魔力が無いから王族とは結婚出来ないのに、王太子殿下が婚約者候補から外してくれません

石月 和花

文字の大きさ
12 / 67

12. お買い物勝負のゆくえ

しおりを挟む
 暫く待っていると、ロキシード様も買い物を終え、従者を連れて中央広場へ戻ってこられた。
 手には、私が持っている袋とほぼ同じ大きさの紙袋。中身が気になって仕方なかったけれど――私は自分の勝利を疑わず、満面の笑みでお迎えした。

「待たせたね、アディ。」
「大丈夫ですわ、制限時間以内ですもの。でん……ロキ様も、無事にお買い物出来たようですわね。」

 危うく”殿下”と呼びそうになったのを慌てて飲み込み、誤魔化すようににっこりと笑うと、ロキシード様も同じように柔らかく微笑み返してくださって、特に気にした様子もなく会話を続けられた。

「うん。言われたとおり、銅貨一枚で買い物をしてきたよ。もちろん、沢山ね。」
「まぁ……殿下はこの勝負に随分と自信がおありのようですわね」
「まぁね。今日も僕の勝ちだと思うよ」

 そう言ってロキシード様が不敵に笑ったので、私は思わずムキになってしまった。

「まぁ!そう言っていられるのも今のうちだけですわ!私が思い知らせて差し上げますわ!!」

 私は殿下に勝利宣言を放った。

 ――決まったわ

 ……と思ったのだが、即座に蒼ざめた侍女が、この場に居ないお兄様に代わって、私の言動を慌てて窘めたのだった。

「おっ……お嬢様、お言葉遣いをに気を付けてください!!」

 そうだった。
 
 時々忘れてしまうけど、ロキシード様は王太子殿下であり、このような失礼な発言をして良いお方ではない。

 後、一応これ、婚約者候補として殿下と仲良くする為の場であることも侍女の忠告で思い出したので、私は慎重に言葉を選んで言い直した。

「え、えーっと……そう仰っていられるのも今のうちだけですわ、私が、私が……ええと……教えて差し上げますわ!」
「うん。あまり変わってないけど、まぁ、いつもの事だから僕は気にしないよ。アディにはそのままで居て欲しいしね。」
「えっと……有難うございます?」

 殿下が何を言っているのか正直良くわからなかったが、ロキシード様がニコニコしているので、思わずお礼を言ってしまった。

 その表情があまりに楽しそうだったので、私は直感的に確信した。

(よく分からないけど……褒められましたわ!今日こそ殿下に『参った』と言わせられる気がしますわ!)

 気分が上向いた勢いのまま、私は買ってきた品を披露することにした。

「まずは私から買ってきた物をお見せしますわ。どうですか!蜜掛け乾燥チェリーが十八個も買えましたわ!」

 私は自信満々でロキシード様に袋の中身を披露した。
 
 蜜掛け乾燥チェリーはこの市場の中で銅貨一枚で一番数が多く買えるお菓子なのだが、普通の相場は銅貨一枚で十五個しか買えない。

 けれども私は露天商のおじさんのオマケによって、それよりも三個も多く買えたのだ。
 もしロキシード様が私と同じ物を買っていたとしても、オマケの分の差は覆らない。
 私は勝利を確信し、余裕の笑みで殿下の反応を待った。

