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第1章 転生

40話 イシーヤ

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 ラージカミカゼアントの暴走があった後は誰もこの付近には近づいていないはずなので周囲の目を気にせずに道路を進んだ。
しばらく進むとアラートが聞こえた。

「キュイッキュイ」

 足を止めてスキル【マップ】で周囲を確認すると400メートル先に赤い光で埋め尽くされている部分があった。
何がいるのか確認するとラージカミカゼアントだったが、道から外れているので横を走っても大丈夫だと思いそのまま走り抜けることにした。

 マップを出したまま走り始めると道から少し外れた位置に光点が集まっていたので目視で確認すると大きな土の山が見え、その周りに数十匹のラージカミカゼアントの姿が見えた。
マップを見ると、土の山だと思ったものは巨大な蟻塚のようだが目視した感じはどう見ても山にしか見えない。
近づいていくと山の斜面に開いた穴からアリが顔を出す、どうやらジンの足音に反応して蟻塚から出てきたのだろう。
横を走り抜け少し進んだ場所で動きを確認すると足音を感知して追って来ているようだ。
それならと足音を立てないようにして行動してみるが、それでも追ってくる個体がいる。
なぜだろうと何度か移動してみると風下の個体が反応していることから匂いを頼りに追いかけてきているようだ。

 ジンは逃げている時に前から大群が出てきて挟み撃ちにされるのが嫌だったので、向かってくるラージカミカゼアント達は駆除してしまおうと決めるとその場で足を止めた。
下手な攻撃をして1匹でも自爆してしまうと、その振動で周りの蟻たちは活動を始めてしまう。
その場合どれだけの数が出てくるか分からなかったので一番安全な方法だと考えて凍らせることにすると、ジンは前方から道沿い進撃してくる大群に向かって渾身のブリザードを撃ち出した。
ブリザードが空気中の水分までも凍りつかせながらそのままの勢いで数キロ先までとおりぬけるとマイナス200度の白銀の世界でオブジェと化したラージカミカゼアントにキラキラと月明かりを反射するダイヤモンドダストが舞い始めた。
レイのレベルアップの声がしたので、ジンはステータスを確認するとLv113になっていた。

『レイ、倒した数を教えてくれ』

『倒した数は
ラージカミカゼアント       5879匹
ラージカミカゼアントソルジャー   303匹
ラージカミカゼアントキャプテン    58匹
です』

結構沢山倒したのにレベルは16しか上がっていなかったところをみるとレベルが高くなると、だんだん上がりにくくなるようだ。
ステータスを見ると転移がレベル3に上がっているので転移距離がさらに延びているのであろう。
進行方向を向いてこのまま進むか考えたが、この先幾つの蟻塚があるのか分からないので戻った場所で野宿をして夜明けを迎えることにした。

 夜明け前に目が覚め、起き上がると南側には連なった大きな山々が見えた。

 この山々はドラゴニック山脈と呼ばれている物だ。
この山脈の中には多数のドラゴンが住み着いている場所があり、その付近は竜の巣と呼ばれていて絵地図には大体の場所が表示されていた。

 竜の巣と書かれている高い山が集まっている場所を避け、隣の山の頂を目指して転移できるか試してみた。
真っ白な景色に変わり、顔に冷たい風が吹き付ける場所なので無事に転移できたようだ。

 その場所からは離れた山の周りを飛ぶ赤いドラゴンが見え、時々何かに向かって火を吐いているのが見えた。
気配遮断をしながら南側の小さな山を探してその山頂に転移、そしてまた南の山に転移をすると南側に荒地や森、そして湖が見えはじめた。

 マップを確認すると5つの領地に接するスワン湖であることがわかった。
マジックスコープを出して確認してみるとスワン湖の手前側に街道といくつかの町を確認できたが、その中に大きな町は3つ、南側からゲイズ領都イシーヤ、領の境にあるユリーカの町とその北にリンダル子爵領の領都レノが見えた。

『レイ、スワン湖の湖畔に転移したいんだけど、行けるかな?』

『湖畔までなら転移可能です』

『可能なんだ、それなら寄り道せずに一気に転移しよう』

 目標を確認して湖畔の砂浜に転移した。
転移した場所からイシーヤの領都までは2㎞、朝の鐘の音が聞こえてきたから6時になったばかりだろう。
マール市は6時に門が開いていたので、ここも同じだろうと思い急いで町に向かった。

 領都の西側に着くと門の前では領軍の兵士が20人ぐらいで並んでいる人たちの検問をしていた。
ジンは隙を見て門から見えた内側の馬車の横に転移すると何食わぬ顔をしてイシーヤ領都の中を歩き始めた。
事前情報によるとこの町の人口は約3万5000人でこの領の人口の7割がこの町で生活している。

 街中はジンの常駐しているマール市に比べて外を歩いている商人は少なく冒険者の姿は全く見られない。
商店に置いてある商品も数が少なく、買い物に来ていた住民の服装は質素に見えた。
冒険者ギルドを探したがそれらしき看板がかかっている場所はドアが締め切られて閉店状態だった、石工ギルドは稼働しているようだがそれほど沢山の人の出入りはなかった。
それに対して武器工房や防具工房はフル稼働状態で店の前には出荷前と思われる在庫が積まれていた。

  (ここの領軍ってこんなに武器足りていないのか? それにゲイズ領って石材が主産業じゃなかったっけ?)

