黒鍛冶が行く

夏夢唯

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アドリア王国編

3話 宮廷魔道士

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 教会で洗礼をして1週間が過ぎたある日、部屋を抜け出して屋敷の中を歩いて散歩していると、何やら騒がしい。
聞き耳を立てていると、時間よりカーブとシュートが家族を連れてやってくるから急ぐようにと連絡があり、慌てて準備に取り掛かっているらしい。
メイドさんたちはホールと今夜泊まる部屋、それとお風呂の準備。
コックさんは料理の作業時間を繰り上げて始めたようだ。

 それから2時間が過ぎようとした頃、窓の外を眺めていると外門から屋敷のエントランスにつながるアプローチを馬車が2台向かってくるのが見えた。
どうやらカーブさんとシュートさんが到着したようだ。
ベッドから降りて、部屋の外に歩いて行こうと歩き始めるとマリーが俺を連れにやってきた。
抱っこしようとするのを「抱っこ、いや!」と拒否してホールまで自分で歩いて行くとカーブ夫妻、シュート夫妻と3歳位の双子の女の子がテーブルの周りで待っていた。
父さんが僕に向かって手招きをしながら

「みんなお待ちかねだぞ、こっちにおいで」

呼ばれたので歩いて行くと、ローブを着ていなければ絶対に魔法使いだと思われないくらいマッチョのおじさんの前に連れて行かれて紹介された。

「この子がレオナルドだ。
レオナルド、お父さんの友達のカーブ・アナハイムおじさんだ」

一応、挨拶しておこう。

「こんにちは、僕の名前はレオナルドです」

「ジェームス、レオナルド君はこの前1歳になったばかりだよな。
もうこんなにしっかり歩けて挨拶もできるのか、すごいじゃないか。」

「そうだろ、俺の自慢の息子だ。
早く剣を教えたくてうずうずしているんだが、アイダに3歳になるまではダメだと止められているんだ。
もう始めてもいいと思うんだがな~」

(ジェームス、あんたまさか1歳の赤ん坊に剣を教えようとしていたのか?
気持ちは分からなくもないけど、早すぎるぞ!
だいたい1歳の赤ん坊が振り回せる剣なんてないだろうが!)

「それは無理だろう、そんな話聞いたことがないぞ。
がははははは!」

(笑い方も豪快!
この人本当は、宮廷魔道士じゃなくて冒険者者なんじゃない?)

あとでわかったのだがこれはあながち間違えではなかった。
カーブさんは子爵家の3男で家を継ぐ事ができなかったので冒険者の道を目指し、一流の魔法使いとして成功していたのだが、魔法の実力が認められたのとジェームスの推薦で宮廷魔道士として仕官する事ができたのだ。

「シュート、この子がレオナルドだ。
レオナルド、お父さんの友達のシュート子爵で近衛騎士隊の副隊長だ」

「こんにちは、僕の名前はレオナルロでしゅ」 あ、噛んじゃった、まあいいか。

「素晴らしい、名前を自分で言えるんですね。
早くこの先の成長を見てみたいものです」

(このベルサイユのばらに出て来そうなイケメンが騎士?
この人たち見た目は全く反対だな)

ジェームスに促されて全員が席に座り会食が始まった。

「なあ、カーブ。
最近変な話を耳にしたんだが、お前聞いていないか?」

「ん、どんな話だ?」

「身代金目当てで貴族の子供の誘拐が起きているらしいんだ。
犯人は厳重な警備の中誰にも気付かれずに誘拐するらしいぞ。」

「部屋に鍵をかけて、全部の入り口に見張りをつければ大丈夫なんじゃないか?」

「いや、それでもダメらしい。」

「誰か知り合いの子供が誘拐されたのか?」

「ああ、フィゼラー公爵の娘が拐われて白金貨10枚を請求されたらしい。」

「それで、公爵は払ったのか?」

「娘の命には変えられないと、払ったみたいだ。
身代金を払ったあとでも公の場に訴えたら娘の命はないと思えと言われて訴え出ずにいる。」

「そうか、厳重な警備の中、攫っていけるのだから命を取るのも簡単にできるな。
訴えなくて正解だ。
俺もここだけの話にしておこう。
シュートもここだけの話にしておいてくれ」

