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13. 不安
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「ノクタス!」
「お嬢様にぶつかった瞬間から追っ手は付けてあります。直ぐに捕まります。」
巾着の紐が鋭利な刃物で切られていると分かった途端、ロキシード様は即座に従者の名を呼んだ。
呼ばれただけで状況を的確に報告するなんて……王太子殿下の従者はやっぱり優秀なのね、とぼんやり思いながら、私はその場に固まっていた。
「お、お嬢様!お怪我はありませんか!?」
侍女が駆け寄り、私の体を慌てて確かめ始める。
その手つきで、ようやく私は我に返った。
「だ……大丈夫よ。どこも怪我してないわ」
そう言ったものの、声が震えているのが自分でも分かった。
怪我がないと分かっても、私も侍女も動揺は収まらない。
「お怪我がなくて本当に良かったです……!申し訳ありません!私が側にいながら、お嬢様をこんな目に……侍女失格です!」
青ざめた顔、震える手。
侍女がどれほど動揺しているかは一目で分かった。
私は彼女を落ち着かせるため、その震える手をそっと握り、できるだけ優しい声で宥めた。
「えぇ、大丈夫よ。怪我はしていないわ。心配しないで」
微笑みかけながら、侍女の呼吸が落ち着くのを待つ。
……けれど、本当は私自身がまったく大丈夫ではなかった。
巾着の紐は、刃物で綺麗に断ち切られていた。
つまり――私は刃物を向けられていたということだ。
(えっ……私、一歩間違ってたら刺されてたってこと……?嘘でしょう……?)
遅れて押し寄せる恐怖に、心臓はバクバクと暴れ続ける。それでも私は、必死に平気なふりをした。
(わ、私が取り乱したら……みんなを余計に不安にさせてしまうわ……落ち着かなきゃ……!)
だが、その無理を見抜いた人が一人だけいた。
「……アディ、本当に大丈夫?」
顔を上げると、ロキシード様が心配そうに私を見つめていた。
私が、大丈夫――と答える間もなく、ロキシード様の手が私の手元へと伸び、残された紐を握りしめている手にそっと触れたのだった。
「震えてるよ。……無理に平気なふりをしなくたっていいんだよ。刃物を向けられたんだ、恐怖を覚えるのは当然だよ。」
「っ……」
図星を刺され、胸の奥がきゅっと縮んだ。
私の指先は、いつの間にか自分でも分かるほど冷たくなっていて、今もまだ怖いと思っているのは事実なのだけれど、私はそれを、表に出せない理由があった。
だって……ここで私が怖がったりしたら、きっと護衛の人達が罰を受けちゃうから。
そしてその予測は、現実になろうとしていた。
「まったく……これだけ護衛が居て、どうしてこんなことが起こるのか……」
「ロキ様、それは違いますわ!彼らのせいではありませんわ!」
ロキシード様が、低い声でそう呟いたのを聞いた私は、慌ててその考えを否定した。だってこの状況で彼らが罰せられるのは、あまりにも気の毒だったから。
「アディは護衛を庇うのかい?」
「庇う……と言いますか、予期せぬ行動をしたのは私が言い出したことですから。警護計画が狂ってしまっても仕方ありませんわ。この騒動を引き起こしたのは、私のわがままのせいですわ……」
そう、元を正せば護衛が計画通りに私たちを警護出来なかった原因は私にあるのだ。急に別行動をとってしまい、護衛たちを振り回したのは私なのだから。
優秀な王宮の護衛兵士ならば、多少の想定外の行動でも問題ないと思っていたのだけれども、こんなことになってしまい、流石の私も自分の浅はかさを反省していた。
するとロキシード様は、俯いている私の背中にそっと手を当てると、いつも通りの穏やかな声で、慰める様に言葉を続けた。
