三度目の衝撃。

帯刀通

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木々のまにまに。

04

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「よぉし、最後の見回りと行くか」

放り投げられたレインコートを三度みたび身につけて、ライト片手にドアを開く。雨の夜は獣たちも息を潜め、雨音と吹き抜ける風の音だけが世界を満たしている。

すっかり通い慣れて、目を閉じても歩けるのではないかと思うほど足に馴染んだ道を進む。こんな闇の中では目を開けても閉じても変わらない。

はずだったのに。

キラッと、光が一瞬、闇の中を真一文字に走った。
ビクリ、と身体が竦む。
今のは、何だ。

「……あんちゃん」
「見えました」
「ランタンじゃあねえよな」
「明らかにライトです」

宿泊客用に貸し出されている照明は雰囲気重視のランタン型ライトだ。闇を切り裂くラインが走るはずがない。目配せをして手元のライトを無言のうちに消す。

「オレから離れるんじゃねえよ」
「はい」

突如緊迫した空気の中を進む。光源と思しき場所まではおよそ百メートル、他人の目を気にせずに済むようにとわざと入り組んだ作りの歩道を避けるように整備されていない脇道の草むらを駆け抜けていく。地の利がある高塚さんに遅れまいと、足の速さに任せて追いかける。見間違いであってくれと念じながら雨の降り頻る夜道を走っていけば、前方にまた一瞬、チカリとまたたく光。

「あんちゃん!」
「行きます!」

指さされた方向に足を向け、二手に分かれて回り込む。腰をかがめ木々の間を足音を殺して抜けていく。呼吸が煩いほどに耳につく。火照る顔から滲む汗、張り付いたレインコートが気持ち悪い。

光源が見えた辺りには、奥まった場所に立つ一際大きなティピーが立っていたはずだ。二時間前の見回りでは二つのスポットライトが控えめに入口付近の長辺を照らしていたはずなのに、何故だ、白い三角が闇に紛れて見えない。

逸る鼓動を左手で押さえつけ、右手の中のライトを痛いくらいに握り締める。幾分離れた木の幹に身体を寄せる。呼吸が荒い。夜が張り詰めている。

雨に紛れてしまいそうな音に耳を澄ませる。気の所為であれば目を瞑ってやり過ごせる。何も無かったことに出来る。いや、出会ってしまえば無関心ではいられない。高塚さんはどうしているだろう。僕はどうすればいい。自分以外の何かを守ろうだなんて烏滸がましいにも程がある。僕は無力だ。そんなことは散々思い知らされてきたじゃないか。だから逃げてる。何もかも置き去りにして逃げ続けてる。いつだって最悪な想像をしておけば心は守られる。ああ、支離滅裂だ。

ガサガサ、と。

確かに音がした。

瞬間息を止める。眼球だけをずらして周囲の闇を睨みつける。ごくごく小さくだけどはっきりと光が照らし出したのは、

ティピーのジッパーを摘んで開けようとする人影だった。

手元を確認したのか、すぐに光は消えた。だが僕の網膜にはその姿が焼きついている。この雨の中を傘もささずに全身黒ずくめで蹲る、ニット帽に黒いマスクの塊。そんなもの、不審者以外の何だっていうんだ。

ズキリ、と胸が傷んだ。
臆病風が吹いた。躊躇いが生まれた。だって僕にとっては無関係で赤の他人で見て見ぬふりをしたって誰にも責められたりは、

視界の端を何かが走った。
黒いゴアテックスの上下。

「あんのっ、オヤジっ……!」

気がつけば身体が走り出していた。

ブカブカの長靴が鬱陶しい。脱げるのも構わず走り込む。靴下がぐしょぐしょに濡れていく。足の裏に食い込む石、草むらの隆起、尖った何かに刺されても身体は止まらない。

「おいっ!何してんだっ!」

バカ正直に声なんか掛けてんじゃねえよ、と思っても今更止められない。急な問いかけにビクリと肩が跳ねて振り返った塊の手に握られていたのは、

「っ、ざけんなっ!!!!」

気がつけば横から飛び込んでいた。
相手の腹をめがけてタックルをかます。肩に受けた衝撃、思いもかけない方向からの攻撃だったはずなのに頑丈な相手は低く呻き声を上げただけで何とか持ち堪える。腕を回した感触から無駄な肉のない若い男だと当たりをつけたが、だからこそ尚更警戒しなければヤられる。
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