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30. 悪夢
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アンナは納品物であるエンシェントウルフの尻尾を握りしめて、ルーフェスの元へ戻ろうとしていたが、不意に背後で何かが動く気配を感じた。
その気配にハッとして後ろを振り返ると、死んだと思われていたエンシェントウルフが、最後の力を振り絞ってアンナに襲いかかってきたのである。
「アンナっ!!!」
ルーフェスはそう叫ぶと、咄嗟に駆け寄ってアンナの腕を力一杯引っ張り手繰り寄せると、彼女を庇う様な形でエンシェントウルフとアンナとの間に回り込んだ。
その刹那。
エンシェントウルフはその鋭い爪で、ルーフェスの背中を深く抉ったのだった。
目の前に飛び散る鮮やかな血飛沫が、とてもゆっくりに見えて、アンナはこれは現実なのかと状況を認識できないでいた。
しかし、倒れ込んできたルーフェスを受け止めると、ぬめりとした生暖かい血の感触が、これが現実であると彼女に知らしめたのだった。
「ルーフェス!!」
彼の名を大きく呼ぶ。
意識こそはあるものの、返答はない。
彼は苦痛に顔を歪めて、呼吸も苦しそうだった。
「ルーフェスっ!!!」
もう一度、彼の名を呼ぶ。
アンナは今にも泣き出しそうな顔をして、震える両手で倒れ込むルーフェスを抱き抱えながら、必死に彼の名を呼び続けた。
「し……止血しないと……」
アンナは動揺しながらも、ゆっくりとルーフェスを地面に横たえた。
「アンナ……、先に……、とどめを……」
「大丈夫、もう死んでるからっ!!」
ルーフェスに言われてチラリとエンシェントウルフを見たが、血溜まりの中でピクリとも動かず今度こそ本当に絶命していた。
「し……止血するから、うつ伏せになって、傷を見せて!」
先程から、寒くもないのに震えが止まらない。アンナはままならない両手で彼の体を支えると、そのままうつ伏せの姿勢へと誘導した。
「……左腕が動かせそうに無いから、僕の服切って。それから……、傷口になるだけ厚い布を当ててきつく縛って固定して……」
アンナは言われた通りに、彼の服を背中から切って、傷口を確認する。
左肩から腰に向かって振り下ろされたその爪痕は、普通の令嬢ならば見ただけで卒倒しただろう。
怪我を見慣れているアンナでさえ、目を背けたくなる様な酷い状態であったが、今彼を手当てをできる人間が自分しかいなくて、手当てを躊躇ったら取り返しがつかなくなる事は明らかであったので、アンナは、手持ちの傷薬を使って出来うる限りの応急処置を必死に施した。
「ルーフェス、動ける?」
「ゆっくりなら……なんとか……」
傷口に布を当て包帯でキツく縛り上げると、アンナは不安げな様子のままルーフェスの身体を支えて彼を起き上がらせた。
アンナが抱き起す様な形で補助をしてルーフェスは何とか立ち上がる事が出来たが、立っているだけで明らかに辛そうであった。
「……ごめんなさい。私のせいで、本当にごめんなさい……」
アンナは耐えられなくなって涙を流しながら謝った。
自分があの時油断していなければ……
そもそもこんな危険な依頼をやろうなどと言い出さなければ……
自責の念に駆られて、涙が次から次に溢れ出す。
「泣かないでアンナ。もうすぐ……日が暮れる……。……街に戻ろう……」
荒い呼吸を整えられないままなのに、それでもルーフェスはアンナを落ち着かせようと、笑みを作ってそう言った。
立っているのもやっとなのに、歩くのなんてとても無理だと思ったが、それでも、早くここから離れないともうすぐ日が暮れてしまい、夜の森は危険なのだ。
「捕まって!」
アンナはルーフェスの右手を手に取ると、自身の肩に手を回させた。
そして彼の右側を支えながら、ルーフェスの歩調に合わせて二人はゆっくりと歩き出したのだった。
僅かな振動でもやはりキズに触る様で、ルーフェスは険しい表情で、痛みに耐えながら、ゆっくりゆっくりと歩を進めた。
来た時は二十分も掛からなかったこの道を、二人は倍の時間をかけてなんとかその半分まで戻ってこれた。
街道までは残り半分を過ぎたところだろうか。既に日は落ちはじめていて、森は赤く染まっていた。
「ルーフェス、もう少しだから、もう少しだけ頑張って!!」
アンナは必死に声をかけるも、彼の表情は険しく呼吸も荒い。
黙っていると不安に押しつぶされそうで、アンナ常にルーフェスに声をかけながら歩いていたが、苦痛に耐え歩くことだけに集中しているルーフェスは終始無言で、返事が返ってくる事は無かった。
しかし、そんなルーフェスが不意に声を上げたのだった。
「アンナ……」
「うん?」
弱々しく消え入りそうな声で、ルーフェスは続ける。
「僕が……動けなくなったら……、一人で……街に……戻って……」
その申し出は、アンナにとって到底受け入れる事は出来ない提案だった。
そんなの嫌!!
