剣士に扮した男爵令嬢は、幽居の公子の自由を願う

石月 和花

文字の大きさ
9 / 86

9. 休日のお誘い

しおりを挟む
 暫く一緒に仕事をする約束をしたアンナとルーフェスは、毎朝決まった時間にギルドで待ち合わせることにした。

 アンナは当初、依頼が一番多いギルドのオープン直後の八時に待ち合わせを希望したが、ルーフェスはあんまり人が多い時間にギルドに来たく無いというので、折衷案として二人は待ち合わせ時間を毎朝八時半に取り決めたのだった。

 それからルーフェスは、自分が急にギルドに行けなくなる事もあるかもしれないから、八時半に自分が居なかったら、その日は来れないものと思って欲しいとも告げた。

 そして、もしその場合にアンナが一人で依頼をする事になっても、無茶な事はしないでと約束させられたのだった。

(なんか、ちょっと過保護に扱われてるような気もするのよね……)

 自分はそんなに危なっかしいのだろうかと、いささか不服に思うところはあったが、ルーフェスと一緒に行動するようになって仕事はすこぶる順調で、彼との関係も非常に良好だった。

 アンナは今まで、臨時で複数人のパーティーに加わったことは何度かあれど、長い期間特定の人と組んで仕事をすることはしなかった。

 今まで全くそういったお誘いがなかった訳では無いが、アンナのことを口説こうと近づいてくる男ばかりだったので、彼女はうんざりして決まった人と組む事を避けていたのだ。

 しかし、今行動を共にしているルーフェスにはそう言った煩わしさは全く無く、むしろ一緒に居ると安心感さえ覚えるのだ。

 また彼は、戦闘ではもっぱら鉄杖を振るって物理的に攻撃をしているのだが、ルーフェスの動作はアンナの動きと非常に連携が取れていて、彼女が自分一人の時と同じように動いても、行動が邪魔されず、むしろ彼の援護に助けられる事が多々あったのだ。

(多分、ルーフェスは動きを私に合わせてくれている……)

 それは、本日の戦闘でも感じていた。彼はアンナが動きやすいように、動いてくれているようだった。

 まだ組んで間もないが、魔法が使えて、近接物理攻撃も強い彼が冒険者として高い技量を持っている事は直ぐに分かった。

(知れば知るほど……)

 アンナは、横に立つルーフェスを盗み見て、心の中で呟いた。

(どうして私と組んでくれたのか、不思議で仕方ないわ……)

 愛想を尽かされないように、少なくとも剣の技量では迷惑をかけない様に、自分ももっと精進しないとな と、納品手続きをやってくれているルーフェスを横目にアンナは一人決意を新たにしたのだった。




「はい、今日の分の報酬だよ。」

 手続きを終えたルーフェスは、受け取った銀貨の半分をアンナに手渡した。

「……良かった。これで借り入れてた分は全て返せるわ……」

 受け取った銀貨を数えて、アンナは胸を撫で下ろした。返済はもう少し先になるだろうと思っていた武器の修理費の未払い分の支払いが、完済する目処が立ったのだ。

 ルーフェスと組んでまだ十日程しか経っていなかったが、その間二人はとても順調に依頼をこなす事が出来たので、予定より大分早い目標達成となったのだった。

「ルーフェス有難う!!こんなに早く借金が返せるとは思ってなかったの。」
「力になれたのなら良かったよ。」
 そう言って晴れ晴れとした顔で喜ぶアンナに、ルーフェスも目を細めた。

「貴方と組んで本当に良かったわ……」
「これで、とりあえずの借金は無くなったんだね?」
「えぇ、おかげさまでね。」

 借金が無くなることがこの上なく嬉しいアンナは、報酬を確認した時からずっと頬が緩みっぱなしで、とても分かりやすく上機嫌だった。

 そんな彼女の様子を優しく見守っていたルーフェスは、アンナが少し落ち着いた頃を見計らうと、思いもよらぬ提案を彼女に申し入れたのだった。

「お金の用立てを急がなくていいのならば、明日は休みにしないかい?」

 彼からの急な提案に、アンナは面食らった。

 知り合ってから今まで、毎日一緒にギルドの仕事をしていたのでそれが当たり前になっていたし、休むという選択肢は無いものだと思っていたからだ。

「何か予定があるの?いいわよ、休んで。それなら明日は私一人でやるから。」
「いや、そうじゃなくて……。君も休むんだよ。」
「何故?病気でも怪我でもないのに?」

 元よりアンナは、生活にゆとりがない事もあり、働ける時はとにかく働くというスタンスだったので、仕事を休むという概念が薄く、ルーフェスのこの提案に本気で首を捻ってた。

