転生者ジンの異世界冒険譚(旧作品名:七天冒険譚 異世界冒険者 ジン!)

夏夢唯

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第1章 転生

39話 イシーヤへ

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  レベルアップが決定したジンに向かってソフィーが「ギルドタグを出してください」と手を差し出す。

ジンがギルドタグを手渡すと、ソフィーは新しいタグと一緒に機械にタグを挿してランクアップの処理を始めた。
1分ほどで処理が完了し新しいゴールドのギルドタグをトレーに載せて差し出す。

「はい、どうぞ。このタグは一生使うことになるかもしれないから大事にしてね」

「そうですね、無くさないように気をつけます」

「それじゃあ次に報酬を渡すわね、今回は一律大銀貨5枚だから全部合わせると6381万5000G。
大白金貨6枚・白金貨3枚・大金貨8枚・金貨1枚・大銀貨5枚、それから依頼の大金貨3枚と褒賞金の金貨5枚」

そう言ってソフィーはトレーに並べていくと最後に受領書を差し出した。

「確認できたらここに受け取りのにサインしてね」

サインしてソフィーに渡しマジックバッグにお金を入れながらベルンハルトに話しかける。

「ベルさん、ニーナさんにメタルワームの糸を渡しましたよ。その時にニーナさんがカレンさんを連れてこいと伝えてくれと言っていました」

「メタルワームの糸って、いつの間に取りに行ったんだ? アラバスタに行く前か?」

まさかたった二、三日で糸の素材をを取ってくると思っていなかったベルンハルトは驚いていた。

「繭を持って帰った日にアラバスタに行くことになったので、ベルさんに言い忘れていました」

「繭ってことはメタルワームを見つけたのか、お前って強運の持ち主なんだな」

「そうなんですか、今回はラッキーだったんですね。あ、因みに今僕が来ているこの上着もメタルワームの糸を使っていますよ、着心地はすごくいいです。ミスリル繭の糸から作ったので強度もあるし魔法付与もしてもらったのでより強くなっているそうですよ」

「ミスリル繭なんて取れたのか、前にその糸で作った服をカレンにもプレゼントしたくて随分探したんだが見つけられなかった。繭が取れた場所にもう一度行ってカレンの分を取ってきてやれよ」

「カレンさんのミスリル繭ならもうニーナさんに渡していますよ、渡した分で足りるって言っていましたからあとは行って採寸するだけで作れます。ミスリル繭の糸はカレンさんの分しかありませんが、他にも持って帰っているのでベルさんの服も作ってくれると思いますよ」

「そうか、それは喜ぶ。早速今日の夕方にでも連れて行ってくるよ。情勢が少しきな臭くなってきたから俺も新しいのを頼もうかな」

きな臭いとはさっき話していたケタール王国がフナイ王国にテロを仕掛けているという話の事だとろう思った、今回もあの二人を捕まえていなければ何もわからずに水面下でテロの準備が進んで国内が無茶苦茶になっていた可能性もあったのだ。

「さっきの話なんですけど、あの二人は自白したんですか?」

「いや、多分自白はしなかっただろう。
間者は捕まっても情報を漏らさないように強力な暗示をかけられているから拷問も効果がない、下手をすると自殺してしまうからな。
軍部の諜報部には精神干渉や幻惑系の魔法を使える人間がいるって話だからそいつがやったんだろう」

「そうなんですか、間者は転移して逃げたりしないんですか?高レベルの魔法使いだと転移して逃げそうなんですけど」

「おいおい、転移をできる奴が何人いると思っているんだ。王宮筆頭魔法士でも数百メートル先に転移するのが精一杯なのに末端の間者が転移なんてできないさ」

  (俺、もっと遠くまで転移できるんだけど、こんな話をしたらやばいな)

「それなら安心ですね、あとは王立騎士団の仕事ですよね。
今回の件が早く片付かないと安心してダンジョンに行けません」

「その件で冒険者ギルドに調査の依頼が入っている。
捕まえた二人のうち一人はケタール王国の諜報員だったが、もう一人がなんと隣のイシーヤ領の諜報員だった」

「どうしてイシーヤの諜報員がリョーガ領にテロを仕掛けるんですか? もしかしてアラバスタもイシーヤが絡んでいたんですか?」

ジンは同じ国内の隣の領がこんなことをするとは思えなかっのだ。

「ケタールに嫁いだイシーヤ領主ゲイズ子爵の娘が絡んでいるらしいんだが、詳しい事は分からない。そこまでの情報を引き出すことができないらしい。
毎週あるはずの王立騎士団の定期連絡員による報告が無かったから調査員を出したらしいんだがそいつも戻ってこないからイシーヤ領を調べてほしいそうだ」