 しかし――

「これは、個数勝負だったよね?」
「え、えぇ……そうですわよ?」

 殿下はいつもと変わらぬ落ち着いた様子で、私の胸の奥がざわついた。
 ……嫌な予感が膨らんでいく。

「なら、僕の勝ちだね」

 ロキシード様はにっこりと笑い、手にした布袋の口を開いた。
 中には、小さな粒のようなものがぎっしりと詰まっていた。

「な……なんですのこれは??」
「押し麦。数えてはないけど、十八粒以上あるのは確実だと思うよ。」

 それを聞いて私は頭の中が真っ白になった。

 盲点であった。
 まさか、重さで量り売りしてる商品を殿下が買ってくるだなんて、思っても見なかったのだ。

「ず、ずるいですわ!!!」
「ずるくはないと思うよ?ちゃんと銅貨一枚で買ってるし、一粒、二粒って個数を数えられるしね。」
「くっ……!」

 確かに、明確にルールを制定しなかった私の落ち度だった。

 だがしかし、それでもやはり私はこの結果に納得出来なかった。

「ロキ様、これは本当に一粒、二粒と数えますか?違いますよね?グラム単位ですわよね?であれば、これを粒で数える事、認められませんわ!!」

 私は鬼の首を取ったかのように殿下の戦略に異議を唱えた。なんとかして殿下に勝ちたかったのだ。

 けれども殿下は少し困ったような顔をしただけで、あっさりと無情な事実を告げたのだった。

「まぁ、そうだけど……グラムで数えたとしても、これ三十グラムはあるから勝敗は変わらないよ?」
「うっ……」

 衝撃の事実に私は何も言えなかった。

(また私の負けなの?!そんな……何をやっても殿下には勝てないの?!まだ……まだ何か、逆転の目はあるはずよ!)

 私は現実を受け入れられず、その場に固まって必死に思考を巡らせた。

 ……すると、その時だった。

 ドンッ!!

「きゃあっ!」

 後ろから走ってきた子供が私の横をすり抜けざまにぶつかり、私は前のめりに倒れかけてしまった。

「大丈夫、アディ?」
「え、えぇ。ありがとうございます……」

 よろめいた私は、ロキシード様が素早く支えてくださった事で転倒は免れた。

 けれど、突然の出来事と、殿下に抱きとめられた形になったことで、私の情緒は大きく乱れてしまった。だって、殿下の顔が直ぐ目の前にあるのだ。

 私は動揺しているのを殿下に悟られないように必死に平静を装った。

 しかし、この場で冷静でいられなかったのは私だけではなかったのだった。

「おっ、お嬢様っ!!」

 背後で侍女が怯えたような声で叫んだ。

「何?そんな声を出して、一体どうしたの?」
「おっ、お嬢様、紐が、紐が切られています……」

 言われて手元を見ると、巾着袋の紐だけが残り、袋本体が消えていたのだ。

 私は手の中に残された紐を見て唖然としてしまった。

 何故なら残された紐の切り口は――鋭利な刃物で断ち切られた事を物語っていたから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。 昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。 逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。 でも、私は不幸じゃなかった。 私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。 彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。 私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー 例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。 「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」 「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」 夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。 カインも結局、私を裏切るのね。 エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。 それなら、もういいわ。全部、要らない。 絶対に許さないわ。 私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー! 覚悟していてね? 私は、絶対に貴方達を許さないから。 「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。 私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。 ざまぁみろ」 不定期更新。 この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。

秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。 「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」 第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。 着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。 「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。 行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。 「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」 「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」 氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。 一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。 慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。 しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。 「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」 これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

酔っぱらい令嬢の英雄譚 ~チョコレートを食べていたら、いつの間にか第三王子を救っていたようです!~

ゆずこしょう
恋愛
婚約者と共に参加するはずだった、 夜会当日── 婚約者は「馬車の予約ができなかった」という理由で、 迎えに来ることはなかった。 そして王宮で彼女が目にしたのは、 婚約者と、見知らぬ女性が寄り添う姿。 領地存続のために婿が必要だったエヴァンジェリンは、 感情に流されることもなく、 淡々と婚約破棄の算段を立て始める。 目の前にあった美味しいチョコレートをつまみながら、 頭の中で、今後の算段を考えていると 別の修羅場が始まって──!? その夜、ほんの少しお酒を口にしたことで、 エヴァンジェリンの評価と人生は、 思いもよらぬ方向へ転がり始める── 2月11日 第一章完結 2月15日 第二章スタート予定

処理中です...