魔力が無いから王族とは結婚出来ないのに、王太子殿下が婚約者候補から外してくれません

石月 和花

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38. 志願

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 そして、迎えた武芸大会の日。

 私はお兄様の目を掻い潜って、参加者として登録し、今は選手控室で、静かに精神を集中させている。

 私の横では、侍女のフィオネがおどおどしながら付き添っていた。

「……お、お嬢様、本当に参加されるのですか?!」
「えぇ、勿論よ!何のために今まで身体を鍛えていたと思っているの?ロキシード様のお役に立つためなのよ!」

 侍女のフィオネが不安げに私の様子を伺うが、私の決意は変わらなかった。
 私は仮面で顔を隠して、謎の女剣士として武芸大会に参戦するのだ。

 これは遡る事五年前。魔力測定の儀式で私に魔力が無い事が発覚してから、自分なりに考えての行動だった。

 魔力がないなら武力で殿下のお役に立てばいいじゃない。

 そう考えて、あの日から私は、剣や弓や、体術……ありとあらゆる武芸をその身に叩き込んだのだ。

 そう、あの日から五年、血の滲む努力を重ねた私には、そんじょそこらの騎士では相手にならないほど強くなっていたので。ロキシード様を守るためならこれ位当然だった。

 本当の事を言うと、私はこの大会で負けても良いと思っている。
 だって、私を討ち負かすくらいの強者にならば、安心して殿下をお任せできるから。
 けれども、私如きの小娘に負ける様な軟弱者では駄目だ。ロキシード様を任せられない。
 だから私は全力で戦って、そして見事、上位四名に入ったのだった。

(国を上げての武術大会。流石に強者揃いでしたわ。でも……私もなんとか上位に入れましたわ。これで殿下と一緒に討伐に行けるわ!)

 準決勝で負けてしまったものの、当初の目標である上位入賞は無事に果たせて私はホッとしていた。

 が、しかし。私は直ぐに気を引き締めなおした。

 何故ならこの後、ロキシード様が直々に入賞者たちに祝辞と、討伐参加の意思を確認するのだ。

 いくら仮面を付けているからといって、殿下と私の付き合いはとても長い。だから近くで見られたら私の正体に気づかれてしまうのではないかと緊張しながら、その時を待った。


 ***


 観戦客が見守る中、表彰式が始まった。私は上位入賞者の一人としてロキシード様の前に並んだ。

「おめでとう。武術大会で素晴らしい成績を残した貴殿たちには、最大限の祝辞を送ろう。そんな強者たちの中で私の黒龍討伐に参加する意思のある者は名乗り出てくれないか」
 
 ロキシード様は一人ひとりをゆっくりと見渡し、その眼差しには王太子としての強い威厳が宿っていた。
 まるで視線だけで覚悟を問われているようで、場の空気がぴんと張りつめる。

 そんな空気の中、私に先んじて、同じくらいの年頃の黒髪の若者が手を挙げたのだ

「俺は、お金が欲しいのは勿論そうなんだけど、それ以外にも、殿下に恩があるんです。だから、殿下の遠征について行きます!」

 黒髪の青年は、真っ直ぐに殿下を見つめてお言葉を待っていた。その瞳からは、強い意志が感じられる。

「すまない、私は君の事を覚えていないのだが、私は君とどこで会ったかな?」
「……七年前、市場の通りで……」
「あぁ、あの時の」

 青年の言葉に、私もハッとした。

 七年前、市場通りで殿下が恩情をかけた少年……。あの時の子供だと思った。

「あの後、殿下の施策で俺たち技能学校に入れたんです。そこで俺は武芸を学んで、傭兵として身を立てる事に成功しました。あの時に情けをかけて貰ったから今の俺があります。だから、お役に立ちたいんです!」

 黒髪の青年の言葉には、深い感謝と揺るぎない決意が滲んでおり、その覚悟は誰の目にも疑いようのないものとして映った。

「君、名前は?」
「リオルです。」
「うん。リオル、働きに期待してるよ」

 ロキシード様は満足げに頷き、少し嬉しそうな顔をされた。
それはまるで、この青年の成長を心から喜んでいるかのようだった。

「他の者はどうかな?他に遠征についてくる者はいるか?」

 ロキシード様の再びの問いかけに皆が静まり返る中、私は慌てて手を挙げた。

「はい!私も殿下の遠征について行きますわ!!」

 その瞬間、バチリと殿下と目が合ってしまった。私は思わず息を呑んだ。

(……どうしましょう。この距離で見られたら……)
 
 私は正体がバレてしまわないか不安に思いながら、怪しまれないように堂々と振舞った。

「君……名前は?」
「あ……アルナですわ!!」

 咄嗟に私がそう名乗ると、何故か、殿下は額に手を当てて俯いてしまった。

「まさかとは思ったけど、そうきたか……」
「な、何がですか?!」

 殿下は深くため息をつくと、ゆっくりと顔を上げ、私をじっと見つめた。

「君……家名は?」
「た……ただの平民ですから、名乗る程の家名はありませんわ!!」
「そうか……うん、……分かった」

 そう言うとロキシード様は、何やら考え込むように、黙ってしまった。その表情は、微笑んではいるものの、どこか困ったようにも見受けられた。

「……どうしてそこまでして君は、この討伐遠征に参加したいんだい?」
「私も王太子殿下のお役に立ちたいんです。だから志願しました!どうか、お連れください!!」
「私の力になりたいのなら、もっと他にも方法はあると思うが?」
「……私には魔力がありません。だから、武芸を磨いておりました。今こそ、この力を役立てる時だと思っておりますわ!!」

 言葉を重ねるうちに胸の奥が熱くなり、私は思わず一歩前へ踏み出していた。
殿下に付いて行きたい一心で、気づけば拳をぎゅっと握りしめていた。

 そして胸の中にずっとある、強い思いを口にする。

「それに……子供の時に、約束したんです。とても大切な約束。だから、殿下と共に黒龍を討ちたいんです!!」

 そう、殿下とした約束。
 一緒に国を造るという約束。

  私は魔力が無いから伴侶としてロキシード様のお隣には立てない。ならばせめて、武力という形でロキシード様の"剣"としてお役に立ちたかった。

 そんな私の強い熱意が伝わったのか、ロキシード様はわずかに目を伏せると、胸の奥で何かを噛みしめるように小さく息を吐いたのだった。

「……分かった。私の言う事をよく聞いて、くれぐれも無茶な事はしないようにね」

「は……はい!」

 リオルに掛けたお言葉と比べると、少しおかしなお言葉なような気がしたけれども、私は殿下から許しを頂けたと受け取って、張りつめていた緊張がふっとほどけ、代わりに静かな決意が胸いっぱいに満ちていった。

 それからその後は、私とリオル以外にもう一人志願者が名乗り出て、討伐隊の隊長から遠征に関する連絡事項が淡々と告げられると、その場は解散となった。
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