「それ、誰が行くんですか? 俺じゃダメですかね」

「行ってくれるのか? そう言ってもらえると助かる、実は頼もうと思っていたんだ。
できればイシーヤの冒険者ギルドもどうなっているか調べようと思っていたんだが、あっち側に取り込まれていた場合ここのギルドメンバーだと顔を知られているから困っていたんだ。その点お前はまだあっちに顔を知られていないからな」

「そうですね、それじゃあすぐに出発したいと思いますが、ギルドに地図なんて置いてありますか? あれば助かります」

初めて行く場所なのでどう行けば良いか見当がつかない、せめて地図のような物があれば助かると尋ねてみた。

「詳しいのは無いが、大体の地形と道それから目印が書いてあるものならあるから持ってこよう」

ベルンハルトはオフィスに入ると新聞紙を広げた程度の絵地図を2枚持ってきた。
1枚はフナイ王国の全域と隣接する国が少しずつ描かれた縮尺の大きな物、そしてもう1枚がリョーガを含む周辺の領地が描かれている物だった。
これをコピーしたいがデジカメを出すわけにはいかないので、どうしようか思案しているとアナライザーのレイを思い出した。

『レイ、この絵地図をデータベースに取り込める?』

『すでに取り込み済みです。マップとの関連付けをしますか?』

『まだ行った事が無い場所もあるが問題ない?』

『行ったことがない場所は色を変えて表示して目印が近づけば実際の地形と取り込んだ図を比較して補正します』

アナライザーは高性能だった。
ジンが今まで見た物を全て情報として取り込みデータベースとして蓄えていて、それを活用する事もできるのだ。

「ジン、何かに描き写すか?」

「大丈夫です、覚えました」

その後ベルンハルトは周辺の国の情報とイシーヤ領で調べる内容をジンに説明した。

「誰を信用していいのかわからないので俺から伝令は出しません。もし伝令が来た場合は偽物なので捕まえてください。では行ってきます」

 ギルドハウスの横に預けている馬を牽いて金の麦亭に戻りメルさんに遠征に行ってくると伝えて宿を出た。
もしもの時の偽装の為に商人ギルドに行き、どの国でも使えるギルドカードを発行してもらい町を出発する。
そのまま商人ギルドの陰から馬ごと転移しようと思ったが事件のせいで門番が出入の記録をとっているので門の外までは歩いていく。
門をくぐると馬に乗り町の死角になる場所まで走った。
死角に入ると転移を始め、2回ほど繰り返すとアラバスタの町の手前に着いた。
町の北門には資材を搬入する馬車と建築関係の作業員が沢山並んでいたので、町の復興作業が始まっているんだなと思いながら町の南側に行くと擁壁の修復も始まっていた。
今度の擁壁は今までの倍の厚みで作られ、外側には石材を使っているので随分強度を上げているだろう。

 町を過ぎると初めて行く場所なのでマッピングも兼ねて馬に乗って南に進んだ。
休憩しながら5時間ほど走ると日が暮れ始めたこともあり、川の近くで野宿をすることになった。
川の近くに行き、馬の水を準備すると結界石に魔力を流し込むと馬の餌になる雑草を確保できるように大きな結界を張った。

 本当はもう少し先に行きたかったのだが、これから先は大きく右に曲がりドラム荒地という草木の少ない地域になってしまうのでこの場所にしたのだ。
ドラム荒地での野宿を避けたのは水や草が少ないことも理由の一つなのだが、大きな理由はそこがラージカミカゼアントやボムアントが生息する場所だったからだ。
夜中にアリの大群に取り囲まれてドカンなんていうのは避けたい、結界の強度は大丈夫だと思うのだがそんなテストをした事が無いので安全のためにこの場所にしたのだ。
食事を終えてマップを開いてみると、ギルドハウスで見た絵地図がマッピングされている現在地から先の部分にコピーされていた。
どうやらマッピングされると絵地図が正確な地図へと上書きされるようだ。
ゲイズ子爵領までの道を確認すると、現在の場所から南西行きミュスカの町跡から山脈の間を通り、リンダル子爵領を抜けて行く1本道しかなかった。

  (この道は絶対に監視されているよな)

馬を連れてこの険しい山越えは無理だと思えたので馬と一緒にアラバスタの町に転移して馬を門の横に繋ぐと野宿をしていた場所へと戻った。
新しい鞍にはギルドのマークが入っているので衛士が馬を見つければ保護してくれるだろう。
 戻ってきて気がついたのだが自分の転移で出入りが自由にできるようだ。実は結界の中からの攻撃ができなかったので転移ができるとは思っていなかったのだ。
夜空に輝く星を見ようとマジックスコープを取り出して何気なく中を覗くと何故か遠い場所が明るく見えた。
魔力操作でスコープの倍率を下げて覗くと昼のように明るく見えた。

  (高性能の暗視スコープにもなるのか)

周囲が昼のようにみる事ができたので【身体強化】と【身体能力加速】を起動するとマジックスコープを片手にほぼ真っ暗な街道を走り始めるのであった。
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