 そんな彼女の様子に不安を感じ、ルーフェスは諭す様にアンナに語りかけたのだった。

「いい?人間にとって休息は非常に重要なんだよ。アンナはちょっと働き過ぎなんだよ。」
「けれど、この仕事は病気や怪我でもしたら働けなくなって収入ゼロなのよ?稼げる時に稼いでおくのが常識じゃない?」
「逆だよ。病気や怪我をしないように、十分な休息をとって身体をメンテナンスするんだ。」

 納得できる様に丁寧に説得を試みたが、それでも不服そうな顔のままのアンナを見て、ルーフェスは仕方なく提案の内容を変えることにしたのだった。

「それならば、こうしよう。明日君は、僕の予定に付き合ってくれないか?」

 予想だにしなかった急な提案に、アンナは再び面食らった。

「えっと……、予定って……?」
「それは、「うん」と言ってくれたら教えるよ。」

 ニッコリと笑ってみせたルーフェスは、今はこれ以上情報を開示してくれそうにはなかった。

「……分かったわ。いつも助けて貰ってるし、明日は貴方に付き合うわ。」

 何も情報がないので不安ではあったが、アンナは少なからず彼に恩を感じているので、ここは素直に折れることにしたのだった。

「うん、有難う。それじゃあ明日は中央広場の噴水の前に、十一時に待ち合わせよう。ギルドの仕事じゃないから剣は置いて来て普通の格好でね。あくまで休日なんだからね。」
「えぇ。分かったわ。」

 しつこいくらい休日である事を念押しされて、ルーフェスとは「また明日」と言ってそこで別れた。

 そして、別れた後に気が付いたのだが、結局彼の予定が何なのか、アンナは教えて貰っていなかったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離婚するはずの旦那様を、なぜか看病しています

鍛高譚
恋愛
「結婚とは、貴族の義務。そこに愛など不要――」 そう割り切っていた公爵令嬢アルタイは、王命により辺境伯ベガと契約結婚することに。 お互い深入りしない仮面夫婦として過ごすはずが、ある日ベガが戦地へ赴くことになり、彼はアルタイにこう告げる。 「俺は生きて帰れる自信がない。……だから、お前を自由にしてやりたい」 あっさりと“離婚”を申し出る彼に、アルタイは皮肉めいた笑みを浮かべる。 「では、戦争が終わり、貴方が帰るまで離婚は待ちましょう。   戦地で女でも作ってきてください。そうすれば、心置きなく別れられます」 ――しかし、戦争は長引き、何年も経ったのちにようやく帰還したベガは、深い傷を負っていた。 彼を看病しながら、アルタイは自分の心が変化していることに気づく。 「早く元気になってもらわないと、離婚できませんね?」 「……本当に、離婚したいのか?」 最初は“義務”だったはずの結婚。しかし、夫婦として過ごすうちに、仮面は次第に剥がれていく。 やがて、二人の離婚を巡る噂が王宮を騒がせる中、ベガは決意を固める――。

【完】出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~

夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。 しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。 しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。 夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。 いきなり事件が発生してしまう。 結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。 しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。 (こうなったら、私がなんとかするしかないわ!) 腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。 それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】これは紛うことなき政略結婚である

七瀬菜々
恋愛
 没落寸前の貧乏侯爵家の令嬢アンリエッタ・ペリゴールは、スラム街出身の豪商クロード・ウェルズリーと結婚した。  金はないが血筋だけは立派な女と、金はあるが賤しい血筋の男。  互いに金と爵位のためだけに結婚した二人はきっと、恋も愛も介在しない冷めきった結婚生活を送ることになるのだろう。  アンリエッタはそう思っていた。  けれど、いざ新婚生活を始めてみると、何だか想像していたよりもずっと甘い気がして……!?   *この物語は、今まで顔を合わせれば喧嘩ばかりだった二人が夫婦となり、紆余曲折ありながらも愛と絆を深めていくただのハイテンションラブコメ………になる予定です。   ーーーーーーーーーー *主要な登場人物* ○アンリエッタ・ペリゴール いろんな不幸が重なり落ちぶれた、貧乏侯爵家の一人娘。意地っ張りでプライドの高いツンデレヒロイン。 ○クロード・ウェルズリー 一代で莫大な富を築き上げた豪商。生まれは卑しいが、顔がよく金持ち。恋愛に関しては不器用な男。 ○ニコル アンリエッタの侍女。 アンリエッタにとっては母であり、姉であり、友である大切な存在。 ○ミゲル クロードの秘書。 優しそうに見えて辛辣で容赦がない性格。常にひと言多い。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜

束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。 家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。 「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。 皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。 今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。 ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……! 心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。

【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

処理中です...