恋愛エントロピー

帯刀通

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turn A - 破 -

04

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ふいに、突き上げる腰の動きが変わった。昂りを追いかけるような集中が途切れて、どこか迷いのある乱暴さで打ちつけられる。痛いほど握りこまれていた手がふっと離されて、さ迷いながら肌を伝って首筋に辿り着いた刹那、確かにグッと内側に食い込んだ。

それは一瞬に起きた激情で、ほんの僅かな違和感だけを残してすぐに離れた。二度目に果てた後、押し潰されていた背中が軽くなり、二人の間にまた元の"適切な距離感"が戻ってきた。淋しいなんて思うことすら烏滸がましいと、首をゆるゆる振って雑念を払う。

…夢の時間は終わったんだ。
愛も欲望も受け止めて、この身体に染み込んで、誰にも触らせないように胸の奥深くに大切に仕舞いこんだ。

幸せな魔法は解けて、俺たち二人はただの先輩後輩に戻る。何事もなかったみたいに過去を忘れたお前に、いつの日か訪れる幸福を、力一杯の拍手で祝ってやろう。誰よりも幸せになってくれと、心の底から願ってやろう。

これから先の人生を、ひとりで生きていけるだけの幸せを今、俺は貰えたから。

ベッドに沈み込みそうになる気怠い身体を叱咤して、何とか起き上がる。振り返れば、放心したように寝転がる綺麗な横顔がきらりと光った。

…涙?どうして。
今、誰よりも愛しく肌を重ねた男が、俺の目の前で無防備に泣いていた。はらはらと音もなく静かに、美しい滴が頬を伝って、シーツに染みを作っていく。

元から軋んでヒビ割れだらけだった心が、涙を引き金にして一気に締め付けられた挙げ句、パキンっと音を立てて割れた。体内に破片が刺さって、ダラダラと血を流す。

ーーーああ、やっぱり。だから止めておけと言ったのに。

予想通りの最悪な結末を迎えて、上手く声が出せなかった。
それでも何とか震える身体に鞭打って、素早く身支度を整える。あと少し、あと少しだけ堪えろ。歯を食い縛って、テーブルの上に万札を数枚置く。気ばかりが焦って手元が覚束ない。

ふっと息を吐いて、靴を履いて、一気にドアノブを回した。

この部屋に全てを置いていこう。
振り返ることなく、幸せだった時間も想いも全て。

ガチャリ、と重いドアが閉まってようやく、堪えていた涙が溢れ出した。弱い心を引き留めようとする未練を振り切って、暗い廊下を進む。まだ体内に残る余韻が消えないうちに、夜の雑踏に紛れてしまいたかった。

さよなら、愛しいひと。

別れの言葉は誰に届くこともなく、宙に消えた。

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