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ロキシード視点編
9. 決意
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「殿下、大変失礼いたしました」
泣いていたアディルナが落ち着きを取り戻すと、ハルスタイン侯爵は僕に頭を下げた。
それはそうだろう。これでも僕は王族なので、そんな僕を外に立ちっぱなしにさせておいて、その目の前で家族間のもめごとを繰り広げるというとんでもないことをやらかしたのだから。
けれども僕は、自分が後回しにされたことについては全く気にしていなかった。
そんなことはどうでも良いのだ。
僕が気にしているのはもっと別の事――
「あぁ、いいよ。それより……アディルナ嬢の魔力が無いというのは本当なのかい?」
いつもと変わらず笑みを浮かべて、平然と。僕は務めて冷静に侯爵に尋ねた。
先程からのやり取りで、それが本当である事は確かなのだろうと分かっているのに、僕はその口から正式に聞くまでは諦められなかった。
(何かの間違いであってくれ……)
自分でも気づかぬうちに、僕は相当張り詰めた空気を醸し出していて、侯爵はそんな空気に当てられながら、気圧されたように答えた。
「……本当です……」
「そうか……」
それは聞きたくなかった言葉だった。
僕は一瞬目の前が暗くなるのを感じた。
(このままでは、駄目だ……)
僕はどうすればよいか、物凄い速さで考えを巡らせる。
ふと、不安そうな顔でこちらを見ているアディルナに気づいた。
(……彼女は、気づいているのだろうか。魔力が無かったら、僕の婚約者候補の要件を満たしていない事に)
僕の中の、その残酷な現実を受け入れられない重苦しい気持ちを、彼女と共有しようか迷った。
けれども――
(……彼女は今、色々なことが起こっていて混乱している。)
これ以上、今彼女の心をかき乱すような真似は出来なかった。
僕は再び泣き出しそうな顔をしているアディルナに向けて、最大限に慈しむ笑顔を作り、出来るだけ優しい声音で彼女に声を掛けた。
「あの、ロキシード様――」
「あぁ、僕の事は気にしなくていいよ。今日はご両親とちゃんと話し合って」
彼女が何かを言いかけたのと、言葉が被ってしまったが、僕の言葉を聞くと、彼女は言葉を飲みこんで、泣きそうな顔でこちらを見ていた。
(……今日は駄目だな。こんな状態の彼女、早く休ませるべきだ)
僕はこれ以上言葉を重ねるのをやめ、今は静かに退くべきだと判断した。
「また日を改めるから。……でもこれだけは……アディルナ嬢、お誕生日おめでとう」
僕は今日の為に用意していた、彼女をイメージして作らせた赤や黄色と言った明るい色の花束を、僕はアディルナに贈った。
(今の僕に出来ることはこれくらいか……)
今この場で、彼女を元気にすることが出来ない自分に、少しだけ残念な気持ちになりながら、僕はアディルナを見つめた。
彼女は、突然の花束に戸惑って、上手く言葉が出てこないようだった。
「あ……あの、わ……私……」
今にも泣き出しそうで、言葉が上手く出てこないアディルナを、僕は優しく受け止めるように見つめた。
(僕がここに居る方が、今は彼女の負担なのかもしれない……)
僕はこれ以上彼女を揺らさぬよう、静かに微笑んで、「じゃあね」と伝えてハルスタイン家を後にした。
***
(彼女に魔力が無かった事は、直ぐに王宮にも広まるだろう。そうなったら……彼女は婚約者候補から外されてしまう……そんなのは絶対にダメだ)
王宮へ帰る馬車の中、僕は一人考えていた。
(黒龍の封印の件があるから、魔力が無い者が王族に嫁いだ前例はない。……では、どうする?)
