剣士に扮した男爵令嬢は、幽居の公子の自由を願う

石月 和花

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閑話. リチャード・クライトゥールという人物2

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 外の様子を見に行くと言って、リチャードが馬車の外へ出てから物の数分も立たないうちに、彼は恐らく怪我をしているであろう御者を抱き抱えながら、涼しい顔で二人の元へ戻って来たのだ。

「リチャード様、どうでしたか……?」
「うん。思った通り盗賊だったよ。最近増えてるらしいね。とりあえず全員眠ってもらったから。」
「……えっ?!この短時間に?!どうやってですか?!」

 アンナは目を丸くして驚いた。盗賊ならば相手は一人や二人などでは無かっただろうに、武器も持たないリチャードがこの短時間でそんなに簡単に相手を倒してしまった事が予想外だったのだ。

(確かにルーフェスは体術も使えたけど、リチャード様もそうなのかしら……?)

 そんな事をアンナが考えていると、リチャードは彼女の疑問に、実にさらりと答えたのだった。

「どうやってって、そりゃ魔法だよ。魔法で眠らせただけだよ。」
「魔法……ですか?」

 大勢の人を一瞬で眠らせる魔法。

 そんな魔法もあるのかと、アンナは驚いて馬車の外の様子を確認すると、リチャードの言った通り、本当に周囲で十人位の盗賊たちが、地べたに寝っ転がって眠っていたのだ。

「……眠ったら全く起きないんですか?」
「私の魔力が切れれば起きるけど、ま、そんな事にはなら無いけどね。」

 魔法というものは、本当に何でもありなのだなと、アンナはその利便性に感心し、そして、魔法さえあれば本当に何でも出来てしまいそうで、少しだけ恐ろしさも感じたのだった。

「それよりアンナ嬢、ちょっと手伝ってくれないか。御者が斬られてたから簡単に回復魔法をかけたんだけど、意識を取り戻すまでにはまだ暫くかかる。彼を車内に入れたいから、下から押し上げるんで、そっちで受け取ってくれないか?」
「え、あぁ、はい。分かりました。」

 リチャードは、そうアンナに指示をすると、意識のない御者を高く掲げて馬車の入り口に押し込んでいった。

 なので、アンナは言われた通りにリチャードが押し上げる御者を受け取って、車内へと引き摺り込んだのだが、しかし、アンナとリチャードはここで、重大なミスをしてしまった。
 作業に集中していたので、馬車の外の動きに気づいて居なかったのだ。

 二人が御者を助けようと奮闘している様を、邪魔にならない様にリリアナは反対側の端に寄って見守って居たのだが、急に反対側のドアが開いて、なんと盗賊の残党が彼女を人質に取ってしまったのだ。

「リリアナ様っ!!」「リリィ!!」
「おっと、動くなよ。このお嬢様の綺麗な肌に傷を付けられたくなかったら妙な真似はよすんだな。」

 盗賊は卑怯にもリリアナの首筋にナイフを当てて、彼女を馬車の外に引き摺り出すと、アンナにも馬車を降りる様に要求し、リチャードの横に並ばされると、二人を脅して来たのだ。

「いいか、金目の物を置いてこの馬車から離れるんだ。そっちの女、身なりは貧相だが中々高そうなブローチ付けてるじゃないか。それをこっちに寄越しな。」

 盗賊からのその指示に、アンナは素直に従う事が出来ずに居た。リリアナの安全がかかっているのだから、ここは素直に従うべきなのは分かっている。分かっているが、ルーフェスから貰った、この胸のブローチは、こんな盗賊なんかに渡したく無かったのだ。

 そんな風にアンナが戸惑っている間に、横に立つリチャードは、盗賊を睨みながら、身につけていたカブスボタンや懐中時計などを地面へ置いていた。

「リリアナはどうするつもりだ?」
「俺が安全に逃げれるまでは、人質になってもらうよ。そうだな、その後は……」

 リチャードからの問いに、盗賊は卑しく笑いながら、卑劣な考えを答えていった。その先は聞くに耐えない言葉が続くと思い、アンナはリリアナの耳を直ぐにでも塞いであげたいと思ったのだが、しかし、アンナが塞ぐまでも無く、その先の言葉をリリアナが聞くことは無かったのだった。

無音時間サイレントタイム!」

 リチャードが、先程馬車の中で使った、話し声を遮断する魔法を使ったのだ。
 盗賊は、口をパクパクと動かしてはいるが、彼の声は全く発せられていなかったのだった。

「下衆が人間の言葉を喋るな。」

 そう言って物凄い怖い顔で盗賊を睨み付けているリチャードに、アンナはどこか既視感を覚えてしまった。

 そうだ、前にギルドで剣士に絡まれた時のルーフェスもこんな感じだったのだ。

 流石双子なだけあって怒った時の感じも似ているのだなと、アンナが妙な関心をしていると、その横でリチャードは右手を盗賊の方に真っ直ぐに伸ばすと、怒気を含んだ声で叫んだのだった。

絶対命令アブソルフィアト!リリアナを離せっ!!」

 そんな事を言っても素直に言うことを聞く訳がない。むしろ盗賊を怒らせてしまったのではないかと、アンナはハラハラしながら見守っていたのだが、しかし、予想に反して盗賊は、リチャードに言われた通りに素直にリリアナを離したのだ。

 リチャードは駆け寄ってリリアナを抱きしめると、再び盗賊に命令をした。

絶対命令アブソルフィアト!役人が来るまでここを動くな!」

 すると本当に、盗賊はその場で直立不動なまま、微動だにしなくなったのだった。

——-
#続きます
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