影牢 -かげろう-

帯刀通

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焦燥の狂宴

08

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酷く魅惑的な笑みを浮かべながら、口唇が合わさる。味わっている、と言いたくなる程、ゆっくりとねっとりと舌が這い回る。口腔こうこうおかされるとは、このことか。開いた口から内臓まで侵食される感覚。うねる舌が蜜を舐めとるようにうごめく。

「…っはぁ、っあぅ」

知らずに声が洩れる。苦しいのか、悲しいのか、涙が頬を滑り落ちていく。

「ねぇ、美澄ーーーオレのモノになってみる?」

低く凍える声で、囁く。まるで悪魔だ。悪魔のように美しく、つやめいて、目が離せない。きっと皆こうして甘い蜜にとらわれてしまったのだと、今更気付いてももう遅い。絡め捕られてしまえば脱け出す術はもう何処にもない。まるで蜘蛛の糸。

「…っにい、さまっぁ」
「ねえ、美澄、気持ちよくしてあげるよ?」

そう言って大きな手が下腹部へと伸びていく。今から大切なモノを失おうという時に、間抜けにも私が思ったことは、ドレスを汚さないで、だった。せっかくのドレスを汚されたくない、自分が汚されたとしても。なんて馬鹿な心配をしているのか。

本当に私は馬鹿だ。

「綺麗な花びらみたいだ」

ひらひらとしたレースを掻き分けながら進んでくる感触に、身体が硬くなる。触れられたくない秘密が、其処にはあるから。

「あれ?緊張してるの?大丈夫だよ、優しくしてあげる」

にこやかに、でも手は止めずに、

「それに俺は、美澄が  男の子  だって知ってるからね」

爆弾が投げつけられた。

「だって当然でしょ?俺は君たちより年上だ。本物の美澄さんも知ってるよ?」

だから小さな君のことも憶えてる。

密兄さまは何でもないことのように言っているが、訳が分からない。言葉が耳を素通りしていく。頭が理解することを拒否している。

「君は連れてこられた頃は髪も短くて、まだまだやんちゃな男の子に見えたけど。大きくなって、こんなレディになるとは、さすがの俺でも想像も出来なかったよね」

だから安心して委ねていいよ?悪戯いたずらっぽく笑いながら、『僕』の中心に触れられて、びくんっと魚のように跳ねてしまった。

「可愛いね、美澄。ふふ、本当は『泉』だったっけ?」

突然、自分でも忘れかけていた名前を呼ばれて、頭が真っ白に弾けた。身体に与えられる刺激よりも遥かに衝撃的な言葉に、思考が止まる。

「っど、どうしてっ?!」
「ああ、名前?うん、忘れないよ、俺は」

そうだった。この人も優秀過ぎる、ずば抜けた記憶力を持つ天才だった。そう、まるであの人のように。

「ねえ、泉。俺のモノになりなよ?」

…あの人のことを想い出した途端、身体が震えだす。勝手に涙が溢れだす。

本当は、あの人以外に抱かれたくなんかなかった。運命で結ばれているはずの、魂の惹かれ合う相手と、つがいになる筈だったのに。

今こうしてαの存在に逆らえずに身体も心も手放そうとしているのは、僕がΩだからなのか、それともただ意志が弱いだけの元からどうしようもない人間だからなのか、もう分からないし、今更どうでもいいことのようにも思えた。

どうせ結ばれない運命なら、あらがえない本能なら、刃向はむかう必要もないだろう。

だって北白川美澄は、今日、ここで終わるんだから。
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