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29. 油断
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交戦を始めてから実に四十分は経過しただろうか。その間、二度の大咆哮があったが、その度にルーフェスが大魔法で周囲に集まったシルバーウルフを一掃してくれた。
危険な陽動役も、率先して彼が動いてくれているお陰で、アンナは大きな怪我も無く上手く立ち回れているが、長時間に渡る立ち回りに、次第に息が上がり、剣を構える腕も上がらなくなってきていた。
そしてルーフェスの方も、致命傷こそは避けているもののエンシェントウルフからの攻撃を多く捌いているので着ているローブはボロボロで、その身に受けた無数の浅い傷の血が滲んでいる。
永遠とも思われる位の長い時間の交戦に、アンナも、ルーフェスも疲労で動きが悪くなり、二人は限界を感じ始めていた。
しかし、体力の限界を迎えたのは向こうも同じようで、良く見ると狼も足元がふらついているのだ。
お互いフラフラになりながらも、相手から目を離さずに対峙を続ける。目を離した方が負けるのだ。
アンナは、何十回目か、もはや分からない位エンシェントウルフに向かって剣を突き刺した。何度繰り返しても倒れることのない魔物に半ば自棄になって、それでも刺突を繰り返した。
すると、最後に放った一撃が足に力が入らずに素早い動きが出来なくなっていたエンシェントウルフ喉に深く突き刺さったのが分かった。手には今までで一番深く入った感触が伝わってくるのだ。
手応えを感じてアンナは直ぐに剣身を引き抜くと、素早く後方に下がり距離を取った。しかし、彼女もまた足に疲労が溜まっていた為、即座に反応できずにエンシェントウルフの間合いからの離脱が一瞬遅れてしまったのだった。
(しまった。後ろに下がるのが少し遅れた!)
アンナは直撃する程ではないにしろ、それでも鋭い爪での反撃がかすめる事を覚悟して身構えた。
「……」
しかし、予想に反してエンシェントウルフの爪が彼女を襲う事はなかった。
アンナが突き刺さした剣を引き抜かれたエンシェントウルフは、喉から血飛沫を上げながら倒れ込み、ついに起き上がらなくなったのだ。
「倒し……た?」
信じられないといった面持ちでその場で警戒するも、エンシェントウルフは地面に倒れたままだった。
動かない標的を確認して、この難敵の討伐に成功したのだと実感したアンナは、全身から力が抜けてその場にへたり込んだのだった。
「倒せた……倒せたよルーフェス!!」
一時間近く、ずっと緊張しっぱなしだったこともあり、張り詰めていた気持ちが緩んだ途端、アンナは安堵からか泣き出しそうになっていた。
「激闘だったね。クタクタだよ。これ以上長引いてたらこっちの体力が保たなかったね。」
アンナの隣にルーフェスも腰を下ろした。流石に彼も息が上がっている。
「本当にそうね。」
二人は止めどなく流れ出る汗を拭いながら、戦闘中一切口にする事が出来なかった水分を補給し、それからゆっくり呼吸をして息を整えると、地面に座り込んだまま、アンナとルーフェスはお互いの無事を確認しあった。
「お互いに、ボロボロだね。怪我は無い?」
「私は大丈夫だけど、ルーフェスの方が酷いじゃない!怪我は?怪我はしてない?!」
「大丈夫、大きな怪我はしてないよ。」
身につけていた防具は多くの爪痕で傷だらけであったが、アンナに大きな怪我は無かった。それもこれも、ルーフェスが上手く動いてアンナをフォローしていたからだ。
そして大きな怪我はしていないと答えるルーフェスであったが、ローブの裂け目からは何本もの薄赤い爪痕が覗いていて、彼が全くの無傷では無い事を物語っていた。
「……ありがとうルーフェス。貴方が陽動して敵の注意を集めてくれたお陰で、私は死角から攻撃する事が出来たわ。それに、配下のシルバーウルフを呼び集めるあの大咆哮は、貴方の魔法が無かったら対応出来なかった。本当に……ありがとう……」
アンナはルーフェスの両手を自身の両手で包み込む様に握って俯いた。
先程ギルドで、異性の手を簡単に取るものではないと注意されたばかりであったが、この気持ちは、言葉ではとても言い表せないので、どうしても彼の手に触れたかったのだ。
触れ合ったその手が微かに震えていたので、ルーフェスはアンナが泣いているのを察して、何も言わずに彼女の手に自分の手を重ねて、彼女が落ち着くのを待った。
少しの間だけそうしていて、それからアンナは気持ちが落ち着くと顔を上げて頬に伝う涙の跡を指でなぞりながら立ち上がった。
「さぁ、暗くなってしまうから、解体して早く街に戻りましょう。討伐証明は尻尾だったわよね。」
「そうだね。早いところ済ませて、街へ戻ろうか。もうクタクタだよ。」
そう言ってアンナは、ルーフェスをその場で休ませたまま、ギルドに納品する尻尾を切り落とすべく一人でエンシェントウルフに近づいて、地面に倒れているその尻尾の付け根に力を込めて剣を振り下ろして胴体から切断すると、その尻尾を拾い上げてルーフェスが待つ方へと踵を返したのだった。
この時のアンナは、後はこの尻尾をギルドに持って帰り納品するだけだと、完全に油断していた。
