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57. 通じ合う想い

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「……ずっと殿下について行きますわ。えぇ。誰に何を言われようとも、殿下の事は、私がお側で御守りしますわ!」

アイリスは本当は今すぐこの場から逃げ出してしまいたいぐらい恥ずかしかったが、なんとか踏みとどまって、その代わりにこの恥ずかしさを誤魔化すかの様に、大きな声で、ずっと側に居ると自身の決心をレナードに伝えたのだった。

すると、緊張と不安で強張っていたレナードの表情は、アイリスの返答を理解すると、途端に輝かんばかりの明るい顔になって、彼は自分の思いを抑えきれずに目の前に居るアイリスを思わず抱きしめたのだった。

「アイリス、その言葉が聞けてとても嬉しいよ!」

アイリスは突然抱きしめられたことに驚いて一瞬身を硬くしたが、彼の胸の鼓動が、自分と同じ様に凄い速さである事が分かると、そっとレナードの背中に手を回して、恥ずかしそうに身を委ねた。
そして彼の腕の中で、自分の心境の変化について告白したのだった。

「本当は私、殿下の申し入れを断るつもりでした。私には不相応だと思っていましたので。でもね、デリンダ様を見て思ったんです。殿下の隣に立つなんて考えるのならば、まだ私の方がマシだと思って。だから考えを変えました。」

アイリスからの意外な告白に、レナードは一瞬思考が停止して、そして思わず吹き出してしまった。

「あはははっ、それは参ったな。それだと俺はデリンダ嬢に感謝しなくてはいけなくなるな。」
「しなくていいんですよ。あんな目に合っているんだし、それに結局、決断したのは私なんですから。」
「……それもそうだね。」

二人は抱き合ったまま顔を見合わせると、同時に笑い合った。運命とは分からないものだ。二人の仲を切り裂こうとしたデリンダの行動が、結果的に二人を結びつけたのだから。


「アイリス、君は強くて美しいね。」
「私の容姿など、殿下の前では霞んでしまいますわ。」
「そんなことないよ。月明かりに照らされる君はとても眩くて、銀の髪が本当に輝いて見えて、まるで月の女神のようだよ。」

それはいくらなんでも褒め過ぎだろうとアイリスは思ったが、レナードには本当にそう見えているのだから仕方がない。

彼はアイリスの髪を撫でながら愛おしそうに彼女を見つめて、それからその手を、そっとアイリスの頬に添えたのだった。

「君に、口付けをしても良いだろうか。」

そう言ってレナードは、熱のこもった視線をアイリスにぶつけた。
その視線が余りにも情熱的で、アイリスはその目をまともに見ることが出来なかった。

レナードとは幾度となく唇を重ねていたが、彼が起きてる時は初めてなのだ。アイリスは恥ずかしくて顔を上げられなかったが、俯いたまま、小さく「はい」と了承の返事をしたのだった。

するとレナードは嬉しさを隠せない様子で破顔すると、アイリスの顎にそっと手を添えて、ゆっくりと上を向かせた。

今までは、呪いで眠っている彼にアイリスが一方的に唇を重ねていたが、今日は違う。彼がアイリスを望んでいるのだ。

今までとは全然違う空気にアイリスは顔を耳まで真っ赤にしながらも、目を閉じで彼からの口付けを待った。

そしてレナードはアイリスの頭に優しく手を添えると、ゆっくりと彼女の唇を塞いだのだった。

心臓が煩いくらいずっとドキドキしていて、髪を撫でられながらの口付けは、アイリスを温かい感情で満たしていった。

それはとても、幸せな気持ちだった。

こうして、レナードから贈られた初めての口付けが、アイリスにとって本当の意味でのファーストキスになったのだった。


「……意識してすると、中々に恥ずかしい物だな。」
「……えぇ……そうですね……」
きちんと想いが通じ合って、自分達の意思でする初めての口付けは、思ってた以上に気恥ずかしくて、思わず二人は顔を真っ赤にするとお互いの顔を逸らしてしまったが、けれど直ぐにレナードは、溶けるような甘い笑顔でアイリスを見つめると、幸せそうに言葉を続けた。

「けど、中々に良い物だった。アイリス、貴女のことを愛しく思うよ。」

真っ直ぐに見つめられながら特別な想いをぶつけられて、アイリスは顔も身体もこれでもかと言うくらい熱くなったが、彼女もまた、レナードの事を見つめ返して、その想いを伝えたのだった。

「……はい。私も、殿下をお慕いしています。」

それからレナードは、嬉しそうに笑うと、もう一度強くアイリスの事を抱きしめた。
満月の下祭壇の上で抱き合う二人の姿は、それはまるでこの世の物とは思えない位に幻想的で美しかった。
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