魔力が無いから王族とは結婚出来ないのに、王太子殿下が婚約者候補から外してくれません

石月 和花

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48. 原因追求

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「さて、どうしてヴェノムラビットの子供がリリエラ嬢の天幕にいたかだけど……説明してくれるかい?」

 私たちはロキシード様の天幕に集められていた。今回の騒動の原因である傷付いたヴェノムラビットの子供が何故リリエラ様の天幕に居たのか、その真相を確かめるために、私とリリエラ様は殿下に呼び出されたのだ。

「私は何も知りませんわ。そんな魔物がいたなんて……私よりもその方が怪しいと思いませんか?仮面で顔を隠して、素性も分かりませんし、なにより、この方が荷物の中から発見したんですから」

 私から見たら怪しいのはどう考えてもリリエラ様なのに、彼女は実にキッパリと自分は関係ないと主張され、更に私の方が怪しいと、疑義の目をこちらに向けるような誘導まで行った。

 私は一瞬ビックリしたが、怯まずに、自分を陥れようとする発言に反論した。

「私は耳が良いですから、微かに生き物の息遣いと、親を呼ぶか細い鳴き声が聞こえました」
「そんなの理由になりませんわ。貴女だけが聞こえたって言うの?ありえないわ」

 私の反論を、リリエラ様は一蹴した。
 確かに、助けを呼ぶあのか細い鳴き声を私以外に聞くことが出来た人は居ないだろう。そうなると、私が鳴き声が聞こえたから助けたという主張は、事実であっても証明することが難しくなってしまった。これでは疑いを晴らせられない。
 私は次の言葉に困ってしまった。

 すると、予期せぬ事にロキシード様が私を庇ったのだった。

「しかし、魔獣の子を連れ込んだのはアルナでは無いと思うよ。アルナには常にエルレインを付けていたからね」

 (確かにエルレイン様は気付くと私の側に居たけど……あれってリオルの為に居たんじゃなかったの?!)

 ロキシード様のその発言に、私は驚きのあまり目を丸くして殿下を見遣った。

 ――その時だった。

「失礼いたします」

 リリエラ様の侍女のオリヴァさんと、その後ろにひどくおびえた様子のメイドが天幕に入って来たのだった。

 オリヴァさんは、殿下に向かって恭しく礼をすると、怯えるメイドを静かに前へ押し出して、冷徹な声音で告発を始めた。

「畏れながらお伝えいたします。本日の騒動の原因となったヴェノムラビットの子供ですが、この者の無知が招いた結果だということが分かりました」

 その発言に一同が注目する。

「道中、群れから離れて怪我をしていた子魔物を見かけて、可哀想だと思い保護をしていた。というのが事の発端でございます」

 説明が終わると、場はしんと静まり返った。確かにあり得ない話では無いけども、天幕の会話を聞いて居る私は、素直に信じられなかった。

「……そうか。他意や悪意はなかったんだね。」
「は……はい」
 
 ロキシード様は難しい顔で、暫くメイドの様子をじっと観察した。
 メイドは酷く怯えた様子で、ただ大人しく殿下のお言葉を待っている。

 そんな沈黙の中で、声を上げたのはリリエラ様だった。

「ロキシード様。我が家の使用人がとんだ失態を犯した事、心よりお詫び申し上げます。ですが、この者は田舎から出てきてあまり物事を知らない不憫な娘です。主である私も罰を受けるので、どうか極刑だけはご勘弁を……」
 
 リリエラ様の殊勝な態度に、場の空気が揺らいだ。
 その姿は、使用人を庇う健気な主君として周囲の同情を誘うものだった。

「……とはいえ、これだけの騒ぎを引き起こしたんだ。相応な罰は与えないといけないよ。ここで隊を離れてもらうのは勿論のこと、今後王宮が関わる仕事への一切の関与を禁止する。それでも刑が軽いだろう。そして、この者を雇っていたカラサリス家の管理責任も問わなくてはいけないが、……後はカラサリス家の判断に任せよう」

 ロキシード様は眉を寄せた難しい表情のまま、決断を下した。
 すると、リリエラ様はすぐさま深々と頭を下げ、殿下の言葉に乗るように口を開いた。

「温情なご判断感謝いたします。カラサリス家としては、責任をとってこのリリエラが回復魔法を活かし王宮での奉仕活動をいたします。そして、カラサリス家としてはこの娘に与える罰はもっと重くなければと考えます。それほどの事をしでかしたのですから。だから、この者については即時解雇と致しますわ」

 その言葉はまるで、用意してあったかのようにスラスラとリリエラ様の口から出てきた。
 確かに、このメイドが仕出かしたことが本当ならば、その罰は十分妥当な判断ではあったが、リリエラ様に対して、私はどうしても不信感が拭えなかった。

「そんな!私、解雇だなんて聞いておりません!!」

 自分の処罰を聞いて、今まで黙っていたメイドが悲痛な声を上げた。
 そんなメイドを、オリヴァさんは厳しく叱責した。

「おだまりなさい。お前に発言の権利は与えられてません!」
「ですが、田舎の母と弟妹は私の稼ぎがないと生活できません!!仕事がなくなってしまっては困ります!!こんなの聞いておりません!」

 メイドの悲痛な訴えは、見ているものの同情を誘った。
 するとオリヴァさんは、そんなメイドの肩に手を置いて、彼女を宥めるように言い聞かせたのだった。

「良くお聞きなさい。寛大なリリエラ様はお前を憐れんで退職金を出すと言っておられます。当面はそのお金があれば大丈夫でしょう?」
「ですが……」
 
 メイドは何かを言いたそうに、必死に殿下へ縋るような視線を向けた。
 そんな視線に気づいたのか、殿下はメイドに視線を返し彼女に許可を与えた。

「いいよ。申し開きがあるのなら聞こうじゃないか」
「殿下、このような者の声を聞かなくても!」
「それを決めるのは僕だからね。で、君。何か言いたいことがあるのかい?」

 発言を止めようとするオリヴァさんを制して、ロキシード様は直々にメイドに問いかけた。
 彼女が口を開こうとしたその時、オリヴァさんがそのメイドの耳元で囁く声が聞こえた。

 ――これ以上騒ぐのなら退職金も払わないぞ。賢い選択は分かるわよね――

 とても小さな声だったけれども、私の居る場所が二人と距離が近かったことと、私の耳が異様に良いから、聞き取れた事だった。

 しかし、周囲でこの声に気づいた者は他に居なそうだった。
 私は、証拠もなく口を挟むことが出来ず、ただ悔しく見守るしかなかった。

「……なにも、申し開くことはございません。処分を甘んじて受け入れます。寛大なご配慮ありがとうございました」

 そういってメイドは、ポロポロと大粒の涙を流しながら深々と頭を下げた。

 本人が自分の処罰を受け入れたので、ロキシード様は難しい顔をされたままだったが、それ以上追求しなかった。

 こうして、一連の騒動は幕を閉じたのだが、真実を知っている私にとって、とても後味が悪い結果となってしまった。
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