だから、振り返った先に居るルーフェスの表情がアンナの背後を見て凍り付いた事にも、彼女は全く気がつかなかったのだった。
危険な陽動役も、率先して彼が動いてくれているお陰で、アンナは大きな怪我も無く上手く立ち回れているが、長時間に渡る立ち回りに、次第に息が上がり、剣を構える腕も上がらなくなってきていた。
そしてルーフェスの方も、致命傷こそは避けているもののエンシェントウルフからの攻撃を多く捌いているので着ているローブはボロボロで、その身に受けた無数の浅い傷の血が滲んでいる。
永遠とも思われる位の長い時間の交戦に、アンナも、ルーフェスも疲労で動きが悪くなり、二人は限界を感じ始めていた。
しかし、体力の限界を迎えたのは向こうも同じようで、良く見ると狼も足元がふらついているのだ。
お互いフラフラになりながらも、相手から目を離さずに対峙を続ける。目を離した方が負けるのだ。
アンナは、何十回目か、もはや分からない位エンシェントウルフに向かって剣を突き刺した。何度繰り返しても倒れることのない魔物に半ば自棄になって、それでも刺突を繰り返した。
すると、最後に放った一撃が足に力が入らずに素早い動きが出来なくなっていたエンシェントウルフ喉に深く突き刺さったのが分かった。手には今までで一番深く入った感触が伝わってくるのだ。
手応えを感じてアンナは直ぐに剣身を引き抜くと、素早く後方に下がり距離を取った。しかし、彼女もまた足に疲労が溜まっていた為、即座に反応できずにエンシェントウルフの間合いからの離脱が一瞬遅れてしまったのだった。
(しまった。後ろに下がるのが少し遅れた!)
アンナは直撃する程ではないにしろ、それでも鋭い爪での反撃がかすめる事を覚悟して身構えた。
「……」
しかし、予想に反してエンシェントウルフの爪が彼女を襲う事はなかった。
アンナが突き刺さした剣を引き抜かれたエンシェントウルフは、喉から血飛沫を上げながら倒れ込み、ついに起き上がらなくなったのだ。
「倒し……た?」
信じられないといった面持ちでその場で警戒するも、エンシェントウルフは地面に倒れたままだった。
動かない標的を確認して、この難敵の討伐に成功したのだと実感したアンナは、全身から力が抜けてその場にへたり込んだのだった。
「倒せた……倒せたよルーフェス!!」
一時間近く、ずっと緊張しっぱなしだったこともあり、張り詰めていた気持ちが緩んだ途端、アンナは安堵からか泣き出しそうになっていた。
「激闘だったね。クタクタだよ。これ以上長引いてたらこっちの体力が保たなかったね。」
アンナの隣にルーフェスも腰を下ろした。流石に彼も息が上がっている。
「本当にそうね。」
二人は止めどなく流れ出る汗を拭いながら、戦闘中一切口にする事が出来なかった水分を補給し、それからゆっくり呼吸をして息を整えると、地面に座り込んだまま、アンナとルーフェスはお互いの無事を確認しあった。
「お互いに、ボロボロだね。怪我は無い?」
「私は大丈夫だけど、ルーフェスの方が酷いじゃない!怪我は?怪我はしてない?!」
「大丈夫、大きな怪我はしてないよ。」
身につけていた防具は多くの爪痕で傷だらけであったが、アンナに大きな怪我は無かった。それもこれも、ルーフェスが上手く動いてアンナをフォローしていたからだ。
そして大きな怪我はしていないと答えるルーフェスであったが、ローブの裂け目からは何本もの薄赤い爪痕が覗いていて、彼が全くの無傷では無い事を物語っていた。
「……ありがとうルーフェス。貴方が陽動して敵の注意を集めてくれたお陰で、私は死角から攻撃する事が出来たわ。それに、配下のシルバーウルフを呼び集めるあの大咆哮は、貴方の魔法が無かったら対応出来なかった。本当に……ありがとう……」
アンナはルーフェスの両手を自身の両手で包み込む様に握って俯いた。
先程ギルドで、異性の手を簡単に取るものではないと注意されたばかりであったが、この気持ちは、言葉ではとても言い表せないので、どうしても彼の手に触れたかったのだ。
触れ合ったその手が微かに震えていたので、ルーフェスはアンナが泣いているのを察して、何も言わずに彼女の手に自分の手を重ねて、彼女が落ち着くのを待った。
少しの間だけそうしていて、それからアンナは気持ちが落ち着くと顔を上げて頬に伝う涙の跡を指でなぞりながら立ち上がった。
「さぁ、暗くなってしまうから、解体して早く街に戻りましょう。討伐証明は尻尾だったわよね。」
「そうだね。早いところ済ませて、街へ戻ろうか。もうクタクタだよ。」
そう言ってアンナは、ルーフェスをその場で休ませたまま、ギルドに納品する尻尾を切り落とすべく一人でエンシェントウルフに近づいて、地面に倒れているその尻尾の付け根に力を込めて剣を振り下ろして胴体から切断すると、その尻尾を拾い上げてルーフェスが待つ方へと踵を返したのだった。
この時のアンナは、後はこの尻尾をギルドに持って帰り納品するだけだと、完全に油断していた。
だから、振り返った先に居るルーフェスの表情がアンナの背後を見て凍り付いた事にも、彼女は全く気がつかなかったのだった。
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