影牢 -かげろう-

帯刀通

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焦燥の狂宴

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愛兄さまの首に、そっと腕を絡ませる。引き寄せて噛み付くような口付けをすれば、いつの間にか舌先が引き擦り込まれて、先端が蛇のように絡み合う。何処までも深く伸びていきそうで果てが見えない。腰に回された腕に力が籠る。

圧迫されるままに大きく反り返っていく背中に、さわさわと指先が線をなぞる。流れる体液が全て愛兄さまの指に牽かれて、磁石の動きに翻弄される砂鉄のようだ。全て為されるがまま。

呑み込んだ愛兄さまの体液が僕の体液と融け合って、混ざり合って、僕すら消し去って愛兄さまそのものになれればいいのに。愛兄さまだけで、僕の全てを満たし尽くしたい。

『……愛兄ぃ……さま』

何度も何度も舌先で転がす、愛しい響き。どんな音楽よりも美しい、あの天上の歌姫 迦陵頻伽の調べさえも凌駕する、深い愛の旋律。しかし愛兄さまは少し顔をしかめると、耳許に顔を寄せた。

「……ちかちゃん、と呼んでくれ」

……嗚呼。

貴方は本当に、貴方という人は本当に、残酷な男だ。

母親の代わりに抱かせろとでも云うのか。ここまで来ても、僕は、僕自身であることを最愛の貴方に赦してもらえないのか。

密兄さまに抱かれるより酷い。誰かの代用品として運命の相手に抱かれる、という矛盾にもう目を向けることが出来ない。言葉でも人間の心臓を刺すことは可能らしい。僕という人間は今、瀕死の重傷を負っている。

ならばお望み通り、愛しい貴方の果たせなかった夢を叶えてあげようじゃないか。抱けなかった憧れのひとの息子を抱く。とんだお笑い草だ。僕は道化らしく、貴方の愛する彼女の振りをして精々泣き喚くとしよう。心など、やるものか。貴方如きに、僕の愛など、くれてやるものか。

身体だけ手に入れて慰めるがいい。決して心など、明け渡してはやらない。
この心だけは、『時任泉』だけは誰にも、決して触らせてなどやるものか。
それがせめてもの僕の矜持だ。

「……ちか、ちゃん」

母に瓜二つだというこの顔で、極上の微笑みを向けて、食虫花が甘い蜜を漂わせて誘うようにねだる。

「……ねぇ、だいて?」

下腹部の膨らみをそっと撫で上げる。淫ら過ぎて吐き気のする仕草さえ、今の僕には興奮剤になる。もう何も考えずに、快楽に身を委ねて、気持ち好くなりたい、気持ち好くして欲しい、さわってこすって服従させて縛り付けて酷くされるほど満たされるのは何故?

どれだけの快楽をこの身体に注ぎ込めば、空っぽの心が埋まるだろう。指先で弾かれてつねられて、舌先で転がされ甘く噛まれて、胸元で揺れ動く貴方の髪を掻き回す。漏れる吐息と嬌声の合い間に何度も名前を呼ぶ。

きっと貴方が何度も夢に見たであろう光景を今、演じてみせてあげる。
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