「しかし、一体どうやって誘拐するんだろう?
今は失われた転移の魔法でも使えるならわかるが、それほどすごい魔法使いなら誘拐なんてしなくても稼ぐには困らはずだしな」

「全く見当がつかないな、何か気がついた事や、思い当たる節があったらこっそり教えてくれ。
うちも子供が小さいから気が気でないんだ」

「わかった。
辛気臭い話はやめて、話題を変えよう」

「カーブ、お前の所はいつ子供が産まれるんだっけ?」

「10月だな、今5月だからあと5ヶ月だ。」

「楽しみでしょうがないな、お祝いは何が欲しい?
レオナルドが生まれたときは大層な物を頂いたから、遠慮はいらないぞ」

「そうか、それなら騎士学校の頃お前が使っていてここ10年くらい誰も使っていない瀟洒な屋敷があっただろ、あれをくれ」

「ま、あなたなんてこと言うの!
そんな高価な物いただけるわけがないじゃないですか。
すみません、冗談ですよ。
あなたも訂正してください!」

「ははは、いいですよ。
俺とカーブの仲です、遠慮はいりません。
無理な時は無理だって言いますから。
カーブ、屋敷と言うほど大きくないし、あの家に住むならだいぶ手を入れないと厳しいんじゃないか?」

「社交会をするわけじゃないんだから大丈夫さ、それに壊れている所はぼちぼち自分で修理するよ。」

「そうか、なら使ってくれ。
一つだけお願いがあるんだが、母が好きな白バラのアーチだけは枯らさないようにしてくれ」

「それなら大丈夫だ、グレイスが薔薇が好きで実家でも立派な庭を作っていたから問題ない。
グレイス、大丈夫だよな」

「お庭に薔薇を植えているんですか?
それは楽しみです、実家からも株分けして持ってきて綺麗なローズガーデンにして見せます」

「よろしくお願いします。
名義変更はこっちでやっておくから、鍵はあとで執事のセバスにもらってくれ」

「ジェームス、冗談で言ったんだけど本当にくれるのか?」

「精霊保護区での騒動で結婚式に出られなかったから、その時のお祝いも兼ねてる。
放っておけば朽ちてしまうが、お前なら大事に使ってくれるだろ」

「ありがとう」

そんなやりとりを聞きながら目の前の食事を食べていると、どこからか視線を感じたのでそちらを向くとシュートさんが見ている。

「ジェームス、レオナルド君は本当に1歳か?
うちの子供たちより上手に食事をしているように見えるよ」

(やばい、話を聞くのに気を取られて1歳らしくする事を忘れていた)
   
次の瞬間、わざとフォークで上手に刺せないふりをしてフルーツを転がし、それを手でとって口に放り込み、見られていないかキョロキョロする仕草をして見せた。

「プッ、よく見てなかっただけかな。
右手のフォローが上手すぎて、フォークを上手に使っているように見えました。」

(うまくごまかせた、1歳らしいって大変だな~)

「そろそろ食事は済んだかな?
カーブ、少し大きくなれば自分のステータスは出せるようになるんだが、小さすぎてレオナルドはまだ無理だからステータスを見てくれないか?」

「わかった、『鑑定』」

「おぉ、加護がついているぞ。ちょっと待て、書き出すから」

カーブが書き出した内容は次のようなものであった。
【名前】     レオナルド・アストレア
【年齢】               1
【種族】           ヒューマン
【職種】
【称号】
【レベル】              1
【HP】           30/30
【MP】           30/30
【STR】             30
【DEX】             35
【CON】             30
【INT】             40
【VIT】             35
【LUC】             70
【状態】         正常
【魔法】         
【スキル】        
【ユニークスキル】    
【加護】         風の精霊王の加護

「風の加護がついているなら魔法も使えるようになりそうだな
それに、レベル1なのに20以下がないし平均的に数値が高いぞ」

「本当だ、どんどん成長が楽しみになりますね」

「ん、よく見ると風の精霊じゃなくて風の精霊王の加護だぞ、カーブお前の見間違いじゃないのか?」

「いや、間違いはないぞ。
何度見ても風の精霊王の加護だと書いている」

「みんな、このステータスは他言無用で頼む
大きくなって自分で道を決めさせたいんだ。
精霊王の加護があるなんて知られたら黒梟騎士団の監視がついてしまうかもしれない」

「わかった、俺たちで成長を見届けよう」

(偽装していてよかった。
 精霊王の加護でこれだと、主神様や始神様の加護を貰っているのを見られたらそれこそ大騒ぎだ)

会食の後、大人たちが酒を飲み始めたのを横目に女の子が俺のところへやってきたのだが、女の子たちによってほっぺたをプニプニされたり抱っこされたり、双子がおねむになるまで交代でおままごとの赤ちゃん役で大変だった。
やっと部屋に戻れると思ったのだが、大人が談話している中、誘拐されないように安全の為、俺たち子どのは目の届く場所に寝かされた。

(これじゃあ日課の鍛錬ができないな)
   
仕方がないので、寝転がっていると、いつの間にか眠ってしまった。
赤ちゃんだから仕方ないんだよね、眠さには勝てません。
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