転生者ジンの異世界冒険譚(旧作品名:七天冒険譚 異世界冒険者 ジン!)

夏夢唯

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第1章 転生

41話 リンダル子爵領へ

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 ジンは南門からアラバスタの町に入るとそのまま冒険者ギルドに向かった。

ギルドに到着するとドアを押し開けて中へと進んだ、するとギルドの中で落ち着かない様子のベルンハルトがドアの方に振り返りジンと目が合った」

「ジン、どこに行ってたんだ! お前が乗って行ったギルドの馬が町の中でウロウロしていたぞ。なのに誰もお前を知らないって言うから一体何が起きたのかと心配していたんだぞ」

「心配かけてすみません、僕は大丈夫です」

「そうか、それなら良いんだが次から事情がわかるようにメモか何か残しておけ」

「わかりました。あ、それよりも大変なことになりそうです! 明日スワとハニューダにケタールの軍隊が進撃するそうです。ゲイズ子爵とケルン男爵が敵側に寝返っていて、アデン男爵は降伏したみたいです」

「なにっ! その情報が本当なら急がないとまずい、俺の名前ですぐに王立騎士団の兵士に伝令を出そう」

普段なら情報の確認等をするベルンハルトであったがジンは信用できると思っているこたや情報の緊急性などから即座に情報の伝搬を決断し、緊急性を伝えた上でアラバスタのギルドマスターに伝令の人間を出してもらった。

 確実に伝えたいこともあり王都に向けて4人、そしてハニューダ領主に向けて4人。それぞれを2組に分け違う道で送り出した。そしてベルンハルトは伝令を送り出すとすぐに馬車を用意して出発の準備を始める。

それを見たジンは「馬車なんて用意してどこに行くんですか?」と尋ねた。

「リンダルは俺の故郷だ、連絡は俺が行く。そのついでに両親を領の外に逃すのに馬車が必要なんだ。二人を逃したそのあとは敵の進軍が送れるように可能な限り時間を稼ぐ。今出れば馬車でも明日の朝までにはドラゴニック山脈を越えられるだろうし、この状況を知らせればリンダル子爵の領軍にも動いてもらえるはずだ」

「そうですね動くなら早いほうがいいですね」

「そうだ、少しでも早く防衛の準備ができれば被害が少なくなる。自分の故郷が蹂躙されるのを黙って見過ごすことはできないからな。ハニューダ伯爵領は遠すぎるから間に合うかどうか判らないが、あそこの領軍は強いから簡単にはやられないはずだ。それに王都に伝令が着けば王立騎士団が出てくるから3日も持ちこたえればなんとかなる。ギルド本部には鳩を飛ばしたから、伝令より先に着いて王立騎士団に連絡しているはずだ」

「ベルさんのご両親がいるのなら僕も行きます、少しでも時間稼ぎができるように障壁を張りに行きますよ」

「この前のやつだな」

「はい、おあれです」

「ところで、あの障壁はどれだけの時間張っていられるんだ?」

「やってみないとわかりません、移動せずに防御だけすればいいのならアイテムがあるので長時間張りっぱなしにできると思いますよ」

「それなら食料さえ持っていれば生きて帰れそうだな。そうと決まったら急いで出よう」

二人は急いで馬車に乗りリンダル子爵領に向けて走り始めた。到着までは約200㎞、峠越えもあるが明日の夜明けには到着できるだろう。

 この世界の馬はタフな上にスピードも速いので人間が耐えることができれば4頭立ての馬車なら1日15時間で250㎞を移動可能である、1800年頃にイギリスの通便馬車が17時間かけて192㎞を走っていた事を考えればものすごい距離を移動できるのだ。
これというのも魔獣から逃げ延びることができた足の速い種が生き延びて進化しているのだろう。

 小一時間ほど馬車を走らせ川が見え始めるとベルンハルトは速度を落として馬車を道の脇へ馬車を寄せた。

「この辺で少し馬を休ませよう」

そう言って馬車から降りたベルンハルトは馬を連れて10mほど先の川辺へと向かう。

ゲイズ領についてすぐ街中を調べ、急いでアラバスタに戻ることになった。そしてアラバスタに着くととんぼ返りでそのまま出発することになったジンは昼もまともな食事ができていなかった。

 グ~!

「そう言えば何も食べてなかったんだ!」

馬車から降りたジンの腹から大きな音がし、ベルンハルトが振り返る。

「ははは、流石に空腹には勝てねえか」

「そうですね、僕たちも食事休憩にしますか」

「そうだな、携行食料くらいしかないが何もないよりマシだろう」

「大丈夫です、食料は持って来てるので」

ベルンハルトが馬に水をあげている横でジンはアイテムボックスを探り中から串焼きを取り出した。

「ベルさん、串焼を食べませんか?」

「お、ありがてえ」

ベルンハルトはそう言って受け取ると無造作にかぶりついた。

「あちっ! なんで熱いんだ、まるで焼きたてじゃねーか」

「マジックバッグに状態保持効果が付いてるみたいなので、作りたてを入れておけばその状態を維持できるんですよ」

「そうなのか、それは便利だな。遠征中に温かいものが食べられるなんて思ってもいなかったぞ。しかしこの串焼はエールのつまみにぴったりだ、今すぐ欲しくなるが仕事中だから我慢するか」

