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【星ワタリ篇】~第1章~(題1部)

夢六夜

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リビングであれから暫く時間が経った。
だが何も起こる様子がない。
もう夜も遅いため、三人はひとまずそれぞれの自室に戻り休むことにした。

……薄暗い部屋の中……。
ミュウは独り部屋のベッドで腰を掛けている。
窓から月明かりが優しく照らしている。

いつも洋服の胸元に付けているブローチを手に持っていた。
中には写真が入っている。

「……あのね、今日はとてもこわいことがあったよ」

独り、写真に向かって話し掛ける。

「……でもだいじょうぶだよ」

写真には、【誰か】が写っている。

「だって、あなたが、わたしを守ってくれるから……」

暗くて顔はよく見えないが、ミュウは微笑んでいるようだった。

「ね……?」

ミュウは写真にそっとキスをした。

…………。

一枚のドアを隔てたその向こう側に、
ナイトが立っていた……。



――――。

夜……。
ミュウは商店街を歩いている。

自分が住んでいる【ネオ・ネヴァーランド】とはまったく違った街並みだ。
なのに不思議と違和感を感じず、むしろ此処がいつも目にしている景色かのように思えていた。

気が付くと傍らに少年が居る。

髪も肌も真っ白で、外だというのにパジャマ姿で靴も履いていなかった。

……ああ、またこの夢か。
ミュウは思った。

少年がこちらに向き直り、

「ワタシにもひとくち分けてくれませんか?」

またいつの間にか、手にピンク色のソフトクリームを持っていた。

だが……。
この時、いつもとは違うような何かを感じ、どうしていいのか分からずミュウは黙り込んでしまった。

「……くれないのですか?」

…………。

「くれないのなら――」

…………。

「もういいです」

少年はミュウから背を向けて歩き出してしまった。

――!?

「ま……まって!」

ミュウは堪らず追いかけた。

少年はゆっくりと歩いている。
こっちは走っているのに追いつけない。
……それどころか距離が離れていくような感覚を憶えた。

けれどなんとかして追いつくと、ミュウは少年のパジャマの袖をつかんだ。

――瞬間、

少年の身体は崩れ去り、幾千もの真っ白な天使の羽根となって、天へと舞い上がり――消えて無くなった……。

……後には少年が身に付けていた、真っ白なパジャマだけがその場に残されていた。

ミュウは地面に膝を付いて、両手で顔を覆った。

「――っっいやああああああああああああああああ!!!!」

――――。



『ミュウ様!!』

誰かの呼ぶ声が聞こえて、ミュウは目を覚ました……。

…………。

気が付くと自分の部屋……。
いつの間にかミュウはベッドの上で眠ってしまっていたらしい。
服が汗で濡れて瞳からは涙が溢れていた。

「……ミュウ様、大丈夫ですか?」

見るとすぐ傍にナイトが居た。
ミュウの手を握っている。

「ナイト……?」

「すごくうなされていましたよ、怖い夢でも見たのですか?」

ナイトの手は、とても温かかった……。

「うん……でも、だいじょうぶ……。
ナイトが、ここにいるから……」

……少しだけ、嘘をついてしまった……。

本当はちょっぴり不安だった。
……その手が震えていることに、もしかするとナイトは気が付いていたのかもしれない。

すると、突然バタバタと廊下を走る足音が聞こえてきて、激しく部屋のドアを開けた。

「っおい! 大変だ!!」

寝起きなのか、シルクハットを外して手に持ちながら髪がやや乱れたメアリ。

「なんなのですか? 騒がしいですね」

「いいから外を見ろ!!」

「一体何が――」 言いながら、窓の外に目をやると、

「……!?」

辺り一面漆黒の闇に包まれて、小さかった家が地上が見えないほどの巨大な城塞へと変わっていた……。

「これは……!?」

思わず窓から身を乗り出す。
……手で掴んだ部分の窓枠が朽ちてパラパラと音を立てて崩れ落ち、終わりの無いような暗い底へと消えていった。

…………。

「キヒヒヒヒヒヒ……」

「――!?」

突然、部屋の中から不気味な笑い声が聞こえてきた。
……振り返るとそこには、

「……呼んだァ?」

紅黒いローブを身にまとい、不気味な仮面を付けた深紅の髪をした見知らぬ青年が、ぼんやりと幻のように立っていた――。
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