影牢 -かげろう-

帯刀通

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秘密と夜会

04

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ーーーコンコン。

「美澄お嬢様、佐藤です」

深く沈んだ意識が急激にひき戻される。急いで身体を起こし、ベッドの縁に座り直して身なりを整えた。使用人の前でも気は抜けない。

「どうぞ」

静かに扉が開き、佐藤ともう一人、若いメイドが入ってきた。佐藤の娘の由加里だ。幼い頃の私にとっては年の近い遊び相手であり、姉のような存在だった。月兄さまと同年だったと思う。両手で大きな白い箱をささげるように持っている。

「こちらで伺うわ」

ソファセットを指し示すと、由加里はローテーブルにそうっと箱を置いて、お茶の準備を始めた。それをちらりと見やってから佐藤が口を開く。

「夏の御披露目にお召しになる衣装の仮縫いがあがってきましたよ。合わせていただけますか」

ふわっと箱の蓋を持ち上げると、澄みきった夏の空のような青が溢れ出た。

「お名前の通り、美しく澄んだ蒼天のようなお色ですこと。お嬢様の白い肌に映えますわね」

袖なしの大きく肩を露出したドレスだが、まるで存在感のない胸元を隠すためにも、肋骨から鎖骨にかけて何層にもシフォンが重ねられている。下から上に向かって、深い青、水色、白へとグラデーションになった生地が、花びらのように重なりあって膨らんでいる。切り替えから下は白のシルクで、花模様が光沢のある白糸で刺繍してあり、腰はぎゅっとくびれを強調するように細く締められていた。

バックは大きく開いた背中を覆うように、肩甲骨の下辺りから金色のリボンが交差しだして、腰の辺りを引き締めるために濃紺の大きなシフォンのリボンが結ばれている。腰から下は、様々な『青』色が幾重にも重ねられ、ところどころに施されたビーズや刺繍が光を反射して輝いている。膨らんだら直径は何メートルになるのか、想像するとちょっと面白い。

本当はシンプルなドレスがよかったのだけれど、もし万が一何かあった時に下腹部が隠れないようなデザインでは困るので仕方ない。

「おとぎ話のお姫様のようですね。まるで、シンデレラ姫ですわ」

うっとりと目を細めながら由加里がドレスをさしだす。この暮らしから連れ出してくれる、白馬の王子様なんか来やしないけど、と心の中だけで自嘲する。どんなに着飾ったところで見初めてくれる相手などいない。僕の未来は既に決められている。促されるまま、ドレスを試着する。佐藤親子は何だかんだと楽しそうに調整しているが、僕はマネキンになりきる。笑顔をはりつけたまま、さっさと終わってくれないかとばかり願っていた。

北白川家でお披露目といえば、直系の子どもが16歳を迎える年の夏、7月の最後の土曜日に行われるパーティーを指す。昔でいう元服のようなものらしいが、まあ社交界デビューということだ。本来は直系ではないのだが、家族同然の将来の伴侶候補ということで、僕もお披露目されることになった。

きらびやかなドレス。さざめきあう笑い声。美味しい食事に、胸踊る音楽。まばゆいほどのライトに照らし出されるのは、本日の主役。世にも美しい財閥令嬢と、御曹司たち。

…まあ、全員男なんだけどね。ドラマのように完璧な光景。でも中身は、滑稽な猿芝居。

エスコート役は雪兄さまにお願いしよう。ほんの少しでも気分を上げるためには、それくらいしか手立てがない。世の女性全てが羨む夢のようなパーティーも、僕にとってはありがた迷惑でしかない。少なくとも、待ち遠しく思えるものではないのだ。贅沢なことに。
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