僕は彼女を諦めるという選択肢を捨て、可能性を探して頭を巡らせた。
(そもそも、王族に魔力が求められているのは、黒龍を封印しないといけない責があるからだ。その責がなくなれば、魔力は必須の条件である必要がなくなる)
僕はゆっくりと、確信めいたものに近づいていく。
(ならば、黒龍を倒してしまえばいいじゃないか。そうしたら封印する必要がなくなって、魔力のない彼女でも僕の伴侶に迎えられるじゃないか)
気づいてみれば、なんとも単純な話だった。
こうして、僕はこの日の帰りの馬車の中で、黒龍を討つと決意したのだった。
泣いていたアディルナが落ち着きを取り戻すと、ハルスタイン侯爵は僕に頭を下げた。
それはそうだろう。これでも僕は王族なので、そんな僕を外に立ちっぱなしにさせておいて、その目の前で家族間のもめごとを繰り広げるというとんでもないことをやらかしたのだから。
けれども僕は、自分が後回しにされたことについては全く気にしていなかった。
そんなことはどうでも良いのだ。
僕が気にしているのはもっと別の事――
「あぁ、いいよ。それより……アディルナ嬢の魔力が無いというのは本当なのかい?」
いつもと変わらず笑みを浮かべて、平然と。僕は務めて冷静に侯爵に尋ねた。
先程からのやり取りで、それが本当である事は確かなのだろうと分かっているのに、僕はその口から正式に聞くまでは諦められなかった。
(何かの間違いであってくれ……)
自分でも気づかぬうちに、僕は相当張り詰めた空気を醸し出していて、侯爵はそんな空気に当てられながら、気圧されたように答えた。
「……本当です……」
「そうか……」
それは聞きたくなかった言葉だった。
僕は一瞬目の前が暗くなるのを感じた。
(このままでは、駄目だ……)
僕はどうすればよいか、物凄い速さで考えを巡らせる。
ふと、不安そうな顔でこちらを見ているアディルナに気づいた。
(……彼女は、気づいているのだろうか。魔力が無かったら、僕の婚約者候補の要件を満たしていない事に)
僕の中の、その残酷な現実を受け入れられない重苦しい気持ちを、彼女と共有しようか迷った。
けれども――
(……彼女は今、色々なことが起こっていて混乱している。)
これ以上、今彼女の心をかき乱すような真似は出来なかった。
僕は再び泣き出しそうな顔をしているアディルナに向けて、最大限に慈しむ笑顔を作り、出来るだけ優しい声音で彼女に声を掛けた。
「あの、ロキシード様――」
「あぁ、僕の事は気にしなくていいよ。今日はご両親とちゃんと話し合って」
彼女が何かを言いかけたのと、言葉が被ってしまったが、僕の言葉を聞くと、彼女は言葉を飲みこんで、泣きそうな顔でこちらを見ていた。
(……今日は駄目だな。こんな状態の彼女、早く休ませるべきだ)
僕はこれ以上言葉を重ねるのをやめ、今は静かに退くべきだと判断した。
「また日を改めるから。……でもこれだけは……アディルナ嬢、お誕生日おめでとう」
僕は今日の為に用意していた、彼女をイメージして作らせた赤や黄色と言った明るい色の花束を、僕はアディルナに贈った。
(今の僕に出来ることはこれくらいか……)
今この場で、彼女を元気にすることが出来ない自分に、少しだけ残念な気持ちになりながら、僕はアディルナを見つめた。
彼女は、突然の花束に戸惑って、上手く言葉が出てこないようだった。
「あ……あの、わ……私……」
今にも泣き出しそうで、言葉が上手く出てこないアディルナを、僕は優しく受け止めるように見つめた。
(僕がここに居る方が、今は彼女の負担なのかもしれない……)
僕はこれ以上彼女を揺らさぬよう、静かに微笑んで、「じゃあね」と伝えてハルスタイン家を後にした。
***
(彼女に魔力が無かった事は、直ぐに王宮にも広まるだろう。そうなったら……彼女は婚約者候補から外されてしまう……そんなのは絶対にダメだ)
王宮へ帰る馬車の中、僕は一人考えていた。
(黒龍の封印の件があるから、魔力が無い者が王族に嫁いだ前例はない。……では、どうする?)
僕は彼女を諦めるという選択肢を捨て、可能性を探して頭を巡らせた。
(そもそも、王族に魔力が求められているのは、黒龍を封印しないといけない責があるからだ。その責がなくなれば、魔力は必須の条件である必要がなくなる)
僕はゆっくりと、確信めいたものに近づいていく。
(ならば、黒龍を倒してしまえばいいじゃないか。そうしたら封印する必要がなくなって、魔力のない彼女でも僕の伴侶に迎えられるじゃないか)
気づいてみれば、なんとも単純な話だった。
こうして、僕はこの日の帰りの馬車の中で、黒龍を討つと決意したのだった。
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