黒鍛冶が行く

夏夢唯

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アドリア王国編

1話 基礎魔法

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 光が消えると青空の下芝生の上に敷かれた上等な敷物の上だった。
目を開けると、金髪の精悍な男が顔を覗き込んでいた。

陽射しはポカポカと暖かく、時々抜けていく風がとても気持ちよくて周囲には咲いている花が見えるので季節は春のようだ。
つい数時間前までは都会の喧騒の中渋滞にはまりストレスを溜めていたというのが嘘のようだ。
「あらら、おめめが覚めまちたか~
アイダ、レオナルドが目を覚ましたよ」

そう言われて花を摘んでいた碧眼銀髪の美人が近寄って来ると僕を抱きあげた。

「レオちゃん日向ぼっこは気持ちよかったかな~
少し肌寒くなって来たからおうちに入りましょうね」

抱きかかえられながら周りを見回すと、どうやら大きな屋敷の庭で日向ぼっこをしていたようだ。
喋ろうとしてみたが思うように話せない。
出た言葉は「あー」とか「うー」ぐらいだ。

どうやら俺はこの屋敷の子供で、精悍な男とこの美しい女性が両親のようだ。
屋敷に入り寝かされたベッドはなんと天蓋付きだった。
(おぉー、凄いお姫様みたい!
って、おい!僕は男の子なのになんだか恥ずかしいだろー)

ツッコミを入れたいが話せないのでそれは出来なかった。

(さて、これからどうしよう。
まずは現状確認だ、どうやら俺の魂はこの赤ん坊としてこの世界に転生したようだ。
生まれて数ヶ月は意識がなかったようだが、今日やっと覚醒できたということだろう)

まずは自分の手を見てみる。
かろうじてニギニギできる程度で個別の指を自由に動かすことはできないようだ。
寝返りをしようとしてみたが、横を向くのが精一杯でうつ伏せになることは難しい、しばらく手足をジタバタしたり声を出す練習をしていたが、いつの間にか疲れて寝てしまった。
気がつくとなんだかお尻の周りが気持ち悪い、とても嫌な感じだが誰も呼ぶことができないので赤ん坊の現在唯一のスキル〈泣く〉を発動。

「オギャー オギャー」

部屋のドアが開き簡素な黒いワンピースに白いエプロンと白いキャップを頭につけた女の子が入って来た。

「レオナルド様どうされましたか?」

そう言いながら抱きかかえ、お尻の辺りを確認するとベッドに寝かしてオシメを取り替え始めた。
洗面器のような器に手を向けて

「ウォーター」
「ホット」

そう唱え、タオルをつけて絞る音がした。
おしめを外して俺の方を向くと

「クリーン」

クリーンで綺麗になっているのだからそのままオシメをすれば良い気がするが、暖かい濡れタオルでお尻周りを拭いて新しいオシメをしてくれた。
クリーンの魔法の後に暖かい濡れタオルで拭く意味がわからないのだが、気持ちがいいので良しとしておこう。
それにしても、この子はメイドさんかな?

「綺麗になりましたよ、気持ちいいですか~
専属のメイドになりましたマリーですよ、覚えてくださいね~」

ふむふむ、マリーちゃんか。
手際もいいし誰も見ていないのに俺を大切に扱ってくれている、転生前の世界ではベビーシッターによるDVなんて事件もあったようだが、マリーちゃんは良い子のようだ。
お尻の気持ち悪さは無くなったが、お腹が空いたまらなくなって来たので再びスキル発動。

「オギャー ビェー」

「さっきとは鳴き声が違うわね」

そう言いながらマリーは俺を抱きかかえて、屋敷のリビングらしき場所へ連れて行かれた。

「アイダ様、レオナルド様がお腹を空かされているようなのですが」

「ありがとう、マリー」

そう言って俺を受け取ると上着をはだけておっぱいを飲ませてくれた。
外見は赤ん坊だが、中身は23歳なので少し恥ずかしかったが空腹には勝てずに腹一杯になるまで飲んだ。
気がつくとベッドに寝ていたので、飲みながら眠ってしまったようだ。
さっき唱えていた、ウォーターとホット、それにクリーンは生活魔法と呼ばれる物であろう。

