剣士に扮した男爵令嬢は、幽居の公子の自由を願う

石月 和花

文字の大きさ
59 / 86

59. 車内での尋問

しおりを挟む
 クルト村で一晩を明かしてその翌日、アンナは、彼女が言う”みんなが救われるかもしれない方法”に賛同してくれたリチャードとリリアナと共に王都へと向かう馬車の中に揺られていた。

(ルーフェスは、今どうしているかしら……)

 アンナは彼から貰った胸の内ブローチを握り締めて、切なそうに窓の外を見た。

 身の安全は保証されているだろうが、人質を取られて、ルーフェスという個人を抹消されて、別の人間として振る舞う事を強要されるような状況に、たった一人で居るのは精神的に辛い筈だと、アンナは彼を心配していた。

 するとそんなアンナの様子に気づいたリリアナは、アンナを元気づけようと優しく言葉をかけたのだった。

「大丈夫よ、きっと上手くいくわ。だって私、昨夜夢を見たんですもの。みんな笑っていたわ。私も、リチャードも、貴女も、ルーフェスも。だから心配しなくても平気よ。」
「夢……ですか?」

 リリアナが夢の話で何故ここまで堂々と上手くいくと言い切れるのかが分からず、アンナが怪訝な顔をした。すると横からリチャードが、リリアナの魔法について説明してくれたのだった。

「リリィがそう言うのなら、きっと上手くいくね。彼女は、自身の魔力で予知夢を見るんだ。リリィの予知夢は絶対に当たるんだよ。だから、今回もきっと大丈夫さ。心強いね。」
「そんな事が……あるのですね。」

 魔法とは縁の遠いアンナには、その説明は俄には信じられなかったが、目の前に座る二人のがとても晴れやかで不安など何もないといった顔をしているので、アンナも本当にそうなる様な気がして少し心が落ち着いてきてた。

 しかし、そんな心の平穏も束の間だった。

「ところで、アンナさん。貴女一体ルーフェスとはどのような御関係なの?」

 リリアナが興味津々と言った様子で、前のめりになってアンナの方を見ると目を輝かせて質問をしたのだ。

「えっ?! あー……それは……」

 アンナはまさかそのような事を聞かれると思って居なかったので狼狽えると、返答に困った。

「えぇっと……。……仕事仲間……かな…?」

 ルーフェスとの今の関係が仕事仲間以上の物であるとは何となく感じてはいるが、けれどもこの関係性をなんと呼べばいいのかアンナには分からず、とりあえず無難にそう答えたのだった。

「……なんだか思っていたのと違うわね……」

 リリアナは不満そうな表情でアンナを見つめると、彼女の瞳の奥を覗き込むようにじっと見つめて言った。

「貴女、ルーフェスの事好きなんじゃないの?」
「?!!!」

 アンナは、自身の気持ちを言い当てられて動揺すると、耳まで真っ赤にして何も言えなくなった。

「リリィ、本人の口から語る前にあんまり突っ込んだ事聞くのは悪いと思うよ。ほら、こんなに動揺してるじゃないか。」
「あらぁ、だって分かりやすいじゃない。好きな人の為じゃなかったら、こんな面倒な事に首を突っ込まないでしょう?」
「それは……」

 しどろもどろになり、アンナが答えに窮していると、リリアナは全く悪気なく追い討ちをかける様に質問を続けた。

「何故本人には伝えないの?お慕いしているのでしょう?」

 リリアナは不思議そうにアンナの方をみて小首を傾げている。彼女は他意などなく、純粋に疑問に思った事を質問しているだけだった。

 そんな彼女の真っ直ぐな眼差しに、アンナは観念したかのように息を吐くと、重い口を開いたのだった。

「それは……、誰かさん達のせいで、色々と状況が拗れたからですよ……」

 そう言ってアンナが恨めしい目を向けると、リチャードはバツが悪そうに目線を逸らした。一応自覚はあるらしい。

「ちゃんと話すわよ。この問題が無事に片付いたらね……。そうよ、ちゃんと彼と会って話すわ……」

 アンナは胸のブローチに触れながら、自分に言い聞かせる様に呟いた。

「しかし成程。ルーフェスが何か隠してるなとは思ってたけど、それは君の事だったんだなぁ。」

 リチャードは感慨深そうにアンナを眺めると、口元を綻ばせて続けた。

「ここ三ヶ月、ルーフェスはなんだかとても楽しそうだったけれども、その理由は絶対に教えてくれなかった。観劇だって、誰と観に行ったのかまでは、はぐらかされたしね。」
「そういえば、そうだったわね。貴女と観に行ったんでしょう?」
「えぇ、そうです。」