「わかった。アディのせいじゃないよ。それならば計画に乗ってしまった僕も同罪だ。」
「そ、それでは、誰も罰せられませんか?」
「そうだね。最低限のお仕置きだけで済むように配慮するよ。」
ロキシード様のその言葉に、私はほっと胸をなでおろした。
”最低限のお仕置き”が何なのかは気になりはしたけども、お仕置きと言う位だから、きっと酷い罰は与えられないだろうと私は安堵した。これで、この件で酷い罰を受ける人は居なくなったとそう思ったのだ。
――しかし。
「それに、本当に罰を受けなくてはいけないのは、護衛たちじゃないからね。」
「えっ……?」
不意に漏らしたロキシード様の言葉に、私は思わず戸惑いの声が漏れた。
私でも、護衛でも、ましてやロキシード様本人でもないのなら、一体誰が罰を受けるというのだろうか。
そんな風に私が戸惑って殿下を見つめていると、殿下は私が状況を理解していないのを察して、もっと分かりやすく、説明してくださった。
「アディ、君は巾着ごと財布を盗まれたんだよ。一番悪いのはその犯人だよね。」
「確かにそうですわ……」
「それならば、君の財布を盗んだ人物が、当然罰を受けるべきなんだよ。」
「そう……ですわね。」
少しだけ険しい顔でそう話す殿下の言葉は、確かにその通りだと思った。
でも……だけれども……私は何かに引っかかっていた。
(私の巾着を盗んだ犯人は、侯爵令嬢に刃物を向けたことになるから相当重い罰を受ける事になるでしょう……でも、それで本当に良いのかしら?だって私にぶつかってきたのって確か……)
私がそんな事を考えながら悩んでいると、後ろから大きな声が上がったのだった。
「若様!捕まえました!」
ロキシード様の護衛の一人が、犯人を捕まえて戻ってきたのだ。その手には私の巾着がしっかりと握られているので言い逃れは出来ないだろう。
けれども、犯人が捕まったというのに私の心は全く晴れず、むしろ重く沈んでいく。
なぜなら、護衛の兵士が連れてきた犯人は――私たちと同じ年頃のやせ細った子供だったのだ。
(こんな子が厳罰を受けたら一体どうなってしまうの……?この子は耐えられるの……?)
そんな不安で胸がいっぱいになった。
「お嬢様にぶつかった瞬間から追っ手は付けてあります。直ぐに捕まります。」
巾着の紐が鋭利な刃物で切られていると分かった途端、ロキシード様は即座に従者の名を呼んだ。
呼ばれただけで状況を的確に報告するなんて……王太子殿下の従者はやっぱり優秀なのね、とぼんやり思いながら、私はその場に固まっていた。
「お、お嬢様!お怪我はありませんか!?」
侍女が駆け寄り、私の体を慌てて確かめ始める。
その手つきで、ようやく私は我に返った。
「だ……大丈夫よ。どこも怪我してないわ」
そう言ったものの、声が震えているのが自分でも分かった。
怪我がないと分かっても、私も侍女も動揺は収まらない。
「お怪我がなくて本当に良かったです……!申し訳ありません!私が側にいながら、お嬢様をこんな目に……侍女失格です!」
青ざめた顔、震える手。
侍女がどれほど動揺しているかは一目で分かった。
私は彼女を落ち着かせるため、その震える手をそっと握り、できるだけ優しい声で宥めた。
「えぇ、大丈夫よ。怪我はしていないわ。心配しないで」
微笑みかけながら、侍女の呼吸が落ち着くのを待つ。
……けれど、本当は私自身がまったく大丈夫ではなかった。
巾着の紐は、刃物で綺麗に断ち切られていた。
つまり――私は刃物を向けられていたということだ。
(えっ……私、一歩間違ってたら刺されてたってこと……?嘘でしょう……?)
遅れて押し寄せる恐怖に、心臓はバクバクと暴れ続ける。それでも私は、必死に平気なふりをした。
(わ、私が取り乱したら……みんなを余計に不安にさせてしまうわ……落ち着かなきゃ……!)