 どう見ても街中がおかしな感じだった。
ジンは装備している刀をアイテムボックスに入れ、靴もサンダルに履き替え、念のためギルドタグもアイテムボックスに入れて商人に見えるように振舞った。
若い男と冒険者の姿は全くなく、外で遊んでいる子供もいなかった。
それに対して何処に行っても兵士の姿を見ない場所はない。

  (一体領兵は何人いるんだろう)

領主館に近付こうとした時は町の中だというのに検問ができていて近づけなかった。

  (領主館の偵察は夜だな、昼間は明るいので忍び込むのが難しそうだぞ)

仕方がないので町の出入り口を見にいくと西と南は出入りが少し厳しい程度だったが領主館が近い東側は閉ざされて通行禁止になっていた。

 北門に向かって歩いていると馬に乗った兵士に止められて身分証明書の提出を求められた。

「おい、お前! 身分証明書を提示しろ!」

「これしか持っていませんが、これでよろしいでしょうか?」

そう言って出発前に作っておいた商人ギルド証を出して見せた。

「商人か、紛らわしい格好をして歩くな。日が暮れる前には宿に戻るんだぞ、昨日から夜間外出禁止令が出たからな。行っていいぞ」

  (商人ギルドに入っていてよかった~、やはりこの領には何かあるな)

そう思いながら歩いていると、北門の前に兵士が整列して出発の準備をしていた。
気づかれないように見ていると若い男たちが装備をつけて集まり、昼過ぎには門から外へ出ていった。

 何処に行くのか気になったジンは湖畔に転移して、先ほどの男達の動きを観察していた。
すると男達は北側の町ユリーカの手前まで移動し、すでに集まっている軍の中に配置されていった。
しばらく軍の編成を観察しているとその中に見た事の無い軍服を見つけた。
フナイ王立騎士団でも領軍でもない軍服を着た兵士がいる近くの森に気配を消して近づいていき、聞き耳を立てていると士官らしき男たちの話し声が聞こえてきた。

「いよいよ明後日だ。ケルン男爵をこちら側に引き込めたから途中で軍を疲弊させずに済んだな、アデン領はどうなっている?」

「はい、アデン領の状況はもう少しで落とせると先ほど連絡があり、そのままハニューダ伯爵領もドラゴニック山脈からエルム山に伸びるラインまで前線を進めて確保するそうです」

「北と東は山脈で防御は万全だが西のホーエンバッハ辺境伯とスワ侯爵は要注意だな、俺が会見を申し込んでも用心して会おうとしなかった」

「ホーエンバッハ辺境伯領はフナイ王国併合後はルドルフ帝国に進呈する話になっておりますので、しばらくは身動きが取れないように牽制する話がついています」

「そうか、アウレアは不参戦の返事がきたシュバルツ帝国とヒストリア王国はフナイが疲弊すれば国土を切り取りに参戦してくるだろう」

その時、騎兵が走ってきた。到着すると馬から降りた兵士が上官と思われる男の前に駆け寄り片膝をついて報告を始めた。

「殿下、アデン領軍との編成軍1万5000はそのままハニューダ領の切り取りにかかります」

「そうか、明日にはケルン領軍を組み込んだ部隊がユリーカで合流して2万の軍になる。1日兵を休めて2日後に進撃を始めるからそれまでは。情報が漏れないように気をつけろ」

  (2万と1万5000って反乱ぐらいに思ってたけど、その人数は戦争だよな。
   それにしても、殿下って何処の殿下だ?)


殿下と言われている奴を見ると情報が浮かび上がった

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【名前】  イーライ・マーミフ
【年齢】  21
【種族】  ヒューマン
【称号】 ケタール王国第一王子
     ケタール王国軍総司令
【レベル】            58
【HP】        121/121
【MP】        115/115
【STR(力)】        153
【AGI(敏捷性)】      153
【CON(体力)】       172
【INT(知能)】       153
【DEX(器用)】       162
【LUC(運)】         50
【状態】             魅了
【魔法】
【スキル】            俯瞰
【ユニークスキル】       思考誘導
【加護】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  (ケタール?どのへんにあるんだったっけ?)

ジンはベルンハルトに絵地図を見せてもらった時に領地の場所は覚えたが、周辺の国は全く見ていなかったのでケタールの位置がわからなかったのだ。

マップを開くとフナイ王国の南側に接している国の1つにケタール王国があった。

『ふーん、こんな所にあるんだ。思っていたより小さい国だな』

『国土はフナイ王国の3分の1程度です』

ジンは再びイーライのステータスを見始めると気になる文字を見つけた。

  (こいつ、レベルは大して高くないが気になる文字があるな)
  
『レイ、魅了状態とスキルの【俯瞰】と【思考誘導】って何?』

『状態の魅了はスキル【魅了】にかかっている状態です、このスキルにかかるとスキル使用者に強い信頼心を持つので操られやすい状態になります。
スキルの【俯瞰】は自分のいる場所を中心に高所より見る事ができ、戦場の動きを確認する場合に有効なものです。
ユニークスキルの【思考誘導】ですが相手の思考を自分の思うように誘導できます。
このスキルが進化するとユニークスキル(洗脳)になります』

  (こいつ誰かに操られてるじゃん!
   しかし、進化して思考誘導が洗脳になるとまずいよな)

このまま進軍した場合大量の経験値取得によって洗脳スキルを得る可能性があるという事なので早い対策が必要なのである。
誰も気がついていないようだがケルン男爵も寝返っており、アデン男爵もすでに相手側に組み込まれている。

 急がないとやばいと思ったジンはそこから一気にドラゴニック山脈に転移して数度の転移を繰り返しアラバスタの南門の近くに転移したのであった。
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