「そうですね」

その後を言ってしまうと何かのフラグを立ててしまいそうなので言うのをやめた。
串焼を食べながら水筒の水を飲んでいるとベルンハルトジンに尋ねる。

「ジン、ちょっと聞いておきたいんだが、情報はどこで手に入れたんだ。
出た次の日に見てきたみたいな情報を持って帰ったお前をスパイじゃないかって言っている奴がいるんだ。
俺は疑ったりしていないんだが、お前を知らない奴も大勢いるんでな」

「そうなんですか、ものすごく重要な情報だからそう思いますよね。
もう大騒ぎになってますけど、疑いが晴れる前に動き出してよかったんですか」

「急を要する内容だったからな、今回は俺が責任を取るってことで話を進めた。
間違っていても誰も死なないが、本当だったら取り返しがつかない。
それに、お前が嘘を言っても何も得をしないじゃないか。
冒険者になってから結構稼いでいるみたいだから金は余っていそうだしな。
俺はお前を信用しているよ」

  (どう説明しよう、やっぱり転移はものすごくレアなスキルだから言えないよな)

そう思うとあることを試してみた。
体に魔力を循環させて足元から引力が消えて浮き上がるように想像すると少しずつ足の裏にかかっていた自分の体重を感じなくなっていった。
そのまま飛び上がろうとしたのだが、馬車の上では集中できないのでうまくいかなかった。
転移をごまかすために即席で飛行ができないか試してみたが簡単に習得できるスキルでは無いようだ。

「上手く言えないんですが、実は遠くのことが見えるマジックアイテムを持っているんですよ」

「そうなのか? まあ、そういうことにしておいてやる」

そう言うとニヤリと笑って馬を馬車につなぎ始めた。

「さて、行くぞ。目的地はまだまだ遠い」そう言ってベルンハルトは馭者席に乗り込んだ。

ジンも急いでその隣に乗り込むと馬に合図して馬車を走らせ始めた。
今乗っている馬車は4頭立てで6人乗りの箱馬車を引くタイプだ。
貴族が乗っているようなタイプであるが外装・内装共に質素にして重量を軽減してある。
そして車体には板バネがついているので思っていたほど乗り心地は悪くなかった。

 走らせている様子を見ているうちに操作方法を覚えることができたので、途中からは御者を交代しながら馬車を走らせ、御者をしていない者は馬車の中で仮眠をとるようにした。
ミュスカの町跡を通りすぎるとだんだん山道になりスピードが落ちてきた、夜明け前には領都に到着したかったのだがこのペースだと難しいと思えたのでベルンハルトが寝ているのを確認してレノの近くの街道に馬車ごと転移した。
馬車を門の前まで走らせて止めるとジンは中で仮眠をとっているベルンハルトを起こした。

「ベルさん、着きましたよ」

「ん、着いたか、随分早かったな。もう門は開いているか?」

「まだですね、もうすぐ朝の鐘がなると思うけど待ちます?」

「いや、開けてもらおう。この時間なら門の近くに衛士がいるはずだ」

ベルンハルトはそう言うと門に向かって歩きドアを叩き始めた。
すぐに小窓が開いたので事情を説明して門を開いてもらい領主の館に案内してもらった。

 リンダル子爵邸に着くと執事が現れ中へと案内された。
円形の玄関ホールには歴史がありそうな甲冑や強そうな真っ白な熊の魔獣の剥製が置かれ天井には綺麗なシャンデリアが吊り下げられていた。
ジンとベルンハルトは執事に案内されて歩いて行き、ロビーを抜けた先にある応接間に通された。

「しばらくお待ちください」

執事が出て行き5分ほどすると応接間のドアが開いた。

「待たせた、リンダル子爵だ。久しぶりだなベルンハルト、それでマールのギルドマスターがこんな朝早く至急会いたいとはどのような用事かな」

「ゲイズ子爵が反乱を起こしました。
周辺の貴族の状況ですがケルン男爵はゲイズ側です、アデン男爵はどうなったか分かりませんが領軍はゲイズ側に統合されました。
後ろにはケタール王国がいて今も連合で進撃しているようで、こちら2万の軍勢が向かっているようです」

「2万? そんなにいるのか、そうなると俺の領軍だけでは迎え撃てない。となると防衛戦だな。
ザック、軍指揮官と副官をここへ呼んでくれ、至急だ!」

どうやら執事はザックという名前らしい。
部屋の外へ出たザックは軍服を着た2人を連れて戻ってきた。

「御用でしょうか?」

「戦争だ、2万の兵がここに向かっている。至急防衛戦の準備だ」

 命令をすると後の動きは早かった、領軍と冒険者ギルド有志による都市籠城作戦が始まったのだ。
住民はジン達が籠城している間にスワ公爵領へ退避、スワ侯爵に応援を頼み王立騎士団が来るまで領軍で耐えるという方法しか選択がなかったのだ。
スワ侯爵の領軍が応援に来ない場合はそのままリョーガに敗走しなければいけないのだがリンダル子爵はそんなことは考えていないのであった。
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