だが、その無理を見抜いた人が一人だけいた。
「……アディ、本当に大丈夫?」
顔を上げると、ロキシード様が心配そうに私を見つめていた。
私が、大丈夫――と答える間もなく、ロキシード様の手が私の手元へと伸び、残された紐を握りしめている手にそっと触れたのだった。
「震えてるよ。……無理に平気なふりをしなくたっていいんだよ。刃物を向けられたんだ、恐怖を覚えるのは当然だよ。」
「っ……」
図星を刺され、胸の奥がきゅっと縮んだ。
私の指先は、いつの間にか自分でも分かるほど冷たくなっていて、今もまだ怖いと思っているのは事実なのだけれど、私はそれを、表に出せない理由があった。
だって……ここで私が怖がったりしたら、きっと護衛の人達が罰を受けちゃうから。
そしてその予測は、現実になろうとしていた。
「まったく……これだけ護衛が居て、どうしてこんなことが起こるのか……」
「ロキ様、それは違いますわ!彼らのせいではありませんわ!」
ロキシード様が、低い声でそう呟いたのを聞いた私は、慌ててその考えを否定した。だってこの状況で彼らが罰せられるのは、あまりにも気の毒だったから。
「アディは護衛を庇うのかい?」
「庇う……と言いますか、予期せぬ行動をしたのは私が言い出したことですから。警護計画が狂ってしまっても仕方ありませんわ。この騒動を引き起こしたのは、私のわがままのせいですわ……」
そう、元を正せば護衛が計画通りに私たちを警護出来なかった原因は私にあるのだ。急に別行動をとってしまい、護衛たちを振り回したのは私なのだから。
優秀な王宮の護衛兵士ならば、多少の想定外の行動でも問題ないと思っていたのだけれども、こんなことになってしまい、流石の私も自分の浅はかさを反省していた。
するとロキシード様は、俯いている私の背中にそっと手を当てると、いつも通りの穏やかな声で、慰める様に言葉を続けた。
「わかった。アディのせいじゃないよ。それならば計画に乗ってしまった僕も同罪だ。」
「そ、それでは、誰も罰せられませんか?」
「そうだね。最低限のお仕置きだけで済むように配慮するよ。」
ロキシード様のその言葉に、私はほっと胸をなでおろした。
”最低限のお仕置き”が何なのかは気になりはしたけども、お仕置きと言う位だから、きっと酷い罰は与えられないだろうと私は安堵した。これで、この件で酷い罰を受ける人は居なくなったとそう思ったのだ。
――しかし。
「それに、本当に罰を受けなくてはいけないのは、護衛たちじゃないからね。」
「えっ……?」
不意に漏らしたロキシード様の言葉に、私は思わず戸惑いの声が漏れた。
私でも、護衛でも、ましてやロキシード様本人でもないのなら、一体誰が罰を受けるというのだろうか。
そんな風に私が戸惑って殿下を見つめていると、殿下は私が状況を理解していないのを察して、もっと分かりやすく、説明してくださった。
「アディ、君は巾着ごと財布を盗まれたんだよ。一番悪いのはその犯人だよね。」
「確かにそうですわ……」
「それならば、君の財布を盗んだ人物が、当然罰を受けるべきなんだよ。」
「そう……ですわね。」
少しだけ険しい顔でそう話す殿下の言葉は、確かにその通りだと思った。
でも……だけれども……私は何かに引っかかっていた。
(私の巾着を盗んだ犯人は、侯爵令嬢に刃物を向けたことになるから相当重い罰を受ける事になるでしょう……でも、それで本当に良いのかしら?だって私にぶつかってきたのって確か……)
私がそんな事を考えながら悩んでいると、後ろから大きな声が上がったのだった。
「若様!捕まえました!」
ロキシード様の護衛の一人が、犯人を捕まえて戻ってきたのだ。その手には私の巾着がしっかりと握られているので言い逃れは出来ないだろう。
けれども、犯人が捕まったというのに私の心は全く晴れず、むしろ重く沈んでいく。
なぜなら、護衛の兵士が連れてきた犯人は――私たちと同じ年頃のやせ細った子供だったのだ。
(こんな子が厳罰を受けたら一体どうなってしまうの……?この子は耐えられるの……?)
そんな不安で胸がいっぱいになった。
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