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焦燥の狂宴
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もう、この身体も、心も、濁ってしまう。どんなに言葉を、想いを、尽くしたとしても、二度と届かない。誰かのモノになってしまったが最後、私は私の価値を失う。
『北白川美澄』として使えなくなった『私』は、最早誰でもない。空っぽな存在になる。
そうなる前にせめてもう一度だけ、逢いたかったな。
密兄さまが頬擦りしながら、瞳を覗きこむ。蛇に睨まれてしまったら、動けるはずなどない。
極上の笑顔を向けられて、ねっとりと口の中に流れ込んでくる麝香の薫りに、喉の奥まで掻き回される。瞼の裏側がチカチカと明滅する。全身を包み込んで身動きも出来ないほどにまとわりつく、天鵞絨のように濃厚なαの蜜。
「ねぇ、可愛い美澄ぃ、オニイサンとイイコト、しよ?」
踊り場から中庭へと続く階段を、お姫様のように抱え上げられながら降りていく。何処へ行くのかなどと無粋な問いは不要だ。迷いない足取りで密兄さまは中庭の奥にある木々に遮られた、離れ小島のような東屋へと向かっていく。
何故こんなことになったのか。発情期でもないのに匂いがするなんて。しかも密兄さましか気付いていないなんて……どんなに訳が分からなくても、受け入れ難くても、今起きている現実こそが真実だ。
これから私は密兄さまに羽根を毟られ、飛べない身体にされる哀れな蝶だ。純潔を散らされれば、『北白川美澄』としての価値はなくなり、この家にも居場所はなくなるだろう。いや、Ωだと知れれば存在すら抹殺される可能性すらある。遂に天涯孤独の身の上となるわけだ。放逐されれば未成年の私は路頭に迷うだけ。
密兄さまに拾って貰えなければ、行き場を失う。たった一人、外界に放り出されて生きていける程、生温い温室育ちではないのだ。生粋の財閥令嬢として育てられた私が、どう世間を生き抜いていけるというのか。
無理だ、無理すぎる、あり得ない。だが、密兄さまに囲って貰える保証など何処にもない。第一、何故こんなことになっているのか皆目見当がつかない。従兄弟とはいえ年も離れているし、余り接点もない。逢えば軽薄な態度で絡んでくるだけで、拒めば深追いなどしない人だった。
「……密兄さま……どうして……」
しっかりと抱えられているせいか、揺れは余り感じない。大人の男を感じさせる大きな手の温かさが、やけに新鮮に映った。
「ん~?別に深い意味はないけどさぁ」
東屋に辿り着いたというのに、まだ私を抱き抱えたまま、兄さまは腰を下ろした。
月明かりが眩しい。けれど、本館からは木々が目隠しになって此処は見えない。誰も私たちには気付かない。軽く髪を撫でながら微笑む兄さま。でも瞳の奥は相変わらず、冷えきっている。
「すぐ手を伸ばせば届く場所にご馳走があるのに、食べない手はないだろう?」
何より、こんなに美味しそうなのにーーー
『北白川美澄』として使えなくなった『私』は、最早誰でもない。空っぽな存在になる。
そうなる前にせめてもう一度だけ、逢いたかったな。
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極上の笑顔を向けられて、ねっとりと口の中に流れ込んでくる麝香の薫りに、喉の奥まで掻き回される。瞼の裏側がチカチカと明滅する。全身を包み込んで身動きも出来ないほどにまとわりつく、天鵞絨のように濃厚なαの蜜。
「ねぇ、可愛い美澄ぃ、オニイサンとイイコト、しよ?」
踊り場から中庭へと続く階段を、お姫様のように抱え上げられながら降りていく。何処へ行くのかなどと無粋な問いは不要だ。迷いない足取りで密兄さまは中庭の奥にある木々に遮られた、離れ小島のような東屋へと向かっていく。
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これから私は密兄さまに羽根を毟られ、飛べない身体にされる哀れな蝶だ。純潔を散らされれば、『北白川美澄』としての価値はなくなり、この家にも居場所はなくなるだろう。いや、Ωだと知れれば存在すら抹殺される可能性すらある。遂に天涯孤独の身の上となるわけだ。放逐されれば未成年の私は路頭に迷うだけ。
密兄さまに拾って貰えなければ、行き場を失う。たった一人、外界に放り出されて生きていける程、生温い温室育ちではないのだ。生粋の財閥令嬢として育てられた私が、どう世間を生き抜いていけるというのか。
無理だ、無理すぎる、あり得ない。だが、密兄さまに囲って貰える保証など何処にもない。第一、何故こんなことになっているのか皆目見当がつかない。従兄弟とはいえ年も離れているし、余り接点もない。逢えば軽薄な態度で絡んでくるだけで、拒めば深追いなどしない人だった。
「……密兄さま……どうして……」
しっかりと抱えられているせいか、揺れは余り感じない。大人の男を感じさせる大きな手の温かさが、やけに新鮮に映った。
「ん~?別に深い意味はないけどさぁ」
東屋に辿り着いたというのに、まだ私を抱き抱えたまま、兄さまは腰を下ろした。
月明かりが眩しい。けれど、本館からは木々が目隠しになって此処は見えない。誰も私たちには気付かない。軽く髪を撫でながら微笑む兄さま。でも瞳の奥は相変わらず、冷えきっている。
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