けねえ。
俺は戻って飲み直してるから必ず小僧を見つけてこい。見つけるまでは帰ってくるんじゃねえぞ」

兄貴と呼ばれた男はその場から立ち去って行ったが残された男達は五人一組の三チームに分かれて街中に散って行く。

「まだそんなに遠くに行ってないはずだ」

「急いで探すぞ、早く見つけないと兄貴が荒れるからな」

ジンはこの世界での自分の実力をまだ把握しきれていない。
なので先程痛めつけた冒険者が一番下っ端なのであろうと思われる五人組を相手にするのはリスクが高いと判断し、接触しない方を選んだ。
そしてジンは人混みに紛れながら宿屋があると言われた方向に歩き始めるのであった。