 その返事に、二人が嬉しそうな顔でこちらを見るので、アンナはなんだか恥ずかしくなって俯いてしまった。

 しかし、そんなアンナの様子にもお構いなしに、リリアナは嬉々として彼女に質問を続ける。

「まぁ、素敵!それで、二人は他にどの様な逢瀬を楽しんだの?」

 恋愛小説が好きなリリアナは、人の恋愛ごとにも興味津々で、目を輝かせると身を乗り出してアンナに詰め寄ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離婚するはずの旦那様を、なぜか看病しています

鍛高譚
恋愛
「結婚とは、貴族の義務。そこに愛など不要――」 そう割り切っていた公爵令嬢アルタイは、王命により辺境伯ベガと契約結婚することに。 お互い深入りしない仮面夫婦として過ごすはずが、ある日ベガが戦地へ赴くことになり、彼はアルタイにこう告げる。 「俺は生きて帰れる自信がない。……だから、お前を自由にしてやりたい」 あっさりと“離婚”を申し出る彼に、アルタイは皮肉めいた笑みを浮かべる。 「では、戦争が終わり、貴方が帰るまで離婚は待ちましょう。   戦地で女でも作ってきてください。そうすれば、心置きなく別れられます」 ――しかし、戦争は長引き、何年も経ったのちにようやく帰還したベガは、深い傷を負っていた。 彼を看病しながら、アルタイは自分の心が変化していることに気づく。 「早く元気になってもらわないと、離婚できませんね?」 「……本当に、離婚したいのか?」 最初は“義務”だったはずの結婚。しかし、夫婦として過ごすうちに、仮面は次第に剥がれていく。 やがて、二人の離婚を巡る噂が王宮を騒がせる中、ベガは決意を固める――。

【完】出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~

夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。 しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。 しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。 夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。 いきなり事件が発生してしまう。 結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。 しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。 (こうなったら、私がなんとかするしかないわ!) 腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。 それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】これは紛うことなき政略結婚である

七瀬菜々
恋愛
 没落寸前の貧乏侯爵家の令嬢アンリエッタ・ペリゴールは、スラム街出身の豪商クロード・ウェルズリーと結婚した。  金はないが血筋だけは立派な女と、金はあるが賤しい血筋の男。  互いに金と爵位のためだけに結婚した二人はきっと、恋も愛も介在しない冷めきった結婚生活を送ることになるのだろう。  アンリエッタはそう思っていた。  けれど、いざ新婚生活を始めてみると、何だか想像していたよりもずっと甘い気がして……!?   *この物語は、今まで顔を合わせれば喧嘩ばかりだった二人が夫婦となり、紆余曲折ありながらも愛と絆を深めていくただのハイテンションラブコメ………になる予定です。   ーーーーーーーーーー *主要な登場人物* ○アンリエッタ・ペリゴール いろんな不幸が重なり落ちぶれた、貧乏侯爵家の一人娘。意地っ張りでプライドの高いツンデレヒロイン。 ○クロード・ウェルズリー 一代で莫大な富を築き上げた豪商。生まれは卑しいが、顔がよく金持ち。恋愛に関しては不器用な男。 ○ニコル アンリエッタの侍女。 アンリエッタにとっては母であり、姉であり、友である大切な存在。 ○ミゲル クロードの秘書。 優しそうに見えて辛辣で容赦がない性格。常にひと言多い。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜

束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。 家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。 「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。 皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。 今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。 ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……! 心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。

【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

処理中です...