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夢現の喪失
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今日も、外は快晴だ。
夏の暑さが目にも鮮やかに迫る。部屋の中は快適な温度に保たれていて、屋敷の中に居る分には汗もかかずに済むが、遮断不可能な蝉の鳴き声や目映い太陽の光が、壁一枚隔てた世界の温度を嫌でも想起させる。
中庭にふと目をやる。色とりどりの薔薇で埋め尽くされた箱庭に、美澄の姿はない。
あの夜ーーー
確かに繋がり合った筈の身体は今、手の届く場所にはない。もしかしたら、永遠に失われてしまったのかもしれない。気を緩めたその一瞬でもう、全ては変わってしまった。
襲い掛かるαの群れから引き離すようにシェルターへと隔離して閉じ込めて、この手の内に留めた。繋ぎ止めた筈だった。だが現実として今、僕は此処に独りで立っている。
魂の片割れを、失ったままで。
運命の番であれば、首筋を甘く噛んだことで未来永劫離れないように縛ることが出来た筈なのだ。快楽の最中に、あの白く細い首筋に噛み付いた、その感触を克明に憶えている。忘れることなど出来るはずがない。
全身が性感帯になったように、毛穴の一つひとつまでが溢れ出す快感で開き切り、拡大する自我が天にも昇り詰めそうな勢いでその手を伸ばす。存在が世界に開かれていく。自己と世界が同一の質量で対峙し、拮抗し、拡散して融合する幻覚を見た。上空を飛び廻る鳥のように、俯瞰の視点で世界中を見渡せるような万能感。
神にでもなった心地がした。
無上の快楽。妙なる調べが流れ出し、頭蓋の中でリンゴンと鐘が鳴り渡る。放出した感覚さえない儘に、至高の愉悦に身を委ねて、欲望を残らず吐き出した。膨張する皮膚の感覚が疼きを増して、声にならない快感がじわじわと脳内を這いずり回る。叫んでも紛らわせることなど不可能な圧で、強烈な白光の波が全身を駆け抜けた。
気が狂いそうな淫楽を、初めて、知った。
美澄は、気を失っていた。男を惑わす淫靡で艶美で可憐な子供。
ーーーあの人の息子とよもや契ることになろうとは。
罪悪感でも虚脱感でもない、居心地の悪さは拭えなかったが、別に厭ではなかった。
ただ、密に盗られるくらいなら自分が、という程度の心持ちで身体を繋いだ筈が、余りの恍惚に我を忘れて貪ったなどと我が身が心底情けなく浅ましい。
だが、是で良かったのだろう。少なくとも無数のαに付け狙われる心配は無くなった。美澄本人が如何思おうが、其れは僕の感知する処ではない。あの人の息子を、守ることは出来たのだから。
果てた後の倦怠感を柔らかなタオルで拭いながら、序でと美澄の身体も清めてやる。今にも折れてしまいそうな白百合。華奢な身を風に揺らしながら、それでも凛と立つ様がよく似ている。
そっと、髪を撫でる。今一時は安らかな夢を、与えてやってもいい。
不本意にも、そう、想ってしまった。
夏の暑さが目にも鮮やかに迫る。部屋の中は快適な温度に保たれていて、屋敷の中に居る分には汗もかかずに済むが、遮断不可能な蝉の鳴き声や目映い太陽の光が、壁一枚隔てた世界の温度を嫌でも想起させる。
中庭にふと目をやる。色とりどりの薔薇で埋め尽くされた箱庭に、美澄の姿はない。
あの夜ーーー
確かに繋がり合った筈の身体は今、手の届く場所にはない。もしかしたら、永遠に失われてしまったのかもしれない。気を緩めたその一瞬でもう、全ては変わってしまった。
襲い掛かるαの群れから引き離すようにシェルターへと隔離して閉じ込めて、この手の内に留めた。繋ぎ止めた筈だった。だが現実として今、僕は此処に独りで立っている。
魂の片割れを、失ったままで。
運命の番であれば、首筋を甘く噛んだことで未来永劫離れないように縛ることが出来た筈なのだ。快楽の最中に、あの白く細い首筋に噛み付いた、その感触を克明に憶えている。忘れることなど出来るはずがない。
全身が性感帯になったように、毛穴の一つひとつまでが溢れ出す快感で開き切り、拡大する自我が天にも昇り詰めそうな勢いでその手を伸ばす。存在が世界に開かれていく。自己と世界が同一の質量で対峙し、拮抗し、拡散して融合する幻覚を見た。上空を飛び廻る鳥のように、俯瞰の視点で世界中を見渡せるような万能感。
神にでもなった心地がした。
無上の快楽。妙なる調べが流れ出し、頭蓋の中でリンゴンと鐘が鳴り渡る。放出した感覚さえない儘に、至高の愉悦に身を委ねて、欲望を残らず吐き出した。膨張する皮膚の感覚が疼きを増して、声にならない快感がじわじわと脳内を這いずり回る。叫んでも紛らわせることなど不可能な圧で、強烈な白光の波が全身を駆け抜けた。
気が狂いそうな淫楽を、初めて、知った。
美澄は、気を失っていた。男を惑わす淫靡で艶美で可憐な子供。
ーーーあの人の息子とよもや契ることになろうとは。
罪悪感でも虚脱感でもない、居心地の悪さは拭えなかったが、別に厭ではなかった。
ただ、密に盗られるくらいなら自分が、という程度の心持ちで身体を繋いだ筈が、余りの恍惚に我を忘れて貪ったなどと我が身が心底情けなく浅ましい。
だが、是で良かったのだろう。少なくとも無数のαに付け狙われる心配は無くなった。美澄本人が如何思おうが、其れは僕の感知する処ではない。あの人の息子を、守ることは出来たのだから。
果てた後の倦怠感を柔らかなタオルで拭いながら、序でと美澄の身体も清めてやる。今にも折れてしまいそうな白百合。華奢な身を風に揺らしながら、それでも凛と立つ様がよく似ている。
そっと、髪を撫でる。今一時は安らかな夢を、与えてやってもいい。
不本意にも、そう、想ってしまった。
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