迷わず彼女はそう答えようとしたのだが、彼女が口を開く前に、アンナの手から離れて、ルーフェスは崩れ落ちたのだった。
その気配にハッとして後ろを振り返ると、死んだと思われていたエンシェントウルフが、最後の力を振り絞ってアンナに襲いかかってきたのである。
「アンナっ!!!」
ルーフェスはそう叫ぶと、咄嗟に駆け寄ってアンナの腕を力一杯引っ張り手繰り寄せると、彼女を庇う様な形でエンシェントウルフとアンナとの間に回り込んだ。
その刹那。
エンシェントウルフはその鋭い爪で、ルーフェスの背中を深く抉ったのだった。
目の前に飛び散る鮮やかな血飛沫が、とてもゆっくりに見えて、アンナはこれは現実なのかと状況を認識できないでいた。
しかし、倒れ込んできたルーフェスを受け止めると、ぬめりとした生暖かい血の感触が、これが現実であると彼女に知らしめたのだった。
「ルーフェス!!」
彼の名を大きく呼ぶ。
意識こそはあるものの、返答はない。
彼は苦痛に顔を歪めて、呼吸も苦しそうだった。
「ルーフェスっ!!!」
もう一度、彼の名を呼ぶ。
アンナは今にも泣き出しそうな顔をして、震える両手で倒れ込むルーフェスを抱き抱えながら、必死に彼の名を呼び続けた。
「し……止血しないと……」
アンナは動揺しながらも、ゆっくりとルーフェスを地面に横たえた。
「アンナ……、先に……、とどめを……」
「大丈夫、もう死んでるからっ!!」
ルーフェスに言われてチラリとエンシェントウルフを見たが、血溜まりの中でピクリとも動かず今度こそ本当に絶命していた。
「し……止血するから、うつ伏せになって、傷を見せて!」
先程から、寒くもないのに震えが止まらない。アンナはままならない両手で彼の体を支えると、そのままうつ伏せの姿勢へと誘導した。
「……左腕が動かせそうに無いから、僕の服切って。それから……、傷口になるだけ厚い布を当ててきつく縛って固定して……」
アンナは言われた通りに、彼の服を背中から切って、傷口を確認する。
左肩から腰に向かって振り下ろされたその爪痕は、普通の令嬢ならば見ただけで卒倒しただろう。
怪我を見慣れているアンナでさえ、目を背けたくなる様な酷い状態であったが、今彼を手当てをできる人間が自分しかいなくて、手当てを躊躇ったら取り返しがつかなくなる事は明らかであったので、アンナは、手持ちの傷薬を使って出来うる限りの応急処置を必死に施した。
「ルーフェス、動ける?」
「ゆっくりなら……なんとか……」
傷口に布を当て包帯でキツく縛り上げると、アンナは不安げな様子のままルーフェスの身体を支えて彼を起き上がらせた。
アンナが抱き起す様な形で補助をしてルーフェスは何とか立ち上がる事が出来たが、立っているだけで明らかに辛そうであった。
「……ごめんなさい。私のせいで、本当にごめんなさい……」
アンナは耐えられなくなって涙を流しながら謝った。
自分があの時油断していなければ……
そもそもこんな危険な依頼をやろうなどと言い出さなければ……
自責の念に駆られて、涙が次から次に溢れ出す。
「泣かないでアンナ。もうすぐ……日が暮れる……。……街に戻ろう……」
荒い呼吸を整えられないままなのに、それでもルーフェスはアンナを落ち着かせようと、笑みを作ってそう言った。
立っているのもやっとなのに、歩くのなんてとても無理だと思ったが、それでも、早くここから離れないともうすぐ日が暮れてしまい、夜の森は危険なのだ。
「捕まって!」
アンナはルーフェスの右手を手に取ると、自身の肩に手を回させた。
そして彼の右側を支えながら、ルーフェスの歩調に合わせて二人はゆっくりと歩き出したのだった。
僅かな振動でもやはりキズに触る様で、ルーフェスは険しい表情で、痛みに耐えながら、ゆっくりゆっくりと歩を進めた。
来た時は二十分も掛からなかったこの道を、二人は倍の時間をかけてなんとかその半分まで戻ってこれた。
街道までは残り半分を過ぎたところだろうか。既に日は落ちはじめていて、森は赤く染まっていた。
「ルーフェス、もう少しだから、もう少しだけ頑張って!!」
アンナは必死に声をかけるも、彼の表情は険しく呼吸も荒い。
黙っていると不安に押しつぶされそうで、アンナ常にルーフェスに声をかけながら歩いていたが、苦痛に耐え歩くことだけに集中しているルーフェスは終始無言で、返事が返ってくる事は無かった。
しかし、そんなルーフェスが不意に声を上げたのだった。
「アンナ……」
「うん?」
弱々しく消え入りそうな声で、ルーフェスは続ける。
「僕が……動けなくなったら……、一人で……街に……戻って……」
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