70 / 86
70. 叔父との対決
しおりを挟む十時の鐘が鳴る頃、アンナとルーフェスは裁判所の一室に座って居た。
向かい合って反対側にはアンナの叔父である、現ラディウス男爵が不機嫌そうな面持ちで、二人を睨みつけている。
「それでは、両者揃いましたね。審議会を始めさせていただきます。」
そんな険悪な空気の中、初老の審議官が厳かに宣言すると、審議会が始まった。
いよいよだ。
けれどもアンナは叔父を前にすると怖い気持ちが溢れ出して最初の一言が言えなかった。
すると横で見ていたルーフェスが、そんな、アンナの様子に気づいて背中にそっと手を当ててくれたので、アンナは冷静さを取り戻し、一度深呼吸をすると、堂々と目の前の叔父に向かって、自分の権利を主張したのだった。
「私、アンナ・ラディウスは、父の遺言の通り、ラディウス男爵位を正当に継承する権利を主張させていただきます。」
凛然と前を向いて、アンナは宣言した。
彼女の主張を聞き入れて、審議官は今度は叔父の方に発言を促す。
「では、ラディウス男爵はこれについて反論はありますか?」
「反論も何も、こんなの認められるわけないだろうが!!」
「しかし、この遺言書は有効ですよ。」
「遺言書が有効だろうが、無効だろうがそんなの関係ない。そもそも、この女が本物のアンナ・ラディウスであるという証拠がないじゃ無いか!!」
「ですが、登録されている出生記録と彼女の供述は一致しています。目や髪の色も登録どおりですし、こちらが実施した前男爵の関係者への聞き取り調査でも不自然な点はありませんでした。」
「そんなの、事前に根回ししておけばどうにだって出来るだろう!!こんななりすまし女に爵位を継がせるなんて正気の沙汰じゃないぞ!」
「ふむ、確かに一理ありますね。どうでしょうアンナさん、何か他に自身が前ラディウス男爵の娘である事を証明する方法はありますか?」
一筋縄ではいかないと思っていた通り、やはり叔父はアンナの事を頑なに認めたなかった。けれどもこれは織り込み済みだったので、アンナは狼狽える事なく審議官からの問いに答えた。
「はい。あります。これは、父の形見の剣です。」
そう言って、アンナは自身と常に一緒にあった愛剣を審議官に粛々と提出したのだった。
あの日家から持ち出せた物は、もうこの剣しか残っていない。言わばこの剣は彼女がラディウス前男爵の娘である事を証明する最後の砦だった。
審議官は鞘に入ったその剣を手に取ると、柄の部分にある家紋を何度かなぞって、その剣の真贋を確かめていたので、アンナは強張った表情で審議官をじっと見つめると、心の中で祈りながら返答を待った。
そして彼は、判断を下した。
「……確かにラディウス家の家紋が入っていますね。前男爵の持ち物でしょう。」
暫くの静寂ののち審議官から述べられた言葉に、アンナはホッと胸を撫で下ろすと顔いっぱいに溢れんばかりの笑顔を咲かせた。
遂に、悲願が叶うのだ。
アンナは万巻の思いで胸が一杯になったのだが、けれどもその明るい表情は、叔父からの言いがかりによって一瞬でかき消されてしまったのだった。
「そんなの、模造品に決まってる!!腕の良い職人ならソックリに作れるだろう?!証拠には認められない!!!」
「……まぁ、確かにその可能性も否定できませんね。」
「そんな……」
頑なにアンナの事を認めない叔父の主張を、審議官も受け入れてしまったのだ。
そのやりとりに、アンナは愕然とした。
唯一の形見である父の剣まで否定されてしまったら、自分がラディウス前男爵の娘である事を証明するものが本当に何も無くなってしまうのだ。
アンナの表情は再び曇り、為す術なく押し黙ってしまった。
部屋はひっそりと静まり返り、叔父だけが一人、勝利を確信したかのようにほくそ笑んでいる。
(そんな……ここまできて私たちの主張が認められないなんて……)
この五年間は一体何だったのか。
叔父によって奪われた弟の未来を取り戻すという目標が、目の前で崩れ去っていく。
この絶望的な状況にアンナが打ちひしがれて手も足も出ないでいると、すると突然横に居るルーフェスが、「あっ…!!」と、何かを思い出したかのように声を上げたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
離婚するはずの旦那様を、なぜか看病しています
鍛高譚
恋愛
「結婚とは、貴族の義務。そこに愛など不要――」
そう割り切っていた公爵令嬢アルタイは、王命により辺境伯ベガと契約結婚することに。
お互い深入りしない仮面夫婦として過ごすはずが、ある日ベガが戦地へ赴くことになり、彼はアルタイにこう告げる。
「俺は生きて帰れる自信がない。……だから、お前を自由にしてやりたい」
あっさりと“離婚”を申し出る彼に、アルタイは皮肉めいた笑みを浮かべる。
「では、戦争が終わり、貴方が帰るまで離婚は待ちましょう。
戦地で女でも作ってきてください。そうすれば、心置きなく別れられます」
――しかし、戦争は長引き、何年も経ったのちにようやく帰還したベガは、深い傷を負っていた。
彼を看病しながら、アルタイは自分の心が変化していることに気づく。
「早く元気になってもらわないと、離婚できませんね?」
「……本当に、離婚したいのか?」
最初は“義務”だったはずの結婚。しかし、夫婦として過ごすうちに、仮面は次第に剥がれていく。
やがて、二人の離婚を巡る噂が王宮を騒がせる中、ベガは決意を固める――。
【完】出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~
夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。
しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。
しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。
夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。
いきなり事件が発生してしまう。
結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。
しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。
(こうなったら、私がなんとかするしかないわ!)
腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。
それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。
本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます
氷雨そら
恋愛
本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。
「君が番だ! 間違いない」
(番とは……!)
今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。
本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。
小説家になろう様にも投稿しています。
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜
束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。
家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。
「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。
皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。
今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。
ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……!
心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。
【完結】これは紛うことなき政略結婚である
七瀬菜々
恋愛
没落寸前の貧乏侯爵家の令嬢アンリエッタ・ペリゴールは、スラム街出身の豪商クロード・ウェルズリーと結婚した。
金はないが血筋だけは立派な女と、金はあるが賤しい血筋の男。
互いに金と爵位のためだけに結婚した二人はきっと、恋も愛も介在しない冷めきった結婚生活を送ることになるのだろう。
アンリエッタはそう思っていた。
けれど、いざ新婚生活を始めてみると、何だか想像していたよりもずっと甘い気がして……!?
*この物語は、今まで顔を合わせれば喧嘩ばかりだった二人が夫婦となり、紆余曲折ありながらも愛と絆を深めていくただのハイテンションラブコメ………になる予定です。
ーーーーーーーーーー
*主要な登場人物*
○アンリエッタ・ペリゴール
いろんな不幸が重なり落ちぶれた、貧乏侯爵家の一人娘。意地っ張りでプライドの高いツンデレヒロイン。
○クロード・ウェルズリー
一代で莫大な富を築き上げた豪商。生まれは卑しいが、顔がよく金持ち。恋愛に関しては不器用な男。
○ニコル
アンリエッタの侍女。
アンリエッタにとっては母であり、姉であり、友である大切な存在。
○ミゲル
クロードの秘書。
優しそうに見えて辛辣で容赦がない性格。常にひと言多い。
【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~
深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる