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50. 兄と弟1

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怪我の具合を気遣って貰いアイリスの侍女としての勤めは暫く休みになっていた。

なのでアイリスは、まず一日目は自室でしっかりと休んで、それから明けて次の日の今日は、レナードに呼び出されたので彼の執務室を訪れて応接セットのソファーに座っていたのだった。

何故か目の前には、満面の笑みのアーネストが座っている状態で。

彼は見ただけて分かるくらい凄く上機嫌で、アイリスが以前アーネストにかけた、嫌な人を遠ざける魔法を絶賛したのだった。

「いやぁ、君の魔法ってのは素晴らしいものだね。」
「お褒めに預かり光栄です。」
「すごいね。昨日は、いつもうんざりしていた擦り寄ってくる御令嬢方が、全く寄ってこなかったんだ!こんなに快適なことはないね!」
「お役に立てたのなら光栄です。」

アイリスは作り笑顔で機械的な返答を繰り返した。
この人が敵なのか味方なのか、未だに分からず、警戒を解く事が出来ないのだ。

「それで、あの魔法これから毎日かけてよ。いいよね?レナード。助けてあげたんだからね。」
「……アイリス嬢が嫌でなければ……」
口ではそう許可を出したが、レナードは心底嫌そうな顔をしていた。
しかし、アイリス救出を手伝って貰った上に、レナードの呪いの事まで知られてしまったのだ。アーネストの頼みを断る訳にはいかなかった。

「私は別に、大丈夫ですが……」
アイリスはレナードが不機嫌さを隠そうともしない事に戸惑って、彼の様子を伺いつつも、あの魔法は自分が使える魔法の中では身体的接触が無くても使える簡単な部類に入るので、特に問題は無いと答えたのだった。

けれども、その答えが良くなかったのか、レナードは難しい顔のまま何も言わずにアーネストを睨んでいた。

(殿下は何故不機嫌なのかしら……やはり、アーネスト殿下とは仲が悪いのかしら……?)

レナードが不機嫌な理由が全く分からないので、自分の回答が何か不味かったかとアイリスは心配になった。

しかし、そんなレナードの態度を見て、反対にアーネストは楽しそうに笑ったのだった。

「はははっ、なんだ、やっぱりあながち間違ってはいなかったんだな。」

(何が??)
アイリスはアーネストの言っている意味が分からなかったが、彼の発言で部屋の空気がピリついたのは分かった。

「ねぇ、アイリス嬢、レナードの侍女やめて僕の侍女にならない?君は優秀そうだからさ、今よりずっと良い待遇を約束するよ。」
「アーネスト!!!」

アイリスは普段温厚で冷静なレナードが、怖い顔で大きな声を出した事にビックリして彼の方を見た。
彼は目の前の異母弟の行動に溜まりかねて、つい大きな声を出してアーネストを牽制したのだ。

するとアイリスだけで無く、部屋に居たルカスも同様に驚いたようだったが、アーネストだけは、こんなに面白い事はないと、お腹を抱えて笑っていたのだった。

「ふはははっ!あー可笑しい。そんな怖い顔するなよレナード。冗談なんだから。」
「……お前はいつもそうだな……」
「仕方ないだろう?だって、レナードの事を揶揄うのが、一番楽しいのだから。」
「いい加減にしてくれないか?私たちはもう直ぐ成人するんだぞ?いつまでも子供みたいな真似を……」
眉間に皺を寄せて深くため息を吐くレナードと対照的に、アーネストは機嫌良くニコニコと笑っている。

そんな二人のやり取りを目の前で見て、アイリスは呆気に取られてしまった。
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