(どうやらこの世界には魔法が存在するようだな、俺にも使えるかな?そのうち練習してみよう)

僕は手足の動かす運動や声を出す練習、それに手のひらが暖かくなった時に感じたものが魔力だろうと推測してそれを感じる練習を毎日した。
生後3ヶ月で寝返りができ、それから1ヶ月もするとハイハイができるようになり、言葉も生後6ヶ月頃にはアイダのことを「マーマ」、マリーのことを「マイー」、ジェームスのことを「ダー」それに数語を話すことができるようになっていた。
そんな俺を見てジェームスは「レオちゃんは天才ですね~、きっと凄い領主になれますよ~」と親バカを発動させ目尻を下げていた。
7ヶ月になる頃にはベッドから抜け出すことを覚え、よちよち歩くことができるようになっていたので、40畳ほどの子供部屋の中でかくれんぼをしてはマリーを困らせていた。
魔法はまだ使うことができないが、手に集めることができた暖かいもの身体中で移動させる事が出来るようになっていた。
あとでわかったことであるが、これは魔力循環といい高位の魔法使いも行なっている魔力操作の基本練習だった様だ。
ある日、マリーが部屋から出たところでベッドから脱走して話す練習と歩く練習を始めると、どこからか視線を感じたが練習を続けていると「クスクス」と笑い声が聞こえたので振り返るとジェームスとアイダの姿があった。
チェストの影からこっそりと俺がベッドから脱走する様子や声を出しながら歩いている様子を見て

「すごいぞ、柵をよじ登って脱走してる」
「おしゃべりしながら部屋をお散歩しているわ」

などと小さな声で話しながら俺を見ていたようだ。
こっそり、やっていたのをずっと見られているのかと思うと恥ずかしくなってしまったが、思いっきりの笑顔でごまかした。
この日以降柵に登って落ちることを恐れたジェームスの指示で、ベッドの柵は低くなり、踏み台や手すりが取り付けられた。

 それから数日後、マリーの使っていた生活魔法をこっそり練習。
ベッドで立ち上がりまずは初歩魔法の定番〈ウォーター〉をやってみる。
普段から練習している魔力操作で掌に魔力を集め、水を出すイメージをすると空中に小さな水の玉が現れた。
下に落とすと濡れてしまうので窓の外にポイ!

「ひゃー!」

あ、ごめんなさい、誰かいたみたい。
窓の外で誰かの声がしたが、俺の仕業だとわ思いつかないだろうから、練習を続ける。
水が出たのならと、火が出るのか試すとロウソクの炎くらいの小さな火の玉が現れた。
外に捨てると火事になりそうだったので水の入ったバケツに捨てると「ジュッ」という音がして消えた。
風が吹くのをイメージしてカーテンに向かって手を振るとそよ風が起きてカーテンが揺れる。
   火・水・風は出せた3属性の魔法は使えるようだ
指を指した先が明るくなるイメージをすると天井付近に豆球ほどの光が出た。
その光を消すようにイメージすると光を覆うように闇が現れ、光を飲み込むと消えていった。
ベッドから見える外の花壇を見ながら土を動かすと小さな穴を作れたのでもう一度動かして埋めておいた。
   光・闇・土の魔法も使えるようだ。結構魔法を使うのは簡単なのかもしれない。
他にどんな種類の魔法があるんだろう。
窓の外を眺めると上空には綺麗な青空が広がっていた。

(空を飛べたらすごいな)

そう思いながら外を眺めていると、窓が目線より下になっていく。
あれれ、ベッドが下に見えるぞ。
え、浮いてる!
浮いているのを意識した瞬間ベッドに落下した。
「ボヨ~ン、ボヨ~ン、ゴツン」
クッションのいいベッドだったが弾んでいるうちに柵の角に頭をぶつけた。

(痛い)

たんこぶができた頭を触りながら

(痛いの痛いの飛んでいけー!)

掌から淡い光が生まれたんこぶのある部分を包み込んだと思ったら痛みが消えたんこぶも無くなっていた。
とりあえず体を浮かす事が出来た、それに怪我の功名というかヒールもできたようだこれらの魔法ももっと使いこなせるようになるだろう。

時間はまだ沢山ある、何せ赤ん坊なのだから。
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